想いの苦さ
更新日: 2011-05-04 (水) 11:24:06
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
ナマモノ注意。
走って世界で三番目になった四人組より、犬父犬。
宿泊しているホテルの部屋に、お言葉に甘えて押しかけた。
ベッドの真ん中に、片膝を抱えて腰を下ろした。浅原さんもベッドの上で胡座を掻いて、二人で向かい合う。
他愛もない話ばかり振ったけれど、変にあれこれ考えている自分を自覚していた。
いつしか、昨日のレースの話に。俺にとっては、きっちり引導を渡せなかった、心残りがある。
「俺の抜けた穴を埋めるんやろ?」
北京の後から、俺が繰り返し口にしていたことを言われた。少し、きまりが悪い。
「頑張れよ、楽しみにしてるわ」
カッと熱が顔に、目鼻に集まる。
「『頑張れ』なんてっ」
真っ直ぐ目に入れた顔――なんてサッパリした笑顔だろう。
「……聞きた、く、ない」
駄目だ。途切れ途切れになってしまう鼻声。涙腺がイカれたみたいに、この一か月、泣きっぱなしだ。
「そんな、他人事みたいに……っ」
貴方が一線を退いても、そこで俺や他の仲間との絆が切れる訳じゃないけれど。一緒の空間を「走る」ことは、二度と、無い。
それが堪らなく寂しい。
みんなそうだった。俺らは普通じゃない、「走る」生き物だから。
「お前、北京から自分でも言うてたやろ。最後だから」
「わァってますよっ」
遮った声は、駄々をこねる子供のようになってしまった。
十三歳の差は埋められない。貴方は先を行く。わかっていたことだ。
「俺はぁ……俺らはいつだって、アンタの背中を、追うしか、なくて」
貴方の歳までとか、貴方の記録を越えたいとか、そういうこととは別で。
憧れていた、ずっと。初めて貴方と走った日から、その背中に焦がれて。
「ずっと、追っかけて……追っかけて……」
ぶちまけた想いを、貴方は拒まないでくれた。
嬉しかったけれど、その器の大きさに空恐ろしさも感じたことを、貴方は知らないでしょう?
「背中、なぁ……」
俺の言葉を反芻してから、口を噤む。
俺は俯いて、視界を歪ませる涙を拭った。
「そんなら、背中に抱き付いてきたんかなぁ、お前は」
顔を上げる。
「周りみんな蹴散らしてガシイッ」
飛び付くように抱き付きながら、悪戯っぽく言われる。
「って感じやったな」
俺はたたらを踏むように後ろに片手をついて、二人分の体重を支えた。
「……離さんかったらええよ」
耳元に、穏やかな声。
「俺は、お前を置いてこう、なんて思ってへん。なんも変わらんよ」
宥めるように背中を優しく叩かれて。
「お前が好きやから、な」
何度味わっても、その大きな手の感触は嬉しかったけれど。
……あぁ、やっぱり、わかっちゃいない。
仕方ない、こういう人だから。
そのマイペースっぷりが、愛しくて、少し憎たらしかった。
置いていくとかじゃなくて、俺を求めてほしいのに。俺だけを見てほしいのに。貴方のペースなんて、その大きな器なんて……崩してしまいたいのに。
脳裏にちらつく四人家族の笑顔に、横目で見るこの人の笑顔に、肥大した醜い願いは出口を失う。
両思いのはずなのに、ヘタな片思いよりも苦しい。なんて相手に惚れてしまったんだろう。
この苦しみは、これから強くなるのか、何か変わるのか。考えそうになって、やめる。
貴方の方こそ離さないでよ、もっと強く抱き締めてよ、息が詰まるくらいにさ。せめて今は、この苦しみを麻痺させてほしいから。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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