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陸上リレー 次男×パパ 「花火」

初めての投下です
世界で三番目になった四人の、次男×パパです
閉会式で一緒だったので萌えました……
ナマモノ注意、エロ無しほのぼの、かな

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・)ジサクジエンガ オオクリシマース!

 閉会式は佳境を迎えて、色彩と音のうねりが最高潮に達していた。人でごった返すフィールドでは、あちこちで記念撮影のフラッシュが光り、歓談の輪ができる。楽しげな表情、楽しげな声は、終わりを惜しむより最後まで楽しんでやるとでも言いたげだ。
(でもやっぱり、終わりはやるせないな)
 思いを込めて、鷹平は側の浅原を盗み見る。浅原は、今年初めの合宿で知り合ったオーストラリアの選手と話していた。DJのように流暢でなくとも、適切な言葉を丁寧に話す様は、鷹平にとって尊敬の対象だ。
 そのうちに鷹平にもお声がかかり、簡単な自己紹介の後、一同で記念撮影をして別れた。笑顔で見送った浅原が、右隣の鷹平へ向き直る。
「英語、パーフェクトやないか」
「大したこと言ってないですよ。ハローとか、ナイストゥミーチューとか」
「いやいや、基本が即言えるんなら大丈夫やって」
 お墨付きをもらったような気がして、鷹平は胸の内を打ち明けた。

「――実は、海外に拠点を置いて練習することも選択肢の一つとして考えてるんです」
 浅原がうなずく。
「このまま日本でやっていてもいいのかなって。もっと速く、強くなりたいし」
 あなたのように。
「個人もリレーも、もっと上に行きたいです」
 あなたがいなくても、リレーは大丈夫だと言われるように。
 銅メダルは確かに最高の記念だ。でも、そこにこだわっていては先に進めない。
 それに、進む先にはもう、浅原はいない。
(――どうせ、いないのなら)
 いっそ新しいことに打ち込めば、気も紛れるだろうか。
 忘れたいわけではない。とらわれて、立ち止まりたくないから。
 思い出した時に、その熱で自分を奮い立たせていけるように。
 このリレーは、最高の、最後の彼との記念にしたかった。
「お前なら、上に行けるよ」
 喧噪の中、浅原の言葉はしっかりと伝わってくる。
「バトンパスで気苦労せんかったら、リレーももっと上に行ける」
 ――それは、彼の心残りなのだろうか?

「悪かったなぁ、……俺の悪いクセのせいで4年間気苦労させて」
 浅原は、アトランタ伍輪でバトンパスに失敗した。前の走者が追い付けず、渡せなかったのだ。以来彼は時としてスタートの加速に一瞬のためらいを負うようになった。
 自分が直接関わった原因ではないが、鷹平にもその一瞬のためらいは痛かった。
 最高のタイミングで渡してくれると思えばこそ、迷い無く彼は加速できるのに。
 信じてもらえていない、などということは、4年前の初めての時ならいざ知らず、今は無い、と思いたい。
 けど、失敗の許されないこの最後のレースで、ためらいはゼロであってほしかった。信じて、スタートを切ってほしかった。全ては、彼のために。
 信じて。

「『絶対、渡しますから。出てください』」

 心の叫びと、2日前の自分の決意と、それを復唱する、
 今目の前にいる浅原の声が、一つになった。

「あの時――バトンパスの練習が終わった後、お前が言ってくれて、それで『そうか、信じて何も余計なこと考えんと思いっきり出りゃいい』って、」
 吹っ切れた、と浅原は清々しく笑った。
「アンカーのゴールで、末代まで残る成績が決まる。一つでも上行きたくて、0.01秒でもタイム縮めたくて、必死こいとった。けど、今思えばそれも、気負っとったんやね。気が急いて。……なにも、焦らんと、きっと鷹平は渡してくれるって。信じたから」

 言葉を切ったその刹那、互いの視線がつながれた。浅原の目の真摯な色に、引き込まれる。
「――気付いた?『信じた』の中にお前居るの」
「え……?」
「『シンジ』て、お前の名前」
 照れを隠すようにはにかんで、くしゃりと笑う。それがいとおしくて可笑しくて、鷹平は思わず吹き出した。
「それってオヤジギャグじゃないですか!」
「オッサンのギャグなんてみなそんなモンや。……って、こら、」
 背後からしがみつくように抱きついた鷹平に、浅原は苦笑した。
「ここはツッコミ入れるところやろ」
「そんなの即出来たら、お笑い行ってますって」

 ひとしきり笑いあった後、浅原が呟いた。鷹平にだけ、届く声で。
「――最後の最後に気持ちよく走らせてくれて、ありがとな」
 万感の思いが、胸を打つ。
「……あなたが、気持ちよく走ってくれたのなら、僕はそれで幸せですよ」

 夜空に花火が打ち上げられる。弾ける音が響き、夜空を染める色彩と光に、誰もが顔を上げて注視する。……誰も、一つになっている二人に注意など払っていない。
「このままでいていいですか?……せめて、花火が終わる時まで」
「しょうないなぁ」
 浅原の声の温かさが、くっついた背中から伝わって、体中に満ちていく。
 幸せな熱に、鷹平は目を閉じた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・)イジョウ、ジサクジエンデシタ!

花火って綺麗だけどほんのり切ないよね、っていう


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