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F1 眉黄身

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

ナマモノ注意です。エ/フワソの眉黄身です。
1月12日ごろ「眉は素晴らしいドライバー」と言っていた黄身のインタビューを
元にしとります。

11月の3週目までは確実に休暇を取ると決め込んだものの、レースに纏わる様々なことを
頭から追い出せるわけも無く、今年の最終戦の映像を何とはなしにリビングのテレビで
見始めてしまったのは、休暇も残り3日を切った日のことだった。
液晶テレビの中で、五つの赤信号が消えてレースがスタートする。
直後に、元チームメイトの「スーパールーキー」がコースアウトした。
俺は3位を走っていく。
その光景を前にして、俺が休暇中に意図して頭から締め出していた2007年の出来事が、
飛び出す絵本を捲るように次々と過って行った。
元ボスやチームメイトとのいざこざと、その他のごたごた。
フェアでは無いことが多過ぎた。
俺が居た環境も、そしてもしかすると、俺自身も。
最終戦が終わったあとのプレ力ンで語った内容は概ね本心だった。
俺にはいつも速いマシンがあったのだ。
だが、結果としては勝利を逃した。
マシンに乗って、ステアリングを握り、ただひたすらに勝利を目指す。
それは多分レースの全てなんだろうけど、俺はきっとそれ以外のことのために負けたんだろう。
そんな自分とは逆に、マシンに乗って、ステアリングを握り、ただひたすらに勝利を目指す事
しかしなかった彼の姿が目に飛び込んできた。
テレビの中で赤いマシンを駆る彼の姿が。

囲の雑音に耳を貸さず、前だけを目指して走る彼の姿。
最終戦での優勝とWC獲得がほぼ確定した残り5周になって、彼はファステストを叩き出した。
実況の声に興奮が帯びる。ここまでくれば、堅実に走りさえすれば勝利は確実なのは誰だって
わかっている。でも彼はそうしない。
『いかにも彼らしい』と解説者が口にして、いつしか俺は初めてレースを目にした子どもみたいに、
その映像に釘付けになっていた。
そして、彼は勝利を手に入れた。
聞く所によると、レース後、あるお偉方が「優勝したのが彼でほっとした。」とコメントしたらしい。
つまり俺やスーパールーキーが優勝したら不味かったと言うのだ。
それに大人しく同意する気はさらさら無いが、自分が勝利を逃した年に優勝したのが他ならぬ彼で
あったことを、俺は素直に喜んでいた。
(彼に会いたい。)
急にそう思った。
あの冷たく澄んだ青い瞳の前に立てば、胸の内にある鬱屈を追い払えるような気がした。
俺は携帯電話を探すため、つきっ放しのテレビもそのままにしてリビングのソファから立ち上がった。

とはいえ、俺は彼の連絡先なんて分からないのだ。
一端レースから離れると、彼のことは殆ど分からない。
俺は奇妙な寂しさを味わって、そのせいで逆に躍起になって頭を巡らせた。
繋がりが無いのは当たり前なんだ、彼とは友達でもなく、同じチームに同時に在籍したことも
無いのだから。でも…と、そこまで考えて唐突に思い至った。…同じチーム。
そうだ。彼とは『元職場』が同じじゃないか!
俺は携帯を片手に、ある人にメールを打った。
『元職場』のあのチームでテストドライバーをしている同郷の彼宛だ。
「もし知っていたら現チャンプの連絡先を教えてくれないか?」
そう送ると案の定、驚きの返事が届く。
「いきなりどういう風の吹き回し?君らは友達だったっけ?まあ良いけど、一応向こうに確認を
取ってから送るよ。まさかとは思うけど、二人で会ってもレース以外で勝敗を争うような真似は
やめてくれよ。拳で勝負をするとかさ。そんな事が起きたら又、今度はこのメールをF|Aに提出
しなきゃならなくなるぜ。」
(何でそうなるんだよ。)
俺はブラックユーモアの混じった返信に苦笑しながら、再び携帯が鳴るのを待った。
しばらくすると、電話が鳴った。
さっきの彼からのメールの返信を予想していたけど、着信音が違う。
メールの着信ではなく電話だった。
液晶に映ったのは未登録の電話番号…。

「もしもし!」
食いつくように電話に出ると、抑揚の無い落ち着き払った声が返ってきた。
「もしもし?」
必要最低限の返事。名乗ることすらしない。
だが、これでもし「やあ。連絡を貰って驚いたよ。いきなりどうしたんだ?」
なんて軽快な挨拶交じりに相手が名乗りだしたら、俺は逆に電話先の相手が本人じゃないんじゃ
ないかと疑っただろう。この無愛想な返事はまさしく彼だ。
「えっと、急にごめん。そっちから電話してくれて有り難う。もし良かったら、会えないかな?
会って話がしたくてさ。」
2、3秒の沈黙があった。
「急だね。何か用?」
耳から流れ込んできたその返事に、俺の心臓は凍りついた。
何か用かと聞かれても、用なんて何も無い。ただ彼に会いたいだけだ。
俺は周囲に目を泳がせながら、彼と会う口実を必死で探した。
すると、以前、母国のスポンサー関係者から貰ったスペイン産のワインが手も付けられずに
棚の上に置き去りになっているのを発見した。
「えーと…。実は渡したい物があるんだ。貰い物なんだけどさ。きみに渡した方が、多分
喜ぶんじゃないかと思って。」
今度は長い沈黙があった。
「いやでも、その…そっちが暇な時間があったらで良いんだけど…。」
弱気になって俺がそう付け足すと、
「今ヒマだよ。だから電話したんだ。」
と又も抑揚の無い返事が返ってきた。
俺から急に会いたいと言われた彼も驚いただろうが、今この返事を貰った俺の驚きに比べたら
大したものではなかったろう。
チャンスが到来したのだ。
短い電話を切った後、彼が指定した待ち合わせ場所に向かうためにガレージの車へと急いだ。

