夢浮橋(ゆめのうきはし)
更新日: 2011-04-25 (月) 22:02:51
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| モノノ怪終了記念&801新スレ突入祝いだよ
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| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| ハイパー×薬売りだってさ
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「──つ……」
耳たぶを鋭いものが貫く感触に思わず身を引く。血が糸をひいて流れ、長い爪を持つ褐色の指先に
受けとめられる。
「動くなと言っただろうが」
受けとめた血の滴を甘そうに舐めとりながら、楽しげに男が言う。
「……それほど痛くはない、と言ったのも、あなたでしたけどね」
「細かいことをごちゃごちゃ言うな。もう少し我慢しろ」
蒼黒い舌で唇に残った血を舐めると、自分の小指の先をふっつと噛み切った。したたり落ちる血の
滴を吸い、先に舐めた血といっしょにふっと吐き出す。紫色の霧がうすく漂い、一箇の鮮やかな紅玉
の粒がころりと転がった。
「いいから、動くなよ。今度は痛くない」
「嘘ばかり……」
ひっそり呟いたのには耳もかさずに、紅い血の珠をつまみあげ、まだ血のにじんでいる傷口に填め
込む。痛みに眉をひそめるのもおかまいなしに、ふっと息を吹きかけると、血は止まり、肉はふさが
って、白い耳朶にはひとしずくの血色の宝珠が光る。
「おしまいですか?」
「まだ、もう片方だ」
ともう一方にも同じことをくり返す。こちらが痛そうな顔をしていても見向きもしないのも同じ
く。もともとそういう男ではある。ある意味では自分自身であり、いわば背中合わせに鏡をへだてた
半身とも言うべき相手だが、『自分』はここまで自儘ではないと、ため息ひとつつきたくもなる。
「……終わりましたか」
「まだ。もう一つだ」
褐色の手が白い手をそっと取りあげる。濃い色の肌には黄金の文様が蠢き、触れられた部分は火の
ように熱い。自ら光を発するような長い銀髪を、男はひとふさ白い指に巻きつけ、爪で断った。断た
れた髪はたちまち蠢き、色を変え、臙脂に金の文様を置いた、平たい造りの指環に変わる。
「ここまでやらないと、納得できませんか?」
ようやく解放されて、新しくつけ加えられた装身具を手を返してみる。
耳も、指も、男がそこに凝縮した力を受けて炙られるように熱く脈打つ。比類ない護身具であるの
は間違いない、が、造ったものにますます強く、この身を結びつけるものであることにもまた違いは
ない。
「安心できない、と言ってもらいたいものだ」
すねたように男は言った。
「次の〈やつ〉は、アヤカシやモノノ怪が存在しにくい時代にいるのだろうが」
「確か、そのようですね」
「では、そういう時代に行く前に、身を護るものはつけていたほうがよい。人間の業は深く、その為
す因果ははるかに強い。奴らが生み出すモノノ怪の理に呑みこまれてしまわぬよう、強くその身を鎧
う必要がある」
「あなたは剣、私は遣い手。剣が遣い手を心配するなど聞いたことがありませんね」
「遣い手がなければ、俺はモノノ怪を斬れぬからな」
そう言いながら、手をのばして肩を抱き寄せる。抵抗もせずに、身体は広い胸に崩れおちる。ごつ
い手が器用に帯をほどき、着物を肩からすべり落としていく。
外気にさらされた肌に、うすく鳥肌が立つ。夢でも寒いということがあるだろうか、とぼんやり感
じる。思う間もなく、黄金の文様におおわれた褐色の胸に抱き寄せられ、灼熱する感触に包みこまれ
る。
「……また、ですか」
「また、も何も。他人でもあるまいし」
「誤解を招くような言い方ですね。まあ、確かに他人ではありませんが」
こういうことも自涜と言えるのだろうか、と少し思った。目覚めているときにはほとんど感じない
欲望が、この男と触れあうたまゆらの刻には、おそろしいほどに燃えあがる。
とがった牙が首筋を噛み、ざらついた舌が瞼や鼻筋にほどこした黥面をたどってゆく。洩れそうに
なる声にきつく唇をかんで顔をそむけると、強引に顎をつかまれ、口づけられた。熱い舌が蛇のよう
に口内を蹂躙し、吐息が火そのもののように喉を灼く。
耐えきれずに口を開くと、恥ずかしいほどの高い嬌声が洩れた。あわてて身をちぢめ、拳を握りし
めて全身に力を入れる。相手が小さくふくみ笑うのが聞こえ、かっと頬に血が昇った。
「まったく気が知れない、こんなことをして。あなたは剣、モノノ怪を斬れればそれでいい、そうで
はないんですか? 遣い手の私、それも半分は自分自身相手にこんなことをして、可笑しいとは思わ
ないんですか? どうせ、離れることも、そのくせ、現実ではけっして一緒になることもできないの
に」
「だからこそ、さ」
もがく白い身体を軽々と抱きあげて、黄金の男は黒に赤の瞳孔を細める。
「いつも誰より近くにいるのに、俺はおまえに触れられない。剣が抜かれて、おまえが目の前で姿を
消すときの俺の気持ちが、おまえに判るか。一度でも触れたい、抱きとめたいと思って、手をのばし
