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時蕎麦

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ナマ ラクGO家 ガッテンシショー ×ショタシショー
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  いつも通りテイストです
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧  コリナクテスマソ
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 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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平日の動物園は閑散としていて、逢引にはぴったりじゃん
なんて感想を抱いてみたりもしたけれど、そんな色っぽい
関係じゃないけどね~、なんて浮かんだ単語を打ち消した。
大の大人の二人連れが言葉少なにベンチに座り、柵の向こうで
林檎を食べてる象の尻を眺めているってのも端から見れば
シュールな光景なんだろう。これがスーツ姿だったりすれば、
サボり中の営業さんですよと言い訳出来たかも知れねぇけど、
俺もシノさんも完全私服なんで怪しさは増すばかり。
いつもながらシックなシノさんはちょっと横に置いておけても、
俺なんて某師匠に金魚みたいって揶揄された派手な色合いだしね。
さながらリストラされたサラリーマンの二人連れってとこか。
シノさんの手が無意識にシャツのポケットを探ろうとして空中で固まる。
「園内は所定の喫煙所以外禁煙となっております」
「うるせぇ。ショウちゃんその辺冷たいよなぁ」
わざわざ見咎めて指摘した俺に、シノさんは眉間の皺を深くして
不満そうに唇を尖らせた。
煙草がないと耐えられない、成田発・日本-アメリカ間のたった
13時間の禁煙すら厭うヘビースモーカーの癖に、わざわざここを
指定したのはシノさんの方だ。
昨日楽屋で受けた電話。珍しくというかほぼ初めての酒抜きでの
昼間っからの誘いだったからちょっとだけ驚いた。でもいくら
無料入場券貰ったからって、動物園とは思わなかったけど。
「煙草吸いたきゃ動きゃいいじゃん」
「面倒なの」

わかってんデショと暗に込められた、短い単語で返って来るのは、
気を許されている証拠だった。サービス精神旺盛で面倒見も良いこの人が、
ここまで力を抜いているのを見るのは随分と久し振り。海外で見せる
楽しさ濃度の濃い素の笑顔は、もっと長く見ていなかったけれど。
しっかし拍子抜けだなぁ。
待ち合わせ場所でね、話でもあるのかと身構えてたら近くだしって
動物園に連れ込まれ、通り一遍等に熊だの猛禽類なんぞを見て歩き、
ひっそりと落ち着いてたのが一度通り過ぎた筈の象の柵の前。
猛獣かパンダ見せろっつーの。入り口にあったじゃん、パンダのコーナー。
先刻もさぁ、この人丹頂鶴とか入ってる檻の前で立ち止まって
こっち見るんだよ。ご丁寧に指差しながら。
「あ、鶴だ、鶴。ほらほらショウちゃん、鶴だって」
だってさ。そりゃ聞きますよ。なんでそんな食いついてんですかって。
「いやぁ、バリ島で教えてもらった『つる』が絶品だったから」
前も言っただろうけど、あれは俺の生涯最高の出来だったんだってば。
聞いてたのがシノさんだけっつーのが勿体無いって今でも思ってるんだよ。
褒めてくれんのは嬉しいけどさぁ。
だからって本物の鶴の前でまたやらせようとすんなっつーの。
思わずやりかけちゃったじゃん。何が悲しくて平日の昼間っから
「つーーーー」とか「るーーーーー」とか声高に叫ばなくちゃいけないんだよ
。ノリかけちゃう俺も俺だけど、場合によっちゃ通報モノだよ。
文句言ったら侘び代わりに買ってくれた缶コーヒーを飲み干すと、
途端に手持ち無沙汰になってしまう。
いつも通りの世間話すんのに、わざわざこんな場所はないと思うんだよ。
でもシノさんは平常運転なの。話あるのかないのかわかんねぇよ。

