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薬売りの卵・その二・中編

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                     | 物のけ ハイパー×薬の>>54-76の続きの再会編の中編です。
                     | 親子・出産・家族の捏造設定ですので、苦手な人は御注意。
                     | ハイパー(父)×薬(母)=子供(オリ)・たいまの剣
                     | 前にも増して、ものっそ、長くなってしまったので、前・中・後と
                     | 三回に分けますが、それでも一回が長めです。 前編は>>155-166に。
                     | 前回とは趣きも違ってしまいましたが、それでもよければ
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| すみません、エチーは後編にズレ込みました。
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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 | |                | |     ピッ   (´∀` )(;∀; )(゚Д゚ )
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廃寺に戻り、灯りを着けると子供と薬売りは隣合って座った。
子供の母である薬売りは、やはり、どこか呆けているようで
話しかけても喋りもせず、それでいて上機嫌のようでもある。
生まれて初めて、母と、こうしてしているわけだが、
子供は嬉しいは嬉しいが、普通でない状態を前にして
どうしていいやら判らず、段々と居た堪れなくなってきた。

モノノケの気配の無い平時なら、まず、しないことであるが、
子供は助けを求めるように、退魔の剣を取り出して見つめた。

退魔は街道で、子供が薬売りを確保してから、何も言ってこない。
その前は大慌てで、按配が良くないとか、意識が曖昧とか、
普通の状態では無いとか言ってはいなかったか。
父でさえ焦っているのを感じたが、
それは単に薬売りが、裸で往来に転がっていたからなのか?
確かに、それはそれで、非常にマズい状況ではあったろうが。

子供は、盛大に溜息を着いた。

「「溜息ばかり着いていると、幸福が逃げると言うぞ」」

退魔に、いきなり話しかけられたのに驚いたこともあって、
「じゃあ、どうすればいいのさ。」と、子供はふて腐れた。
退魔は、子供の混乱と困惑もわかるので、叱りはしなかった。
薬売りの帰還に、多少の問題が起こる事は懸念してはいたが、
こんなオマケの珍事が着いてくるとは思いもしなかった。
一度は自分が滅した母との再会で、
その時のことを蒸し返すような雰囲気にならずに済んだのは良かったのかも知れない。
けれど、印象的ではあったものの、感動的な母子の再会とは
到底言い難いものになったのは、子供にとって良かったのか、悪かったのか。

退魔も、ため息がつきたくなった。

退魔が間近で薬売りを探ってみたところ、
案じていたように癒しが充分でなかったわけでは無いのが判った。

「「どうやら、こちらへ渡る、その際に急いたせいで、しくじったようだ」」
「「コレにとっても今まで居た向こうの場から、こちらへ来るのは初めてのことだったわけだし」」
「「軽い事故に遭ったようなものだ、衝撃で、一時、意識が少し飛んで曖昧になっているにすぎん」」
「「まぁ衣は全部スッ飛んだわけだが」」
「「気の方は一晩二晩すれば、元に戻るだろう」」

子供は安心して気が抜けた。それと同時に眠気が襲ってきた。
只でさえ、この二・三日、鬱々と気が病んだせいで、よく眠れていなかった。
そして今日の、この騒動だ、興奮のあとの脱力が効いた。
その様子を見て退魔は子供に、もう寝るように促した。
「でも…」子供は薬売りを見た。
自分が眠ってしまった後の、今の状態の薬売りが心配だった。
「「この寺に札を貼ってもよいぞ、儂も今晩だけは特別に人除けの結界を張ろう」」

子供は、その様にして眠った。

子供が寝入ると、薬売りも横になったが、眠ってはいなかった。
子供が札を貼り、その上に退魔がさらに結界を張って廃寺内の気が変わったことが
良い方に働いて、薬売りの意識は回復していた。
意識が戻ったばかりの時こそ、こちらに帰還してから今までの自分の有様を
記憶の中から把握して冷や汗もかいたが、それも一瞬で収まった。
そのことで苦労させた子供には悪いが、曖昧な意識の中でのことゆえ、
憶えていないということにさせてもらおうと決めた。

