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白子 唄&下手

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                     |  69バンド白子 唄→←上手ですが出演は唄と下手
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|   下手の前盤(道イヒ師)も少し絡みます
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧  マイナーでスマソ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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あれ、あなたたちってまだデキてなかったの?

ゆるゆると体中を回り始めたアルコールに少しずつ体温が上がっていくのを心地良く感じながら、
驚愕が表情に表れないように注意を払った。
隣でジョッキを傾けながら少し惚けたような顔で問わず語りを続ける章太は、一見すると酔ってい
るようには見えないが(なぜなら顔色がいつも通りなので)、その呂律は明らかに怪しい。
「おれ、好きな相手にこんなふうに思うの、初めてなんだけどー」
「うん」
「なんか、こう、付き合いたいとか、ちゅーしたいとか、あんま思わないんだよね」
おい、ちょっと待て待て。
「それより、明日も会えると思うだけで嬉しかったりー、…ていうかもう、側に居れるだけで満足って
いうか」
あれ?おかしいぞ。
俺は今日、そんな純愛物語を聞きに来たはずじゃないんだよ。
「……じゃあさ、エッチしたい、とかは?」
かと言って、そんな下世話なことを聞くつもりはなかったし、想像したくもなかったけれど、好奇心と酔
いに押されてつい口が滑ってしまう。
予め作っておいた頭の中のシナリオ通りに事が運ばないので、多少混乱していたのかもしれない。
それでも章太は、特に戸惑う様子もなく。
「あー」
大きな目を見開いて、暫く離さなかったジョッキを、飴色の光沢が美しいカウンターテーブルに置く。
そして、ジョッキの内側に張り付いた無数の泡を随分熱心に眺めて(いるように見えた)暫く黙ると、
唐突に、
「……考えたことなかった」
なんてほざきやがった。
マジかよ。
ていうかそれさ、恋っていうの?

最近章太が元気ないみたいなんだ、とマネージャーから相談されたのは今日の午後のことだった。
えー、なんで俺に言うの?麹くんに言いなよ。何とかしてくれるでしょ、麹くん、章太の為なら何でもす
るでしょ。
なんて、冗談半分で逃げようとしたものの、彼の表情は硬い。
……いや、何て言うか、その麹に原因があるみたいで。もちろん麹にも相談したんだけど、なんか乗
り気じゃないみたいで、今回は順に頼むって言われちゃってさ。
言いにくそうに、口をもごもごさせてそんなふうに言われてしまったものだから、俺にはもう成す術もな
い。
……なるほどね。そういうことか。
わかりました、それとなく聞いてみます。
そう言って笑うと、彼も安心したように笑顔になった。
悪いな。あいつ、けっこう順のこと慕ってるからさ。

……慕ってる、ねえ。
まあ、そうかもね。麹くんには敵わないと思うけど。

昔から、仲間内でのゴタゴタや恋愛関係の相談なんかについては、頼りにされる方だったと思う。
自分では、面倒見のいい方でもないし(人が良く見えると言われることはよくあるので、それはそうか
もしれないが)恋愛経験だって人並みだと思う。
でも、お節介を焼くわけでもなく、適度に突き放しながら話を聞きつつ相槌を打つ自分の態度が、悩
める子羊的にはちょうどいいのかもしれないとある時気付いたのだ。
悩み相談なんてそんなものだ。きれいに解決してやる必要なんかない。気が済むまで喋らせてやって、
最後にポジティブな言葉をかけてやれば丸く治まる。
だから今日は可愛い弟分の為に、仕事帰りに飯に誘って(もちろんポケットマネーで)飲めない酒まで
付き合ってやることにした。

愛するにゃんこやベタ達や、扶養家族の多い俺に何て仕打ちだ、とも思ったが、このバカップルの痴
話喧嘩がどんなものか、興味が沸かないわけでもない。
個室にすると逆に話しづらいかと気を回して選んだ居酒屋のカウンターに腰を下ろして少しずつ話を
引き出すと、章太は生ビールを一杯半空けたあたりで口を割った。
好きな人がいる、と。
相手は?なんて野暮なことは聞かない。
それは普段のこいつを見ていれば、どんな間抜けでも気付くことだ。
その恋のお相手に負けず劣らずこいつのすぐ近くにいる俺なら尚更。
うーん、若いっていいね。
「で、その彼女と何かあったの?」
「彼女」という言葉を選んだ自分に笑いを噛み殺す。そんな俺の気も知らず、章太は少し自嘲気味に
笑った。
「そういうのじゃないよ。……俺、言ってないもん。好きだって」

顔には出さなかったけれど、本当は俺、椅子から転がり落ちそうなほどクリビツテンギョーしたんだよ。

だって、あんなに、どこから見てもラブラブなのに?
誰が見たって、あなたたちお互いのこと大好きじゃん?
気付かないフリも大変だよなーなんて、俺とマネージャーでよく話してるんだよ?
それなのに、お付き合いもエッチも考えられないって、何だそれ。
……えっと、マジで?

