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警視庁捜査一課9係 共犯兄×主犯弟

昨日放送のドラマQ係より、犯人側の兄弟に萌えたので彼らの話を1つ
あの兄弟は過去に一回くらい一線越えた事があるに違いねぇ

※レギュラーの方々は一切出てきません
※元が刑事物なので死にネタ、殺人ネタあり

以上をふまえた上で、ドゾー

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

***

道中バッグに忍ばせた”それ”の、硬い感触を布地越しに確認しながら、砂利道を歩く。
数歩先を歩く大きな背中は深いグリーンのジャンパーに覆われていて、余計にその圧迫感を増していた。
言葉巧みにここまで誘い出したものの、まだ肌寒い夜風に触れると否応にも頭は冷静さを取り戻していく。
本当にやれるのだろうか?この俺に。
ボクシングジムからここまでの道すがら、何度もこの疑問が浮かんでは消えた。

思えば兄とは、これまでまともな喧嘩をした事がない。
病弱で施設では苛められる一方だった俺を、兄は守ってくれるばかりで、叱責するような真似は一度としてしなかった。
俺は俺で険悪な空気をいち早く感じ取ってはその場を離れたり、無理やり小難しい話し合いへ持ち込んだり。
子供の頃から頭に血が上りやすい兄だったが、そうなればもはや、そこは俺のフィールドだった。
多少無理のある理屈でも強引に突き通せば兄は納得する。代わりに、少しでも自信のない表情を見せれば読み取られた。
だから俺は今、兄の後ろを数歩下がって歩いている。

「悪かったな」
「……は?」

それまで無言を突き通していた兄の背中が不意に声を上げた。
「お前に言ってんだよ」
ここには俺と兄以外誰もいないのだからそんな事はわかっている。
唐突な謝罪の意図が掴めず戸惑っていると、兄は立ち止まり、砂利を踏み締めながらこちらに向き直った。
「痛かっただろ、ここ。思いっきりやっちまったし」
ほんの暫くの沈黙の後、兄はそう言いながら無骨な指先で俺の片頬に軽く触れた。そのまま円を描くように撫でる。
短く切り揃えられた爪が離れていくのを目で追っていると、兄の言わんとしている事がようやくわかった。
「ああ……いいよ、そんなの」
「オレがこんなバカな方法しか思いつかなかったから……結局お前に、琴音を、あんな」
琴音。もうこの世のどこにもいない女の名前。
彼女を絞め殺した時の感触が、まだこの手にはしっかりと残っている。
琴音との間にできた子供の事で彼女ともめ、後から事情を知った兄が怒りに任せて俺の頬を殴りつけた事を、
彼は今になって後悔しているようだった。
「いいって。今そんな事言ったってしょうがないんだし」
まともな喧嘩はした事がない。
あんな件があった今でもその考えが変わらない理由は、そこへ発展する前に俺が兄を宥めすかした為だ。
暴力的で、単純で、弟思いな兄貴。
足りない頭で話し合いなんてくだらない事を考え付いたばっかりに、このザマだ。
「それに……」
「ん?なんだ?」
兄の短絡的な行動のおかげで、邪魔者二人を一度に始末する機会が与えられたと思えば、頬の痛みなどなんて事はない。

「兄さんに心配かけた俺が悪かったんだ」
厚いレンズを一枚隔てた目で兄を見据える。
兄が同じように俺を見つめて、やがてほっとしたように破顔したのを確認してから、俺も口元を吊り上げて笑った。
「兄さ、」

