ハチワンダイバー 鈴木八段×飛鷹 「雪の日の話」
更新日: 2011-05-03 (火) 13:00:10
81台場 飛鷹受け 雪の日のお話
※皆様へのお願い※
同じ81ネタですが、マムシヒダカの作者さんと私は、別の人ですので、
サブタイトルをつけました。
少しだけ角田×飛鷹
鈴木八段×飛鷹の続きです。
前編は>>316-321になります。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
飛鷹は事務所の一室で、角田と将棋を打っていた。
飛車角抜きのハンデをつけても、角田の棋力は飛鷹には及ばない。
窓の外を見ると、少し前から降り始めた雪が
周囲の景色を白く彩っていた。
「兄貴~。今年はめずらしいっすね。こんなに雪降るなんて。
でも俺、雪は嫌いじゃないなぁ。
地元でね、あっ、仙台なんですけど
よく馬鹿な雪像つくったり、雪ン中にダイブして遊んだり
楽しかったなぁ~」
勝負を諦め、飛鷹の右隣に並ぶと子供のように無邪気に微笑む。
いつのまにか、飛鷹の右隣が、角田の指定席になっていた。
「あぁ、そうか。俺は雪、あんま好きじゃねぇな」
飛鷹がぽつりと呟くのを、角田は聞き逃さなかった。
「どうしてですか?
初めて俺と兄貴が会ったのも、
こんな雪の日だったでしょ?
俺はその時の事、ずっと覚えてるし、
雪がなかったら、兄貴とこんなに仲良くなれなかったかも…」
暗い雰囲気を察してか、
明るく必死に訴える角田だったが、飛鷹の耳には届かない。
雪を見ている飛鷹の目に浮かんだ虚無の影には、
その時の角田は気付かなかった。
―――25才になった。
飛鷹は、自分の将棋に限界を感じていた。
奨励会では26才が、タイムリミットだ。
…今年しかない。でも、もう…
相変わらず、師匠は良くしてくれている。
なんとかそれに答えたいが、
焦るばかりで何も改善していかない。
理由は、分かっている。
去年から、師匠の鈴木八段と体の関係を持つようになり、
集中力が無くなっていた。
そして、今まで将棋に傾けていた情熱が
鈴木八段への愛情へとシフトしてゆき
将棋で勝ちたいと、前ほどに思わなくなっていた。
飛鷹の将棋は、変わってしまっていた。
「どうしたの?
最近心が乱れているね。
僕の好きだった
君の将棋が、変わってしまった様に思うけど…」
心配そうに師匠が言うのを、飛鷹は黙って聞くしかなかった。
実は飛鷹だけでなく、師匠である鈴木八段にも
不調の波が忍び寄ってきているのだ。
格下の相手にさえ、時に負ける様になった八段を
弱くなった、年のせいだ、
とあからさまに非難する者も、弟子のなかにはいた。
そんな非難の声を耳にするたび、
飛鷹は覚悟を決めなければ、と唇を噛み締める。
鈴木八段が、飛鷹の手に触れる。
「君を、こんな風に変えてしまったのは僕なんだろうね?」
師匠の寂しげな声に、飛鷹は目を上げる。
「違います!俺が勝手に…勝手に貴方を好きになったから…。」
「違わないよ。君が不調なのは、全部僕のせいだ。
大切な君を、自分の欲で汚してしまった…」
鈴木八段の声が、悲しみに震える。
「師匠…」
飛鷹は少し前から考えていた事を
今こそ言わなければ、と心に決めた。
息を吐き、声がかぼそくならないように
意識してはっきりと言った。
「俺は、今日で奨励会を辞めます」
鈴木八段の、顔色が変わる。
「飛鷹くん!何を言っているんだ」
「もう決めてきました」
「だめだ…だめだ!辞めないでくれ!
ずっと、僕の側にいてくれるって、言ったじゃないか!」
「奨励会の会長にも、話はしています。
今日、ここを出ます。
俺の荷物は捨ててください」
「飛鷹君…」
「今までありがとうございました」
深々と一礼すると、飛鷹はそのまま玄関へと足を運ぶ。
「待ってくれ!」
追ってくる師匠の声に、構わず玄関の戸を開ける。
大粒の雪が、静かに降っていた。
「飛鷹君!待って…」
降りしきる雪のなかで、鈴木八段の細い手が飛鷹の腕を掴む。
「上着を、これを着ていきなさい」
自分の着ていた羽織を、掛けてやる。
その手が、そのまま飛鷹の肩を掴む。
飛鷹は前をむいたまま動かない。
後ろ向きに掴まれた肩に伝わる
その手の暖かさに、飛鷹の気持ちは崩れそうになる。
「飛鷹君…。
僕は君に言っておかなければならない事がある。
そのまま、後ろを向いたままでいいから、聞いてほしい」
肩に置かれた手に、力が入ったのを感じる。
「僕は、ずるい男だ。将棋の為に、すべてを捨ててきた最低の人間だ。
人間の心まで、捨ててきてしまったんだよ。
僕は、君を、君の将棋を見た時に
若いときの自分を見る様で嬉しかった」
二人の上に、雪が降り積もる。
「僕は、君の将棋の才能も、若さも、
若さゆえの無謀さも、未熟な所も大好きだったよ。
そして同時に嫉妬もした。
君の才能が僕を、
僕の将棋を凌ぐ日が来るんじゃないかってね」
鈴木八段の声が曇る。
「師匠?」
飛鷹は振り向こうとするが、厳しい鈴木八段の声に制止される。
「そのままで。
今の僕を、君に見られたくない」
「…」
師匠の、いつもの穏やかな口調とは逆の、暗く重たい声。
「僕は君に好意を抱きながらも、同時に嫉妬もしていた。
憎んでさえいた。
……だから、潰す事にしたんだ。
若い芽は、早めに摘んでしまったほうがいい。
僕は君に、何をしたと思う?
