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SoundHorizon 6th StoryCD『Moira』 冥王→レオン 冥王→エレフ←レオン

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                     |  某楽団、第六の地平線より
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  死後捏造です。
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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【設定説明&諸注意】
・レオン様視点
・冥王→レオン、冥王→エレフ←レオンのつもりですが、恋愛要素は皆無
・冥王様は自分のところに来たものは何でも取り込んじゃうよ派。来る者は拒まないが去る者は決して許さなry
・冥王様は悪役です。
・たぶんバッドエンド
・女の子もガッツリ登場するので苦手な方はご遠慮ください。

 臓腑が焼けるように熱いのは、刺された故の痛みか、それとも悔しさ故か。
 死の間際、遠のく意識の中で聞こえた母の言葉が、繰り返し脳裏を駆け巡っていた。
(レオン、エレフ……おやめなさい……)
 黒い剣に身体を貫かれながらも、労るように窘めるように呟かれた母の言葉。
 己に対してはともかく、何故母はあの男にまで慈愛な満ちた瞳を向けたのか。
 その意味を悟ったレオンティウスの意識は、やりきれない思いを抱えながらただ暗闇を漂っていた。
 永劫にも似た沈黙と呪わしいほどの安寧に身を委ねてどれだけ経ったころだろうか。
 不意に、彼の耳が幽かな音を捉えた。
 風の音か……否。それは少女の泣き声だった。
 吹けば消し飛んでしまいそうなほど幽かに、けれど強い感情が込められた声。
 これまで漆黒の闇一辺倒だった光景に変化が訪れる。前方に薄ぼんやりと浮かび上がったのは女性の人影だった。
 ──エレフ、お願い応えて、エレウシウス!
 悲痛な声音で女は誰かに必死で呼びかけている。その姿が酷く居た堪れなくて、レオンティウスは彼女へと声をかけた。
「どうしたのだ、何故泣いている」
 少女は怯えたように肩を震わせながら振り向いた。その容姿を目にして思わず瞠目する。
 銀糸に紅が混じった髪色に、紫水晶の瞳。
 彼女の見目が、レオンティウスが最後に雌雄を決したあの男──アメジストスと驚くほど酷似していたからだ。
 そして同時に理解する。彼女は紛れもなくあの男の、そして私の──
「君が呼びかけているのはアメジストスにか。あの者の身にいったい何が」
 ──兄が、エレウシウスが、“彼”に取り込まれかけているのです。
「彼?」
 ──そう、“Θ”……タナトス。
 タナトス。死を司る冥府の王。そんなものにあの男が囚われているというのか。
 レオンティウスは無意識のうちに唇を噛みしめていた。
 彼が運命を呪っていたのは嫌というほど知らされた。それだけに心の闇も大きかったであろうことも。
 だが、それを他者につけ込まれるのはあまりに不憫だった。
 命を賭して刃を交えた、誇り高き狼。彼をむざむざ死の王に渡してはならない。
 意を決し、拳を固く握りしめた。

 ──エレフは優しかったからこそ、運命を呪わずにはいられませんでした。
 ──けれど私の為に運命の女神に刃向かい、闇に堕ちる姿を見るのは苦しくて、悔しくて!
 ──お願いエレフ、私の声を聞いて。お願いだから目を覚ましてよ……。
 俯く少女の肩に手をかけ、レオンティウスは言う。
「大丈夫だ。私が必ずあの者を連れて帰ると約束しよう。だから顔を上げて、笑顔で迎えてやってくれ」
 ──レオンティウス様……ありがとうございます。
 恭しく頭を垂れる少女の言葉に少しばかり驚いた。
「私を知っているのだな」
 ――はい。今はもう、全てを知っています。
「そうか。君の名を問おう」
 ──はい。私はアルテミシア。アルテミシアと申します。
「よい名だ。このレオンティウス、君の名に誓おう。必ずあの者を連れて戻って参ろうぞ」
 ──どうかご無事で、レオンティウス様。……いいえ、レオン兄様!
 少女の、妹の声を背に受けて、彼は深遠なる闇へとその身を翻した。

