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スイートソース

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
ナマ注意。某白犬バンドの太鼓×四弦。太四だけど白犬全員出てます。鍵盤も最後に少々。
巷で四弦受けと百合犬が流行っていたようなので勢いで書いた。反省はしていない。

 いつの会報のときだっただろう、あるインタビュアーに俺はあまり「甘えんぼう」のイメージが無いと言われた。
 これでも一応バンドのリーダーだ。四六時中周りに甘えっぱなしの人間なら到底務まらない役目だろう。
 それに俺はもういい年で、結婚して子供もいて、一般的には立派なオトナだ。
 ごく普通に社会を生きている俺と同い年の人間なら、甘え方など過去に置き忘れてしまったやつも結構いるんじゃないだろうか。
 それでも、幸か不幸かこのバンドは何十年経ってもちっともノリが変わらない。
 人生の折り返し地点と言ってもいいような年代に4人ともいるのに、毎日毎日呆れるほどくだらなくて子供じみた話題で盛り上がる。
 年下相手に『中学生の会話みたい』とからかわれてしまうようなこのバンドの中でいると、俺はしばしば自分の年齢を忘れることがあった。
 つまりそれは、俺の中で時々、ほんの時々、コドモに還って誰かに甘えてみたいという願望が顔を出してくることでもある。
 そんな思いに悩まされるのも、20年間(ある者は約30年間)一緒に生きてきた腐れ縁のあいつらのせいなんだけど。

「咲ちゃん、ここはこう弾くとやりやすいよ」
 なじみのレコーディングスタジオの中。珍しくギターなんて持ってきたうちのバンドのドラマーに、さっきからピッタリ張り付いて指南し続けるボーカル。
 教えられたとおりに弾くドラマーを前・横・後ろからカメラマンみたいにくるくる回って観察しては、いちいち口出し手出しする。
 ひどい時はドラマーの座っているソファにぽんと飛び乗り、わざわざ彼の背後に密着して指導する。
 咲ちゃんには見えないだろうが、俺と向かい合わせになった句差野の表情はまるでいたずらっ子のように下心丸出しだ。
 ギターを教えたいと言うより、ただ咲ちゃんに寄りかかりたいだけなんじゃないの?
 そう念を込めて句差野を睨むと、彼は『バレたか』とでも言うように歯を見せた。
 その顔が計算ずくとは分かっていても、俺までドキリとさせられてしまうような妙な色気を含んでいたので、俺は文句をつけることができなかった。
 さすがバンド一周囲に甘えまくり、甘やかされて育ってきた男。こいつの甘えのテクニックはちょっと見習いたいものがある。真似はしないけど。

「いやいや咲ちゃん、ここはこうした方がいいよ」
 黒髪をムダになびかせ、うちのバンドのギタリストがすかさず咲ちゃんの隣に滑り込んだ。
 颯爽と現われてきた、と言うよりは猪のごとく押しかけてきた、が正しいような……つーか哲矢、今明らかに咲ちゃんの体に抱きついたよな?
 哲矢は句差野が掴んでいた咲ちゃんの手を半ば強引にもぎとり、自分の手とギターの間に敷いた。
 句差野は見る見るうちに膨れっ面になっていった。静かにプクプク膨らんでいくあいつの頬は風船ガムを連想させ、俺は思わず吹き出してしまった。
「哲矢。今は俺が咲ちゃんに教えてるの! 邪魔するな!」
「いーや。政宗のやり方は咲ちゃんには向いてないね。俺が教えるのがいいよ」
「女みたいな手してるくせに! 『繊細担当』のくせに!」
「男っぽいのは手だけのくせに! 俺より5ミリも小さいくせに!」
 これが四十路を迎えた大人の男の言い合いか。リーダーとして頭が痛くなる。これじゃ初めて会った頃と会話のレベルがまったく変わってないじゃないか。
 咲ちゃんを間に挟み、聞くに堪えないケンカをする2人は、まるで親ザルにしがみついてキーキーわめく子ザルだ。呆れる反面、心の片隅でちょっとだけ羨ましいと思う。
 あいつらは大樹の影に入るように咲ちゃんに自然に寄り添い、自然に甘える。俺はたぶんあいつらほど素直には甘えられない。
 もちろん、今の俺が成立してるのはいろんな意味で皆に甘えてるからだってことは良く分かってる。
 皆がいるから俺がいるし、皆に頼ってるから俺は安心してこのバンドの一員でいられるのだ。
 だけどリーダーだし、大人だし……なんてあれこれ言い訳をつけても自分の心は騙せない。
 信頼だとか信用だとか関係なく、ただ俺はガキみたいに誰かにめいっぱい甘えてみたいんだ。ちょうど目の前にいるこいつらみたいに。
 でも、あんな風に振舞うには何となく気恥ずかしくていまひとつ気が進まない。甘えたいのに甘えられない。やりたいことができないとフラストレーションは溜まる。
 やたらにムカムカしてきて、俺はこのままベースを抱えて一暴れしたい気分になった。首振りながらこの部屋ジャンプして走ったらスカッとするだろうな。
 

