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体操 水鳥と米田

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                    |  今なおしつこく大層、水鶏と※田です
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  ×ではありません
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 | | |> PLAY.       | |              ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ トリゴハン?
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
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むしろ嫌がらせに近いけど、ネ土會人大会の好成績を祝して初書き。
限りなく人の良さそうな水鶏&ほにゃらかキャプ〒ン@五厘前の合宿、そんなつもりです。
ご本人さん達はもちろん、イメージ等違和感のある方々、ごめんなさい。

「きのうな、みんなで金メダル獲る夢みたわ」

おお、なんて頼もしい。
僕は思わず破顔して彼を振り向いたけれど、不思議なことに彼は浮かない表情を浮かべていた。
一瞬だけ、器用にも唇の端をわずかに下げてわらってみせると、彼はそのまま僕からキョトリと
視線をはずし、甘すぎる飴玉で喉をヤラレたみたいな掠れて揺れる声で、でも、と続けた。
「よう見たら、ス口ットのメダルやった。銀も銅もふつうのやのに、オレら6人だけス口ットのやねん」
今度は単純に笑ってしまいそうで、僕は口の辺りのむずむずと懸命に戦っていた。
彼の表情の本当の意味がよくわからず、でもいつになく急いで言葉を続けようと
しているのだけはよくわかったから。
「みんなは気ィ付いてなかったけどオレは分かってて。めっちゃドキドキしてた。
どうしよ、どうしよ、て。取材とかされてカメラ向けられても、そんなメダルよう見せれんやろ?」
ペカペカ光るスロットのメダルを首に、カメラに向かって能天気に笑う僕自身を想像してみた。
目の前の人をのぞく全員の姿を想像してみた。…なんてバカっぽい図なんだろう。
どうしよう、はこっちのセリフだ。

「でもやっぱりバレて、監督もコーチも協会の人も、えらい騒ぎになんねん。
したらな、どっかの偉い人が出て来て、それは※田のせいです、て。
マイク使って、ガイジンさんやのに日本語でそう言うとった」

ああ、と。僕はやっと合点がいって、上がりっぱなしだった口角を少しだけ元に戻す。
消えてゆく笑いが、あまり深刻なスピードを持ったりしないように。
へんに過剰な真顔になってしまわないように。
彼は相変わらず、その立派な腹筋が己の出番を泣いて乞いそうなほど
力の抜けた長閑な声で喋り、僕を伺い見てふにゃりと笑ってみせもしたけれど。

「ほんとにもう、ごめんなさいごめんなさい、て泣きそうなって目ぇ覚めたわ」

ああ。

ああ、そんな夢なら僕も知っている。

立ちはだかる明日の背中に拒絶されて、過去に追いつかれてしまいそうになる夜に見る夢だ。
もうこの身体には、なんの力も可能性もないんじゃないかと思うような朝に思い出す夢だ。
指の、爪の先までがずっしり重たくて、溶けかけた鉄か何かみたいにベッドに沈んでゆきそうで。
苦しくて悔しくて、腹が立って仕方なくて、でもかなしくてさみしくてたまらなくなるんだ。
気まぐれにやってくるそれは、悲劇的に滑稽なカタチをしてたりするから、誰かに
面白おかしく話して聞かせるのもいいだろう。だけど、それでも、置き土産で
突き刺さった不安は、笑い声にのせて転がすにはいびつすぎて
時々どうしようもなく怖くなる。そんな類の夢だ。

彼の視線は、言葉のあとに続きそうなため息の代わりに落ちてゆく。返す言葉を探すほんの
わずかな合間をごまかすように、つられたフリで僕も少しうつむいた。丁寧に整えられたきれいな
爪をした彼の指先が、やっぱり何かをごまかすように緩く閉じたり開いたりをくりかえしている。
後悔や焦燥でやきもきする子供のようで、それを見たら何故だか少し落ち着いた。

