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影郎×見部

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  封誇示、無差身部前提の影郎×見部
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 実写版設定です
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汗ばんだ額には癖の無い漆黒の髪が張り付き、男の視界を僅かに遮っている。
男はそれに気付く素振りも無く、鋭い息吹と共に、頭上に構えた長刀を振り下ろした。
周囲の大気を引き裂く一閃が飛沫を切る。
切り裂かれた大気の裂け目から、冷気が爆風と成り地面へと叩きつけられた。
轟音と共に生まれ出る氷の塊が、大地へと突き刺さる。
破壊音と共に一瞬で世界が凍る。
絶対零度の剣。男の得意とする氷の剣技だ。
山中にある滝壷近いこの場所は、男の剣技を極めるには最適な場所だった。
空気中に飛散した飛沫は絶対零度の剣で雹と化し、氷となり、標的に向かって放たれる。
その剣技を幾度となく放ったのだろう。
男を取り巻く青々と茂った樹木は、何時の間にか真白に凍りつき、辺りの時の流れを止めていた。

白/鳳/学/院との抗争の末、北/条/姫/子が投入した騎士の駒。
チェックメイトを仕掛けていた筈の抗争が、その男の登場で形勢逆転していた。
──────風/魔/の/小/次/郎。
彼奴の存在が己の存在意義を粉々に砕いた。
文字通り、肉体もプライドも、夜/叉/一/族の正統な血筋である証ですらも。
男の手元には柄の赤く染まった黄/金/剣。夜/叉/一/族に伝わる伝説の長刀だ。
本来ならば、夜/叉の正統な血筋である己が受け継ぐであろう一族の宝刀。
あろう事か、実姉である夜/叉/姫は、その聖/剣を赤の他人に与えようという暴挙に出た。
風/魔の存在が全てを狂わせたのだ。男の人生も、運命も、何もかも。
確かに男は風/魔に敗北した。一度ならずに二度までも。
柳/生/家に伝わる伝説の剛剣、風/林/火/山を手にした風/魔の彼奴に。

古の時より伝わる忍の掟。掟とは、現代にも生き残る忍の誇り。
敗北とは死を意味する事。敵に情けをかけられ命を永らえたところで何の意味があるというのか。
それが忍という定め。つまり、己が生きている限り敗北は無い。 
と、男は己の心内で忍の掟を勝手に解釈する。
現代に生きる忍として利己主義な自己中心的な思考ではあるが、言葉通りに解釈すればそうなるだろう。
否、元々夜/叉に古の掟など存在しないに等しい。

忍びの技で私腹を肥やし、その勢力を伸ばし、この現代社会を裏で操り牛耳ってきた一族なのだから。

決着がはっきりとついた形で無い限り、敗北を受け入れる事など男には到底出来ぬ。
風/魔との闘いで命を繋いだという事は、戦いはまだ続いているのだ。
互いの命ある限り、闘いは永遠に続く。
戦いの終焉は命の灯が消えるその瞬間だ。
ならば、万全の状態で風/魔に臨むのが道理というもの。
得物の能力が力の差というならば、こちらも同等の力を持つ得物を手に入れれば済む事だ。
男はそんな自分勝手な理由で、誠/士/舘から、姉の夜/叉/姫の手元から無断でこの得物を持ち出した。
──────その得物で夜/叉/八/将/軍の一人である黒/獅/子を一刀両断したのは己の意思。
己の手に馴染ませる必要性と、その長刀の本来の能力を知る為に。
(──────そう、必要だった)

何故、このような場所に己が居るのか。
何故、逃げ隠れるするように人里離れた森の奥へ。
何故、このような事になってしまったのか。
何故、姉の庇護の元から抜け出したのか。
幾度となく自問自答するが、答えは見つからない。
否、最初から答えなどあるものか。
理由は至極簡単なのだ。
(──────風/魔)
(あの男に勝つ事が、全ての答え──────)
答えが見つからないからこそ、己はこのような場所に一人佇んでいるのだろう。
剣と技は表裏一体。心に迷いがあれば剣は応えてくれない。
ならば心を無にする為に肉体を苛め抜くしかない。
無心になれば自ずと応えは導かれるのだ。一心に剣に問いかければ、必ず光明が見えてくる。
だが──────

