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みうらさん、本気かよ!

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマスヨー!

※もうすぐ渋谷公会堂で公開プレイが開催されるMJ×SI
※ナマモノ、中年、文化人注意
※とんまな感じです。

 「どうせ俺達さあ、ホモだって思われてるんだから。ホモになっても一緒じゃない?」
 「ぜんぜん違うだろ! うわさすりゃ本当になんなら、『噂の真相』潰れてねえよ!!」
 「あ、そう?」
 オレの渾身のツッこみを、いつものネズミ笑顔で流す、みうらさん。その鼻息が、オレの眼鏡を曇らせている。
 「でもさあ。俺はチャンスだと思うんだ」
 更に説明するならば。心をこめて世話をした植物が揺れるベランダの窓ガラスには、
 床に寝転がったオレと、オレに馬乗りになるみうらさんの姿が映っており、
 窓際に置いたテレビでは、前回のスライドショーの映像が流れ、
 みうらさんのとんまなスライドに、はしゃいだオレがツッこみを入れている。
 過ぎし日のオレよ。知恵を貸してくれ。オレは、どうしたものか。
 「だって他の奴とホモになったら、お互いすごい騒がれちゃうじゃん。
  俺なんか、こないだ離婚したばっかだから、マスコミの食いつきが違うよ。
  いとうさんだってさ、娘さんとか、浅草のご町内の人とか、顔向けできないだろ。
  でもさ。俺といとうさんがホモだったら、みんな『ああ、やっぱり』って言うだけだよ。
  このチャンスをさ、逃すことはないじゃん」
 「だから、なんでアンタ、ホモ前提で話進めんだよ!」
 去年のオレが笑う。テレビの中で。
 オレよ、オレを裏切るのか。
 禅問答な気分になっている間にも、みうらさんの鼻息はどんどん荒くなる。
 鼻息だけではない。オレの浴衣のあわせは、着々とみうらさんの手によってはだけられており、
 お得意のカメラのフラッシュが、何度もたかれている。
 まさかとは思うが、今度の全国ツアーで、オレたちのホモスライドを映すつもりか。

 「わかんないけど、アレかな」
 「まぶしいっつってんだろ!」
 至近距離で怒鳴ったため、みうらさんのサングラスに、オレの唾が飛んだ。
 ブラックホールに弱々しく輝く新星の光、そんな修辞が浮かぶ間に、唾は乾いた染みになる。
 シャッター音、胸元をまさぐる手、煙草くさい息はお互い様だが、より、みうらさんのほうがヤニがきつい気がする。
 「うん。ごめん。アレだよ、レオピン」
 フラッシュを取り外し、再びシャッターをきるみうらさん。そっちじゃねえだろ!
 「キヨーレオピン?」
 にんにくを主成分とする薬液、キヨーレオピンが、滋養強壮に良いとオレに教えたのはみうらさんだった。
 体調が優れないし気分も浮かない、そうぼやくオレに、みうらさんは明るく言ったのだ。レオピンいいよ、と。
 以来、オレは、みうらさんの薦め通り、レオピンを愛用、いや、レオピンに頼った生活を送っている。
 「レオピン飲んだから。いとうさんの家来る前。今日も元気出すぞーって」
 「そんな元気いらねえよ! みうらさん。オレ今、本気であきれてるよ」
 「そーお?」
 シャッター、ネズミ笑い、シャッター。混じって、帯が解かれる音。
 いや、音だけが感じ取れるわけではないのだが、オレの脳は、音声以外に、現状をモニタリングすることを
 拒否しているため、みうらさんの指がどこに触ってどうのとか、体温がどうのとか、
 同じく、寝覚めに鬱の気配がしたためレオピンを飲んだオレの身体が現在どうであるとか、
 そういった、他の感覚器官に関する描写するわけにはゆかぬのだ。断じて。
 「だから撮んなよ!」
 手が出た。頭をこづいた衝撃で、みうらさんのサングラスがずれる。
 ねずみ笑いしたみうらさんの目が、血走っているように見えたというのは、
 ポルノの文脈に沿いすぎた印象であり、真実ではないだろう。そう願いたい。

 「やっぱ和だよね。和のエロス。仏(ブツ)と同じフェロモン出るよ、和は。
  いとうさんだってさ、俺が遊びに来る日にわざわざ仏(ブツ)スタイル着てるってことは、
  フェロモン接待するつもりなんでしょう」
 「浅草来てから和服凝ってるって、アンタになんべんも言ったでしょうが」
 浴衣を、仏(ブツ)スタイルと呼んだところで流行る見込みはないし、もはや今年の夏は終わるのだ、
 録画映像のオレならば、そうツッこんでいただろう。いや、フェロモン接待のほうか、指摘すべきは。
 「来たね、マイブーム。いとうさんのマイブーム、今、和服なんだ。気が合うじゃん俺たち」
 「だから何十編も言ったって5秒前に言ったよ!」
 「そーお? まあいいじゃん。とにかくさ」
 みうらさんがカメラを床に置く。
 両手が、オレの肩をがっちり捕まえ、床に押さえつけた。
 「俺、決めたんだ。いとうさんと、本物のホモになろうって」
 
