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うしおととら 雷信×潮

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「しかし……本当に、よろしいのですか?」
「ああ~~!もう、さっさとやってくれよぅ!」

光覇明宗・芙玄院。
入道雲の下、じわじわと蝉時雨の響く街を一望する小山の中ほど、
近隣住民からは「坂の上のお寺さん」と親しまれる500年の古刹に、
低く深みのある戸惑いがちな問いかけと
高校2年生であるこの寺の1人息子の弱りきったような叫びが響く。
50にして衰えを見せない住職と、元気が取り得のその息子との
物理的被害をともなう親子喧嘩など日常茶飯事の風変わりな寺であるが、
この少年が寝冷えと宿題以外で困ることは珍しいし、少年と問いかけの主、
光覇明宗には剃髪の戒がないこともあり、香港あたりの映画俳優似であると
檀家や近隣の奥様方に大評判の、誠実を絵に描いたような
作務衣姿の長身青年「修行に来てる雷信さん」が顔を赤くし向かい合い、
雷信が少年の腰を抱き寄せているともなれば、前代未聞の椿事と言えるだろう。

「では……うしお殿、失礼いたします」

:::::::::::::::

事の起こりは3日前、雷信の妹・かがりの尽きない向学心だった。
「兄さん、ただいま帰りました」
姿かたちは兄とよく似、誰もが振り向く美女だが、実は兄妹は妖怪鎌鼬。
「うむ、今日も変わりはなかったか?」
「はい、皆さんよくしていただいて……ただ、一つ知りたいことがあるのです」

兄妹は対外的には修行僧と行儀見習いとして芙玄院に下宿、
妖側代表として政府および光覇明宗との会合、多かれ少なかれ生き方を
変えざるを得なくなった各地の妖の連絡・相談窓口的な役割など
2年前のあの決戦の後処理に追われている。
いつかは遠野に戻りマヨヒガを維持し仲間の復活を待つつもりだが
まだしばらくは都市部に滞在する必要があり、良い機会でもあるので
人間理解のため、ここ半年ほどかがりは街の甘味屋に「あるばいと」に通っている。

――さすがは我が妹、兄として鼻が高いぞ……

最初に入った「てろやきばっか」の店はその日のうちに追い出されたが
甘味屋は経営者が光覇明宗ゆかりの者であり、他の同僚には
正体を気取られることもなく生き生きと通う愛妹に目を細める。
かがりから初めての給金で贈られた洋服には住職一家とともに号泣し、
雲外鏡を通じ日本中の人型妖に自慢までした雷信は、
「でも雷信さ、人間にしてはシスコンだぜ?いや、いいんだけどさ!」
「何か雷信、ちょっと見ない間にシスコンに磨きかかってないかァ?」
うしおやイヅナからは苦笑交じりに揶揄されるが、
十郎のいない今、たった1人の妹を守るのは自分の役目。
しすこんと言われようと改めるつもりはない。
疑問があるなら兄のつとめとして何でも答えてやりたい。
「兄さん?」
齢400年を重ねていようと、人里離れて暮らしてきた兄妹には
人間界の風習はまだまだ分からないことが多いのだ。
「雷信兄さん?」

「……!あ、うむ?知りたい事、とは?」
笑顔で自分を見つめたまま動きを止めた兄に心配そうににじり寄り
軽く揺すっていたかがりは、ほっと息をついた。
「少しお疲れなのでは」
「いやいやそんな事はない、兄なら大丈夫だ。それで」
「はい、あるばいと仲間と話をしていたのですが…………
 ……初めての接吻は甘いというのは本当でしょうか?」
「!!!!?!???!!!!!??????」
「兄さん!!!」
今度は飲んでいた茶を盛大に噴出した兄を介抱しつつ続ける。
「飴のようだと申される方や、ちょこれいとぅのよう、蜜柑のようと
 ……それで、私の場合は何味だったかと問われ……」
「……ゴホ、すまん、経験がないと言うわけにはいかぬのか?」
本来鎌鼬には接吻の習慣はないが、流石に接吻が人間の恋人同士に
とって性的に特別な行為であることは妖も知るところであり、
妹とそういった話をするのは雷信の性格上、とても居心地が悪い。
「この年齢の人間の女でそんなはずはないと……」
「かがり、我らは人の型を取ってはいるが妖。
 そのような事まで人間に倣う必要はないのだぞ」
「ですが…ああ……たとえ誰であろうと、とら様以外の方とは
 そのような事……でも仕方ありません、どなたかに」

雷信は妹の涙に何より弱い。可愛い妹にそのような事をさせる
わけには行かない以上、
自分の経験を妹に伝え教えるしかないではないか。
恥ずかしいから住職の妻君にも言ってくれるなと泣く妹に、
任せておけと胸を叩いたはいいが、以来途方に暮れる2晩を過ごし。

―――うしお殿に、お願いしてみよう
考えあぐねた結論が、うしおに協力を仰ぐ事だった。
槍があろうとなかろうと、妖怪たちと変わらず接し、
悔しいけど口だけじゃ分かってもらえない事もあるんだよなぁ、
人間も妖も笑って暮らせるようになるといいよなと、
本格的に法術の指南を受け始めたうしお。
あの、まっすぐな瞳の少年なら。

詳しく理由は言えねど、どうしても必要があるので自分と唇を重ねてくれ、
けして戯れや不埒な理由からではないので何とぞと目の前で
畳に頭を擦り付ける雷信に潮はぎょっとし、慌てて立たせる 。

