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オリジナル えせ時代劇風 遊郭の番頭×化粧師

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オリジナル。えせ時代劇風。

花魁の質もさることながら、この一服の味が格別でここを贔屓にしている客は多いだろう、とその
男は言った。
くゆらせる煙管のほの白い煙がゆうらり、ふわり、その柔らかい指が弄ぶたび揺れる。
かく言う俺も、これが目当てなんだがな、と続けて笑う。一仕事終えての一服はまたいい、と。
それはこちらの誇りでもあった。この店の障子の紙から行灯の油、煙草の葉にいたるまで、手を
抜いて揃えているものはない。
「…そうか」
番台で手早く帳簿を纏めながら、ふとその煙の行方に目を奪われそうになった己を戒める。
色派手なおもての火、薄暗い座敷の明かり、そのどれとも違いここは遊郭の一角とは思えぬ。ごく
ごく当たり前のような、和やかな空気が流れている。
じじ、と行灯の火が男の煙に身悶えた。ように見えた。
煙管片手の化粧師は、持参の漆箱の化粧筆を数える。ひいふう、みいよ、いつむうななや、はい
終わり。そしてごとりと恭しく蓋をかけ、朱色の袱紗に手早くそれをくるみこむ。
その間も煙管はくるくる、左手の指先で揺らしている。利き手抜きに、器用なやつだ。

色あせた畳の目が、ぼけた行灯のあかりで照れている。色気はなくとも滑らかにうねる。化粧師の
袱紗と紺の帯が、強く見える。
この化粧師は、うちの女将のお気に入りだ。姐さん方の覚えもいい。
蓮っ葉な小娘のような喋り方と、人懐こい八重歯、艶はないがそれでいて腕は良い。化粧を施す
ときはまるで陶器を撫でるように肌を選び、紅を差し、細い目で柔らかく笑うそうだ。そうだ、という
のは伝聞でしかないからで、ごつい男の自分は当然、その場に立ち会ったことも、紅などさされた
ことも無い。
自分との接点はと言えば、姐さん方を座敷へ送りあげたあと、同じく一仕事終えたこの男に労いの
一服とひと杯を差し出すこの時くらいに過ぎない。お互い吉原の事情には長けていて、世間話のよう
にやれどこぞの呉服屋は傾きそうだの(若旦那の放蕩の噂はかねがね)、あの遊女の行方はやは
り心中だっただの、面白いことも面白くないことも、帯紋の流れのように続いていく。
「新しい子のお披露目も、無事に終わったもんかねえ」
「あんたの目から見て、どうだ」
「ああ、あの背の低い娘はいいな。歯並びは悪いが、男好きする。肌もいい」

くっくっく、と小さく笑う声は、しかし全く嫌味でない。おれが磨き上げてやろうという、化粧師ゆえの
口ぶりだ。
いずれ、良いかむろをつけてやらにゃあなるまいな、と嘯く。
毎年毎月、この店のみならずこの街には、幾人もが入り込みそしてその分だけふるいおとされる。花
の命は短くてとはよく言ったもので、自分がこの店に来てからも既に、十を下らぬ花魁や太夫がある
ものは惨めに、あるものは消えゆくように、姿を消した。
そういえば以前、あんた、何だってでこんな商いしてるんだ、とこの男に聞かれたことがある。
「学もあるそうじゃねえか」
相変わらずの癖で、どこで焼けてくるのか僅かに日焼けしたその首を回しながら、化粧師は不思議
そうに口にした。
「俺と違って、もっと真ッ当なことも出来るだろう」
「…さてねぇ」
自分はそのとき、どう答えたかはあまり覚えていない。確固たる答えなどどこにも無いのだ。
零落した名家の名など、当に捨てた。勘当も食らい、髪も短くし最早ごろつきと変わらぬ。幼いころ
から病ひとつしないこの身のおかげで、どこへ行っても食うには困らないが。

しかしそれでもこの男は、その独特の勘のよさ故か耳ざとい性質故か、自分に何か違う佇まいを感
じているらしい。芯から遊蕩の匂いはせぬ。
ごろつき仲間の口利きでこの遊郭に入り込んでから、もう幾年も経っている。見目のごつさとその逆
に算術にあかるいところから、女将にはえらく気に入られた。確かにあるとき、自分がこの番台に座っ
ていると、払いの悪い客はここに入り浸り辛いらしい、と気づいたときは密かに可笑しかった。喧嘩ご
とは今やとんと起こす気は無いが、それでも体のそこかしこには、もうしっくりと馴染んだ傷跡があった。
帳簿をつける筆先に、よく化粧師の興味深い視線が絡んでくるのは、よくわかっていた。読み書きで
きることすらも珍しいのだ。
そして右腕のその古傷にも、その男は遠慮なく視線と言葉を這わせてきた。
「それ、刀傷だな」
ご名答。それ故に答えぬ。
「…痛むか」
そう問われたのは確か冬の寒い日で、ちらちら粉雪も舞っていたように思う。杯のぬるめの酒から、
弱い蒸気が立ち上っていた。
痛みはしない、もうただ在るだけの傷だ。そう言ったのに、化粧師は聞かず要るならいい薬売りがいる、
とぶっきらぼうに答えた。

冬は染みるだろうと、商売道具の利き手を火鉢にかざしながら、そう言っていた。
暗い石炭にあぶられた指は、今も変わらず柔らかそうだ。筆と布、白粉以外に触れたことがない風だ。
ふと、その指に触れられる感覚を想像する。花魁の姐さん方の頬に、首筋に触れるさまを。そして逆に、
この傷跡のうえを。
なぶるように、まじりあうように、拗ねた指先。
俺は触れてほしいのか、と自問自答する。化粧師は目を閉じて、座敷からの三味線に合いの手を入れ
ている。
「梅は、咲いたか」
桜はまだかいな、季節外れだがこの男の好きな歌だ。知っている。
春の夜には、勝手にここに上がりこんだまま眠る。月が出れば無粋だと、行灯の炎を取り上げられた
こともある。夜明けがくれば長屋へ戻るが、それまでのあいだは隣で眠った。
恋はするなと花魁に教え込み、決して自分も手は出さない。この街では暗黙の掟だが、むしろそれを
楽しんでいる風でもある。
裏を知らぬ。表もわずか。掴んだものは何も無い。
この男が眠っているときに思う。お前は誰に触れるのかと。暗闇で、誰か知らぬ女の柔肌を白い指が
すべる、そう思ったとき己の肌は総毛立つ。
「そういや、あんた、身を固める話も無いな」

突拍子も無く化粧師は新しい話題を振ってきた。見透かされたのかと、一瞬こめかみが苦しく疼き、喉
が渇いた。
もういい年だろ、いくつだ、と化粧師は笑った。煙管をコンと叩き、八重歯を見せる。
そうだ。だがお前も変わらないだろう、と思う。いい年だ。ここに来て、もういく年にもなる。
女のことなら裏も表も、うその喜びも悲しみも、まずひととおりは見てきたつもりだ。美しさもあれば醜さ
も、強烈な艶もある。ただお前はそれを凌駕する。
そこに理由など無い。
綺麗な花魁はごまんといるが、お前がいい。言って、どうなることでもあるまいが。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
遊郭の番頭さんと化粧師さんの話。

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