 
 何故、オレはみうらさんを振り払おうとしないのか。
 「この場合、眼鏡をかけたままホモになるべきなんだけど、実際、ジャマだよね。ほら」
 サングラスのフレームが、オレの老眼の入った眼鏡にがつがつぶつかる。
 すなわち、みうらさんはオレにキスしようとしているのである。
 四十も過ぎた男が、やや年少とはいえ、中年と呼ぶのもおこがましい眼鏡野郎に。
 「わざとぶつけんなよ! こないだレンズ替えたばっかなんだから」
 そこじゃねえだろ、と、去年のオレがツッこむ。そう、問題はそこではない。常に、そうした表層の事象ではない。
 オレは何故、うやうやしく両手で眼鏡を外すみうらさんを、放置しているのか。

 お互いレオピンの力を借りている、体力的には互角、そのうえオレのほうが僅かばかり若い。
 互いに中年と呼ぶのもおこがましい年齢にさしかかりつつあり、不摂生な生活を送るみうらさんよりも、
 精神面では躁鬱のけがありながらも、健康に気を配り、オフの日には病院廻りを欠かさぬオレのほうが、
 腕力も体力も持久力もある。力ずくで、引きはがせない相手ではないのだ。
 では何故か。決まっている。走り出したみうらさんは、止まらない。
 本人が飽きるか、懲りるかするまでは、誰がどんなに止めようが、愚弄しようが、笑おうが、
 どうあっても、止まらない。そして、オレもそう嫌ではないのだ。みうらさんとホモになることが。
 「俺、前も思ったんだけどね。いとうさん、眼鏡はずすと目、大きいよね」
 「何十年も付き合いあんのに、今思いついたみたいに言いますかね」
 「言うべきタイミングってあるじゃん。今だもん。タイミング。言うしかないでしょ」
 ヤニくさい指が、眼孔をなぞる。心底ヤニくさい。日暮れ前、土いじりを手伝わせたせいもあり、
 土とヤニの匂いが、つんと鼻をつく。
 「タイミングを言うなら、なんで今なんだよ。せめて三十代のうちでしょうが」
 ホモになるなら、チャンスはいくらでもあった。
 仏友として、全国の寺院をめぐった日々、二人、異国のホテルで心細さを噛みしめた夜、
 ハワイでスライドショーをやった時でもよかった。女装バンドの時でも。
 何故、それが今なのだ。理屈が通らぬことに我慢できないオレは、それが、気になった。
 もとより伝統文化に衆道はつきものであり、興味はある。相手を選ぶならば、若さと美貌だけが売りの
 そこらの青少年よりも、長年の付き合いで気心の知れたみうらさんと、という心境でもある。
 だが、何故今なのだ。オレが気がかりなのは、もはやその一点のみであった。
 「逆に考えようよ、いとうさん」
 片手で器用につるを畳み、みうらさんが、カメラの脇にオレの眼鏡を置く。
 TVの収録の時に教えた通り、大きな音が鳴らぬよう、つるをクッションにしている。感心した。
 「四十だからさ、最後のチャンスだよ。これでズルズル五十になったらさ、
  俺たちホモどころじゃないよ。死とか、迫ってくんじゃん」

 「タナトスを身近に感じたからこそ、エロスを求めるもんじゃねえのかよ」
 「俺、正直自信ない。だってさ、相変わらずカスハガは集めなきゃなんないし、
  とんまつりもようやく認知されてきたしさ、ゆるキャラもブームになったし、
  やりたい事は山ほどあるわけさ。なのに五十の俺は、今の俺より動きが鈍いよ。時間がかかるんだよ。
  ホモとかさ、慣れないことは、今のうちに手をつけておかないと。新しい挑戦はできなくなるよ」
 一理ある。老いることは、新しいものを拒絶していくことだ。
 現在のオレの意志にかかわらず、オレの脳髄は徐々に硬化し、新しい世界を受け容れることはできなくなる。
 なにかを始めるならば、今だ。みうらさんの主張は正しい。
 たとえ、みうらさんの掌が脇腹や胸をまさぐり、舌が顔中を舐め回し、サングラスが頬に押しつけられ
 貼り付いてははがれていようとも。
 「もういいよ、めんどくせえ。好きにしろよ、みうらさん」
 「やったあ」 
 じゃあ俺も、そう言ってみうらさんは、相変わらず「珍妙」としか言いようのない柄のTシャツを脱ぐ。
 たるんだ腹は、あきらかに四十代の中年男のものだ。
 オレはみうらさんの腹をつまみ、揺らした。たぷたぷと肉が揺れた。みうらさんは笑って、接吻しようとした。
 瞼に貼り付くサングラスは、オレの顔の脂と、オレの唾が作った染みで、白く曇っている。
 「いいけどさ。アンタのサングラス、じゃまじゃねえのか。みうらさん」
 「あっ、そっか」
 慌てて外したサングラスが、がちん、床にぶつかる。折り畳んで置けよって言ったろうが。
 「いとうさんから見て、サングラス外した俺、どんな顔に見える?」
 「眼鏡取ってんだから、見えるはずないだろ!」
 「そっかあ」
 みうらさんはねずみ顔で照れたように笑い、それから、オレたちはとうとう、本物のホモになったのだ。
 テレビの中、一年前のオレたちの映像にツッこまれながら。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタッ!

  • すげえ・・・。 -- 2015-03-03 (火) 00:01:15

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