「シノさんさぁ、なんで呼び出したの」
「んー、強いて言うなら、ショウちゃんに会いたかったから、かねぇ」
「嘘くさいなぁ」
「二週間程顔合わせてなかったでしょうが。お陰でストレス溜まってて」
「……俺はあんたのマイナスイオンなの?」
「随分振り回してくれるけどね」
それって否定? それとも肯定?
物言いた気な視線を右から投げつけてみるけれど、シノさんは
柳に風とばかりに左に受け流す。
シノさんはまだ未練がましくポケットの辺りをさ迷わせていた手を、
ようやく諦めたのかだらんとベンチの上に置いた。
先刻からシノさんの指先が視界をチラつく度に、前に触れられた頬っぺたが
熱を孕んだ様にうずうずとする。
決して嫌な感じではなく、こそばゆい様なそんな感覚。
擽られているのも疼くのも、どっちかってぇと心の方なんだけど。
感情の針はゆらゆらと指す方向を迷って揺れている。傾きたいけれど傾けない。
力の均衡した綱引きをされている気分だった。
今この人の傍にいるのは落ち着かない。でも離れがたい。呼ばれれば
すっ飛んで来ちゃう程度には。
答えないシノさんはもうスルーして、今日は大人しく光合成にでも
付き合おうか。
……一言ね、「うん」でも「そうだよ」でもいいから聞きたかったけど、
言わないんなら仕方ないもんな。
子供が母親に手を引かれながら目の前を通り過ぎてく。あぁ、しっかし無駄に
良い天気だなぁ。風はちょっと冷たいけれど、コートの前をがっちり閉めなくても
大丈夫なぽかぽかとした小春日和だ。

太陽の光に晒されていると、頭がぼんやりとして来る。反対方向に首を捻ると、
葉っぱを落とした木が目に入った。灰色ががったあの幹は、桜なのかな。
大人しく黙っていようかとも思ったけれど、やっぱり話しかけてみた。
「こんな晴れた昼間にぼーっとしてると、花見の場所取りした時の事
思い出すよ。こんだけ寒くはなかったけど」
「花見は春のもんだしなぁ。でも場所取りってそりゃ随分若い時分話だね」
「違うよ。うちの師匠が死ぬほんのちょっと前」
人差し指と親指で1センチ程の隙間を作って見せると、シノさんは目を丸くした。
「それ、ショウちゃんが行ったの?」
「そうだよ。シート担いで井の頭公園に行きましたよ。うちの師匠にとっちゃ
弟子は全員弟子なんだもん。百年居ようが一年居ようがさぁ」
「百年は無理だろ。……俺さぁ、ショウちゃんが『うちの師匠』って言う時の、
声とか好きだわ」
「へっ?」
「雰囲気ってのかな。アンタ今でもね、師匠の事をあんまり過去形で
喋らないでしょう。こう、ほら、ショウちゃんがお師匠さん好きなのが、
良ぉく分かるんだよ」
「あ、そっ」
不覚にも、声が詰まった。
そりゃね、好きですよ。師匠だもん。入門当初緊張してガチガチだった俺に、
『うちにいる時はうちの子なんだからね』って暖かく言ってくれちゃう師匠だもん。
今の俺があるのは師匠のお陰だもん。……俺がうちの師匠から受け継げたのなんて、
滑舌があんまり良くない所とお酒を飲む時は陽気に呑むって誓い、
それにトロンボーンが吹ける位だけど。

ひどく漠然と、うちの師匠に会いたいなぁって思った。迷子の子供が
人ごみの中お母さんの姿を捜して目を凝らすみたいに、ベンチの低い背凭れに
背中を預け切って、被っているハンチングが落ちない様にしながら、
高い青空を仰いだ。あの世が空の上にあるのなら、こっから真っ直ぐ行けば
辿り着けたりしないのかな。
あの千切れ雲の端っこから、ひょっこり顔出してくれてもいいのに。
仏頂面でも構わないから。
あぁ、でもあの世って世界共通なのかな。師匠、アメリカの人と向こうで
会ったら大喧嘩しちゃいそうだし、止めるのも大変そう。うちの師匠ってば、
もう1回やったら勝てるって最後まで主張してたしさぁ。ひょっとして
宗教ごとに分かれてんのかな。
……駄目だ、アメリカ人全員がキリスト教だとは限らない。
馬鹿な考えに逃げても泣きたい様な気持ちが追いかけてきて、
捕まらない様にと頬の内側を噛んで堪える。
シノさんは時折こうやって、俺の心の奥の方に隠しているものを
ひょいっと掴み出してくる。本人が無意識なのが憎らしい。
多分ね、シノさんしかそこに触れてこないんだ。だって俺は隠してるんだもん。
嫌んなる程名探偵だよねぇ、アンタ。普通は気付かないよ。
色々考えると、俺の方が振り回されてんじゃないのぉ。張本人のシノさんは、
何かを感じ取ったのか、今更「象はやっぱりでかいなぁ」なんて
呑気な口調を作って呟いている。目線が全然こっちを見ない。下手くそだなぁ。
泣いてないから心配しなくていいのに。
バレない様にと、横顔を盗み見かけてばちっと目が合った。
意味もなく怯みそうになるのを、気力で押し留める。
でもねぇ、今ちょっと分かったよ。

