北のタレント×社長
更新日: 2011-10-27 (木) 01:56:01
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
・北のローカルタレント×社長。ナマモノ注意
・方言はさっぱりです
・去年タレントがフライデーされたあたり
「さて」
扉の閉まった社長室で、自分の席についた錫井が会話を切り出した。
「…申し訳ありませんでした」
勧められた椅子にかけることなく、机の前に立ったままの大井澄が
沈んだ声で頭を下げる。
「何についてあやまってるの?」
錫井の声に非難めいた感情はひとかけらもない。
それがかえって大井澄の心をさざなみのように揺らした。
「こんなことをさせてしまうような付き合い方をしたことについて」
「…うん。返事としては合格だね」
弟子の答えに満足した師匠のような静かな微笑みを浮かべてから、
良く通る声で語った。
「先方はコメントが欲しいと言ってる。
君は本当のことと本当に思ってることを言えばいい。
FAXかなんかで送ることになると思うけど、文章を僕に見せる必要はないよ。
前にも言ったけど、恋愛のことに事務所が口出しするのも変なもんだからね。
事実無根の中傷記事なら抗議するけど、そうじゃないし」
「…はい」
「じゃあ帰っていいよ。あとの具体的なことは副社に聞いて」
思っていた以上にあっさり話を切り上げようとする錫井に、大井澄は幾分慌てた。
「あのっ」
「何?」
「僕の個人的なことで…ご迷惑をおかけしました」
社長室に呼ばれたとき、もっと謝り倒すことになると思っていた。
否、謝り続けたかった。
ようやく東京で大きな仕事を継続してもらえるようになってきた矢先のスキャンダル。
そしてそれ以上に――目の前の、愛しい人への裏切りだったから。
なのに、その愛しい人は。
「いや別に。事務所としては問い合わせに応対しただけだから。
これくらいのことなら今後にも何も影響しやしないから、心配しなくていいよ」
あくまでも事務的な優しさで答える。
社長として、所属タレントをむしろ気遣っているような穏やかな態度だった。
けれども、それで「ああよかった」と部屋を去れるはずもない。
「…社長」
往生際悪く、けれども何と切り出していいかわからない様子の大井澄に
錫井は小さく笑った。
「君は多分個人的に僕に言いたいことがあるんだろうけど」
「…はい」
「僕としては別に聞くことはないんだ」
その言葉に、大井澄は身を固くする。
何か言おうとするのに、気付けば逆に唇を噛み締めていた。
椅子に座ったままの錫井が、上目遣いを送る。
「なんで泣きそうな顔してるの。わかってたでしょ?
君が誰と付き合おうと僕は何も言わないって」
椅子の肘掛に肘をついてもたれながら、どこまでも穏やかな――大井澄にとっては、
残酷なまでの穏やかさで諭すように言う。
「聞きたくねえって突き放してるわけじゃないよ。僕には聞く必要がないことだから。
僕は、君にあげられるものは全部あげるって約束した。
だけど、僕では君にあげられないものがある。
それが欲しくなった君が、僕以外にそれを求めても何もおかしくない」
そして、ふと思いついたように言葉を足した。
「あ、それとも僕から聞いてあげたほうがいいのかな?
僕との今の関係をやめたいの?」
「違いますっ」
錫井の言葉が終わるか終わらないかのうちに、叫ぶ。
そうじゃない、全く逆だ。ただその思いがなんて言葉にすれば正しく言えるのか、
大井澄にもわからない。
「違…」
それきり声は続かず、ただ錫井をみつめるしかできない大井澄に、
錫井は困ったように笑う。
「だからなして君が泣くの。なに、君は女性とスキャンダルになったことを
僕に慰めてほしいの?」
いたずらっぽいようにも、揶揄しているようにもとれる口調だった。
大井澄は必死に自問自答する。
(俺はこの人に何を言いたくて、どうしてほしくて、今ここにいるんだ。
ひどい女に当たっちゃったね、って言ってほしいのか?)
そして、その気持ちが皆無ではないことに愕然とした。
(俺が口説き落として、人の道に逸れてまで俺を受け入れてくれた人に?
そこまで俺はご都合主義だったか? そこまで俺はこの人に甘えるのか?)
そんな大井澄の心が読めるのか。
「まあ正直ね、君にそんなに泣かれちゃうと慰めてあげたくなっちゃうんだけど、
それじゃ僕が間抜け過ぎちゃうからね、してあげないよ」
それがさっきまでの少し距離を置いた穏やかさではなくて、二人きりのときの
甘やかさが混ざった声だったことが、大井澄の胸をさらに締め上げた。
駄目だ。許さないで。そんな優しさで、今回のことをなかったことみたいにしないで。
「俺っ」
「うん?」
「俺、社長に嫌われると、終わりだって言われると、思って」
「だからどうして?」
(だって俺はあんたに黙って女と寝てたんだよ。
あんたって二人といない恋人がいるのに!)
そう叫びたかった。けれども、答えはわかっていた。
家庭のある自分が付き合っている時点で、大井澄が浮気をしようとどうしようと
一切口を出さない。錫井がそう思っていることは、口にはっきり出したことはなくても
大井澄は十分承知していた。
「最初に言ったよ。君から始めたことだから、君が終わらせない限り終わらないって。
だからもしかして終わらせたいのかなあって思って聞いてみたけど違うって言うし」
二人の関係を続けるのも終わらせるのも大井澄次第。
他に誰と付き合おうと、自分と付き合う気があるなら付き合い続ける。
終わりにしたいなら終わりにする。自分からは何も言わない。
それが錫井の、この関係に対するスタンスだから。
「覚えておいて。少なくとも僕には、自然消滅なんてありえない。
今回のことで学んだと思うけど、終わりにするときはきっちり終わりにしなさい」
そう言って錫井は机の上のファイルを書棚に戻すために立ち上がった。
「俺はっ、俺のやったことは、」
その背中に大井澄の声が縋りつく。
「あんたを…傷つけた?」
ふりむいて笑った錫井の顔は、子供をあやすようだった。
「聞いてどうするの? どっちに答えても落ちこむくせに」
そのままドア近くのコートかけにかけたあった上着を羽織ると、
もう一度机に戻って置いてあったバッグを手にした。
「さて。それじゃ僕は先に帰るよ。じゃあね」
大井澄の横を通りすぎ、閉ざされていた社長室の扉を開けて、錫井が出ていく。
その後姿を見送ることも出来ないまま、大井澄は口を片手で覆い、嗚咽を押し殺していた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
- ぎゃあああ、いまさら萌えました! -- 2011-10-27 (木) 01:56:00
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