「……まだまだ心を捨て切れぬ、……か」
自虐的な笑みを浮かべ、壬/生/攻/介は足元に視線を送った。

一面の氷の世界にそぐわない、一輪の小さな花が咲いている。
山百合の一種だろうか。
その花はまるで何かに守られるよう、時の止まった氷の世界に唯一生き延び、美麗に咲き誇っていた。
淡い桜色を滲ませた小さくか細い花、一輪。
──────飛/鳥/武蔵と初めて出会ったのは何時だったか。
空を覆う鬱蒼とした木々から零れる薄明るい光に照らされた花一輪を眺め、壬/生は不意に思った。

不思議と武/蔵という男に壬/生は嫌悪を覚えなかった。
一族の血を受け継がぬ傭兵に過ぎない武/蔵に、姉が黄/金/剣を与えようとしたと今でも。
心・技・体。武/蔵は全てのバランスをかね揃え、人並み外れた特別な力を持つ。
否、あれは人の能力ではない。あの力は人知を超えた悪魔の力。
武/蔵の人ならざる能力は、夜/叉、風/魔の忍達の能力をも上回る。
その能力故に人並みの生活が送れない武/蔵を雇い入れ、安住を与えたのは夜/叉だった。
主を持たぬ現代の武士は、闘う事を好む狂戦士では無い。
己が望まずとも戦いに赴く定めにあるのは、やはりその呪われた力故だろう。
世界から排除された己を、その力故に受け入れた夜/叉。恩義を感じているのか、はたまた忠義か。
金で雇われた筈の傭兵は、誠/士/館の牙城が崩れ去った今も、その城から離れようとしない。
冷徹な仮面に隠された男の最後の情だとでもいうのだろうか。
だが、最愛の妹の命を繋ぐ為の約束された報酬が入れば、武/蔵も城を去るだろう。
名誉よりも金。名声よりも命。
根無し草の傭兵は、夜叉に恩義はあれども忠義など決して無い。
それが、武/蔵という男の生き方だ。
何故なら、武/蔵は死ぬ事を許されぬ身。
死の病に冒された妹を生かす為、武/蔵は何があっても死ぬ訳にはいかないのだ。
例え泥を啜ってでも生き延びねばならぬ、悲しき定めに生まれた男。
壬/生の唯一認めた男。
それが、飛/鳥/武/蔵。
己の捨てきれぬ心に過るのは、その男の姿──────
「俺は、一体……」
己の脳裏に焼きついた残像は、愁いを帯びた鳶色の瞳──────

「……馬鹿馬鹿しい」

己の内に沸いた淡い感情に決別し、壬/生は自分の血で汚れた長刀を力強く握り直した。
正眼の構え。切っ先をゆらりと回しながら長刀に念を込め、純度の濃い冷たい空気を体に吸い込み乱れた呼吸を整える。
再び訪れる無音の時。
冷気が周囲に満ち、木の葉のざわめき、流れる外気を全て包み込む。
長刀から強大な力が己に流れ込んで来るのが分かる。
持ち主が、自身を受け継ぐべき正統な資格を持つ者かを如何かを値踏みしているのだろう。
眩い光が己の中の醜き部分をはっきりと照らし出し、隠し切れない感情が露わになる。
長刀を手に入れた時から幾度となく繰り返されるこの感覚は、自身を見つめ直す禅の行にも似たものだ。

『下がりなさい、壬/生』
敗北──────繰り返される記憶。
(──────俺は敗北など認めない)
『姉弟の情など夜/叉には必要無い』
負け犬──────罵倒の言葉。
(──────二度とそんな減らず口を叩けぬようにしてやる)
『実の姉に刃を向けるというの?』
そして、遥か彼方の時代より伝わる、呪われた血の掟。
(──────今更)

(情など必要無いと言ったのは、貴女だというのに──────)
──────このままでは長刀の持つ力に飲まれ、自分自身を見失う。
壬/生は鋭い息吹と共に、心中に蟠った感情を一気に吐き出した。
この長刀を使いこなすには、先ず自分自身に勝たねばならないだろう。
剛剣を手に入れた風/魔と対等に戦う為には、この長刀をものにしなければならない。
(その為ならば、手段は選ばぬ──────)
例え、姉を裏切り、一族を裏切り、何もかも失ったとしても。
降り注ぐ木漏れ日の中で壬/生は瞳を静かに閉じ、切っ先に全神経を集中させる。
「霧/氷/剣!」

