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幼獣

容量に注意しながら初投下です。
10/10なので途中で中断するかもしれません。
ナマモノ注意願います。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

犬猫みてぇな奴だな。
痩せ過ぎた男に、そう思ったのはいつだろう?
酒浸りの記憶を辿ると、痩せ過ぎた男を連れまわす赤毛の怪獣を思い出す。

「可愛いだろ~」
二日酔いでベロベロの赤毛の怪獣が連れてきたのは、痩せ過ぎて背の高い子供だった。
ウチの姫と呼ばれる大将は例外として
子供とは言え男に可愛いかよと思ったが、顔を見て納得した。
確かに顔は文句の付けようが無い、人形みてぇに整っていた。
赤毛の後ろからじっと見詰めてくる様子は、まるで子供だった。
子供に見えたが、実際は俺と大して違わない年齢と聞いてまた驚いた。
「…どこで拾ってきたんだか、世話はてめぇでやれよ」
と言うまでもなく、赤毛の怪獣は痩せ過ぎた男を連れ回していた。
赤毛の怪獣が酔って暴れても逃げ出さず、おとなしくしかも楽しそうに付き従う様はまるで子犬だった。

赤毛の怪獣は人たらし。
飲みに誘われるのは毎度の事で、顔を出せば赤毛の怪獣の後ろにはいつも痩せた子犬がいた。
痩せた子犬が俺に気付いて、にっこりと微笑む。
…確かに可愛い。
いつの間にか、子犬は俺にも大将にも、大将の幼馴染のフロントマンにまで懐いていた。
特に赤毛とフロントマンは、まるで自分の弟のように痩せた子犬を可愛がった。
「痩せすぎです。たんと食べなさい」「ちゃんと食べてる?」
「ううん、食べてない」
にこにこと人を食った応えをする子犬は、兄貴達が出来て心底嬉しそうだった。
それは、兄貴達も同じだった。

赤毛の怪獣には実の弟がいたが、痩せた子犬とは正反対の肥えた容姿だった。
虚像としての弟は、実の弟よりも痩せて背が高く、化粧で作る必要が無い程整った顔をしていた。
赤毛のコンプレックスだった“過去の太った自分”を見せ付ける実の弟より、
理想の容姿で懐いて来る虚像の弟は、赤毛の怪獣の理想の弟だったのだろう。
そして、赤毛の怪獣の実の弟と理想の弟は、偶然にも同じ名前をしていた。

フロントマンには実の兄がいたが、あまり仲は良くなかったようだ。
兄に可愛がられなかった弟が実像なら、やはり虚像は兄に猫可愛がりされる理想の弟だった。
フロントマンは可愛がられなかった自分の分まで、理想の弟を可愛がった。
フロントマンと赤毛の怪獣は、方向性は違えど、二人ともコンプレックスの塊だった。

可愛い弟を競って連れまわした兄貴達のせいか、
兄貴達に尻尾を振って懐く様子を見て、容易く手懐けられると勘違いされたらしい。
手懐けようとした輩に向かって、ぴしゃりと対応する様は壮観だった。
犬を懐かせようと近付いたら、猫に引っかかれたのだ。
酷くプライドを傷つけられた男の
去って行く顔が憎悪に歪んだのを確認して、以前飲み友達のおっさんが痩せた子犬を評したのを思い出す。
「…おめぇ本当に敵を作りやすいな」
「正直に言っただけや」
でも変なの、と痩せた子犬が呟いた。
「俺だけの前と、佳さんや秀さんや年さんがいる時とは全然態度違う」
…そりゃそうだろと呟くと、痩せた子犬が続ける。
「俺だって、あんなん佳さんでも秀さんでもないと思ってんのにな」
納得した。
可愛い子犬を品定めしようとしたら、逆に子犬から値踏みされたのだ。
侮った相手から逆に侮られたのに気付けば、そりゃ怒る。
溜息を吐いた自分を心配そうに、可愛い子犬が覗き込む。
「先生、俺悪い事した?怒った?」
「…おめぇに怒る訳ねぇだろ」
途端に長い手足を伸ばして、嬉しそうに頭を寄せてくる。犬ではない、まるで猫だ。
「なんだよ」
「んー、先生癒されるわ」
猫が頭を擦り付けるように懐いて来る。
細い体をしならせ体を寄せる仕草は、やはり猫だった。
こいつは相手次第で、従順な犬にも気難しい猫にもなりやがる。
「…仕方ねぇなあ」
長い黒髪ごと頭をがしがしと撫でてやると、ふと気付いた。
この犬猫の他に、男の癖に妙に色っぽい奴があと一人。

