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ハチワンダイバー 鈴木八段×飛鷹

81台場 鈴木八段×飛鷹→このあとカクヒダの予定
半生注意

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

奨励会の一室に、駒を置く音が響く。
鈴木八段は棋盤に駒を差すと、優しく相手の青年を見据えた。
向かい合い、次の手を考える飛鷹の額には汗がにじんでいる。
なかなか次の手がでない。
飛鷹の表情が一層厳しくなる。
鈴木八段は、そんな飛鷹の表情を見ると
嬉しげに目を細める。
「君のそういう所がいいね。絶対に諦めず、投げ遣りにしない。
まるで飛車の駒のように真っすぐで、濁りがない。」
その言葉に飛鷹は棋盤から目を上げる。
厳しくした表情を少し緩めてから、一手返す。
「師匠、ちょっと何言ってるか分かんないです」
「そうかな。僕は君の将棋が好きだと言ってるのだけど」

鈴木八段が駒を置くと、澄み切った高い音が響く。
「…ありがとうございます。
お世辞でしょうけど、嬉しいです。
…俺は、あなたに憧れてここまで来たから…」
耳元まで紅潮させ、ごく小さな声で言う弟子の姿をニコニコ見ながら
「そうだったっけ?」
鈴木八段は、さらに厳しい一手で、王手に近づいてゆく。

次の一手で、勝敗が決まる。
しばらく次の手を考えていた飛鷹は、諦めた様に息を吐く。
「師匠。負けました」
「うん。そうだね」
「悔しいです」
「悔しいね。いい所まできてたんだけどね」
「早く貴方に認めてもらいたいのに…。」
「僕は君を認めているけどな」
穏やかな表情を崩す事なく、鈴木八段は飛鷹の肩を抱き、頬を撫でる。

「寝不足の様だね。くまができてる。
今日、僕と差すことが決まって、緊張していたの?
それとも、眠れない程嬉しかったの?」
頬から首元へ、指をすべらす。
飛鷹は身を固くする。
「昨日は色々考え事をしてしまって…。
今日の事とか」
「僕の事ばかり考えていてくれたのかな?
それとも…」
鈴木八段の手が、飛鷹の頬を引き寄せ唇を重ねる。

軽く口付けをしてから、飛鷹の目を見る。
「僕に勝ったらこういうご褒美を貰えるかも、
って考えて興奮していたんじゃないの?」
「何するんですか!違いますよ!」
顔を真っ赤にしながら、部屋の隅まで逃げていく飛鷹。
穏やかにほほ笑みながら、鈴木八段は立ち上がる。
「おいで。隣に布団があるから。
それとも、ここでする?」襖にもたれたまま、飛鷹は動けないでいる。
「まぁ僕は、無理矢理してもいいんだけど。
前の時みたく、君を傷つけちゃったら、かわいそうでしょ?」

座り込む飛鷹の手を優しく引き、立ち上がらせる。
「今日の君の手の、ダメだった所も教えてあげるから」
師匠に追い付き、追い越したいと願う飛鷹には、魔法のように響く言葉だ。
「僕の弱点も、教えてあげようか?
まぁ、君のがんばり方次第だけども」
(くそジジィ…策士め)。
唇を噛み締め、師匠を睨み付ける。
飛鷹は、掴まれた手を振りほどき、床に正座する。
畳に手をつき、頭を下げる。
「よろしくお願いします。
今日の俺の駄目だった所だけ、教えてください。」
「あぁ、そう。
僕の弱点はいらないの。」「結構です。自分で考えます」
「そうだね。そう言うと思っていたよ」
一手も二手も先読みされている気がして、非常に面白くない。
顔を赤くして逃げてみたり、怖い顔をして睨み付けたりしても
相手は一向に怯まず、次の手を打ち、こちらを追い詰めてくる。
穏やかな顔をして、自分を包み込んでしまう。
棋力でも精神力でも、完全に負けているのだ。
でも不思議と、この人に負けるのは嫌ではないな、
と感じてもいたが、その時の飛鷹は認めたくはなかった。

布団のなかで目が覚めた。
師匠の腕の中で、いつのまにか気を失っていたようだった。
優しく髪を撫でながら、鈴木八段は飛鷹が起きたのに気付かず、独り言を呟く。
「僕は、君が追い付いてくれるのを待っているんだよ。
君、もうすぐ26才になっちゃうからさ。
早くプロになって、僕と戦ってほしいな」
奨励会に居られるのは26才まで。
それまでにプロに成れなければ、奨励会を退会しなければならない。
せっかく近づいた、この人のいる将棋の世界から、追放されてしまうのだ。

飛鷹は目を閉じて気持ちを引き締める。
「俺は絶対プロになる。
そしてこの人に追い付き、認めてもらうまで、
将棋を辞めない」

窓の外には、初雪が降っていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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