なんか今日のシノさんはおかしい。俺と同レベルだ。この理由が
ひどく不透明なお誘いとか、いつもよりも少ない口数だとか、
疑問点は連鎖で浮かぶ。
あんた程じゃなくても、俺だってシノさんに関してはちょっとした
探偵だと思う。それくらいには長い時間近くにいるんだから。
咄嗟に問うべきか逡巡していると、先手を打たれた。
「そういや、時間大丈夫なの?」
「俺は大丈夫。シノっちはどうよ」
「入りが五時だから、何時間残ってるっけな……一、二、三、四、今何時?」
「三時」
「四、五……」
「時蕎麦かよ」
「おあとがよろしいようで」
条件反射的につっこんでみたらシノさんは嬉しそうにけらけら笑う。
こっちの心配を他所に重い腰を上げない。常時ならこんな心配をかけるのも
俺の方なんだけど。
疲れてるのか、他に理由があるのか。疲れているのがデフォルトな人とはいえ、
今日のシノさんは何処かしら危うく見えた。自分の気持ちで手一杯で、
気付かなかった。
ベンチに腰掛けたお互いの距離の、15センチ程がとてつもなく遠い。
肩でもどこでもちょこっとだけ触れてりゃ良かったのに。そうしたら、
言葉意外のものも伝わる気がするのに。
意を決したのか、シノさんはわざわざ「よいしょ」と声を出して立ち上がると、
ちょっと小首を傾げる様にして、おどけて言った。

「サゲも決まったし、そろそろ違う所に行こうか。時間あるなら
暖かいものでも飲みにいく?」
今度は俺が立ち上がれない。シノさんの疲れの滲んだ表情は、
逆光気味だったけれどちゃんと見えた。だから余計に、
このまま離れてしまうのが躊躇われる。
もしも、もしもだよ。本当に俺と居てこの人がちょっとでも
楽になれるんだったら、俺がシノさんの隣にいてもいい理由になるんじゃ
ないだろうか。
本当は人が人と一緒に居るのに理由なんていらないだろうけど、
今の俺には必要だった。
俺だけの気持ちじゃ辛い。そんな身勝手さから湧き出るものがある。
気付いちゃったら蓋も出来ない。
求められたいだなんて、どの口が言うんだって感じだけど。
こんな葛藤は趣味じゃないんだよ。
「疲れてるなら温泉でも行く? まだ次の旅行先決まってないじゃん」
軽く言ってから、あちゃーって思った。俺がこんな状態で、
完全二人っきりになっちゃって大丈夫なのかねぇ。
そういやぁこの人、俺と居て喋り疲れた事あったなぁ……。
『後悔』は先には悔やめないから『後悔』なんだな。
気弱になって取り消そうかと口を開きかけた矢先、シノさんが言った。
「そりゃいいなぁ。何処がいい?」
「……熱海?」
「本気?」
「いや、あんまり」
口から出任せですよ。熱海の人、ごめんなさい。心の中で手を合わせる。

でもでもほら、俺静岡県民だし、郷土愛も持ち合わせてなくもないし。
あーもー、なんか駄目だね。こういうのは駄目だ。もっとご陽気にいかないと、
俺の人生の指針に関わっちゃうからね。
俺がうちの師匠から受け継げた、最大の武器。
勢いをつけてベンチから立ち上がると出来るだけ明るくてふわふわ軽い声を
出した。
「俺は美味しいお酒があって温泉に入れたら何処でもオッケー。
シノさんの希望があったら優先しますよ」
「条件一緒だな。じゃぁ、候補地見繕うわ」
「じゃぁ、まず次はパンダの前で話しようよ。その後で外で移動しない?」
「そんなに見たいんだ、パンダ」
「あんたとならね」
何気なく言った言葉。シノさんはたまーに見せる苦いものを口にした様な
表情を浮かべ、それでもぎこちなく笑って俺を見返した。

 ____________
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 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 途中うっかりageてごめんなさい
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )   題に気付いてくれた姐さんありがとう
 | |                | |       ◇⊂    ) __  前回レスくれた姉さん方に感謝
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
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