トライアングル side B
更新日: 2011-05-03 (火) 14:30:22
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )感想ありがとうございます!
※ナマモノ注意。ぷろやきう北の球団です。
315の続き。side Aと対になってます。
通信を切り、ため息を付く。
「ちょっと、アイツに甘すぎやしませんか?」
俺がそう指摘すると、目の前に居る彼は罰の悪そうな笑みを浮かべた。
「まぁ、あんまり苛めるのも可哀想だしね」
「はぁ」
そんなやり取りを続けていると、アイツからメールが届いた。
「何て返ってきたの?」
俺がメールを確認しようとすると、彼も身を乗り出して小さな画面を覗き込む。
「そんなに気になるならそっちがメールすれば良かったじゃないですか」
文句を言いながらも、彼が見やすいようにと携帯を持ち変える。
『わかりました!』
一行で、さらに絵文字はビックリマークのみ。”わかりま”がついてるだけまだマシか。
ただソレだけのメールだというのに、彼は緊張の糸が切れたみたいにテーブルにうな垂れた。
「良かった、来てくれるんだ」
その呟きにも、安堵の色が垣間見える。
「そりゃ来ますよ。どうせ暇なんだろうし」
「いや、そうだけど、臍曲げてるんじゃないかって思うと、どうしてもね」
「だったら最初っからあんなこと聞かなきゃ良かったんですよ」
「――――」
痛いところをつかれたためだろう、彼が押し黙る。
――そう、そもそもの発端は彼にこそあるのだった。
彼と会ったのは、偶然だった。外出先で声をかけられたのだ。
休日と言っても特に何もすることが無いのは、俺も彼も同じで。
どうせならアイツも誘おうと話が纏まったところで、彼はこんなことを言い出した。
「ただ誘うだけじゃ面白くない」
その言葉の下に提案されたのが、同時メール攻撃だった。
文字にしてしまうと、何とも安っぽい名称だとつくづく思う。
同時に動くという意味ではダブルスチールとかと似たようなもんだろうか、いや、それも違うか。
まぁそんなことは全く関係ないので置いといて。
つまりは、わざと偶然を装ってアイツの反応を伺おうという意地の悪い遊びを決行したわけだ。
とりあえずは俺の家に腰を据えて、俺たちはアイツからの返信を待った。
すると、予想外の切り返しをされた。
俺に対しては彼と。彼に対しては俺とメールをしている所だという返信がなされたのである。
「一緒に居るってこと、素直に明かしますか?」
このまま騙し続けているのも面倒だったので、俺は彼にそう促した。
しかし、中々答えは返ってこなかった。彼は何やら考え込んでいるようだった。
そして、
「せっかくだから、確かめてみない?」
「何をですか?」
「アイツが、俺とマ/ッ/ク、どっちを選ぶか」
「……は?」
とんでもない提案に唖然としたのは、ほんの一瞬。
「それ、どういう意味ですか?」
そう問いかけてはみたものの、彼が冗談で言っているのでは無いことは、その表情や声色から直ぐにわかった。
「マックは気にならないの?」
「――――」
そして、彼が言いたいことも既にわかっていた。
俺の意思を察してくれたのだろう。問わずとも、彼は断言してくれた。
「アイツさ、今まで一度も自分から選んだ事無いんだよね」
「あぁ――そうでしたね」
言われてみれば、アイツの所有権を選択するのは、いつも俺たちの側だった。
アイツの意志なんて無視して、俺たちの気分によって所有権は行き来した。
時にはじゃんけんで決めたりもしていたのだから、我ながら酷い話だと思う。
それでもアイツは素直に付いて来てくれた。
文句を言いながらも何だかんだで付き合ってくれた。
まぁアイツだって子どもじゃないし、遊びは遊びだと割り切っているのだろうけど。
「本当はどっちの相手をしたいのかって、凄く気にならない?」
もし、アイツがこんないい加減な現状を知ったりしたら、さすがに呆れるだろうか。
それとも、怒りをぶつけてくるのだろうか。それに関しては、反応を知りたい気もした。