今は、ひたすら子供の寝顔を見つめていた、ただ、ただ、愛おしい、
自分と同じ顔なのにと思うと、不思議な気持ちにもなった。

しゃらん、と涼やかな音に薬売りはハッとする。

廃寺の場と気が、また変わった。
訪いの先触れとして、子供の貼った札が無地のまま、
見る見るうちに白から金へと変わってゆく。

胸が詰まる。

次に、薬売りの上に、蛾を模した鮮やかな袷(あわせ)が現れ、
ふわりと掛けられた。

そうして、薬売りは横なったままの背後に、男が降り立ったのを感じた。
『帯と、小袖、小物も拾ってきた』
『全く、余計な手間を掛けさせてくれる』
そう言いながらも男の声は弾んでいた。

薬売りは動かなかった。
背中を男に向けたまま、声も出さずに、そのままだった。
男がいぶかしんで傍らに膝をつき屈んで覘き込んだ。
薬売りは小刻みに震えていた。
『泣いて、いるのか』
『渡りで、体を傷めたか、まだ、どこかおかしいのか?』

返事は無い。

『…償いの行が、そんなにも辛かったか?』
男は薬売りの言葉を待った。

「…いえ…ね」
薬売りは、やっとの思いで言葉を搾り出した。
「こちらに戻ったら、御身さまに会ったら、坊に会ったら、
始めに何と言おう、何を話そうと、色々と考えていたんですが」
薬売りは、ハーッと息を吐き出して、上体だけ起こし男に向き直った。
「帰ってきて早々、とんでもない事になったんで皆、忘れちまいましたよ」

薬売りの顔は泣き笑いの綯い交ぜになっていた。
男は薬売りの目から落ちずに溜まっている涙を、赤い爪先で、そっと拭い取った。
そして爪先に移った涙を、しばしの間、見つめていた。
薬売りも、その様子を黙って見ていた。

『辛かったのか。』
言われて薬売りは下を向く。
『吐き出してしまえ、楽になる。』
「…行は…キツかったけど…辛くはありませんでした。」
『では何が。』
涙は今、抑えようもなく落ち、床を濡らし始めた。
「始めは…償いの行だってのに、どこか浮かれていたんです…よ」
「滅せられる前に、御身さまに言われたことに舞い上がって、」
「償いさえ終われば何もかも上手くいくような気になって、」
「でも償いの行が重くなっていく頃に、我に返って…不安になって」
『償いが全う出来なくなるとでも?』

男は、床の上で固く握られた薬売りの拳に、己が手をそっと重ねた。

「役目を汚して、人を弄って殺めた、
どんなに重くても、どんなに長くても、償いは全うすると決めてました、でも、」
『でも?』
「本当に待っていて頂けるのか…と」

男は重ねた手で薬売りの拳を強く握り込んだ。
薬売りは顔を上げた。その顔は歪み、涙で濡れていた。

「待つことに倦んでしまうのでは無いかとか、」
「一緒になっても心変わりしてしまうのでは無いかとか、」
「もっと、想う人が出来てしまうのでないかとか、」
「結局は飽きられて、疎まれてしまうのではないかとか、、」
「そんなこと考え始めたら止まらなくなって、」
「一度は喜んでいただけに怖くなって」
「償いが終わって、癒しが終わっても…不安が消えなくて、」
「…戻ることさえ…怖くなって…でも会いたくて」
「早く会いたくて堪らなくて…」
「会えて嬉しい…優しいのに、まだどこか怖くて」

長い間、欲しながら決して手に入るまいと諦めていたもの、
それが思いもかけずに手に入った。
その喜びのあまりに、その幸福に酔いしれるより怖ろしくなった。
この喜びは本当のことなのか、
報われない時間は長く、辛かっただけに、
もし至福のあとにそれを失うことになったら…と。

男は、薬売りの言う「とんでもないこと」に、なったことに合点がいった。
力や技量とは別の、薬売りの、この心の揺れと迷いが
異界を渡る際の障碍となり、目標のブレとなったのだろう。

男は、涙の止まらぬ薬売りの両頬を褐色の手で挟みこんだ。
その手のそれぞれの指の腹で、優しく頬を撫でさすったが、強く言う。

『お笑い種だぞ、薬売り』
『長き人の世の内に、
 数多(あまた)の形を見出し、真を見極め、理を抉り出していたお前が』
『我のことは判らぬか』
『かつては共に歩む者であったお前を解そうともせず、応えもせず、
 そんざいに扱っていたことは認めよう、』
『今は、それと違うと判らぬか』

