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庭球皇子 穴戸&鵬

前スレあたりでノレドルフの昼ドラ風味を書き込んだ者です。
保管庫にうpされていてとても嬉しかったので、その勢いのまま
今度は氷帝のD1ペア、ほのぼのに挑戦してみました。
庭球+「ごきげんよう」がご挨拶の某群青文庫のダブルパロなので、
ややご注意を。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
 長太郎は、朝に弱い。
 ことに、部活がない日の朝は最大の弱点といってもよい。
中等部への登校途中、その目は水の中からものをみるように虚ろだし、
大きな上背も丸まりがちだ。
 あくびと一緒にふり仰いだ空には、木々の梢に隠れて、ちいさな十字架が見える。
 学園に建てられたその教会は、海外との交換留学生が盛んな氷帝学園においては、
海の向こうからやってきた生徒たちに、安らぎと祈りの場を提供している。
長太郎は大晦日も新年も盆会も、もちろんクリスマスも行う家に生まれたが、
そうした聖なるものに対する敬意は平等に持ち合わせている。
 だからいつもするように、十字架に向けて軽い会釈を──
「おい」
 ドキリとした。
 いっぺんで眠気もだるさも吹き飛んだ。
 心臓が跳ねた勢いのまま振り向くと、その視線から少しばかり下に、額と、
不機嫌そうなまなざし。

「は……い」
 氷帝学園は、今更改めていうまでもなく、典型的な良家の子女の通う学校である。
その生徒とあれば、礼儀作法も授業のうち。声をかけられたら、まず、立ち止まる。
そして体全体で振り返り、何をおいても丁寧に挨拶を。
女子は「ごきげんよう」を用いることが多いが、男子には馴染みにくいこともあるから、時間時間に応じた挨拶をすればよろしい、
とは礼法の教師の言葉。
 油を注し忘れたブリキ人形さながらギクシャクと振り返ると、その、
やや小柄にも見える男子(187cmの長太郎からすれば、大抵の男子は小さな部類に入った)は、
変声期を経てすっかり安定した声で、言った。
「激ダサだな」
「…え、あ、あの」
「シャツの襟!ネクタイ!寝ぐせ!」
「はッ、はいっ!」

 鋭い叱声。慌てて長太郎は、ブレザーから飛び出たシャツの襟を正し、
ネクタイを締め直し、髪の毛をかき回した。そうすると彼は、いかにも満足そうに笑った。
「忘れてたのかよ、今日、服装検査だぜ」
 なるほど。
 親指で示された校門には、教師がふたり立ち、行き交う生徒にさりげなく視線を配っている。
そのうちのひとり、襟元から覗くバレンチノ・モラディのスカーフも特徴的なオールバックの。
「そっか、榊監督だったんですね…」
 音楽教師、榊太郎。車はジャガー、愛器はスタインウェイ、カードはアメックスのブラック。
氷帝学園男子テニス部に、苛烈なまでの実力主義を布く男は、隙のないみだしなみから察しがつくとおり、
生徒の格好にも非常にうるさい。

「注意されるならまだいいけど、無言で成績下げられちゃたまんねえだろ。
それでなくてもお前、目立つしな」
 と、彼は笑う。
 知っている。榊太郎に憧れる女子が、彼の関心欲しさに、
わざとタイを乱したかスカートを短くしたかして、服装検査に臨んだのだとか。
 それは相手が彼でさえなかったら、あるいはここ氷帝学園でなかったら、
単なる思春期のなせる微笑ましい悪戯であっただろう。
 しかし当の榊から返されたのは、軽蔑の冷たいまなざしと、無視。
そればかりでは飽きたらず、後日女子生徒は親と一緒に呼び出され、きつい一言を頂戴したのだそうな。
「さあ、急げよ。遅刻だ遅刻」
 そう言いおいて、彼は大股に歩き出す。
せわしない風情のまるでない、悠揚せまらぬ足取りとは、まさしくこのことだろう。

「あ、あのっ」
 目まぐるしい展開に、ついていけない。
彼が背中を向けてから、慌ててお礼をいおうと長太郎は口を開いたが、そのときはもう、
彼は同級生とおぼしき二人組に声をかけていて、呼び止める声にも気づかない様子だった。
「宍戸、先輩」
 氷帝学園男子テニス部3年、宍戸亮。長太郎には未だ遠いその正レギュラーの座を、
並みいるライバルを退けて手に入れた。
 しかもそれが行われたのは、2年生に進級して間もない時だという。
 実力主義のテニス部といえど、先輩後輩の序列がないわけではない。
慣例的に、能力が高く且つ勝負強く、後輩を指導していく立場にふさわしい者として、
3年が対象になっている節がある。

 それが易々と、彼の前にひっくり返った。
 彼は、2年生全員の目標であり、長太郎の憧れであった。
 …こんなのって、無いですよ。
 十字架をあおぎ、嘆息をかみ潰す。
憧れの先輩とのファースト・インプレッションは、こんなものではなかったはずだ。
 たとえば練習試合で偶然対戦するとか、あるいはダブルスのパートナーに選ばれるとか、
もっと絵になるものを、漠然と想像していたのに。
 それに──
「…俺の髪、寝ぐせじゃなくて、元からなのになあ」
 そんな長太郎の憂鬱を知らぬげに、どこか遠くで、ウグイスが鳴いた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

とりあえずこの二人はラケットとか、リストバンドくらいは交換していそうな気が
しないでもない。
愉しんでもらえるととても嬉しいです。次は棚の35のほうで投下することになるかと思います。
連日寒いですが皆さん風邪を引かれないように… アデュ!!


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