「よっちゃん!よっちゃんどこ?!」
赤毛の怪獣が大慌てで走って来る。
相変わらずうるせぇ奴だが、相手をしないと余計に騒ぐ。
「そこだっての」
指差す方には、大将と幼馴染のフロントマンがいる。
幼馴染二人が出す独特の雰囲気は、他人が踏み込むのを躊躇う程だ。
途端に赤毛の怪獣がうなり声を上げた。
「えー、何?俺が呼ばれたのに何なの?あれ」
「見ての通りです」
「ちょっと、ひーちゃんちょっと」
赤毛の後ろに隠れるように走ってきた子犬が何?と主人に尋ねる。
赤毛がそっと耳打ちすると、子犬が笑った。
悪戯を企む赤毛と子犬は、まるで絵に描いたような美形兄弟だ。
忠実な弟は痩せた脚を伸ばしてフロントマンへと歩く。

大将とフロントマンが話している手前へ、そっと足を止める。
「ん?ひーくんどうしたの?」
フロントマンが可愛い弟に気付いて、優しく声を掛ける。
こそこそと痩せた犬が耳打ちすると、フロントマンは口を開けて笑った。
大将がその様子を訝ると、途端に赤毛の怪獣が飛びついた。
姫と呼ばれてもそこは大将、赤毛の怪獣がぶら下がっても倒れもしない。
「秀ちゃん来てたの?」
「…さっきからずっといたよ」
赤毛の怪獣は人たらしだが、同時に人も悪い。
大将がわがままなお姫様で、独占欲が強いのも知っていた。
「ごめんね、年くんと話してるからちょっと待ってて」
お姫様はちらりと、幼馴染のフロントマンが子犬と話す様子を伺っている。
そんな事は赤毛の怪獣が狙った事だ。

「年くんはひーちゃんとお話してるじゃん、ね」
だから、俺と話そ?
嗄れ声で、赤毛の怪獣が囁く。
赤毛の怪獣は、お姫様のお気に入り。
フロントマンは、幼稚園からの幼馴染だ。
大将であるお姫様と、その幼馴染のフロントマンと、赤毛の怪獣。
この三角関係は腹いっぱいなので、俺も子犬も距離を置いているのに
どうもあの赤毛は、子犬の有効利用を見つけたらしい。
赤毛の怪獣の本領発揮である。
長い赤毛から覗く目が、笑った。

「ねえよっちゃん、年くんに聞いてみよう?ひーちゃんとよっちゃんと、どっちとお話したいのか」
「えぇ?!何言ってんだよ?」
動揺したのは、お姫様の幼馴染だ。付き合いが長い分、下手な答えが命取りになるのを知っている。
お姫様の背中に覆いかぶさった怪獣に怒鳴りながらも、お姫様を恐る恐る伺っている。
にこやかだが目は笑っていないお姫様から、幼馴染へ告げた台詞は
「…ねぇ、どっちにするの?年くん」
蛇に睨まれた蛙。
こりゃ、普通の人と誉れ高きフロントマンには無理だろうと思ったその時
ちょいちょいと、普通の人の袖を細い指が引いた。
「…どうしたの?ひーくん」
蛇の視線から逃れやがった。
呆然としたお姫様と俺を尻目に、赤毛の怪獣だけがニヤニヤと笑っている。
そんな光景に気付かず、普通人のフロントマンは可愛い弟に気を取られている。
じっと子供の目で見詰められると、人の良いお兄ちゃんは戸惑ってしまう。
「ひーくん?」
「年くん、お話してぇ?」