「でもメダル、金色だったんですよね?」
結局、僕のなかには小洒落た言葉なんてなかったけれど、宙を跳ぶ身体ほどに
器用な言葉なんてもともと僕らには縁遠いものだから、それを特別残念だとは思わなかった。

かつてはあらゆる誘惑にひっぱられ、練習だとか努力だとか、僕にとってはすべてみたいなものを
全部こぼしたみせた天才の手が、まるきり切羽つまった凡人みたいにキュッと拳をつくる。
視線をあげれば、温和そうな目が瞬きを忘れて僕を見ていた。閉じたままの唇で、うん、と
小さく答えた彼は、慌ててもう一度、うん金色やった、とつんのめるような声音で言った。
「こんな、…スロットのやから、こんなちっさいヤツやったけど」
ひどく神妙な申し訳なさそうな顔で、指先に輪っかをつくってみせるものだから、
僕はとうとう声を出してちょっと笑ってしまう。輪っかの大きさが、妙に精巧に見えた。
「小さくても金なら、縁起が良いじゃないですか」

その指先が今はもう煙草を挟むことも、ギャンブルに傾倒しすぎることもないのを皆が知っている。
その手は、神経をいっぱいに張り巡らせて、たとえば弾む床を、駆け出した先の小さな面積を、
しっかりと捉える。ポメノレを厳密に行き来して、頼りないほど揺れるふたつの輪や撓るバーを
最後の藁みたいに必死で握り締める。何ひとつこぼすまいとする人間の、切実な手だ。

「縁起、ええんかな…?」
「はい、縁起がエーです」
代表入りが決まった僕の肩を引っ掴み、背中を叩いて祝福してくれたその感触を覚えてる。
匕サシ、一緒に行けるなあ、がんばろなあ、と繰り返し言った声の調子を覚えてる。

どこかきょとんとした表情の彼を見て僕は笑い、だーいじょうぶですよ※さん!と
彼のぶんまで腹に力を入れて歌うように声を張った。肩のバッグをしょいなおしながら
自然、金かぁー金はイイっすねぇー、とご機嫌でひとりごちて歩き出す。

大丈夫ですよ。

なんてありきたりな!なんてつまらない!誰かはそう言って哂うかもしれない。
だけど仕方ないじゃないか。何に勝とうとして、何に負けまいとしてるのか、僕達はもう
とっくに気付いてる。うっかり立ち竦んでしまった心許ない足を、どうにか望むほうへと
動かしたい時、心底から求めるものなんて、大きな水たまりを飛び越える子供達が
繋ぎあう掌と同じで、つたなくてひたむきでシンプルこのうえない。

大丈夫。何度だって言おう。
這いずり回って苦しむ僕を包んだ、熱っぽく真剣な幾つもの眼差しを思い出しながら。
このスローペースな天才に言ってあげよう。だって彼もまた、僕に教えてくれたんだ。
もがくように重ねた僕の過去の一瞬一瞬は、正しく、今へと続く道だったのだ、と。
泥臭く、じりじりと一歩ずつ、さらにその先へ進んでゆくことだけがすべてだ、と。
穏やかに整った顔を歪ませて、一度投げ捨てたものをかき集めるひとりの天才を、
あるいは歯を食いしばって不器用に未来を手繰り寄せる多くの努力家達を、
一体どうして惨めだなんて言えるだろう。それらはどちらも、等しく何にも勝って
誇れるものだと、もはや揺るぎない意志の確かさで彼は教えてくれた。

それに実際、彼も僕に言うのだ。反復練習が苦手なくせに、これでもかと
失敗をくりかえす僕に付き合って何度でも、まっすぐな目で、飽きもせずに。
――大丈夫や、匕サシ。大丈夫。
それはまるで、僕以上に僕を信じているような響きで。
未完成な技の途中、無防備に身体を放る瞬間、回転する重力と無重力のさなか。
僕はふと心の中で、その響きの力強さをなぞるように唱えてる時がある。

