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天使の卵

明かりを点けましょ雪洞に~♪
映画スレ14の441です。
女の子のお節句&「猫の恋」の季節なので、投下~。

映画 キ○☆キ○☆バン☆バン
フィリックス×ジミー

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

天使の卵

 怪しむべし。
 玄関の鍵が開いている。居間に明かりが点いている。
 敵かも知れない。口の中が渇くのを覚える。差し当たって心当たりはない。いや、ありすぎてわからない。
 銃を抜き、壁を背にして、用心深く部屋の様子を窺った。確かに人の気配がする。得体の知れない物音がする。
 コンマ一秒の間に扉を開け放ち、中に向かって銃を構えた。
 「お帰り!フィリックス」
 私の愛弟子が、部屋の中央で私を迎えた。銃を向けられても身じろぎもしない。花まで飾って美しく整えられたテーブルの前に座り、にこにこ笑いながら私を見ている。
 全身から力が抜け、銃を降ろした。
 「危うく撃ち殺す所だっただろうが」
 「あんたが間違って俺を撃つようなヘマをするかよ」
 確信に満ちた口調でそんなことを言うので、ついくすぐったいような気持ちになるが、苦労してまじめな顔を作った。
 「だいたい、なんでおまえがここにいるんだ」
 「玄関開いてたから、勝手に入っちゃった」
 嘘つくな。ちゃんと戸締まりはして出かけた。もうすぐ引退だからって、まだボケる年じゃないぞ。
 しかし、それ以上追及するのが面倒になったので、溜め息だけついてテーブルに着いた。目の前には、銀の皿に盛られたタンシチューが湯気を立てている。
 「どうしたんだこれ」
 「作ったんだ。俺、料理得意なんだぜ」
 それと、ざっと見ただけで七、八種類はある、籠いっぱいのパン。
 「焼きたての美味しい店見つけたんだ」
 サラダも。
 「ドレッシングも作った。自分で言うのも何だけど、絶品だぞ」
 更に、ワインも冷えている。
 「ディスカウントの酒屋で買ったんで安物だけどね」
 抜け目ない。
 「どうしたの?なんで黙ってるの?食べようよ」
 ジミー―やがて私の守護天使となる男―は、澄みきった湖のような目で私を見つめて、そう促した。
 私は仕方なく、ナイフとフォークを手に取った。肉を切って一口食べる。旨い。舌の上でとろけそうだ。仕方なくなどと言ったが、さすがに得意と豪語するだけのことはある。一流店のシェフにだって匹敵する腕前だ。
 テーブルの向こうから、ジミーが時々、上目遣いにこっちを見て、きらりと笑う。こういう時、ふとその微笑の意味を考えてしまう。私と一緒にいられるのが楽しいのか、目が合ったからとりあえず愛想を振り撒いたのか、ただ単に料理が美味しいのか。
 「フィリックス、俺にももっとワインくれよ」
 食事が終わって、ジミーのグラスが空になっているのに気づいた。ボトルを手に取って、代わりを注いでやろうとした。
 「そっちじゃない」
 喉に絡むような掠れ声で、彼が呟くように言う。頬が薔薇色に染まり、少し目が据わっている。
 「しょうがない奴だな」
 席を立ってそちらへ行った。自分のグラスに口をつけ、彼の頭を抱えて、ほろ苦い酒精を含ませてやる。待ってましたとばかりに、彼の舌が私の口腔にするりと侵入して来て、貪るように、執拗に舐める。