 時間の感覚はとうに失せていた。いや、既に死した身に時の経過など関係ないのだろうか。
 そんなことを思いながらレオンティウスは闇の中を泳ぎ続ける。
 浮いているのか沈んでいるのかもわからず、前に進んでいる実感すらない。
 己がどこを漂っているのかも定かでないまま、それでも足を止めることはなかった。
 とはいえ、じくじくと沸き上がる不安はどうしても拭えない。本当にアメジストスはこの先にいるのだろうか。
 いたとして、無事まみえることができるのか。このまま永遠にすれ違う可能性を否定しきれない。
 不安を振り払うように、レオンティウスは声を張り上げる。
「どこにいる、アメジストス!」
 ──“Θ”ハココニイル。
「何っ!?」
 まさに唐突であった。前触れもなく、眼前に闇よりも更に暝い闇の塊が広がったのだ。
 闇より深い闇はそのままレオンティウスを包み込み、彼の手足を絡め取る。
「くっ」
 強い力で濃い闇の中へと引き込まれる。今まで以上に視界が利かなくなり、胸中に焦りが生まれた。
 この黒い闇の塊は何だ。私を捕らえるとは、いったい何が目的なのか……
 ──オ前ガ“Θ”ヲ探シテイタノダロウ?
 出掛かった悲鳴を飲み込むので精一杯だった。

 不意に目の前に浮かび上がった白皙の相貌。ただそこにあるだけなのに、圧倒的なまでの恐怖感。
 全身が総毛立った。目の前の存在が何者であるのか、語られずともひしひしと伝わってくる。
 これは“死”そのものだ。間違いない、これこそ探していた冥府の王、“タナトス”。
 勇猛と謳われた身でありながら何という様だとレオンティウスは自嘲する。
 少しでも気を張りつめていないと、膝が笑い出しそうだった。
「タナトス。アメジストスを返してもらおう、彼はお前のものではない」
 腹に力を込めて声を張り上げると、冥王はさも愉快そうに大笑した。
 ──無駄ダ。息仔ノ身体ハ“Θ”ノ器。彼ハ“Θ”ソノモノ。
 ──“Θ”ト彼ハ等シキ存在、切リ離スコトナド出来ハシナイ!
 まとわりつくような粘ついた声でひとしきり笑うと、すっとその貌を鼻先にまで寄せてきた。
 生気の感じられない骨張った手でレオンティウスの頬を愛おしむように撫でる。
 レオンティウスはタナトスをきつく睨んだ。腹立たしいことこの上ない。
 異様なまでの肌の白さはともかく、その顔立ちや紫水晶の瞳は、紛れもなくあの紫の狼そのものだったからだ。
 ──“Θ”ハ死ヲ以テ苦シム生者ヲ救オウ。
 ──“Θ”ハ死セル者ヲ等シク愛ソウ。
 ──オ前モ“Θ”ト一ツニナレ。
「ふざけるな。私はお前に取り込まれはしない。アメジストスも取り返す!」
 ──オ前ハモウ死ンダノダ。“Θ”ニ抗ウナ、“Θ”ヲ受ケ入レロ。
「断る。私は──」
 ──レオンティウス、貴様さえ生まれてこなければ。
 不意に聞こえてきた、己を憎む呪詛の声。
 聞き間違えようはずもない。覇権争いの末に自らの手で殺した彼の男。
「スコルピオス、貴方も冥府に囚われたのか……」
 ──生マレテコナケレバ恨マレルコトモ無カッタ。
 ──生ニシガミツカナケレバ更ナル苦シミニ苛マレルコトモ無イノダ。
 ──“Θ”ハオ前ノコトモ等シク愛ソウ。サア、“Θ”ニ身ヲ委ネヨ……。
 逃れようと頭では考えても、身体は思うように動かなかった。
 タナトスの指がおぞましいほど優しげに頬を撫で、首筋を伝って肩へと降りていく。
 身を包む闇は揺り籠にも似た安らぎを与えてくれた。