 淡い想像を広げてみるけれど、ここは一応レコーディングスタジオだ。
 ライブステージと同じノリで暴れようものなら、何らかの設備の破壊はまず逃れられないだろう(ライブでもたびたび破壊は起こるようだが)。
 これではどちらが子ザルだか分からなくなる。
 仕方なく、溜め息をついて、ソファの上で繰り広げられる小さな闘いを眺めた。

 背後に一匹、右隣に一匹。
 うるさい子ザルに交互に手を掴まれ、困ったように笑っていた親ザルが突然口を開いた。
「ところで、哲矢に政宗。飲み物と雑誌が切れてるから、ちょっと買ってきて欲しいんだけど」
「ええー?」
 2人は同時に声をあげ、口を歪めた。
「だってー、外寒いしー、動くのめんどくさいしー」
「そうそう。それに咲ちゃんに手取り足取りギター教えてあげなきゃ――」
「俺の言う事が聞けないのか?」
 ニコニコ笑っていたはずの咲ちゃんの顔が、一瞬で刃物のように鋭くなった。これぞ俺達が畏怖してやまない「咲山さん」の顔だ。
 糊みたいにべったりと彼に貼りついていた2人は「咲山さん」の登場で途端に青ざめ、縮み上がった。つか、関係ない俺まで血の気が引いたんだけど……。
「いえいえいえいえ。咲山さんのお願いならもう、何なりと」
 揃って畏まり、頭を下げる2人。咲ちゃんが手下を従えたボスザルのように見えてくる。
「お金はあげるから。プリンも買ってきなよ」
「いいの?!」
 プリンという言葉によほど弱いのか、句差野は急に頭を上げて目を輝かせた。
 咲ちゃんはいつもの優しい微笑みをたたえている。よかったな句差野、今回はすぐに「咲ちゃん」に戻って。
「じゃあ哲矢、あのコンビニ行こ! あそこの新製品がすごい美味いんだよ」
 無邪気と言えばいいのか現金と言えばいいのか、句差野は哲矢の手を引いて元気いっぱいにスタジオから出て行く。
 哲矢は引きずられるようにして、何度も未練がましくこちらを振り返りながら句差野の後をついていった。
 バタンとドアが閉まる音がすると、部屋の中にいるのは俺達2人だけになった。

「政宗は純粋だね」
「純粋っつーか……ガキと言うか……」
「哲矢も素直だし」
「素直っつーか……開けっぴろげと言うか……」
「でも、ちょっと羨ましいでしょ」
 咲ちゃんが俺を眺め、見透かしたように笑う。「さっきからそういう顔してるよ。多村」
 俺は驚いて目をしばたいた。
「マジ?」
「マジ。バレバレだった」
 咲ちゃんは当然のことのように言う。
 やっぱりこの人はオトナなのだろうか。俺はあくまで冷静な傍観者として、あいつらのやってることを横目に見ていたはずだったのに。
 それとも俺がよくよく自分の気持ちも隠せないコドモなのか?
「何でそんな顔してんの?」
 咲ちゃんはソファに深く座り込む。革の生地がぎゅう、と音を立てる。ソファの背中にはきっと、さっきまで彼の背後を占領していた句差野の温かみが残っているのだろう。
「別に……」
 まさか咲ちゃんに甘えたいからだ、なんて言えるわけ無いし。こんな年だし、とかリーダーなんだから、とか色んな理由が頭の中をめぐる。
 全部甘え下手な自分が作り上げた都合のいい言い訳ってことは分かってるけど。
 俺はうつむき、拗ねてるみたいに下唇を突き出した。
 どうすれば句差野のように可愛く誘いかけるようなポーズができるのかわからない。わかりたくもないし、真似したくもないけど……。
 黙っていると、痺れを切らしたのか咲ちゃんがフッと笑いかけた。
「多村は素直じゃないね」
「……」
「嘘はつけないけどね」
「……」
「秘密ごともできないしね」
 クスクス笑われる。そこまで言うか。じわじわいたぶられてるみたいで顔が熱くなる。
「ちゃんと言いなよ、甘えたいって」
 咲ちゃんは太股に載せていたギターをソファに置き、膝頭を両手で数回叩いた。
「何のつもり? 咲ちゃん」
「こっち来いよ」
 そう言って咲ちゃんは俺に向かって両手を広げた。その行動の意味を理解した瞬間、俺の鼓動はいっそう高まった。