 彼のセーターのタートルネックを引き下ろした。露になった白い首筋に、赤い液体を滴らせる。舌を這わせ、吸い取ると、それだけで彼は喘ぎ始めた。盛りのついた雌猫のような奴。
 セーターの中に手を差し入れ、胸をまさぐった。後に血溜まりの中で私に差し伸べられることになる手が、もどかしげに私の手を掴んで、自身の充血した部分に導こうとする。心得て強く握りしめ、衣服の上から擦り上げると、「ひあっ!」と叫んで、それこそ猫のように、私の喉元に噛みついた。
 やれやれ。暫く絆創膏が必要だな。シェリーに見つかったらどう言い訳しようか。ほんとに猫でも飼ってれば、そいつにやられたとごまかすこともできるが、生憎猫なんか飼っていないことはあいつも知っているし・・・・。
 「早く・・・・ベッドに連れてってくれよ、フィリックス」
 そんな私の心は露知らず。私の胸に頭をもたせかけ、空色の目を潤ませて、でかい猫がうわごとのように囁く。
 安酒のせいだけじゃない。抱きしめられると、いつもこんな風に他愛なく、しどけなくなる。こういう時以外は、もっとクールでクレバーで、ちょっとシャイな大人なのに。
 いや、女を口説く時も多分、その優雅で洗練された物腰は崩さないのだろう。すると、私だけが知っているということか、彼のこういう甘えたがりの一面は。ちょっと優越感と特権意識を覚える。
 言われた通り、ぐったりと弛緩した体を横抱きにして、寝室まで運んで行く。幾ら細身とはいえ、百九十を超える大男だから結構大変なんだが。彼より更に体の大きい私だからこそできる芸当だ。
 予め、ジミーがベッドメイクしておいてくれたらしい。清潔なシーツの上に彼の体を横たえた。
 黒いセーターをたくし上げる。ナイトスタンドの淡いオレンジ色の光の中に、女のようにきめの細かな白い肌が浮かび上がる。固くそそり立ってこちらを挑発している、煽情的なサーモンピンクの乳首を口に含んだ。ジミーが吐息の混じった声を洩らし、そっと私の頭を抱えこむ。
 音を立てて強く吸い上げ、ふと目を上げると、彼が聖母のような表情で私を見ていた。
 「フィリックス、赤ちゃんみたいでかわいい」
 「五十のオッサンを捕まえて、気持ち悪いこと言うな。かわいいなんて男にとっちゃ最大の侮辱だぞ」
 もう片方の乳首をちょっと乱暴に、指先で弾く。ジミーは身を捩って笑い転げる。
 「ごめんごめん。あんたはやさしくて面倒見がいいから、引退したらベビーシッターになるといいよ」
 「この酔っ払いが」
 豹のような身のこなしで、彼は突然、私の下から抜け出した。逆に素早く私を組み敷き、腹の上に跨って、服を脱がせにかかる。
 「俺が将来、結婚して赤ちゃんできたらさ、フィリックスって名前にしてやるよ。『ほーらフィリックス、泣くんじゃない』とか言って、ミルク飲ませたりおしめ替えたりしてやるんだ」
 「何だそりゃ」
 「ちょっと思っただけ。っていうのは嘘で、わかってるくせに。あ・・・・んっ、そこそんな風に弄っちゃ・・・・!」
 率直に歓びを表現する愛らしい顔を見上げて、私は思う。この先、それぞれ妻や恋人と呼べる女がもし、できたとしても、この不思議な関係は続いていくのではないかと。
 いや、たとえ今のような形では続かなかったとしても、私と彼との間に築かれつつある強い繋がりが断たれることはあるまい。ただの恋愛でも友情でも師弟愛でもない、心も体も、精神も、そして性さえも超越した、魂と魂との切っても切れぬ絆。
 そのような奥深い人間どうしの結びつきを表す言葉は、まだできていないのだ。