『お兄さんと昔は随分仲が宜しかったみたいですねぇ』

その時。
今ここにいるはずのない男の声が、確かに聞こえた気がして、俺の笑顔は凍りついた。
絡み付くような卑しい目つき。酒焼けしきった声。権力に屈しないなどと大きな事を言っておいて、露呈する卑屈な態度。
「……次郎?どうした?」
昔から兄には散々足を引っ張られてきた。
チンピラを殴ってボクサーをクビになった時も、身内にそんな人間がいると知れれば司法試験にだって悪影響が及ぶ。
少しでも心証を良くする為に、何度下げたくもない頭を下げたかわからない。
それだけじゃない。
『敬虔なクリスチャンにも、若気の至りってもんはあるんですね。施設にいらした頃から、そういうご関係で?』
たまたまボクシングジムの関係者と知り合いだったジャーナリスト崩れの男から言われた言葉が、頭の中を掻き乱す。
どこから知られたのか、誰から聞いたのか。結局ソースは分からずじまいだった。
兄弟として、クリスチャンとして。犯してしまった只の一度の過ちを、多額の金と長い時間を引き換えに封印した。
司法修士生という将来を約束された身である俺と、誰からも必要とされない使い捨てのブン屋。
兄を始末した後は、立場というものを見誤ったあの男の番かもしれない。

「おい、次郎」

押し黙ってしまった俺を心配して、兄が大きな体を屈めて覗き込んでくる。その双眸に青ざめた俺の顔が映っていた。
俺が苦悩した当時の事を、この男は何も知らない。言えばあの記者の元へ殴り込みに行く事は明白だった。
「なんでもない。少し、歩き疲れただけだから」
思い出すたび胸を満たす固まりかけた油のような憎悪が、今日は殊更にこびり付いて離れない。
目的の緑地はまだ先だったが、ここで殺して引きずって行ったところで大した違いはないだろう。
大丈夫だ。俺にならできる。

琴音を殺した俺を兄は微塵も憎んでいないし、この後、二人一緒に警察へ自首しに行くと本気で信じている。
体力面では間違いなく敵わない相手だが、その差を無くする事のできる唯一の方法を俺はしっかりと握っていた。
大丈夫。一緒に暮らしていた女だって殺せたんだ。長く離れていた兄一人、造作もない。大丈夫、大丈夫……

「大丈夫だ」

考えている事が確かな音として耳に入り、思わず口に出してしまっていたのかと慌てて顔を上げる。
しかし、その声は俺の口から発せられた物ではなかった。
「そんな顔すんな次郎。お前にはオレがいるから、何があっても大丈夫だ」
何の根拠もない台詞だ。呆れていると、俺はいつしか引き締まった両腕に強く抱きすくめられていた。
ボクサーを辞めても筋肉がついた兄の腕は太く、少々もがいた程度では離してくれない。
「に、っいさん。苦しいよ」
「あ……わ、悪い。お前が元気ないから、つい、な」
はにかんだように笑う兄に、俺はバッグのファスナーへ伸ばしかけていた手を引き戻す。
やはり油断させてからの奇襲以外に方法はなさそうだ。兄の力強い腕に抱きしめられて、改めてそう確信した。
「……行こう、兄さん。誰かが琴音を見つけたら、逃亡したと思われてますます立場が悪くなる」
「そうか、そうだな。お前の言うとおりだ。やっぱり次郎は頭いいなぁ」

俺と兄は小さく頷き合って、再び歩き始める。水音と虫の鳴く声だけが響き渡る中、俺の迷いは消えていた。
今夜、この道を戻る時、俺は一人だ。
相変わらず上機嫌で前を行く兄は、数十分後には春先の冷たい川の底で、骨になる日を待つ事になる。

「じろーお」
新品のサバイバルナイフだ。肉を断つ為に作られたのだから、例え服の上からでも致命傷は与えられる。
「なんだい兄さん」
元格闘家とはいえ、刃物を持った相手に突然襲いかかられて、とっさに対応できる奴はそうそういないだろう。
「月がきれいだな」
それにこいつは、たった一人の弟である俺を、人殺しの弟を、心の底から信じ――愛している。
「そうだね」
しつこいくらいだったあの問いかけもいつの間にか途絶えていて、
これで俺が兄を殺せない理由は完全になくなったと言っていい。
「次郎」
「……だから何だよ、さっきから」
それなのに、

「神様はいないかもしれねえけど、兄ちゃんはずっとお前の味方だからな」

それなのに、
俺は未だ兄の隣りを歩けないでいる。

***

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

それでも結局殺る事は殺っちゃって最終的に逆ギレする弟が好き
途中ナンバリング訂正しました、すんません


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