「こんな所に居たのか?……壬/生?」
壬/生の背後から突然、何者かの言葉が投げかけられた。
足音も立てず、気配も感じさせず。まるで忍のそれだ。
その声はまるで幻聴のようにも聞こえる。
だが、壬/生は動じる事も無く、長刀を振り続けた。
声の主が山中に足を踏み入れた折から、その者の気配を感じていたからだ。
その中に混じる粘着質の邪気から、その者の正体は見当が付いていたが、無視を決め込んでいた。
夜叉の中でも最も狡猾で、強か。
誰一人自分の本当の姿を見せない得体の知れぬ男。
ほらを吹き、噂を走らせ、人の耳に耳打ちする言霊の術。
突然現れて人里を撹乱し、嵐のように里を乱しては、幻のように消え失せる。

春、晴れた日に砂浜や野原に見える色のないゆらめき。
大気や地面が熱せられて空気密度が不均一になり、それを通過する光が不規則に屈折するために見られる現象。
形は見えてもとらえる事の出来ないもの。
その忍名が表す通り、陽/炎のような男だ。
混乱と暴動を高みで一人決め込んで、ほくそ笑むのは何の為か。
それが戦略というならば、剣士である壬生にとっては水と油の間柄だ。
「ほう……その得物が、我が一族に伝わる伝説の守護刀・黄/金/剣という訳か」
聞き覚えのあるその声を無視し、壬/生は渾身の力を込めて長刀を振り下ろした。

「……私以外の八/将/軍は風/魔に全滅させられたぞ?」
「!」
実に信じがたい言葉に一瞬の動揺を見せるが、壬/生はその雑念を振り払うよう、再度長刀を振り下ろした。
「あの妖/水も風/魔にやられたぞ。古式の掟という闘いのルールを布いたのは、風/魔の指揮官だったか。……あの者、竜/魔といったな? つまり、最初の名乗りからその策にしてやられた、という訳か……敵ながら切れ者よ。我々の役に立たない指揮官とは大違いだ」
自軍の壊滅を平然と告げ、然もおかしそうに咽喉の奥で笑うのは、
「……残る夜/叉は、私とお前、唯二人だ」
八/将/軍の一人、陽/炎。

「……武/蔵はどうした?」
陽/炎の口車にのせられるよう、つい壬/生は口を開いてしまう。
あれ程の男が風/魔に倒される筈が無い。壬/生はそう確信していた。
「さぁて……無能な指揮官殿は何処で野たれ死んだか……定かでは無いな」
「あの武/蔵ともあろう男が、死ぬ筈など無かろう!」
「壬生? まさかお前の口から武/蔵の名がいの一番に飛び出すとはな?」
背後の陽/炎は、何時ものよう鉄扇で口元を隠してほくそ笑んでいる事だろう。
これが陽/炎の策略の一つとも頭では理解していた。
だが、壬/生はその気配をはっきりと感じながらも、反論せずにはいられない。
否定しようとも先程から壬/生の心を占めているのは、その男の姿に間違いないのだから。

「どういう意味だ!?」
「お前の実姉であり、我々一族の長である夜/叉/姫の事を聞かぬのか?」
「武/蔵が傍に居れば、夜/叉/姫の身辺警護など心配無用だろう……」
「お前はあのような仕打ちを受けた今でも、武/蔵を信用し、夜/叉/姫の身を案じているとでもいうのか? 我々を内部から崩壊させ、乗っ取りを目論むあの男を?」
「それは貴様の妄想に過ぎない! あの武/蔵がそんな大それた事など企む筈も無かろう!」
「実の姉に見捨てられ、反逆者の印を押された今でも……か? 現に一族の宝刀を武/蔵に託したのは夜/叉/姫自身ではないか」
「それは!」
「分からんか? 壬生? 武/蔵は夜/叉/姫を誑かし、黄/金/剣の所有権を手に入れた。黄/金/剣を持つ者こそが、一族の長である証拠だ。奴は最初から一族の乗っ取りを目論み、お前達姉弟に近づいた……。そうは思わんか?」
気がつけば陽/炎の声が耳元で妖しく囁いていた。
「先に結論を言おう。残念ながら、武/蔵は生きている。夜/叉/姫も御無事だ」
咽喉の奥でくく、と妖しい笑いを零し、陽/炎は壬/生の黒髪を指で静かに撫でた。

