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ア/ス/ガ/ル/ド 95鬼畜短髪鞭賊×91長髪ダガー賊5

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ディースが手を離すと、糸が切れた人形のように、アイルの体は壁にしなだれかかった。
 全身が痛い。
ふと、今までにあったことを思い出して、身震いした。
拷問されたのか。そうだ。
この男が、笑いながら、鞭を振るってきた
 誰かが癒してくれたのか、傷は随分消えていたが、それでもまだ、所々に傷があり、体を動かすたび、痛んだ。
 疲れによって精神力は削られ、己で体を癒す魔法(セルフヒール)さえ、出来なかった。
 ディースが部屋を出て行くのを見届けると、アイルはゆっくりと目を閉じた。
これが、夢であればいいのに。

アジトの一階、ある吟遊詩人が歌を披露していた。
サンチョギター片手に歌う彼は、とても幼い顔をしている。
リズミカルに体を揺らせ、それを回りの人間も聴き入っている。
とても、透き通った声だった。
内容は、冒険者である夫のかえりをまつ、妻の歌であった。夫が戦死したことも知らず、待ちつづける。
 早く帰ってこないかしらと、待ちつづける。
 歌が終わると、ぱちぱちとまばらに拍手があがった。
吟遊詩人になりたての人間が着る、吟遊詩人服。青色で、肩をさらけ出し、半ズボンという身軽な格好だ。
 サンチョギターを壁に立てかけると、そばにいたディースに、彼は話し掛けた。
「久しぶり、ご機嫌斜めかい?」
ちら、と、ディースは彼をみた。が、すぐに窓の外に視線を移した。
雪が降っている。
「久しぶり?一ヶ月もたってないじゃねぇか」
「一ヶ月たってれば十分だよ、このへそ曲がり」
「カルテラ、お前はしばらくここにいるか?」
「いるよ。ほら、みて」
 と、カルテラはバッグから大量の金貨を取り出した。

机に山積みになった金貨に、他のギルド員も興味をもって近づいた。
 それでも一部なのだろう。
 カルテラは、その金貨の中に片手を突っ込むと、そのまま机に座った。
「ボスの報酬がこれさ、随分良いもの溜め込んでたみたいでさ。露店したら一気にお金持ち♪しばらくは遊んで暮らせるよ」
ケラケラと笑うカルテラ。
彼がかなりの実力者であることは、一見見ただけでは分からないだろう。
一時は魔術師の最高峰といわれたほどの力の持ち主だった彼は、二年ほど前、突然吟遊詩人になってしまった。
飽きたから。
それが理由だった。
「なら、ついてこい。どうせ暇なんだろう」
席をたって階段へと向かうディース。
「なにさ?ちょっと待ってよ」
疑問におもいながらも、興味津々。
大急ぎで机にばらまいた金貨をしまいこむと、足取り軽くついていった。

「人の気があるね」
ディースの部屋の前にたった彼が、つぶやいた。
何があるのかな?
一体何があるのかな?
ディースのことだから、とんでもないことでもやりだしたのかな?
 そういえば、昨日、捕虜が要るっていってたな。
ジンはそれ以上何も言わなかったけれど、そのことかな?!
あれこれと、想像しわくわくしながらカルテラは、扉を開けるよう催促した。
「アイル」
真っ暗な部屋、ディースの言葉に反応し、うごめくものがある。
暗くてよく見えない。
 持っていた燭台を、部屋に向けててらす。
まぶしそうに起き上がり、こちらを見るのは、長髪の男だった。

「♪」
 カルテラは、見覚えのあるその顔に、いそいそと近づいていく。
が、後一歩、というところでディースに服の裾を、まるで猫のように捕らえられて、とまった。
「気分はどうだ?」
 半身起こしたアイルの顎をすくうと、ディースは笑う。
アイルは何も言わない。言えなかった。
恐怖で足がすくんでいることなど、悟られまいと必死だった。
だが、震えは、顎をつかむ彼の手に伝わった。
「ディース、震えてるじゃーん。離してやりなよ。ねえ?」
アイルに向かって、無邪気に笑いかけるカルテラ。
その顔は、アイルにも、覚えがあった。
 だが随分と昔のことだった気がする。彼に出会ったのは。
最高衣服の、さらに上位服があると噂を聞く。
それは人間の域を越え、神ほどの力をつけた人間が着れるものだと、誰かが言った。
 当時彼は魔術師だった。
普通の最高衣服は、黒いマント、青い長い裾のある服。
だが、さらに上の服は、その青色の裾の部分が、白で、全体的に光を帯びている。
 その服を、彼は着ていた。
氷の城、アドリブンで、その幼い顔立ちに似合わず、火と、風と、水と、そしてほぼ全ての呪文を使いこなす姿は、思わず見惚れるほどだった。
 それが敵ギルドに所属していると知ったのは、つい最近である。
「あ…あんたは…」
 アイルは、目を見開いた。
ディースの後ろに立っている人物こそ、その人だった。
「こんばんは、アイル君。僕を知ってるの?」
「お前の事知らない奴は、殆どいないんじゃないか」
 横からディースが言う。
「…しってる…けど、吟遊詩人に…」
「うん。魔術師ね、飽きちゃったから、詩人になっちゃった。嬉しいな、僕、そんなに有名!?」