弟がカワイコぶりやがった…!
お前が仕組んだなこの性悪!
と口には出さず、赤毛の怪獣に向き直る。
「よっちゃん、年くん酷いよねぇ。俺はよっちゃんが一番だからね…ってうわぁ?!」
「…知らないっ」
赤毛の怪獣を引き摺って、お姫様が駆け出した。
「よっちゃん?!ちょっと待って、あ、でも一緒だからいっか…」
引き摺られているが、当初の目的を果たしたのだから赤毛は大したもんだろう。
置いていかれた幼馴染はしばし呆然としていたが、すぐに弟に向き直った。
「ひーくん、秀ちゃんに言われたの?」
「…うん」
悪戯が見つかった子供のような弟の頭を、ぽんぽんと叩く。
「仕方ないなあ、もう」
「ごめんなぁ」
いいよ。と優しい兄貴は弟を甘やかした。
この優しいフロントマンは、いつでも誰かを甘やかす。
お姫様でも、赤毛の怪獣でも、理想の弟でも。
それで上手く回る筈だった。例えそれが、依存する関係だったとしても。

酒が昔の記憶を呼び戻す。
酩酊すると鮮やかな赤毛が浮かび上がる。
死に別れた友達だ。
キレイな声で歌う声も聞こえる。
生きているのに、もう会えない友達だ。
更に遡れば、ガキの頃に死んだ親父が現れる。
酒浸りの記憶の中で、別れや死が受け入れられない自分を思い知る。
深く深く落ちて、痛みすら麻痺した時に
静かに寄り添う気配があった。

ああ、おめぇか。

初めて会った時よりも、げっそりと頬が削げている。
それでも来たのかと、兄貴達を失った犬を見た。
あどけなさは消えても、整った顔はやはり文句のつけようがない。
相変わらず男前だと感心していると、見詰める目は子供のままだと気付く。
「…おめぇ飯食ってんのか?」
我ながら、もうちょっと気の利いた台詞は言えないのかと苦笑する。
泣き笑いの表情で、犬は静かに首を振った。
「…ううん、食べてない」
…だから世話はてめぇがやれっつったじゃねぇかと、赤毛に毒を吐く。
…てめぇは弟が心配じゃねぇのかよと、フロントマンに哀願する。
二度と会えない友達への呪詛だった。

憔悴した犬は餌をくれる主人を待っていた。
「…仕方ねぇなぁ」
食い物はないかと辺りを見回しても、酒瓶しか転がっていない。
酒でも何も腹に入れないよりはマシかと思って、痩せた犬を手招きする。
するりと懐に寄る様は、犬よりは猫だった。
「ほら、口開けろ」
「…ん」
尖った顎を掴むと、赤い唇が開く。
酒で湿った指を差し入れると、猫のように舐めてきた。
ぴちゃ
舌が指を舐める音がする。
猫のざらついた舌の様に、肌が粟立つ。
「…っ」
嚥下する喉の音に我に返った。
ゆっくりと指を引き抜こうとすると、カリッと音がした。
痛覚が、指を噛まれたと知らせる。

「おいおい、痛ぇよ」
「…」
無言で見詰める目は子供のままなのに、熱を帯びていた。
「俺の指は食いもんじゃねぇぞ?」
「…んっ」
聞き分けの良い子供が、指を離す。
糸を引く唾液が、赤い唇を濡らした。
目の毒だ。
なのに、目が離せない。
濡れた赤い唇を、舌が舐める。
膝を突き、長い首を反らせる仕草は猫の媚態だ。

「…もっと」
「俺の指はそんなに旨かったか」
「…ん」
「大事な商売道具だぞ」
…しばらく休業だけどな。
それより今は、
飢えたコイツに餌をやらないといけない。
骨の浮き出た痛々しい体を、酒に塗れた指が辿る。
白い肌に酒を擦り付けると、甘く鳴く。
鳴き声は、犬でも猫でもなかった。

「…もっと」
痩せ過ぎた体は男にしては細過ぎて、女にしては硬過ぎた。
男でも女でもなく、ましてや犬でも猫でもない
美しい獣が鳴き声を上げた。

[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!

前スレ501KBで落ちたので、ここで一旦区切らせて頂きます。
残り8,9,10は新スレへ投下致します。


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