「奴は夜/叉/姫の命により指揮官を解任された。……まあ、実に役に立たない金食い虫だとしても、夜叉姫の守り役ぐらいは務まろう? おっと、奴はお前が誠/士/館に引き込んだのだったか?
……化け物のような能力があろうと、奴は一族の正統な血を受け継がぬ者だ。自軍の勝利よりも己が命の方が大切とみえる。そのくせ浅はかな陰謀で我々夜/叉/一/族の乗っ取りを目論もうとは……剣士の風上にも置けぬ薄汚い守銭奴よ。
そうは思わぬか? なあ、壬/生?」
厭らしい含み笑いを零し、陽/炎は壬/生を背後に気配も無く立っていた。
「!」
と、唐突に首筋に伸ばされる冷たく細い指。
忍の者とは思えぬ繊細で滑らかな指で、壬/生の襟足に絡まった黒髪を掬い上げる。
「一族の正統な血を継ぐ者が、夜/叉を率いるのに相応しいとは思わぬか? なあ、壬/生? お前は一族の長の血を継ぐ、唯一の男だ。夜/叉/姫は所詮女。何れは他所の男を引き込み、夜/叉の純血を穢れたものにして一族の崩壊を促す存在ぞ?
 ならば、純血を受け継ぐお前が一族の長となるのが理というものだろう? なあ、壬/生? 私と共に夜/叉を指揮し、新生夜/叉/一/族の結成を目指さぬか?
 我々正統な血筋が統べる、由緒正しき夜/叉/一/族の本来の姿を取り戻そうではないか?  誠/士/館の牙城が崩れ去ろうとしている今、それこそが夜/叉再建の近道ではないか?」
陽/炎の常軌を逸脱した言葉に壬/生は返す言葉を見失う。

この男は一体何を企んでいるのか。
誠/士/館を去り、夜/叉/姫を残したまま闘いから離脱した男に、今更何の用が在るというのか。
黄/金/剣を持ち出し、黒/獅/子を殺めた時点で、壬/生は夜/叉からも追われる身となったというのに。
武/蔵を指揮官と任命した夜/叉/姫を否定し、夜/叉/一/族現当主の牙城を崩壊させようと?
壬/生に取り入り己の意のままに操り、新生夜/叉の長として壬/生を御輿に担ぎ上げようと?
その言葉通り、自分自身が新生夜/叉を牛耳り、夜/叉/姫を長とする現の体制に反旗を翻そうと?
全ては伝説の聖剣・黄/金/剣がもたらす、夜/叉の呪われた運命なのか。
黄/金/剣を守護刀としたが為に主を持たず、流浪の民となった夜/叉/一/族の悲しき定めなのか。
この熱病のように歪んだ妄想が、陽/炎の中にとぐろを巻き、どろどろと蠢いて陽/炎自身を取り込んでしまったのだろう。

否、夜/叉再建を願う陽/炎の言葉は間違いなく本心だろう。
だが、何時の間にか己の言霊の術に取り込まれ、幻を真実と摩り替えてしまっているのだ。
陽炎の幻が見せる夢幻に魅せられるかのように。
「壬/生?」
恭しげに黒髪をなぞりながら、陽/炎はうっとりと壬/生の名を呼ぶ。
「お前の体の中に脈々と受け継がれる夜/叉の純血に誓おう……」
その指先を静かに壬/生の襟元に忍ばせながら、耳元に囁く。
「私の主は、後にも先にもお前だけだ……」
妖しく香る甘い息が首筋を擽る。
「止めろ……陽/炎」
嫌悪感と同時に、壬/生の背筋に冷たいものが走った。
「その純血を、夜/叉再建の為に流せ。他の誰にも穢させるな……」
黄金剣を握る壬/生の手に静かにその冷たい手を重ね、陽/炎は恍惚とした声を上げる。
「壬/生? 風/魔との闘いの行く末は見えているのだ。今の誠/士/館は既に支配力を失っている。力を失った誠/士/館に残る事など何の意味も無いではないか。
黄/金/剣無き夜/叉になど未来は無い。……なあ、壬/生? 黄/金/剣を持った純血のお前さえ生き延びれば、各地に散り身を潜めた夜/叉の者達をかき集めるのは容易い事ではないか……。」
首筋に突き付けられる甘い毒牙。
「それ以上姉上を冒涜するような言葉を吐くな!」
言霊の術に。巧みな罠に。自尊心を擽る甘い誘惑に。
壬/生の心は大きく揺らぐ。
「貴様は夜叉に反旗を翻すつもりだというのか!」