「ちょっ……ら、雷信、あのなそーいうことはな、人間は
 好きな相手とじゃなきゃしちゃいけないんだぜ!?」
「不肖ながら、私はうしお殿を心より信頼しております!」
「そりゃ嬉しいし俺だって信頼はしてるけど男同士だしさあ!!」
「承知しております!…人間の女性にとって男との接吻に意味がある以上、
 女性にはお願いできないのです」
「いやそうじゃなくて……あああ親父や母ちゃんには雷信とかがりを
 できるだけ助けてやれって言われてるしなぁ……」
「そうか、そうだ紫暮殿にお願いしてみるという手が」

自分の父と目の前の雷信がキスをする姿を想像し、潮は青くなった。
どんな理由であろうと、ようやく戻った母親にそんな光景は見せたくない。
人妖友好。雷信はすごくいい奴。減るもんじゃない。困ってる。
………ファーストキス。ああ。キスは嫌だが雷信は嫌じゃない。
「わかったよぅ!!ああもう!貸すよ!!」
「有難い!この雷信、ご恩は必ず」

じわじわと蝉の声が山に響く。
「……あのさ雷信、女の人には変化できない……かな?」
「申し訳ありません、未熟者ゆえこの姿が精一杯なのです……」
一縷の望みを絶たれた潮は、勢い込んだ雷信に掴まれたままの肩を落とした。
訊けば、姿を選ばず変化できる者は相当力のある妖であり、雷信やかがりはまだ
形を意識せず「自分の」人型を取り維持するだけで精一杯だという。
それでも良いかと重ねて問う声の真剣さにやけくそで了承した途端、
右手で腰の辺りを引き寄せられる。
人を姿形で判断するつもりはない潮だが、これから自分がキスをするんだと
思うと、相手が男型の見慣れた妖であっても意識してしまう。
(クソ真面目だけどいい奴だし、強いし、きっと元の姿のまんまでも
 カッコいい鎌鼬なんだろうになぁ……女の妖とすりゃいいのになぁ)
ぼんやりと、今でも自分より頭1つ分ほどは背の高い雷信の顔に見とれた刹那、
「では……うしお殿、失礼いたします」
耳元で律儀に囁かれ、ぞくりとした首すじに雷信の左手が添えられる。
頤を上に向けられ、唇が重ねられた。
(あーあ…俺のファーストキス……)
少々泣きたいような気分で、5秒たったら離れようと内心カウントをはじめ
3つ数えたその時。
「~~~~~~~~~~ッッ!?」
口内に侵入した熱いものによる生まれて初めての感覚に潮は目を見開いた。
(べ、べ、べ、べろ入れるなんて聞いてねーーーーーーー)
反射的に離れようとするが、見た目通りがっしりとした雷信の腕に
抱きすくめられた格好のまま、離れられない。

「………………っふ……………ぅ」
どれくらい時間が経ったか、雷信の舌に口内を蹂躙されるにつれ潮の頭は痺れ、
じっとりと汗がふきだし、鼓動がおそろしく速くなる。
「、は、……………っ」
粘膜と粘膜の擦れあう感触。背筋に何か電流のようなものが走り体中が騒ぎ出す。
(まずいよ、これまずいって!!)
下半身に血が集まっていくのが分かり、同時に膝がガクガクと震えはじめる。
「っ………んん…………!!」
これは。この感覚は。

「ぷはぁっっ!!!………お、終わり、終わりなっ!!!」
「………っ!う、うしお殿?」
間一髪で雷信を突き飛ばし、一目散に厠に走る潮に
雷信は一瞬目を見開き、慌てて後を追った。
「うしお殿、大丈夫ですか!?申し訳ありません!!」
「い、いい、からあっち行って、くれよぅ」
「ですが御気分がすぐれないようですので!今何か薬を」

「いや、違っ、…………気持ち良かったんだよッ!!!!!」
厠の中から叫ぶと、扉の向こうに沈黙が落ちる。
(あああああああ俺最低だぁ……真面目な理由で頼まれたのに、
 もう雷信の顔見れねえよ~)
「………。私もです……。その、失礼いたしました…」
呆然とした呟きを残し、扉の向こうの気配が遠ざかる。
「でも、なんで……妖怪ってやっぱちょっとわかんねぇ……」
ようやく都合を済ませ、ずるずると座り込みながら潮は嘆息し
あまりの事に暫く耳に入っていなかった蝉の声に目を閉じた。

一方、雷信も境内で箒を手に取り立ち尽くしていた。
―――――この高揚感は何だろうか。
うしお殿は「気持ちよかったんだ」と申されたが、自分も確かに
今まで感じたことのない、ふわふわとした気分になったのは間違いない。
酒を飲んだ時と少し似ていないでもないこの高揚感。
接吻中に息継ぎとして顔を離した時のうしお殿の表情を思い出すと
腰のあたりが熱くなる。
――まさか。
――――まさかこれは。

「…我ら鎌鼬も、人の精気を吸うのか?」

かがりにはよく言い含めねば。
強いうしお殿だからこそあの程度で済んだが、加減の分からぬ我らが
見境なく人の精気を吸っては人間は命にも関わるだろう。
猫又等、今は人が死なぬ程度の量を吸うことで何とか共生を図っている
人型妖たちが『食事』をし難くなってしまう。
鎌鼬は雑食であり、街にあっても人と同じ食物をも糧とできる以上、
人の精気などという騒ぎの元になりかねない摂取方法は控えるべきだろう。
拠所ない場合は仕方がない、うしお殿に。

すっかり勘違いした東の鎌鼬・雷信は蝉時雨の中1人呟く。
「確かに、接吻は甘いものだ………」

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! コレジュウカーン…?

  • 雷信 -- 2017-03-07 (火) 22:08:35

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