影送り
更新日: 2011-05-03 (火) 14:00:44
庭球皇子原作終了で尻に火が付いて書き上げました。
@滝@、鵬&穴戸、双子兄&双子弟や赤観もいいけれど
今回は立花←慰撫一方通行です。ちィは名前だけ。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
立花さんは時々、片づけが終わった後とか、部活の始まる前とか、
休憩時間のほんのわずかな間、コートに何をするでもなくぼんやり立っている。
それは決まって、真っ青に晴れて雲ひとつない、まさしく“夏!”という日だ。
俺たちの手で造っている途中のコートは、他の学校のそれと違って、グラウンドの土むき出し。
雨の日はちいさな川が出来、こうして晴れ上がった日は少し水でも打っておかないと
埃っぽくてしょうがない。
勿論、ちゃんとネットに囲まれたコートもあるけど、そこは今日、女テニが使っている。
何でも男子テニス部に倣って、部内の総当たり戦をしたい、ということらしい。
提案した子はいわれなくてもわかる。上尾あたりが、さすが杏ちゃん!とか、盛んに言ってた。
とんぼで土を均したり、邪魔な小石を拾ったり。
けれど皆、いつのまにか脱線してきて、地面に直接線を引いて、
用具入れはここにしようとか、部室には冷蔵庫を置きたいとか、わいわいやっている。
俺はふと周囲を見回して、何で皆が好き勝手を言っているのか判った。
立花さんがいない。
嫌になる。先生がいないと騒ぎ出す小学生じゃないんだから。
こういうとき場を治められるのは石多なんだけど、その当人も一緒になって、
洗濯機があればなあとか言っていたら世話ない。なさすぎる。
……本当、嫌になるよなあ。
立花さんは程なく見つかった。グラウンドにいた。
時間は──……ちょうどチャイムが鳴った。短縮時間割の時のじゃなければ、
今ので11時45分になっているはずだ。
俺たちの部長は、何を見ているんだろう。
テニスコートのほうから軽やかな音が聞こえてくるけれど、
時折風に乗って審判の子の声も聞こえてくるけれど、
立花さんはそちらを見てはいない。
ただ足元、正午近くの高い太陽に怯えてうずくまった自分の影を、
ひたすらに見つめている。
チャイムが鳴り終わって、ぷつっと放送が切られる音がして、
それからようやくだった。立花さんの視線が上がった。
空へ。見上げれば眩暈のするような明るい青空へ。
「──立花さん」
でも俺は、その視線が上がりきる前に声をかけた。
「……信二か」
眩しそうな目で、俺を見る。
何で勝手にいなくなっちゃうんですか。そう言いそうになったけど止める。
なんとなくだけど、今、立花さんがやっていた動作の意味が判ったから。
「影送りですよね、今の。──晴れた日に自分の影をじっと見て、
十数えて、それで空を見上げると……ってやつ」
「……驚いたな。知ってたのか」
「絵本で読んだから」
頷いて、俺はそう答えた。立花さんは少し複雑そうな表情を浮かべて、
そうか、と笑った。きっとあの人が“影送り”を知ったのも、俺と同じ絵本を
読んだからに違いない。
「──信二」
それきり言葉は途切れて、どちらも会話の接ぎ穂を無くして、
いい加減黒いユニフォームに染み込む太陽が耐え切れないなあ、という時に、
立花さんは口を開いて、悪いんだが、と前置きして言った。
「上尾たちを呼んできてくれ。折角だ、皆でやってみるか」
結論から言えば、上尾たちは大喜びの大興奮だった。
ポーズはとりあえず、立花さんを中央に据えて肩を組むことに決まった。
でも「行こうぜ全国!」とか「不同峯、ファイっ、オー!」「言いにくくないかそれ?」とか
「俺のリズムに乗れるもんなら…」「うるさい」とか、
好き勝手なことを喋るものだから、なかなか皆、瞬きせずに十数えることが出来ない。
ただ、立花さんがコールをすると、不思議と静かになった。
一、二、三、四、五。
俺は立花さんの右隣で、自分の影を睨みながら、考える。
六。
この人は、不同峯に転入してくる前は、いったい誰と影送りをしたんだろう。
七。
ここではないどこかの空に、今もその残像は漂っているんだろうか。
八。
九。
── 十。
数え終わると同時に、全員が空を見る。
黒い影の、白い残像が、すうっと昇っていく。
「すげえ本当に見えた!」「ちゃんと肩も組んでるぜ!」「おもしれー!」
歓声にかき消されそうなかすかな声だったけど、でも、
俺はちゃんと聞こえていた。
「──信二、どうした? 見えなかったか?」
落ち着いた声でふと、我に返る。
他の五人はとっくに解いているのに、俺だけひとり、立花さんと肩を組んだままだった。
見えましたよちゃんと。そう言おうと口を開きかけて、
だけど意に反して俺の首は横へ振られていた。
「……見えませんでした。途中で瞬き、したから」
──ちィ、と。見上げるその前に。
──千歳、と。見上げたその後に。
立花さんが、確かに誰かの名前を呟いたのを。俺は聞いてしまっていた。
声の調子はとても懐かしげで、なんだかひどく切なげで、
望郷の思いがこもったようなもので、そんなのに嫉妬してしまう俺は、
とんでもなく醜い人間なんじゃないかと思った。
けど今日、あの人の網膜に映ったのは俺たち七人の影だけで、
過去にいた誰かの影は映る前に消えてしまったのだから、
それで溜飲が下げられないこともない。
……俺もいいかげん、ガキで嫌んなる。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
「影送り」でぐぐると出てくる絵本のタイトルで
今回の話を思いつきました。
大人だけど旧習時代の過去を捨てきれない(0M0)ヘシン!!さんと
こと彼に関しては背伸びをしたがる慰撫の組み合わせが筆者の萌えです。
ではまたいずれ近いうちに…… アデュ!!
うわああああしまったあああ、顔文字登録しておくんじゃなかったor2 or2
最後の顔文字は気にせず読み飛ばしてください
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