 このまま全てを預けてしまっても良いのかもしれない。心地よい酩酊感が、身体を、心を満たし始める。
 何もかも投げ出せば楽になる。全てをタナトスに捧げれば……
 ──忘れるな!
 内から沸き上がる記憶に肩が跳ねた。
 ──いずれお前は私の物になる。忘れるな!
 苛烈で気高い北狄の女王。あの日の彼女の言葉が、意識にかかっていた霞を吹き飛ばす。
 ──どうかご無事で、レオン兄様!
 自身の帰りを待つ者がいることを思い出す。そうだ、みすみすタナトスの手に堕ちるわけにはいかない。
「私は私だ、決してお前の物にはならない!」
 腕に絡みつく闇の糸を引きちぎるようにして差し出した掌から迸った一条の雷光が、槍となってタナトスを貫く。
 その拍子に全身を拘束していた深い闇がレオンティウスを解放した。
 即座に後方へ飛んで距離を置くと、身体が意識した通りに動くのを確認する。
 手指を繰り返し開閉しながら、先程己を呼び覚ました言葉を胸の内で反芻する。
(私の物、か。貴女の物になったつもりも憶えもないのだが)
 苦笑を禁じ得ない。だが、嫌な気分ではなかった。
(今は貴女に礼を言おう、アレクサンドラ)
 笑いを収めると、表情を引き締め改めてタナトスへと向き直った。
 そっと、眠り子を揺り起こすように、レオンティウスはタナトスへと呼びかける。
「目を覚ませ、アメジストス。夜はもう終わりだ」
 正しくは、タナトスの内に眠る紫水晶の狼へと。
 ──何故“Θ”ヲ拒ム。
「私は“Θ”を認めない。私に用があるのはお前だけだ」
 ──彼ハ“Θ”ノ物。
「いつまで殻に閉じこもる気だ、アメジス……エレウシウス! お前にも彼女の声は聞こえているはずだ!」
 変化は些細ながらもはっきりと見て取れた。
 タナトスの瞳に、これまでとは違う光が確かに宿ったのだ。
 レオンティウスは盛大に息を吐いて、再び呼びかけた。

「手を焼かせてくれたものだ。意志が強固なのは結構だが、融通が利かなければ指導者として相応しいとは言えんな」
「アルカディア王……レオンティウス。何故私を呼んだ」
「わからぬほどお前は愚かか?」
 呆れたように肩を竦める。と、そこへ、
 ──ありがとうございます、レオンティウス様。
 彼の隣に少女が静かに降り立った。先刻よりずっと鮮明な姿で。
「今まで私は、強い力に拒まれて呼びかけることは疎か近づくことも適いませんでした。けれど、今はもう違う」
 瞳に哀しみと慈しみを湛えて、アルテミシアは兄の元へと近づいていく。
 タナトスの、否、エレウシウスの白い頬に指先で触れて、微笑む。
「やっと起きてくれたね。ずっと呼んでいたんだよ、エレフ」
「ミーシャ……」
 エレウシウスの顔が、泣きそうに歪んだ。
「許せ、ミーシャ。君は、君にだけは、こんな暝い冥府の底にまで降りてきて欲しくはなかった」
「エレフの馬鹿。ずっと一緒にいようねって約束したじゃない」
 表情を一変させ、拗ねたように兄の眉間を突く。
 初めに会ったときの、悲嘆にくれた顔とは全然違う。
 彼女は明るく笑う方が美しいと、兄妹のやりとりを見ながらレオンティウスは思った。
 しかし、兄の方は、表情が和らぐどころかますます険しくなっていく。
「私は全てが憎い。君を殺した祖国が、君も父も母もを死なせた運命が!」
 もう、あの頃のように笑うことは出来ないと彼は言う。
「私は全てのものに復讐しなければ気が済まない。何もかも、叩き壊してしまわねば私の心は救われんのだ!」
 血を吐く勢いで、エレウシウスは嘆いた。
「祖国に住まう者全てを、祖国の大地を! 我らを産み落とした“運命の女神”もろとも何もかもを焼き払わねば!」
「エレフ……」
 アルテミシアが苦しげに柳眉を寄せた。
 エレウシウスの泣き叫ぶ姿は、まるで子供の駄々のようだった。けれど笑うことは出来ない。
 彼を陥れた運命には、間違いなくレオンティウス自身も加担していたからだ。
 その罪と責任は負わねばならない。たとえその罪が、意図したものではなかったとしても。
「お前が祖国と同胞を憎むなら、彼らに代わって私がその憎しみを引き受けよう。それがアルカディア王である我が務め」
 けれど、と彼は一呼吸置いてから続けた。