勿体無い。極めてから、吟遊詩人になるなんて。
「カルテラ」
ディースが、嬉しそうに笑っているカルテラに向き直った。
「はいな」
そして、アイルの首につながれた鎖を持つと、言った。
「こいつの世話役になれ。こいつは犬だ。」
「え」
 その言葉に、目を丸くしたのは、カルテラではなくアイルだった。
動揺して体を起こすと、じゃり、と、重い鎖の音が響いた。
「盗賊型守護動物?そんで犬?ワンって鳴くの?わんわん?」
 皮肉をこめてだろうか、カルテラはケラケラと笑い出した。
「ほれお手」
アイルのまえに屈みこむと、手のひらを差し出してきた。
手を乗せろ、という意味だろう。だがアイルにだってプライドがある。つい、と、目をそらして抵抗した。
その態度に、カルテラが、頬を膨らませる。
「冗談はほどほどにしろ」
「冗談はそっちだろ」
その言葉に、ディースはカルテラを見つめた。その目は厳しい。
「いままで、捕虜にこんなことしなかったじゃない。大体僕に世話を任すってなんでさ」
十秒くらい、間があいただろうか。何か考えているようだったが、ディースがいった
ことは、
「ただ、なんとなく。お前暇そうだし」
…ということだった。
「…」
あからさまに嫌そうな顔をしたカルテラだったが、その言葉が実に図星をついてることに、ため息をついた。
「仕方ないなあ。僕もしばらく冒険者業を休むつもりでここに来たんだけど…」
アイルの、その頬に手を寄せた。
「君の面倒は、僕が見るよ。宜しくね…」
その無邪気な笑顔の裏に、何があるのか。
 ただ、ディースと共にいるよりは、心は狂わされずにすむかもしれないと思った。

その日から、奇妙な生活は続いた。

アイルは首輪をされ、それはベッドへとつながれる。
ベッドの側には、アイル専用の寝床。といっても、毛皮と毛布で作られたか簡素な寝床であった。
 それはまさに、犬の寝床のよう。
とはいえ、ディース自身は、最初何もアイルに提供するものはないといっていたのだった。
だが、それを聞いたネイヴィーが激しく反対し、せめて毛布と毛皮を、と、彼女自身が提供したのであった。
 レビアは、寒い。氷点下を超えることがざらなこの街で、毛布もなしに人間を住まわせるなど、それは凍死させるようなものである。 
して、その日初めての食事を持ってきたのは、カルテラではなくディースだった。

荒々しく扉を開け、それまで毛布をかぶって凍えていたアイルの前に、肉や野菜の入ったスープを置いた。
「お前には十分すぎる食事だな」
食事は温かかった。安っぽい、冒険用の樹の器に盛られたスープ。
だが…、スプーンがなかったことに、アイルは戸惑った。
ちら、と、ディースの顔色をうかがう。
「なんだ?」
ディースは、アイルの前に屈みこんだ。
「…、スプーンは」
「犬には必要ないだろう?」
その言葉に、頭に血が上るのを感じた。だが、のどまででかかって、あえてそれを飲み込んだ。
逆らえない。
 彼が、護身用にと腰にぶら下げている短剣が目に入った。
仕方なく、アイルは目を伏せる。
「さあ食え、はいつくばって犬のように!」
途端、物凄い力で頭を捕まれ、スープ皿に押し付けられた。
不意を疲れた彼は、スープ皿に顔が半分ほど入ってしまう。熱さに思わず顔をのけると、スープ皿はガチャンと音を立てて転倒した。
「げほっげほっ…!あ…なに、を…!」
何をする!と彼のほうへ向き直ろうとした途端、またも力で押さえつけられる。スープが広がった床に顔を押さえつけられ、そのままディースを見上げると、彼は笑った。
「なめろ、犬のようにな!!さあ、這え!」
目は狂気に輝いている。
怖い。怖い。怖い。怖い!
「嫌だ!」
這って床をなめてまで食事にありつこうなんて、人間のプライドが許さなかった。
だが、拒絶の言葉に、ディースは力を込めて彼を殴り飛ばした。

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