「因幡さんは気になるんですか?」
俺はアイツがどちらを選ぶのかなんて、一度も気にしたことが無かった。
こうした現状が当たり前だと思っていたし、何の違和感も無かったからだ。
「うん、気になるよ、すごくね」
だから彼がそんなことを気にしていたというのは意外だった。
これもプレイボーイの性ゆえか、それとも負けず嫌いの性ゆえか。
「俺は、因幡さんの方を選ぶと思いますよ」
素直に思ったままを口にする。
大体、V旅行ゴルフでは一緒にカートに乗ったり何だり見せ付けてたでしょう、貴方らは。
それに、決定的な証拠だって、俺は知っているのだ。
「そんなの、本人に聞いてみないとわからないでしょう」
それなのに、何をそんなに気にする必要があるんだろうか。
遊びにそこまで真剣な答えを求める方が野暮な話と言うもので。
単純に割り切ってしまえば、もっと気楽に付き合えるっていうもんでしょ、こんなの。
「――まぁ、そりゃそうですけど」
本音は、心の中だけに留めておく。こっちで揉め事を起すのも面倒な話だ。
「だから、試しに聞いてみたいんだよね」
断る理由もなかったので、俺は首を縦に振った。
そんなこんなで始まった駆け引きだったというのに、先に彼の方が折れたというのだからおかしな話だ。
「でも、何で答えなかったんでしょうかね、アイツ」
結局、アイツがどちらかを選ぶことはなかった。
ということは駆け引きとしては、こちらの負けとなるか。
「うーん、俺たちに悪いと思ったとか?」
アイツの性格を考えるなら、それもあり得るだろう。
だが、あの長い沈黙にはそれ以上の理由があるような気がした。
この点に関しては、正直気になる。
「――もしかしたら、ですよ」
指示した集合場所へ移動する最中、俺は彼にこう切り出した。
「アイツ、本当は嫌だったりするんじゃないですかね」
「えっ」
ハンドルを握る彼の表情から余裕が消える。
「あくまで一つの可能性としてですけど」
俺はそう定義してから、自論を続けた。
「本当は嫌だけど仕方ないから付き合ってる、そういう可能性もあるんじゃないですか。だから、選ぶなんて気も起きなかったとか」
詭弁だと思う。でも、もしかしたらとも思う。
絶対なんて言いきれないのが人間だ。どれだけ仲が良くったって、相手の胸の内を完全に読み取ることは出来やしない。
「まぁ俺の主観なんて当てにならないでしょうけど」
あの一線を越えた関係の中で、アイツが何を思っているかなんて、断言できる自信は無かった。
情事を思い返そうとしても、ぼやっとした靄がかかってしまうのは、いつも酔った状態だからだろうか。
覚えているのは、体温や鼓動と言った、肌の触れ合いばかり。
戯れでは、心が溶け合うことなんてない。だから、アイツの本心だって知れやしない。
あの時間は、浮世離れしたもののように思える。
確かに存在しているはずなのに、目が覚めてしまえば夢とも現実とも知れないような時間だと。
「…………」
彼も同じようなことを考えているのだろうか。暫く沈黙が続いた。
車の走行音と、変わり行く街並みばかりが、俺の感覚を刺激する。
「ねぇ、マ/ッ/ク」
先に口を開いたのは、彼の方だった。
「それ、どのくらい信憑性があるのかな」
「さぁ、俺にはわかりませんよ」
「うーん、そうだよね」
不安になるくらいなら、もっとアイツを信じてやればいいのに。
そんなことを思いながら、彼の横顔を見つめ、その表情に、はたと気づく。
――あぁ、ここに一人居たか、大きな子どもが。
「そんなに気になるんでしたら」
だったら簡単だ。最も単純な方法がある。
信号が赤に変わる。
俺の方に視線を向けた彼に向かって、俺は、ニヤリと笑ってこう言った。
「直接本人に聞いてみれば良いんですよ。どうせ直ぐに会えるんですし」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )次回でラストです。
伏字一箇所失敗してたorz
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