「別に、俺、このまま告白なんかしなくてもいいんじゃないかなって、思うし……」
「何で?」
同性だから?
不意に沸いた言葉に、慌ててかぶりを振った。

「だって……絶対困らせちゃうし、あの人が困るの、俺やだし」
「そんなの、言ってみなきゃわかんないじゃない」
あまりにもお決まりの、気休めの台詞に、章太は僅かに悲しそうな顔を見せる。
「わかるよ、俺には。それに、俺、今のままでじゅうぶん幸せだもん」
どっかの悲劇のヒロインばりに儚げな笑顔を浮かべて、自分に言い聞かせるようにそう宣言すると、「ご
めんね、心配かけて」なーんて健気に笑って。
再びジョッキを手にして一気に残りを飲み干してしまった。
……馬鹿だなぁ。
掛ける言葉を見つけられないまま、割り箸で小皿の上のレタスを弄びながら考える。
俺が思うに、麹くんは間違いなくお前のこと好きだよ。
彼、ああ見えてけっこうドライな性格でさ、あんまり人に執着することないと思うんだ。
長年付き合ってきてるけど、彼が誰かの為にあんなにいろいろ考えて、悩んで、無償のナントカで支えて
あげらるような人間見たの、俺、お前が初めてなんだよ。
そんな簡単なこと、何でわからないかなぁ。
黙り込んだ俺をよそに、章太は更に追加オーダーをしようとしている。おい、ちょっとは遠慮しろよ。
「またビールなのお前。何杯目だよ。腹膨れないの?」
「だってー、好きなんだもん」
最初に頼んだレモンサワーを半分口にしただけで顔を赤くしている俺には信じられない。
……ああ、もう次は、烏龍茶にしようかな。

「好きな人を困らせたくない」だなんて、まっすぐすぎる恋心は、時に残酷だ。
麹くんを思う章太の、赤裸々な告白を聞いていたら、昔本当に好きだった人の顔がちらついてきて、胸
が痛んだ。
あの人、今どうしてるかな。

もう連絡しない、だからお前も電話とかすんな。

一方的に告げられて、あの時俺の中で何かが切れた。

……勝手にすれば。

ずっと長い間、どんな理不尽な我侭も笑って受け止めてきた俺がそんな態度を取ったから、随分驚いた
だろうな。表情には表れなかったけど。
売り言葉に買い言葉だと頭ではわかっていても、俺にだってどうしても譲れないことがある。
それをあの人が理解してくれないことが、悔しくて悲しかった。
次の日には携帯を変えて、それ以来、一度も会わないで今日まで来たことを、俺は正直、後悔している。
進む道が別々でも、恋人としてはもう駄目でも、あんなふうに別れなければ今でも良い友人でいられたか
もしれないのに。

女々しいかもしれないけど、俺は今でも馬鹿みたいにあの人が好きで、もしかしたらいつか、何事もなかっ
たように彼がいきなり俺を頼りにしてくるんじゃないかって、今でもたまに思うんだよ。
現実的に考えて、ありえないんだけど。
それに、俺は二度と彼の隣には戻れないんだけど。

あの人、ちゃんと元気かな。一人で無茶なことしてなきゃいいけど。

「……ねえ、順くんはさ」
新しいジョッキに口をつけようとして、何かを思いついたように章太がこちらを見る。
「今、幸せ?俺と麹くんと一緒に、こうやって仕事出来ること、幸せ?」
「……うん、幸せ」
それは嘘ではないけれど、何だか、心の中を盗み見られたようで心臓が僅かに跳ねた。章太は、ただ満足
そうににっこりと笑う。

「俺も幸せ。だからさ、それでいいんだ。もしかしたら、ちゃんと言えばあの人は俺を受け入れてくれるかもし
れないけど……優しいからね。でも、俺はそんなこと望まないよ。恋人とか、そういうのより、特別な関係があ
ると思う。好きだって言えなくても、キスも何も出来なくても、こんなにお互い信頼し合ってるんだもん。これっ
てすごくない?あの人が俺を必要としてくれるだけで、俺、嬉しいんだ。恋人になるより、ずっと幸せなことだ
と思うよ」
大きな瞳をキラキラさせて、そんなふうに熱く語るもんだから、俺はひと言「そうかもね」と返すしかなかった。
とっくにオッサンの仲間入りをした俺にはよくわからないけど、世の中には、性欲や独占欲など入り込む余地
もないほど純粋な恋が存在するらしい。
「……ていうかさ、」
「うん」
「今の、バレバレじゃない?お前の好きな相手」
「あ、」
そっか、そうだよね、なんて無邪気に笑いながら大好きなビールで口元を泡だらけにしていく章太を見て、変
な意味じゃなく、抱き締めてやりたいと思った。
幸せは、手を伸ばせば届くのに敢えてそれを放棄するなんて、俺にはやっぱり理解出来ない。
でもきっとこいつはたくさん悩んだんだ。悩んで苦しんで、ずっとこのまま、彼の隣で彼の曲を歌う唯一の存在
である道を選んだ。
章太が自分で辿り着いた結論を否定することなど、俺に出来るはずがないし、たぶん、これでいいんだ。こい
つはもう、大丈夫。
「……なあ、ビールって美味い?」
「美味いよ!順くんも飲む?」
お言葉に甘えて一口頂いてみたものの、やっぱり苦くて、到底美味いとは思えなかった。
思い切り顔をしかめた俺を、章太はさも可笑しそうにけらけらと笑う。

幸せになればいい。
章太も、麹くんも。あの人も。幸せになってほしい。
不思議と優しい気持ちになって、まだへらへら笑っている隣の酔っ払いの頭を少し乱暴に撫で回してやった。

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 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
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