 枕元に本が置いてある。私を待っている間、ここで横になって読んでいたのだとか。
 「この人の文章、好きなんだ。子供の時から何度も読んでる。すごく共感できる、っていうのかな。いや、そんなもんじゃなくてさ。なんか自分が書いたみたいな、懐かしい感じがするんだ。六百年も前の人だとは思えないくらいだよ」
 私の腕を枕に、ジミーは熱心な国語の先生みたいな口調で語る。何をまじめくさって話してるんだか。ついさっきまで、私の上で腰を振って泣きながらよがり狂うわ、うなじを噛ませ、背後から貫かせてニャンコロ鳴きまくるわの痴態を晒し放題晒したのはどこのどいつだ。
 尤も、どんな話でも、ジミーの話で聞きたくないことなど何一つないが(シェリーの話だったらたまにある)。
 「ふーん。それは不思議だね」
 相槌を打って、ちらっと本の表紙にあるタイトルを見る。「カンタベリー物語」。
 この文学好きな、根っこの所ではやさしく愛情深い青年が、よくもこんな詩心のかけらもない、血腥い世界を志したものだ。とはいえ、彼に言わせれば、それは私も同じことだというのだが。
 だからこそお互い、様々な意味で惹かれあったのだろうか。腕の衰えを感じ始めたせいもあるとはいえ、長らく弟子は採らない主義だった私が、彼だけは教え、育てる気になった。
 更に、この年になるまでそっちのケはないと思っていたのだが。しかも、息子のような年頃の若い男に翻弄されるとは。一体なんでこんなことになったんだろう・・・・。
 いや、そんなことはどうでもいい。金の為に人を殺すことに疲れ始めたこの心を、彼の眩しい微笑みが、甘い髪の香りが、驚くほど柔らかい肌の温もりが、どれほど癒してくれたかわからない。
 だからこそ、本当は彼に同じ道を歩んでほしくはないのだが。彼だって一人前の男だ、自分の意志でそれを望んだのならば、その選択を尊重するしかない。ただ私が持てる技術の、哲学の全てを、骨の髄まで叩きこむだけだ。
 何ともはや、こういう技術や哲学まで教えるハメになるとは思わなかったものの。
 「フィリックス・・・・」
 彼が長い、しなやかな腕を私の首に巻きつけてくる。妖しい瞳が私の顔を覗きこむ。
 「あんたのブルーグリーンの目が好きだ。人の魂まで見透かすような、不思議な色合いの・・・・」
 私は彼の唇に軽く口づけて、答える。
 「そう。見られるより見る方が得意な目なんだ。意外とな」
 「それ何の引用?カッコつけすぎだよ」
 ジミーは笑って、身を沈ませる。私は心の中で、照れくさくて言えなかった言葉を反芻する。
 私もジミーの目が好きだ。標的を見据える時の、猛禽のように鋭く冷徹な輝きも。お気に入りの本について話す時の、少年のように清らかで純真な煌めきも。
 そして今、私の猛り立った部分を吸っている時の、熱を帯びた、ひたむきで切なそうな眼差しも。
 私の指に乳首を弄ばれ、呼吸を乱しながら、ジミーは健気なほどの懸命さで私を歓ばせようとする。指で根元を擦り上げながら、熱い息を吐きかけ、舌を絡ませ、たっぷりと唾液を溢れさせて。快楽の波にたゆたいながらも、ふと嗜虐的な気持ちに駆られ、彼の金髪に手を差し入れて、強く頭を引きつけた。更に深く咥えこませ、白い喉の奥の奥まで犯す。
 私が注ぎこんだ幾億といういのちの素を、彼は寸毫の躊躇も見せず、喉を鳴らして飲みこんだ。
 彼の汗ばんだ体を抱えるようにして、自分の脇へと戻してやった。乱れた髪を指で整えてやる。
 「ありがとう」
 「礼なんかいいよ。代わりにさ、俺が眠るまで、何か暗誦して聞かせてよ。あんたの好きな古典の好きな一節でいいから。あんたの声、夢の中まで聞いていたいんだ」
 私にぴったりと身を擦り寄せて、愛しい後継者は無邪気に言った。
 「お安いご用だが・・・・」
 これじゃあまるで子守だ。そういえば子供の頃、眠れない夜には、親父がこうして物語を聞かせてくれたり、本を読んでくれたりしたっけ。
 そんなことを思った瞬間、何かとてつもなくいや~な予感が、背筋の辺りを走り抜けて行った。

Fin.

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

タイトルどうしようか悩んだ。「天使」はシラスと被るねんなあ。
フィリックスも「私」か「俺」かで迷いました。
地の文「私」で台詞「俺」かと思ったのですが、一回も言ってませんね。


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