煙が出そうなほど車を飛ばしたので、待ち合わせの場所には意外と早く着いた。
彼も少し遅れて到着した。それは意外じゃなかった。彼の家はここから車で近いらしい。
この時期にスイスの自宅に居たことは互いに予想外のことで、顔を合わせるなり話題に
上ったのはその事だった。
「新聞には違う場所に居るって書いてあったのにな。」
俺が笑うと、
「二人もここに居る。妙だね。」
と彼はわざと自分の足元を見て言った。
小さな店の一番奥のテーブルに俺達は向かい合わせで座った。
「これを渡したかったんだ。」
おれは『口実』を取り出した。
彼は受け取った袋の中身を見ると、とても驚いた顔をした。
「…ワイン?」
「ああ。喜んでもらえるかと。」
「…ありがとう。」
彼は怪訝な顔をして、俺を見、ワインを見て、最後にまた俺を見た。
「でも…。…。…このためにわざわざ?」
俺は微笑んだ。
「うん。でも、良かったら又こうして会えないかな。もちろん、時間がある時で良いんだ。
せっかく同じ国に家があるしさ。会って、馬鹿な話をしたりとか…その…。」
俺が言葉に詰まっても彼は何も言わなかった。
いつも通りの沈黙。彼の沈黙だ。
だが次に現れたのは彼の言葉だった。

「なあ。」
青い目が真っ直ぐに俺を見ている。
「俺とあんたとは、飲み仲間や、一緒に馬鹿をやる仲間にはなれないと思うよ。」
俺は虚を疲れた。
「え。」
彼の表情を見たが、いつも通りの顔だった。
「それは…。俺が飲まないから?」
言った後に、なんて間抜けな返事を口走ったんだろう、と自己嫌悪に陥った。
けれど、彼は呆れるわけでもなく、ただただ生真面目に俺の言葉に驚いた、という顔をして、
彼にしては大きく目を見開いた。
「いや、そういう意味じゃなくて…。」
そう言うと彼は目を伏せた。
言葉を探しているみたいだった。
数秒、目線が机の上を彷徨って、再びあの青い目が真っ直ぐに俺の目を見返した。
彼の瞳孔がいつもよりわずかに大きくなっている気がする。
俺も彼の目を見つめ返した。
彼の口から紡がれたのは二言だった。
「だって、あんたは速いから。」
思わず息を呑んだ。
「俺達は、ライバルだから。」
時が止まった。
リップサービスを言わない彼の言葉が、すとん、と胸の奥に沈んで行った。

彼は続けた。
「俺は競争をしたいんだ。何にも縛られずに。速いドライバーと勝利を争って、速く速く走って、
アドレナリンが全開になる。俺はその感覚を愛してる。俺は勝つことを愛してるんだ。でもその速い
ドライバーと友達になったら、何かが鈍るかもしれない。」
俺はきっと、きょとんとしているんだろう。
彼が困惑したように言葉を切って、戸惑いながら他の言い方を探し始めた。
「だからつまり…自分が争う相手と近所付き合いを出来るほど俺は器用ではないし…。
俺の言ってる意味分かる?」
遂に音を上げた彼が、最後の方は言葉を放棄して俺に目線を送った。
「ああ分かるよ。」
一気に目が覚めた心地がした。心臓が早鐘を打って眩暈がする。
驚いた。
俺は彼が好きだ。
たぶん、彼が知っているよりも。
そしてもしかすると、俺自身が知っているよりも。
彼の心に近付いた途端に彼を好きにならずに居られなくなった。
それも、想定外の衝撃で。
(参ったな。)
確かにライバルってものは一緒に居ない方が良いみたいだ。
俺はコーヒーを飲み終わった頃を見計らって、「もう店を出よう。」と言った。