「……冒涜? 私が紡ぐ言葉は全て真実。お前の明晰な頭では、とうに理解しているではないか。この戦いの行く末を、とうに捨ててしまったお前には……」
荒唐無稽な話だと壬/生は頭では理解している。
陽/炎の中で微かに色付いた妄想が限界近くまで膨らみ、現実との端境が曖昧になっているだけなのだ、と。
妄想と現実の境目を失った陽/炎の暴走なのだ、と。
だが、否定しようとも、耳元から忍び込む甘い毒牙に心が麻痺していく。
言霊の術に取り込まれたよう、壬/生の体は強張り、微動だに出来ないでいた。

「これ以上闘って何が残る? 既に夜叉姫に一族を統率する力など無い。残るのは主を失った誠/士/館……そして一族の崩壊……それだけだ」
甘く腐った香りを放つ毒牙は、壬/生の首元へ色濃く突き付けられている。
「……違うか? 壬/生?」
狂気を帯びた吐息と共に、陽/炎の薄い唇が壬/生の耳元に落とされた。
「私にはお前が必要なのだ……」
「……止めろ!!」

壬/生が叫んだと同時だった。
不意に黄/金/剣が、
「!?」
鳴いた。
幾千回振り降ろそうとも、決して壬/生に応えようとしなかった長刀が。
凛と響くその音は、忍びである者にしか聞き取れない微弱な声。壬/生は陽/炎の様子を伺い見るが、凛と鳴り響くその音に反応を見せてはいない。
持ち主にしか応えぬ聖剣は、この瞬間、壬/生だけの心に初めて声を聞かせたのだ。
長の血を継ぐ、正当な夜/叉の末裔である壬/生に、この宝刀は語りかけたのだ。
夜/叉を守る守護刀として、その身を持って壬/生を護る為に。
予想だにしなかった陽/炎の言動が口火となったかは定かでは無い。
だが、今、この瞬間に、確かに黄/金/剣は壬/生に応えたのだ。
言葉にならない声は、壬/生の聞き覚えのある声にも似ていて──────どこか懐かしくもあり、心落ち着く声で。
──────壬生の名を、確かに呼んだ。
壬/生は反射的に陽炎/の術から逃れ体を返すと、黄/金/剣を振り上げた。
同時に陽炎の鉄/扇が壬/生の喉元に突き付けられる。
「……」
「……」
殺気に満ちた緊迫の時が静かに流れる。その瞬間は、一瞬にも永遠にも思える時の流れ。
二人の額に冷たい汗が一筋滴り落ちる。その一滴が地に触れた瞬間が、勝機。互いの切っ先に殺意が満ちる。

どれ程の時が流れたか定かでは無い。
凍り付いていた周囲の木々の雫が、静かに地面に吸い込まれていた。
空高く飛ぶ鳥は既に寝床に帰り、周囲は薄闇に閉ざされようとしていた。
互いの呼吸音だけが静寂の中響いている。
何時の間にか黄/金/剣の声は静まり、壬/生の手の中で二度と目覚めようとはしなかった。
この時は何時まで続くのか。時を止めた静寂が、二人を永遠に包み込んでいくようだった。
だが。
「……悪ふざけも度が過ぎたようだな」
「……」
やはり、先に折れたのは陽/炎だった。
その言葉を吐きながら何時もの笑みを浮かべ、壬/生の首元に突き付けた鉄扇を静かに下げた。
「だが、よく考える事だな……壬/生? 今のままでは夜/叉は完全に崩壊する。お前が自滅すれば数百年に渡る夜/叉の歴史も終焉を迎えるのだ。お前の体に流れる純血を決して穢すな。そう……他の誰にも、な」
くつくつと、然も楽しげに笑いながら、
「武/蔵には気を許すのではないぞ、……壬/生?」
その言葉を最後に、陽/炎の姿はゆらめき静かに消え失せた。その忍名が表す通り、陽/炎のように。

壬/生は陽/炎の存在など、まるで無かったかのよう、無言で手元の黄/金/剣を見つめていた。
先程の声は一体何だったのか。黄/金/剣は己を認め、応えてくれたのか。
正統な持ち主と認めない限り、その剣の持つ最大の能力を使いこなせないと云われる聖剣。
夜叉の長の血を継ぐ壬/生の危険を察知し、守護刀としての役割を果たしただけなのか。
それとも──────
「あの声……」
壬/生に語りかけてきた聞き覚えのある声は──────
「……まさか、な」
己の耳にこびり付いて離れない、愁いを帯びた鳶色の瞳の持ち主──────
心の内に蟠った感情を振り払うかのよう、壬/生は長刀を頭上に構え、一気に振り下ろした。

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文章が長杉改行大杉で投稿苦戦しちまったい!


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