 その腕の中に納まれと言うのか。俺は想像図を脳内で描き上げ苦笑しそうになる。ガキの頃ならまだしも、今の俺がやったら滑稽と言うものじゃないのか?
 それに、咲ちゃんの俺を呼ぶ様子が、いかにも彼が彼の愛犬を可愛がるときと似ていたので俺はちょっと悔しくなった。
 俺は甘えたいとは(認めたくないけど)思っている。だけど、ペット扱いされたいなんて思った覚えは無いぞ。
 咲ちゃんは俺の迷いなんてお見通し、みたいな顔で「いいから」と急かす。
 俺は周りをきょろきょろ見渡し、本当に室内に誰もいないことを確認してから中腰でソファから立ち上がった。
 向かいのソファまで歩き、咲ちゃんの前で向き直り、すとんと座る。咲ちゃんの腕がシートベルトみたいに俺の体に緩く巻きつく。
 なんかさぁ。正直、客観的に見て、この図ってさ……。
「かなり恥ずかしくない?」
「かもね」
 咲ちゃんはおかしそうに笑う。何でそんなに余裕があるんだろう。俺はこの状態に落ち着かなくて終始ヒヤヒヤドキドキしてるって言うのに。
「さっきの句差野と哲矢のアレよりヤバいだろ、これ」
「まあ、見た目的にはかなり……」
 この場面をあの2人に目撃されるのを想像してみる。恐らく、向こう10年ほどはインタビューやMCで格好のネタにされるだろう。
 特に哲矢は、ほぼ間違いなくあの嬉しそうな顔で不穏な方向に話を歪曲しやがるに決まってる。
 それを考えると本当は今すぐにでもこの腕の中から脱出したいんだけど、何となく腰を浮かせることが出来ない。
 背中にぴっちりと咲ちゃんの体が密着している。肌の感触と、髪の匂いと体温とが、俺の心身の動きを鈍らせている。
 抱きしめられた当初は氷みたいに固まってた心が、やんわりと溶かされていくのを感じる。
 胸のドキドキは治まらないけれど、それはさっきまでのとは種類が違う。
 くすぐったくて、照れくさくて、だけどなぜか心地良くて、終わって欲しいのに終わって欲しくない。そういうタイプのドキドキだった。
 まさかこの年になってそんな気持ちを経験するとは。
「どう?」
「んー……」
 俺は完全に咲ちゃんに自分の体を預けていた。床に向かってだらりと四肢を投げ出し、咲ちゃんの胸を背もたれにしていた。
 温かい。そして眠い。

「たまには甘えてみるのもいいよ」
 咲ちゃんの手が俺の頭を撫でる。指の間から髪の毛を掬い上げては、梳いたりかき回したりする。
 なんか俺、黄粉になったような気分。このまま行くと、頬を掴まれて両手でゆさゆさ揺らされそうな気さえする。
 犬みたいに触るなー、って文句のひとつでも言おうかと思ったけど、気持ちよかったのでやめた。
 ゆっくり目を閉じ、肩の力を抜いた。咲ちゃんの体のいろんな要素が沁みこむように俺の体に伝わってきた。
 咲ちゃんは俺の顔に近づき、溶けそうなくらい優しい声で「いつもお疲れ。リーダー」と囁いた。
 今ならこの体がバターやマーガリンになってしまっても構わないと思った。

