ナマ 白ぬこ王求団 2747です
更新日: 2011-05-04 (水) 11:50:04
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
しーえす前合宿ネタ2です。ちょっとダークかも。
別に眠れなかったわけじゃない。夜中にふと目が醒めて、喉が渇いてその日に限って気になった。
体はそこそこ疲れているわけで、どうしようかと迷ったけれど、何となく眠る気になれなくなった。
その時刻のホテルはもう静まり返っていた。日付が変って数時間経って、廊下にも誰の気配も無い。
いつもならまだ誰かの部屋でゲームだのして騒いでいる声が、どこかから聞こえていたのだが。
合宿先ホテルの備え付けスリッパは、糸田川の大きな足には少し窮屈ではあったが、それをぱたぱた
鳴らし小銭を手に歩く。
かちかち無意識にそれを触れ合わせる。
欠伸すら出ない。滅多に無いことだが、少し甘いものが飲みたくなった。
廊下の奥の自動販売機がぼんやり光っている、その側に近づけば、何かが空気を切る音がする。
ぶうん、とただ唸るその電気音とはまた別の、どこか鋭い何か。
「?」
ばしゅっと。もしくはしゅばっと、何かの布が空気を斬る。
「…お前、まだ寝てなかったんかよ」
「お?」
ちょうどホテルのつくりの角のところにある自動販売機の、その反対の方の廊下に穂葦はいた。
例の音が、穂葦の左手から繰り出されているのが、ぼんやりした光の中見える。自動販売機と非常灯。
「いや、もうあがるよ」
「シャドウ?」
「ま、そう」
言いながら、息は乱さずにゆっくりと構え、またしゅばっと。
左手に軽く持ったタオルが、投王求フォームが繰り返されるたび流線型にしなって最後に落ちる。
ちゃりんちゃりんちゃりん、自動販売機に小銭を突っ込むと穂葦が言う。
「俺、アクエリな」
「おーい。お前に奢りにきたんじゃねーぞー」
「硬いこと、言うな、よっ」
ばしゅっと白い弧がうすぼんやり流れて、反対の足が軽くカーペットの廊下を叩く。よく見れば裸足だ。
やれやれともう一本のボタンを押し、出てきたペットボトルを両手に、糸田川は側のベンチに腰掛けた。
一口二口飲みながら、真横からそのフォームを無意識に目で追う。ユニフォ一ムでなくスウェット姿なので、あ
まりはっきり筋肉の躍動感は掴めない。
もしかしたら、こいつは気にしてるのかもしれないな、と思った。
今日(もう昨日か)秋季リ一グでの、クライマツクスシリ一ズ前最後の実戦登木反が終わった。
受けていた自分からすればまあ悪くない出来だとは思ったが、確かに何王求かすっぽ抜ける王求があった。
初っ端、明らかに格下の相手にストレートで四王求を出した時は、お互い首を捻ったものだ。
そういえば、コ一チの誰かに怒鳴られて、穂葦は言式合後一人、外野を何本もダッシュさせられてたっけ。
「…あかんな」
視線は全く廊下の先に固定して、穂葦はブツブツ言っている。
こきこきと手首を回したり、とんとん爪先で床を鳴らしたり。
「あー、今のチェソジアップだと外角ポ一ル一個外だな」
「舐めんな。そっから見えるかい」
「見える」
「ギリギリでゾーン入っとるっちゅーの!」
また一王求。糸田川は思う。
2スト雷クから一度外に外して、インコ一ス勝負と思わせ今度はパ一ム、でまた落とす。
俺ならそうする。いや、カ一ブさえゾーンに入ってくれたら、相手によっちゃそのまま3王求勝負で?
