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オリジナル 『あくまでも冷静な俺の翌週の木曜日』

続き、ちょっとだけ考えてみた
自分に素クールは書けないって事がよく判った。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「なーなー、お前頭キチガったってホント?」
「本当。」
「マジ!」

どうせ俺一人だろうと思っていた補習は、
意外とチラホラと人が居て、しかしそれでもだだっ広い講義室には人影疎ら。
現代風写経以外の何者でもないレポート課題をやる気なくこなす俺の隣に、
薄っすらと色のついた眼鏡をかけた、顔見知り程度の学生が馴れ馴れしく座った。
「すげー、オレ頭オカシイ人って始めてみるぜ!」
「毎朝鏡ぐらい見た方がいいよ」
「え、どっか寝癖ついてる?マジ?」

名前・・・というか、あだ名は知っている。『底辺』だ。
掛け持ちのサークル三つに日雇いのバイト二つを生活基準に、
『単位落としの底辺』の二つ名を貰って喜んでいるような筋金入りのアレな人だ。
1年生を2回やっているらしいので、少なくとも1つは年上と言うことになる。
挨拶代わりのジャブが予想外に強かったもんで俺らしくなく突っかかったが、
皮肉も利かなかった事だし、仮にも年上、次からは敬おうと思う。

「底辺さん、それ結構有名になってるんすか?」
「てーへんじゃねーよ、わたなべだよ渡辺。」
「同じような物じゃないですか」
「一文字もあってねーっつーの!」
「一文字あってますよ」
「は?」

てーへんとわたなべよ?マジ頭ヤバくね?
俺は静かにキレた。

底辺曰く。
やはり『精神病院』という単語の持つ威力は計り知れない物があるらしく、
普段からそつの無い、比較的模範生だった俺が
事務室に「すみません精神病院に行ってました」と届け出た光景を目撃した女学生数名が
光ファイバーも素足で逃げ出す高速通信っぷりで同学年中に広めたらしい。
女子が騒げば、チャラ男の代名詞である底辺の耳にも勿論入る。
・・・サヨナラ、人並みに潤っていた俺のキャンパスライフ。
こんにちは、底辺とキチガイによる奇人変人友の会。

「ただいま、祥太郎さん。」
「にああー!にあー!」
玄関、靴箱の上の正に『猫の額』程のスペースに
器用にもしゃがみ込んだ美男子が、俺の両肩に飛び掛るようにしがみ付き頬をなめる。
「わかったって、ただいまだって。祥太郎さんそこ狭いだろ。」
俺より背の高い成人男性にはあり得ない軽さの『祥太郎さん』を肩の上に担ぎ上げ、
みゃんみゃん煩く鳴いているのを黙らせるのにケツを一発すっぱたく。
「に゛ーい」
「はいうるさーい、声汚い。どーん!」
乱暴に半万年床の上に放り出し、腹の上を脚でぐりぐりして遊んでやった後
先日大急ぎで買ってきたツナ缶を開けてやる。

ツナ=鮪。鮪=高級食材。猫も美男子もドンと来い、素晴らしい食品だ。
ソイツを我が家で一番小奇麗な皿に少量盛り、
勿論箸の使えない祥太郎さんのために俺が一摘まみずつ手で食べさせる。
『人間の物に手を出しちゃいけません』と、祥太郎さんの幼き頃から箸の太い方で引っ叩いてきたせいか
祥太郎さんは箸からモノを食べないのだ。
美男子が俺の指をしゃぶる姿もだいぶいかがな物かとは思うが、
地べたに猫皿よりはよっぽどマシだ、と自分を納得させることに成功した。
「美味しかったかー。いっぱい食べろよ、でももう大きくなるなよ。戻れ。」
「にーん」
「オレもツナ食う。マヨネーズ無いの?」

・・・・・・・・・・・・・・。

「帰れ底辺。」
「フゥーッ」

「なーんだただの猫じゃん、つまんねー超つまんねー。キッチーなんか面白いことしてよ」
「面白い夕飯作ったんで食ったら帰れ。」

ナチュラルに人の愛猫の飯をピンハネようとした底辺この野郎、
俺がうっかり話した事の顛末に興味を示して、人の家までついてくるとは。
てっきり帰りが同じ方向なのかと思ったら、だ。バカの考える事は判らない。
「ごめんな祥太郎さん、バカ猫とか言って。二度と同じ扱いはしない。」
「マジで人間に見えんの?キッチーやベーって、マジやべえ!つか飯うめえ!」
「筑前煮気に入ったなら適当に詰めてタッパーごとやるからお帰りはあちらです。」
「バーカ、今行っても終電ねーよオレ乗り継ぎあんもん。泊まるし」
「・・・・ちょ・・・・」

