バト炉輪 19+11
更新日: 2011-05-04 (水) 11:59:34
場トロワの男子19番と11番
気持ち19×11です
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
とにかく自転車を漕いでいた。
香川は無駄に山がたくさんあるから困る。
杉村の祖母の家近くなら田舎で人が少ないという理由で、その付近で初日の出を見ることにしたのだ。
一回いつもの面々で旅行と称して自転車で来たことがあるから、このあたりはだいたい分かる。
貴子サンごめんよと呟きながら、またペダルを踏み込む。坂道はなかなかつらかった。
真冬の朝だが、額に汗がにじむ。
すでに白んでいる空を見て、もう一息と自転車を進ませた。
一昨日に電話で決まったことだったが、それ以前も以降も女子との約束は全て振った。
杉村は友達だ、と彼女たちに説明するも、疑いは晴れなかったようだ。
まあいいけど、とまたペダルを踏んだ。
枝だけの木々の列を見ながら、終業式で杉村と話したことを思い出す。
『笑い』は、――――
それは七原や豊が何かにつけよく笑うのとは違う。そこまでは分かる。
しかしそこから先は分からない。
大人になれば分かるのかもしれないし、何かしら壮絶な体験をすれば分かるのかもしれないし。
とりあえずその壁が童貞卒業でないことだけは確かだった。
あまり整備されていない山道は冷えきっており、人の気配を連れてこない澄んだ空気は心地よかった。
すう、と肺いっぱいに吸い込み、また前を見て自転車を走らせる。
途中、熱心な政府支持派らしい家があった。県議会や某政党のポスターが外壁にこれでもかと貼られていた。集落から外れて建っているようだが、それでもその印象は強烈だった。
空気がまずくなる、と早々にその前は通りすぎた。
ふと上を見ると、さっきよりも空が明るく、近くなっている気がした。
もうすぐ杉村が待っているだろう場所に着く。
やっぱり少し遅れてきた自分を見て、いつもみたいに困ったような笑い方をするのだろうか。
その笑いは何になるのだろうか。
七原が馬鹿をやっても、豊が変な顔をしてみても、そうやって笑うのだ。
もし今一緒にいて、先ほどの気色悪い家を見たとして、自分が何かしら汚い言葉を吐いたとしても、そう笑うのだろうか。
きらきらとした光がまっすぐ射し込み始める。
やばいと思ってペダルを思いきり踏んだところで、視界の先に人影が見えた。
ガードレールのそばに立つその長身の姿は杉村に違いなかった。
やった!だとか嬉しい!なんて可愛らしい歓喜は沸き起こらず、ただ、杉村だとだけぼんやり思った。
こちらには気づいていないようだ。
ちょっと木々の開けたところのガードレールにもたれて、きっといつもの仏頂面なのだろう。
ぐんぐんペダルを漕いで、そこに早く着けと急ぐ。
ようやく杉村がこちらを向いた。気づいたらしい。
にやりと口角を吊り上げ、盛大にベルを鳴らした。
『笑い』の答えは二人ともたぶん分からない。
それでもまた今日杉村と会えばそんなことは問題でもなんでもなくなるだろう。
きらきらした光は先程より強く明るくなっている。
杉村の顔が分かる距離になったところで自転車を降り、「アハッピーニューイヤー!」とわざとらしく叫んでみせた。
逆光の中、やっぱり杉村は困ったように笑うのだった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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