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容儀者χ 油→石

映画のネタバレ注意です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「すまん、邪魔したか?」
油川が部屋に入ると石上は丸めていた背中を起こし、
片眉だけをわずかに上げて驚いたような表情を作った。
いや、おそらく彼の精一杯の驚きを表現したものだったのだろう。
それでもたどたどしく立ち上がると、
油川が脱いだコートを前回かけられなかったハンガーへとかける。
こういうものを用意していた時点で、石上は自分自身どこかで、
彼の訪れを望んでいたのだと気づいて、
油川に見えないようにあざけるように笑った。
「……なんだ、来るなら連絡してくれれば……」
「前と同じ時間だったから大丈夫だと思ったんだ。すまない」
石上が言い切る前に油川は彼の言葉をさえぎり、肩をすくめてから謝罪をする。
案内されるでもなく、前回と同じように押入れを背に当然のように座り込むと、
何か反応を求めているかのような笑顔を作った。
「どうしたんだ、油川」
油川の座っている目の前に同じように座り込むと、ようやく油川への催促へと移る。
会う約束など当然しておらず、話題があるわけでもない、
数学の問題を解けといわれれば石上は喜んで解くのだろうが、
あいにく今日の油川はかばんすら持っていない。
口頭で伝えることも彼の頭脳を持ってみればおそらく可能なことだろうが、
それもおそらく違うだろう。
「前回来たとき、よく眠れたんだ」
油川の発した冗談のような言葉に、石上は返す言葉どころか、
反応方法すら浮かばず、
「はぁ」とだけ声を漏らした。
そんな彼の反応に気づいたのか、自分を正当化するためなのか、
油川は少し強い語調で続ける。

「石上。これは冗談でも、なんでもない。
 前回ここに座って君の背中を見ながら眠ったとき、とても気分が良かったんだ」
「……変なことをいうな」
困惑したように、座り込んだ油川を見つめる石上の視線は、
考えあぐねているように斜め上へから対極へと移動し、
動揺を押し込めるように大きく息をついてから、ようやく口を開いた。
「君が普段どんな生活をしていたかは知らないが」
否定の言葉を言いそうだった唇は、言葉を捜すように閉じられ、
それから「仕方がないな」とはにかむように笑った。
「ありがとう。
 何か君の興味を引くようなものを持ってこれたらよかったんだが、
 あいにくみつからなくてな」
座り込んだまま、油川はリラックスするように壁に体重を預けた。
硬質な壁はとても眠るのに適しているとはいえない。
当然研究室のソファのほうがまだ眠るのに適しているというのは
油川にとっても明白な事実だった。
「気にしないでくれ。正直多分、うれしいんだ、油川が来てくれて」
そういいながら膝立ちで油川の横まで行くと、照れ隠しなのか鼻を擦る。
「そうだ、前……君は言ってただろう、若々しい僕がうらやましいって」
彼の様子を横目で確認しながら、油川は言った。
「ああ、言った。でも……それは忘れてくれ」
「いや、ひとつだけ言わせてくれ。僕は……容姿の変化こそがすべてじゃあない。
 いや、容姿のことばかり気にする……
 それが女ならその女はやめておいたほうがいい。
 今の君は十分魅力的だ。
 僕にとっては石上鉄也は愛すべき天才のままだ」

「愛すべき」そういったときに石上は自嘲するかのような笑いを漏らし、
押入れの中から取り出した毛布を油川にかけると、
油川に声をかけずに問題をおいていた机のほうへと移動し、
ぎぃと音をさせながら椅子にすわった。
「君は、疲れてるな」
振り返ると、わざとらしげに眉間にしわを寄せ、油川へと視線を向ける。
だが、その感情は隠しきれていなかったらしく、
わずかに息が詰まったような言い方に、彼自身肩をすくめていた。
「疲れてなんてないさ」
ほころんだ石上の表情に油川は満足げに笑うと深く腰を落とす。
「でも、眠りにきたんだろ?」
「……ああ、そのとおりだ」
そうだな、と油川は言って、毛布を首筋まで手繰り寄せた。
 
しばらくして、石上が突然振り返って油川が起きているのを確認すると、
感情の少ない彼の表情を彼に向けて、突然つぶやくように言った。
「さっきのは……油川にしては論理的じゃない言い草だな」
「すまない、眠いんだ」
照れ隠しでもするかのように油川は彼の言葉をさえぎる。
「なんだ、それじゃあ、考えてもいなかった言葉だったのか?」
冗談にしようと、わざと軽い言葉で言うと、珍しく油川からの言葉は遅く、
躊躇するかのような間のあと、シンプルな言葉が返ってくる。
「そうだな、寝言だ」
「そうか、じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
そういうと、油川は、机に向かっている石上の背中を、
振り向きはしないその背中を網膜に焼き付けるかのように瞬きすらせずに見つめていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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