なんという事だ。
この場合、俺最大のショックは自信作の筑前煮の七割を食われたことでも、
奇人変人友の会強化合宿が強制開催されることでも、
ギネス級バカにバカと詰られた事でも、
キッチーとか言う不名誉極まりないあだ名を付けられたことでもない。

さっきまで両目吊り上げてフーフー言ってた祥太郎さんが、
あろう事か底辺の膝の上に侍っているのだ。
目をとろんとさせて。
なんて如何わしい。
祥太郎さんの裏切り者。
なんで、なんでさ。俺より底辺の方がいいって言うのか?!

「はーいニャー子、あーん。」
「やーぅ」

底辺が、一度口に入れた鶏肉を祥太郎さんに食わせていた。
それも若干噛んだっぽい奴。
それを嬉しそうに食べる美男子。

グッバイ、俺の冷静。

「底辺この野郎ォォ―――ッ!!!」
「うぇっ?!」

筑前煮の残り三割は、底辺の顔面にぶちまけられてその人生の幕を閉じた。

意外と堪えることなく風呂を要求してきた底辺に冷水シャワーをぶっ掛け、
俺の何時捨てても構わない選りすぐりの微妙な服を与えた後に
なんだか初恋を汚されたような気持ちで祥太郎さんを抱き寄せる。

「祥太郎さん・・・」
「うにゃあ」

考えてみれば簡単なことで、普段俺に人のご飯を貰わない祥太郎さんが
味のついた筑前煮をくれるような人に会う機会はなかなか無い。
それが底辺だろうがキッチーだろうが、懐くのは当たり前のことなのだ。
一度咀嚼したもんを与えるなんぞ俺の猫飼育ライフにはあり得ないことだが、
底辺の慣れた所作を見るに、そういう事をするご家庭もあるのかもしれない。
祥太郎さんが普通の猫に見えていたなら、俺だって「ちょwwwおまwww」ぐらいの反応で済んだはずだ。
でもなあ、祥太郎さん。鏡を見せてやりたいが、どうせ映るのは猫なんだろうなあ。

「キッチー!風呂どうやって沸かすん?ボタン押すとこないんだけど!」
「ガス栓開けて、ガチガチ言う奴回せ。」
「意味わからん!」

俺は侘しい気持ちで、全裸の底辺の目の前で風呂を点けてやる。
しゃがみ込んだ俺の背中に、気のせいだろうが労う様に祥太郎さんが負ぶさってくる。
「うわっ、ニャー子のエッチ。オレの裸見に来たんだろー。」

バカが何か言ってる。俺はもう疲れた。

「ニャー子じゃねーよ、祥太郎さんだよ」
「ニャー子の方が可愛いじゃん、男みたいな名前より」
「祥太郎さんは雄だよな」
「まーぉ」
「えー!キンタマねーから判らんかった!」

全裸のバカ底辺が俺の背中から祥太郎さんを引っぺがし、
背中をタイルの壁に押し付けると、股間の部分をマジマジと覗く。
「ふーん・・・じゃあニャー子、オカマちゃん?いやん。」
「に゛ゃーあ!ああーう!な゛ー!!」

グッバイ、俺の(以下略)

祥太郎さんが猫だろうが美男子だろうが、俺は愛猫として扱えていると思っていた。
しかし改めて、俺の態度がほんの少し、愛猫に対する物とは違うということに気づかされる。
でも、俺は祥太郎さんに今まで通り接してやりたいんだ!
だって可哀想じゃないか、祥太郎さんにとっては、俺は今まで通りの俺なんだからさ。
良くも悪くも現実を見せてくれた底辺に、授業料を払う気持ちで布団を貸してやり俺は座布団で就寝。

翌日、腹の上に乗る祥太郎さんを吹っ飛ばして跳ね起きる
「誰だテメー!!」という底辺の叫び声で俺は叩き起こされる羽目になった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
お好きなカップリングでお楽めるものならお楽しみください。


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