「もっと甘えてみる?」
 ふいに咲ちゃんが言った。俺は目を開け、振り返って咲ちゃんを見た。
「どういう意味?」
「言ったまま。多村が甘えたら、それなりのことを俺からもするかもよってこと」
 『それなりのこと』とは何だろう。色々考えてみたけれど答えは出てこなかった。
 とりあえず俺は、くじ引きの景品でも期待するような気持ちで、咲ちゃんの肩の辺りに鼻先をうずめてみた。
「それは何?」
「黄粉の真似」
 目を閉じ、頭を肩に擦りつける。顔にチクチクとニットの感触がする。
 できるだけ黄粉っぽくなるように気持ちよさそうな表情をしてみる。そして、喉の奥から咲ちゃん、と声を絞り出す。
 うっすら目を開けると、伸びてきた手に顎を掴まれた。
 俺がボーッと咲ちゃんの反応を窺っている間に、彼の顔はどんどん接近してきた。
 残り5センチくらいになってきたところで、俺はさっき咲ちゃんが言ったことの意味を理解した。
 うわ、ヤバイ、これってもしかして、え、ちょっと、どうしよ……?
 焦って何か言おうと思っても声が出せない。多分、今俺は口を半開きにしてものすごい間抜け面で咲ちゃんを見ている。
 固まったまま、来たるべきものを受け入れようと急いで心の準備を始めたとき。
 スウッと、息を吸う音が聞こえた。
「いーけないんだーいーけないんだー」
「ぐーっちゃんにー言ってやろー」
 恐れていた二つの声がデュエットを始めた。

 ご丁寧なことに2つの声は高音パートと低音パートに別れ、美しいハーモニーを披露してくれている。
 恐る恐る視線を動かすと、ソファの後ろで膝を抱え、仏頂面で歌い続ける子ザルが2匹。
「いつから、見てた?」
 震える口調で問いかけると、句差野は顔だけこちらを向いた。そして、目をつぶり顎を持ち上げ、恍惚とした表情で「んー」と言った。心臓が爆発した。
 それはまさしく、さっき咲ちゃんに甘えていた俺の真似じゃないか。俺は体中から火が噴けるんじゃないかってくらい熱くなった。
「ひどいよ2人とも。俺らがこっそり入り込んでも全然気がつかないしさあ……」
「多村はなんか咲ちゃん独り占めしてるしさあ……」
 2人は暗い声でぶつぶつと恨み言を言っている。ソファの前側で男2人が抱き合い、後ろ側で男2人が体育座りで嘆いているのだ。こんな光景、不気味極まりない。
 とりあえず俺は、2人から目を離し、共犯者の顔をおずおずと覗いた。
 

 すると彼は、惚れ惚れするほど涼しい顔で俺の体を抱え込み、素早く頬にキスした。
 一瞬の出来事だった。何が起こったのかわからなかった。キスされたことを悟るより、句差野と哲矢が目を白黒させるのを見るのが先だった。
「さ、咲ちゃん……」 2人の震えた声が重なった。咲ちゃんはいつもと何ら変わらないニコニコとした笑顔に戻っている。
「こんなの酷すぎる!! 多村のバカーッ!!」
 俺がバカなのかよ! 
 もはや半泣きの句差野がズボンのポケットから勢いよく携帯電話を取り出す。そして、咲ちゃんの腕でがっちり固定されてしまった俺に向かって携帯のレンズを向ける。
「ちょ、何お前写真撮ってんだよ!」
「写真じゃねえよ、ムービーだよ!」
「余計ダメだろ!!」
 哲矢は前より一段と低いトーンで「いーけないんだー……いーけないんだー……」と歌っている。サングラスの奥の目がどれほど空ろになっているかは想像に難くない。
 さらに。
「くーじー、いつの間に来てたの!? しかもその手に持ってるのは何!」
「いや、次の会報に載せようかと思って……」
 くーじーの手にあったのは見覚えのあるポラロイドカメラ。
 ライブ写真を撮るのに愛用したあのカメラを目の前に構え、快活な声で「はい、ポーズ!」なんて言ってくる。ポーズってなんだ?
 咲ちゃんは微笑んでいる。しかし、その腕はどう頑張ったって俺を解放してくれそうもない。
 どうやらさっきまでの優しかった咲ちゃんは、あの恐ろしい「咲山さん」に変わってしまわれたようだ。
「多村のバカ! 観念しろ、動画サイトに流出してやる!」
「はい、もっと近づいて! ポーズポーズ!」
「ぐーっちゃんに……いってやろぉー……」
 慣れない事はするもんじゃない。
 それをつくづく実感しながら、あるロックバンドのリーダーは深い溜め息をつくのだった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ナンバリングには本当に気をつけますorz
4人同時に書いてみたら非常に百合っぽい雰囲気に。信じられるか、これ全員40のおっさんなんだぜ
とりあえずギター隊は甘え上手だと思います

  • 萌えました。 -- みさお? 2012-09-27 (木) 04:35:23

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