分かるよね。
…作戦は成功。で、今に至ると言う訳だ」
飛鷹の体が震え、一気に血の気が引く。
頭の中が真っ白になり、立っていられなくなる。
あまりの衝撃にめまいがしてきた。
師匠が俺を…憎んでいた?
「師匠、ちょっと何言ってるか…」
ぎこちなく振りかえると、
鈴木八段は、いつもの優しい瞳に哀しみを浮かべ、飛鷹を見つめていた。
「君を潰す…つもりだった。
でも、僕はいつのまにか本気になってしまっていたんだよ。
朝も夜も、君の事を考えてしまう。
今何をして、何処にいるのかと
君の声や姿を無意識に探してしまう。
君の事ばかり考えすぎて、僕は気が変になりそうだった」
鈴木八段は飛鷹を引き寄せると、力を込めて抱き締めた。
「何よりも君を大切に思っていたよ。僕が人生を架けた将棋よりも…
君を、愛していた」
「師匠…」
雪は止まずに、ますます激しさを増す。
二人はいつまでも立ち去れないでいた。
あの後、飛鷹は奨励会を離れ、
鈴木八段はしばらくしてから、自分の将棋をとりもどした。
噂では、新しい弟子をとったとも聞いた。
(雪の日は嫌いだ。あの日の事を思い出す。)
「師匠…」
寂しげにその名を呼ぶ。
『どうしたの?』
穏やかな返事をしてくれる師匠はもう、目の前にはいない。
そのかわり
「呼びました?」
人の良さそうな丸い顔に金髪、趣味の悪いシャツを着た角田が微笑む。
角田は、鈍感な男ではない。
思い詰めた表情の飛鷹に気を使って、
ことさら明るく振る舞うような優しさを持っている。
「それにしても、ピザ遅ぇなぁ~。また迷ってんのかな」
「雪で遅れてるだけだろう…多目にみてやれ」
「まぁ、兄貴がそう言うなら良いですけど」
ちら、と飛鷹の様子を伺う。
しんしんと降り積もる雪の明かりが、飛鷹の顔を蒼白に照らす。
「ねぇ、兄貴~。世の中に興奮する事って一杯あるけど
一番興奮するのは、ピザの配達が遅れた時ですよね!」
「間違いないな…って、お前、何言わすんだ!」
角田の額を、手のひらで軽く叩く。
コントの様なやりとりに、二人は顔を見合わせ、思わず吹き出す。
先程までの重苦しい雰囲気は消え、飛鷹の顔に笑みが戻る。
「だって、俺等がピザ頼んでから、もう一時間ですよ。待たせすぎだっつの。
腹減って腹減って…あー!俺、倒れそう」
角田はふざけ顔で床に寝転び、子供のように足をばたばたさせる。
「兄貴~抱っこしてください」
「駄々っこか!」
笑いながら、もう一度叩いてやる。
「腹減ったぐらい気合いで我慢しろ」
「いっ…てぇ…。痛いっすよ!二回目、本気で殴ったでしょ!」
起き上がり、飛鷹に詰め寄る。
「悪いか」
「悪…くない…ですけど…」
叩かれた額をさすりながら、口を尖らせる。
「お前何でいつも、ふざけてんだよ」
呆れ顔でいいながらも、角田を見つめる飛鷹の眼差しは優しい。
角田の冗談は、いつも飛鷹の気持ちを
和ませる為のものだという事は分かっていた。
真面目な顔をした角田が、耳打ちする。
「兄貴が強く叩くから
俺、本当に興奮してきちゃった」
「SMか!お前腹減ってたんじゃないの?」
「見てくださいよ。さっきからずっと半ボッキです」
(兄貴が、切ない顔するからですよ)
本当の理由は言わず、飛鷹に腰を押しつける。
「半ボッキって言うな。ここ事務所だぞ」
「良いじゃないですか。ほら。触ってくださいよ」
「変質者か!」
「変質者でいいです。
兄貴、責任とってもらいますからね」
飛鷹を壁に押しつけ、何度もキスをする。
頬、額、唇、首筋、あらゆる所に、何度も何度もキスをする。
キスをしながら角田は
飛鷹のシャツのボタンを外してゆく。
飛鷹の体が熱くなる。目元が潤み、シャツの下から紅潮した胸元がのぞく。
「角…田…」
飛鷹の声が上擦る。
「何、エロい声出してんですか」
満足そうににやけながら、角田は自分のベルトに手を掛ける。
ピーンポーン
インターフォンが鳴る。
二人は動きを止め、顔を見合わせる。
「…無視しましょう」
「ピザだろ。出てやれよ」
飛鷹が言うのを聞き入れず、角田は硬くなった自分のモノを触らせる。
「仕方ないでしょ。こんなになってるし」
「いいから、出てこい。他人様に、迷惑かけるんじゃねぇよ」
「もー。兄貴変な所で真面目だからな~」
ぶつぶつ言いながらも、衣服を整え、飛鷹から離れる。
角田の背中を見ながら、飛鷹は数年前の出会いを思い出していた。
(角田と初めて出会ったのも、雪の日だったな。
あの日、こいつと出会わなかったら…)
そう考えると、雪の日も嫌いじゃない。
「おまたせしましたー。ピザ届けにきました」
「遅ぇよ!何時間待たせんだよ!」
「あ、すみません。ちょっと迷っちゃって…」
「道に?」
「いえ、行くかどうかで迷っちゃって」
「またそこか!迷う所が違うだろ!」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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