「なあ、さっきのあれ、記者の前でも言ってくれよ。」
駐車場に出てお互いの車に戻るという時になってから、彼にそう声を掛けた。
「え?さっきのあれって?」
怪訝な表情を浮かべる彼に、俺は微笑んで言った。
「『あんたは速い。』、『俺達はライバルだ。』」
すると彼は、さっき俺が間抜けな返事をして彼を驚かせた時と同じように、
再び大きく目を開いて驚きの表情を見せた。
彼はそのまま真っ直ぐにこちらを向いて、少しの間黙っていた。
ミステリアスな沈黙。彼はいつもそうだ。
けれど彼は急にニヤッと笑った。
「俺が急にそんなことを言い出したら、『彼があんな風に言い出したのは、史上最年少チャンプに
賄賂を貰ったからだ。』なんて書かれるよ。」
そう言って彼は片手でワインの瓶を掲げた。彼の言う賄賂とはワインの事らしい。
今のはたぶん、彼流のジョークなんだろう。
俺は苦笑いして肩をすくめた。
一連のやり取りに沈黙が訪れると、彼はさっさと踵を返して歩き出した。もう用は済んだというように。
けれど、数歩歩いた所で彼は不意に立ち止まり…振り向いた。

「来年も会えるだろ?」
急にそう聞かれた。
彼は俺が来季一年間、休暇を取るつもりかと聞いているんだろう。
まさか!ありえない。俺がそんな選択をする訳が無い。
聞いてきた当人もどこか、俺の答えを見透かしているように見えた。分かっていて俺に答えさせようと
しているような、奇妙なタイミングだった。
俺は少し意地悪になってみた。
「それを聞くの?」
そう返事して彼を煙に巻いた。さっき彼が俺を煙に巻いたみたいに。
こちらばかり手の内を晒すんじゃ、あんまり分が悪すぎるじゃないか。
すると今度は彼がさっきの俺そっくりに肩をすくめた。少し可笑しかった。
あとは振り返ることもなく、彼は去って行った。
俺はその背中を見ていた。彼と会った余韻がまだ残っていた。
そういえば結局、俺が頼んだことの答えはイエスなんだろうか、ノーなんだろうか?
俺には分からなかった。

それから暫くして…。
俺は結局、古巣へ戻ることになった。これは最良の選択だったと思う。
来季に向けて、重圧や緊張が無いと言ったら嘘になる。
むしろ、そういうものは常に付いてまわるんだ。
だが、未来の俺は今までよりももっと強くなれる。挑戦と勝利への執念こそがチャンピオンに
近付くための力だと、俺はちゃんと知っているから。
俺が休暇を決め込んでいる間に、世間では勝手に俺の移籍先を予想したり捏造したりして報道が
過熱していたらしい。そんな事態になっていると知ってから、俺は面白がって新聞やネットの
スポーツニュースをまめに見るようになっていたけれど、移籍先からの公式発表が打ち出された後には
ニュースも次第に静かになって、俺の面白半分の興味も徐々に削がれていった。

それから更に数週間後。
その日も、俺はチラ見しかしなくなったスポーツニュースの字面だけを目で追っていた。
流し読みは直ぐに終わる筈だった。
だが今日はいつもとは違った。
数週間前に会った現チャンプの、あるインタビューが目に留まったのだ。インタビューの中で、
彼は俺に賛辞を述べていた。
『彼は素晴らしいドライバーだ。』
彼はそう言っていた。
俺は少しの間、その文字をぼんやりと眺めた。
答えはイエスだったんだ。
俺は、座っていたソファに寄り掛かって天井を仰ぎ見た。まだぼんやりしていた。
足元からじりじりと喜びが湧き上がって…遂に頭に達した。
「イーッヤッホォォー!!」
俺は叫んだ。あらん限りに。
ソファの上に飛び乗って、天井近くまで飛び上がった。
嬉しかった。
俺は電話を掛けることにした。
だが、彼への電話じゃない。
数回音楽が鳴った後に電話の向こうで呼び出し音が途切れ、電話の相手がスペイン語で挨拶をした。
俺は口を開いた。
「もしもし?先日は素晴らしいワインを有り難うございました。実はあの後、私よりもアルコールの
好きな友人に贈ることにしたんです。喜んでくれました。その友人に又プレゼントを贈りたいんですが…
生憎私はワインのことが分かりません。お勧めはありませんか?」

そのワインを手土産に、また彼に会いに行こう。
彼に会うために見え透いた口実を作っている自分を可笑しく思いながら、それでも俺は嬉しいと思う
気持ちを抑え切れなかった。
彼に褒められたことが嬉しかっただけじゃない。
インタビューで約束を果たしてくれたこと、それが、あの日二人で会ったと彼がオープンに認めてくれた
みたいな気がして、俺は嬉しくなったんだ。
彼と俺は、飲み仲間や、一緒に馬鹿をやる仲間にはなれないかも知れない。
だけど…。
ふと、俺はある光景を想像した。
つい頬が緩んだ。
彼の肝臓に付き合う気はないけど、スペイン産ワインとコスケンコルヴァを片手に彼と乾杯を交わすなら、
酒を飲むのも良い気がする。俺はそう思った。
もしそんな日が来たら、乾杯の言葉はきっとこんな風なんじゃないかな…

『…ライバルに。』

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・;)イジョウ、ジサクジエンデシタ!

初投稿でお目汚し失礼しました~。
黄身インタビューを読んで我慢できなくてやった。
今では反省している。
次はもっと恋人っぽい二人を書けるようがんがります。


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