思いながら腕を組んで、また一口。穂葦の分はベンチの隅っこに置いたままだ。
しかし、何度見ても、シャドウでも、穂葦のフォ一ムというのは。
「…んでここでド真ん中、なっ」
全く迫力がない奴だ。こればっかりは口にしたことはないが(言ったら多分烈火のごとく怒るだろうな)。
多少変則ではある。正面から見れば、左腕の出所がよくわからないスリ一クォ一タ一だ。
だが、それだけだ。
「お前こそ、早く寝ろよ、俺もう明日フリーだけどよ」
穂葦はこちらを見もしないで言う。珍しく気遣うような台詞。
本当にそれだけだ、こいつには。
少なくとも王求威もスピードもスタミナも、並外れたものは何も無い。
むしろ全て、プロなら並かそれ以下だ。
「おーい?」
「…ん、飲んだら寝る」
言いながら、糸田川は静寂の中、始まった思考の暴走が止められないでいた。
いつもはちらりちらりと考えながら、決して深追いしようとしなかったことばかり。
穂葦にあるのは左腕と、王求界で唯一使いこなせるあの変化王求だけ。
自慢じゃないが俺は、あの大リ一ガ一の王求を受けたことだってある。
ピッチャ一の能力には、ちょっと五月蝿い。
じーっと側の自動販売機が、何かの弾みで細かく震える音を出す。それ以外は、あの空を切る音だけが響く。全く静かだ。
ペットボトルを握る手のひらと、頭の芯だけがじわじわ冷えていく。体は寒くはない。
ばしゅっ。
多分俺でなくても、普通に見てれば皆思うだろう。
いや、結果は出している。
結果は出しているだけに、不思議だろう。
ぞくぞくする。俺はそこに、惚れている。
「もう後何日だっけ?ハムに決まったんだよな?」
「相手か?そうだな」
「…なあ、ちゃんと枠と騎士勝たせてやれよ。上手くリードして」
「そりゃ最初っから、そのつもりだ」
穂葦は小さく笑って、大きく弧を描いた。あの、パ一ムだ。
「借りは返す、よなあ」
「まーだ根に持ってンのかあ」
「持ってる。だーかーら、枠と騎士が勝ったら、その後の俺が、胴上げ投朱なれっかもって」
「狙ってんかよ!」
また無茶を言う。並以下の癖に。
何もないということが、むしろそら恐ろしいんだ。この世界では、逆に。
穂葦の持っているものを、捕朱として考えたことはよくあった。
王求種、性格、コントロ一ル。いくら考えても大したことなくて、頭を抱えたこともある
(そしてやっぱりそれは、こいつには言えない)。
ただその持っているものは、ただ努力のみで手に入れたもので、努力でどうにかならないものは
本当にどうにもならないんだと気付いたとき、ぞくぞくした。
天才じゃないんだ、と、当たり前のことだけれど。何もないやつ。並以下のやつ。
けれど並み居る天才どもを、手玉にとってのける。
そのありえなさに、ぞくぞくする。
そしてお前のその価値は、きっと、俺以外知らない。
俺だけしか知らない。
ああ。
「…なあ、何でこんなとこでやってんだ?」
「ん?」
糸田川はぼんやりと、思ったままを口にしてみた。忙しなく蠢き続ける思考とは全く逆の、素朴な疑問だ。
シャドウピッチソグをやるなら、もっと広い場所もあったろうに。それこそ部屋の窓ガラスを鏡代わりに
するとか、やり方もあったろう。
「へ?…え、ホラ、何となく」
穂葦がそこでやっとこちらを見た。
すっと手で、糸田川から見えないほうの廊下の先を指差して言う。
「大体18メートルくらいやな、て思って」
廊下の突き当たりを、きっと示している。穂葦はそう言っている。
「アバウトやぞ?けど、まあこんなもんかな、て」
「…」
「お前まで、真っ直ぐ」
イメトレってやつ、と、また一王求投げた。空を斬る。
しんと静まり返った廊下の先の、一直線先のそこを、目指していた。
「…っ」
不意に糸田川は息苦しさを感じた。思いきり、かっと腹の底から燃え上がるものがあった。
究極に濃い、甘いブランデーを一さじ、そのまま飲み込んだみたいだ。そのせいだ。
もう何も喉に入らない。今はきっと流れやしない。
考えるな!
自分に叫んだ。止まれ、やめろ、今は、まだだ。
息が乱れたのはばれたくなかった。ばれないように、それを抑え込んで息を殺した。
そしてゆっくり、吸って吐いた。何度か、何度も。
「…そーか。まあ、ほどほどにな」
「おお、オヤスミ」
そっと、飲みかけのペットボトルを放置する。
「お前の分、そっち置いとくから」
「あっは、悪いな!」
サンキュ、と穂葦の笑い声に背を向けて、糸田川は軽く手を振ってまたぱたぱた、あわない
スリッパで歩き出す。
つとめて冷静に。まだだ、まだ考えるなと自分に言い聞かせながら。
背後の薄い光も、あの空を斬る音も、段々小さくなっていつか消える。部屋のドアノブ前で耳を
澄ましても、消えている。
キーを差しこみドアを開けた。そして閉めた。
部屋のこちら側は、出て行くときにつけた柔らかい照明以外、誰も迎えない。
しばらく閉じた扉に背を預けた。後ろ手にドアノブが、まだ冷たく感じていた。
息をついた。
「…ふ」
さっき意識して止めた頭が、またその場所から動き出す。
やばかった。考えるのをやめなかったら、きっと堪らなかった。
ああお前は、俺の神経の舐め上げ方を知っている。並以下のくせに。何も持ってないくせに。
俺まで、一直線だと?
真っ直ぐだと?
「…」
糸田川はそういうとき、だから考えるのをやめる。
もう少しで手が届きそうなものがあるとき、そこで目をそらす。そうでないと、たまらなくなるからだ。
たまらなく、ぞくぞくする。そしてやばくなる。
目をそらさないと、どうなるか自分でもわからない。
俺以外知らないんだ。
俺のものなんだ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
あと3日!
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