薬売りは叱られた子供のような顔になる。

『モノノケに転じたことといい、そのような心弱りといい』
『我はそんなにも、お前にとっての毒となるか、心に痛いか』
『想いはしても、我は信ずるに足らぬ者か、』
『坊を成しても、まだ不安か、』

顔を男に固定されたまま、たたみみ掛けられる言葉に、薬売りは苦しげに喘いだ。

『その様に定まらぬ心持では、いつまた悪しき方に転ぶやも知れん、』
そのことは、薬売り自身も恐れていた。
逸らされた目で、それを察した男が今度は静かに言った。

『それとも…そうなる前に、いっそ、我と共に、絶界の果てに、去んで滅ぶか』
薬売りは驚いて視線を戻す、男と、確かと目が合った。

男は薬売りの目を射抜くような真剣さで見つめたてきた。
そして、そのまま息吹と共に言霊を放ち始めた。

『聞け、今からの言(こと)に異は許さん』

『我とお前は、常に共に在らねばならん』
『幸いを得て栄えるも、禍いに遭って呻吟するも、徒(あだ)に拠って潰えるも、必ずや共に』
『これから先、離れることは決して、無い』
『我が、お前を想い、求め、欲している』
『お前が否、と願っても是非もなし』
『我が逃がさん』

あまりの驚きに薬売りの目は大きく見開かれ、涙は止まった。

以前、拠り代を勤めていた頃の男からは、
好き嫌いの別無く、心を向けられたことは無いに等しかった。
無さ過ぎたがために、心違う者、心無き者なのだろうとも思っていたほどだ。
それが、よりによってモノノケと化した己に、想いを明かし、再会を誓ってくれた。
そのことだけでも望外の喜びであったのに。
望外過ぎて、却って不安になるほどに。
さらに今、これほどまでに強い心を向けられようとは。

薬売りは、頬に添えられた男の手をオズオズと握った。

「…聞いちまいました…よ?」
「御身さまが、そうやって言霊にして…」
「ワタシが、それを容れちまったら」
「…この縁の、誓約に…定理(じょうり)になる」
「そうしたらもう、違えることなど…できませんよ…?」

『だから、言った。』
答はすぐに返ってきた。

薬売りは自分も何か言わなくてはと思ったが
新たな涙とともに、想いが溢れ過ぎて言葉にならず、
握った男の手の平に、ただ震える唇を寄せた。
それが返しの言霊の代わりだった。

『得たり』
『我が放ち、お前が容れた言霊は、その為の命を得て上界に昇り』
『眷属の神上誓紙、冥界王の金剛帳にも記されよう』
『誓約は成った』

男は薬売りの頭を優しく抱きかかえた。
薬売りは逆らわず、男の胸に、まだ涙の乾かぬ顔を埋めた。

『縁の誓いは、耳と心に告げ、上界にも記された』

『次は互いの体に刻もう』

今、この廃寺には、子供と退魔の剣と薬売りと男が居た。
人の世の場所としては同じ場に居ることになるが、
領域としては、それそれが別の場に居た。

まず、廃寺自体に退魔が人除けの結界を張ったので
これを解くまで廃寺は人の世では、在っても認知できない仕様になっていた。
この結界の領域には退魔が居り、子供が眠っていた。

更にその中に男の領域としての場が有り、ここに薬売りと男が居る。
薬売りと男からは、子供と退魔は認知できるが、逆は出来ない状態にあった。
最も、互いに役目をともにするにあたって魂魄の内で繋がっているところがあるため、
感知し得ないというものではなかったが、
子供は眠っており、退魔は、男と薬売りの事の次第が判っているので、
向うの仔細がどうなっているかなど、知る気は、さらさら無かったし、むしろ御免被りたかった。

なのに、そういう訳に行かないことが、すぐに知れた。

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧次は完結の後編に続きます。週末中には投下します。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )エチー寸止め、申し訳ありません。
 | |                | |       ◇⊂    ) 
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