たことが何度あるか、そのたびに、空をつかむことしかなかった時のむなしさを、おまえは、知って
いるとでもいうのか」
「勝手な理屈を。私にはどうすることもできないのは、ご存じでしょうに」
「知っているさ。だからこそ、せめてここで、こうしている」
紅い珠の輝く耳朶に口づけ、拘束具のように嵌めた指環に口づけて、抱きあげた身体をあぐらをか
いた膝の上に下ろす。
「笑えばいいさ、要するに俺は、怖いんだ。この世にモノノ怪がいなくなり、俺が斬るべきものがな
くなり、俺が解き放たれることもなくなって、おまえが俺と切り離され、二度と姿を目にすることも
なくなる時が来るようなら、──もしそうなったらと考えただけで、俺は、いてもたってもいられな
くなるのさ」
「だからこの耳珠と、指環ですか。……あ、っ」
「そうさ。少しでもおまえ自身と、俺とを、繋ぐ鎖を増やしておくように、な」
腰をつかまれ、隆々とそそり立つものの上にゆっくりと下ろされていく。燃えさかる焔の中に置か
れ、その灼熱の芯が、肉体の中心に侵入してくる。苦痛を含めたあらゆる思考が一瞬にして灰とな
り、代わりに煮えたぎる黄金の快楽と、血の臭いのする獣の熱が身体を支配する。
烈しくゆさぶられながら、かすむ目をむりに上げて相手を見る。──褐色の肌、彫り深い男らしい
顔立ち、分厚い胸と広い肩──全身を彩る黄金の文様、何かに耐えるように細められた、黒と赤の
瞳、人外の、モノノ怪狩りの獣のあかし。
「も、し──」
「ん?」
「もし、も、あなたがここで、私を、喰い、殺したとしたら」
思考が飛びかけている今だからこそ、こんなことが言えるのかもしれない。理性が端から弾け飛ん
でいくのを感じながら、言葉が口からこぼれ落ちるにまかせる。
「そうした、ら、現実の私は、どう、なるんでしょう、ね……? 人間のように、血をまき散らして、死ぬのか、それとも、何事もなかった、ように、そのまま、煙になって、ふっと消えてしまうの、か」
「面白い考えだな」
短く笑って、男はさらに律動を早めた。喉を鳴らして大きくのけぞる白い背中をきつく抱き寄せ、
囁きかける。
「試してみるか。それも俺じゃなくて、おまえが。俺の喉に、牙を立ててみろ。狙いはここだ。喰い
破ってみせろ」
乱れた髪に指を差しこまれ、ぐいと引き寄せられた。目の前に、筋肉に厚く覆われた太い首があ
る。灼けるように熱い血が駆けめぐっているはずの、人外の血管が脈打つのがわかる。夢中で口を開
け、かぶりつく。口に渋い金属の味が広がる。
男が低いうめきを洩らす。同時に、背筋を雷霆のような戦慄と衝撃が駆けぬけ、吹き消されるよう
に、何もかもが見えなくなった。
……雀の声がしている。
薬売りの男はゆっくりと目を開け、頭を振った。木漏れ日が帯を垂らすように、木立のあいだから
平らな草地に降りそそいでいる。
背筋と腰が張って痛い。薬箱にもたれかかったまま、うつらうつらとしてしまったらしい。昨夜の
焚き火のあとが、黒く地面に残っている。背中を伸ばし、まだぼうっとした頭がはっきりしてくるの
を待つ。頭上の橋の架かった土手道を、自転車に乗った務め人らしき男が、チリンチリンとベルを鳴
らしながら通りすぎていく。
「まったく……心配性、ですね」
手を確かめてみて、呟く。そこには夢寐のかたらいのうちに嵌められた、凝った指環が収まってい
る。おそらく耳も、そうなのだろう。
ふと気づいて、胸に下げた鏡を返してみた。口の中にはまだ、あの渋みのある鉄臭い味が残ってい
る。
鏡に映った顔には、口の端にわずかに黒みを帯びた滴がこびりついていた。
袖を上げて口をぬぐい、寝乱れた襟を直そうとして、手をあげる。ふと、首筋に、噛まれたような
傷が残っていることに気がついた。ついさっきつけられたように、まだ赤黒く腫れて、じくじくと血
をにじませている。
苦笑する。
「……そんなに強烈に、噛まなくともよさそうなものを」
それとも、もっと強く強く噛めばよかったのに、と言うべきなのか。
手をあげて傷に触れ、固まりかけた血をとって、飴のように口に含む。渋い金属の味が濃く口中に
ひろがる。
「あなたは私に文句ばかり言いますけどね、──ねえ」
薬箱と、その底に収められたものにむかって、そっと囁く。
「私だって、そういつもいつも平気、というわけではないんですよ?」
かすめる手、すれ違う指先──こちらから幾度手をのばそうとしたことか、無駄とは知りつつ、一
度でいい、実体のある世界で、その熱い肌に触れてみたいと、願ったことが何度あるか。
「……まあ、こちらから言うのも癪だから、言ってあげませんけど、ね」
やがて朝日が、一夜の宿の土手の下にも差してきた。立ち上がり、薬売りの男は猫のように伸びを
する。首に刻まれた傷は、いつのまにか消えている。
何もかも、夢のうたかた、幻だけで架けられる夢の浮き橋──かたわらに置いた薬箱の取っ手が、
一度だけ、小さな音でかたんと鳴った。
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| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ ハミダシチャッタ ゴメン
| | | | ピッ (・∀・ )
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