歩き出した僕の後ろでぼんやり何事か考えている様子だった彼は
それなりに納得したのか、最後の音を伸ばして僕の名前を呼び、隣に並ぶと
肩をぶつけてきて切り替え完了とばかりに子供っぽく笑った。
「選手邑、同じ部屋だとええなあ」
「僕と一緒じゃないとさみしいですか」
「そんなんちゃうよ~。匕サシならこきつかえるからに決まってるやんか」
「ひどっ!鬼ですね、鬼嫁並みですね、鬼※って呼びますよ?」
本当は、悪い冗談のような上下関係を誇る大学にいた僕にしてみれば、
この人の先輩っぷりなんて縁側で眠りかけたおばあちゃんみたいなものだけど。
「あ、でも※さんはナ才ヤさんとかもしれませんよ、上ふたりってコトで」
「んーそれはないんちゃう?コーチとかが心配しそうやし」
「な、なんでですか?」
「だってナ才は気ぃ遣ってくれてるけど、ほんとはオレのこと苦手そうやもん」
「………う、わー…」
「なんやの、その反応。やっぱりナ才、なんか言うてた?」
「…いえ、別に」
「じゃあ、なんなん?」
ありえない場所に着地させられて狼狽するナ才ヤさんの顔が、くっきり見える。
僕はもう、なんなんなんなん言う彼を置いて、うわーうわー言いながら早足だ。
追ってくる彼をかわして、途中からは不恰好でヘタクソな競歩の真似だ。
最後の頃には、エスカレートして得体の知れないグネグネの動きになった僕が
逃げる彼を追い回す形になっていたけれど、それはまあ敵討ちみたいなものだ。

そうしてバカみたいにふざけて辿る宿舎までの短い距離、僕らの笑い声はちゃんと明るい。
笑う理由なんて楽しさ以外に知らなかった頃のようなその明るさが、僕はひどく嬉しかった。
だって、何かから目をそらしたいからだとか、やるせなさへの抵抗だとか、そんなわらい方も
お互いにもう充分学んでしまった。だから含みのない明るさがとても嬉しくて、僕の腰使いに
対して下された失礼極まりない『気色悪い認定』も、そんなに気にならなかった。

時々ちょっと不安になったり落ち込んだり。そこそこの孤独や痛みのなか、
精一杯の練習をして、前を向いて、上を目指して。立ち止まってしまいそうでも
決して地道な歩みを諦めたりはしない。無骨で小さなその足取りを恥じたりしない。
自分自身を信じようとする気持ちがグラついてしまったら、自分を信じてくれる仲間を、
ただまるごと信じてみればいい。

だから※さん、もしまた同じ夢を見たら、どうかもうちょっとだけ。
もうちょっとだけ目を覚ますのを待ってみたらどうだろう。
あなたと一緒にいる夢の中の僕達は、たぶんこう言うはずだ。
 『だいじょうぶ!これは、絶対に金メダルだ!』
監督もコーチも協会の人も、偉いガイジンさんも、テレビのカメラも取材陣も
みんな言いくるめてやろう。僕達は最高のチームだから、きっとうまくいく。
奇抜な誤解をされてる生真面目なあの人だって、精悍な眉を寄せて、
しどろもどろになりながら頑張ってくれるはずだ。もしかしたら誰よりも。
大丈夫。眠りの中にみる金色なんて、ニセモノでかまわない。
願うものに手を伸ばす方法には欠片の偽りもないから。容赦がなくて、
だけど素晴らしい現実を、いつも通り、僕らは僕らのままに、歩いてゆこう。

今日も明日も、明後日も、醒めない夢をつかむその日でさえも。
きっと僕らはただ一点を、神聖なものみたいにみつめて小さく静かな呼吸。
祈るようにこすり合わせた掌、夕ンマの粉を、命を創った神様と同じ仕草で一吹き。

あとは、その白が舞いあがるよりも軽ろやかに、世界を駆け上るだけ。

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ナマヌルクテモウタエラレナイ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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偉大なるナ才ヤさんにもごめんなさい。おじゃましました。


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