「それとお前がタナトスへと身を堕とすのは話が違う。お前は人間だ。私と彼女とともに人の世へ戻れ、アメジストス!」
 力強く、その腕を差し出す。
 エレウシウスは、縋るべきか縋らざるべきか選びかねているようだった。
 アルテミシアが後押しするように笑いかけると、幾許かの逡巡の後、やがて怯えた子のようにおずおずと手を伸ばす。
 指先と指先が触れ合いかけた、その刹那。
 ──許サナイ!
 それまで鳴りを潜めていたタナトスの影が、突如大きく膨れ上がった。
 ──“Θ”コソハ“死”ダ。
 レオンティウスは咄嗟にアルテミシアを腕の中に庇う。
 しかし闇は二人には襲いかからなかった。
 エレウシウスが腕を横に伸ばすと、闇の群れは彼に従うように動きを止めたのだ。
 闇を背後に従えるその様は、正しく冥王の名に相応しい荘厳さに満ちていた。
 ふと不吉な予感が胸を過ぎる。焦りを覚えて、レオンティウスが再度腕を伸ばす。
「来い、早く!」
 エレウシウスは何も応えない。
「アメジストス!」
「エレフ!」
 ようやく、彼は小さく頭を振った。
 そして、おもむろに口を開く。
「レオンティウス、アルカディアの獅子王よ。お前はこの冥府に相応しくない」
 ──“Θ”ハ死セル者ヲ平等ニ愛ソウ。
 手を頭上に翳すと、目映いほどの光が暗闇の空間を切り裂いた。
「今ならまだ間に合う。この冥府を出て天にいけ。お前は地上の者たちの道行きを照らす星の光となるのだ」
 ――“Θ”ト共ニアレ。
「お前も行こう」
「駄目だ。私はどうしても、“運命の女神”に復讐を成し遂げたいのだ。そうでなければ私の物語は終えられない」
 ──“Θ”オ前ヲ愛シテイルノダヨ。
 光は束となって、レオンティウスとアルテミシアを柔らかく包み込む。
「アメジストス、いや、エレウシウス。お前を置いては行けぬ!」
「エレウシウスはもう死んだ。……そう、我こそが──“Θανατοσ?”」
 ──ソウダ息仔ヨ。“Θ”ハオ前、オ前ハ“Θ”。永遠ヲ共ニ生キヨウ。

「認めぬ。お前は私とともに来るのだ、エレウシウス!」
「行くのだ、我が友よ。妹を託せるのは最早お前しかおらんのだ」
「断る!」
「お願いエレフ、腕を伸ばして!」
「行ってくれ! ……頼む、ミーシャ。頼む、──」
 白い光は強制的に二人をエレウシウスから引き剥がした。
 エレウシウスの最後の言葉は、風切り音によって掻き消された。
 だが聞こえずとも、レオンティウスは彼が何と口にしたのかを悟ってしまった。
 彼は最後の最後でこう言ったのだ。
 兄上、と。
「ずっと一緒ねって言ったのに、エレフ!」
「何が王だ、私は大事な者を……弟一人さえ救うことが出来ないではないか!」
 己の無力さに涙が零れた。
 白き光は二人の涙をも巻き込んで、強烈な奔流となる。
 もう一度、レオンティウスは最大の友にして最愛の弟に腕を伸ばした。
 適わぬと知りながら、どうか届くことを願って。
 ──エレウシウス!
 彼の人としての意識は、そこで途切れる。

 そして、或る男の手によって冥府の扉は開かれ、【死人戦争】が幕を開ける。
 地上に生きる者たちと、冥府から溢れた亡者たちの凄惨な争いによって、神話の終焉が始まった。
 その光景を、空に輝く獅子宮と乙女宮は、ただ静かに見下ろすしか出来なかった。

タイトル表記5/7をミスりました。
あと、説明忘れを補足。“Θ”の読みは「我」あるいは「彼」です。どちらも冥王を指します。

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ レオンサマスキスキダイスキチョウアイシテル
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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