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河合卓

河合卓かわいすぐるよということで河合卓AAからです。
高等科の話です。
>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 特定の上級生たちの怒号が廊下の先々でこだましている。もう毎朝の慣習のようになっているから、
どの声が誰某か当ててみせることが出来て僕は同級生からちょっとした尊敬を集めている。
 例の八人の上級生たちに朝っぱらから引き止められてああだこうだと言われるのには神経が
ほとほと弱る。最初の頃は義理で付き合ってはいたが、日を置かずせかせかと付き纏われたのでは
閉口する。だから最近は彼らと遭遇しないよう、秘密の裏口から学校へ入るようにしている。
これは下級生に駄賃をやって作らせた物だ。
 今日はもう直ぐ人と会う約束があるのだが、出かける前に教室へ寄っていかなければならない。
昨日提出し忘れた日誌を先生へ届けるようだった。
 教室を覗くと人はまばらだった。だから僕の机の傍らに居る友人が目立った。
 僕に気付いた二ツ星はきまり悪そうな態度を一瞬見せ、それから「やあやあ」と快活に捲し立てながら
近づいて来た。何故か二ツ星の雰囲気に呑まれてしまって、「その日誌を取ってくれ」と言えなかった。

「よ、お早う朝川。今朝はいつもより早いんだな」
 「うん、用事があってね」
 教室の戸に寄りかかる格好の二ツ星を退けて行こうとしたのだけれど、二ツ星は通せんぼの
姿勢を崩さない。
 「煩い奴等だよ。朝から晩まであの調子らしいぜ」
 喧騒の出所を顎でしゃくって、二ツ星は僕へ目配せする。僕は二ツ星の要領の悪い会話に焦れた。
 「なあ、すまんが通してくれ」
 「お、日誌だろう?」
 二ツ星は厳かにそれを僕へ差し出した。僕の顔を覗き込んで、してやったりの様子だ。
言う前に気付いていてくれたのだろうか。驚いた。
 「・・・・・・あ、あぁ。そうだ、これだよ。ありがとう!」
 「こういう時、外国ではトンクスって言うんだぜ」
 「え? 変わっているな。英語でもなさそうだ」
 二ツ星に礼を言い、僕は約束の場所へと駆けた。教室の掛け時計が待ち合わせの時間をとうに越していたのだ。
 「ぼんやりしている訳じゃなさそうだ」
 僕は実は気の利いている友人に満足した。更に二ツ星は、落第しそうな成績を省みて熱心に勉学に励んでいるようだ。
 「しかし、トンクスって言葉は何語かなぁ。聞くのを忘れてしまった」
 事が済んだら教えてもらうことにしよう。
 思わぬことに動揺してばらばらになった思考を引っかき集める。慣れない駆け足のためすぐ汗ばむ。
 「伊田君に会わなけりゃ」

日誌は無事先生の元へと届き、僕はやっと目的地へ到着した。養護室の戸を軽く叩く。
 「おおい・・・伊田君、伊田君」
 返事が無い。ただの空室のようだ。
 「困った。僕が遅いのを苛立って帰って行ったんじゃなかろうな」
 「そんなわけないだろう」
 突然、音もなく戸が引かれた。伊田君の恰幅の良い体が目の前に立ちふさがる。
 驚きで心臓がどくどくと早鐘を打っているが、下級生に情けないところを見せられない。
 僕は面食らいながらも口を開く。
 「・・・・・・きみ、な。下級生なんだから敬語を使いなさいよ」
 「へえ。でもぼくは藤先輩の同胞ですから。ウエでもシタでもありません」
 「しかしだなぁ、今はほら、ほらちゃんとしているぞ。どういうつもりだ」
 全くどういうつもりとはどういう事だ。自分でも言っていることが把握できない。
 僕はこの伊田 勝(いたすぐる)と言う下級生、そして校則破りの共犯者が会う度
苦手になってきている。
 「・・・・・・フゥン。まあ気分で使い分けているだけですから、先輩も付き合って
くださいよ。それより」 
 伊田君がずいっと手を出す。切り替えの早さに一時置いていかれたが、僕は大慌てで
伊田君の掌に瓶を押しやる。
 「道路工事の見返りにしちゃあ少ないんだがねー」
 文句を言いつつも満足そうな表情だ。しかし伊田君の言う天照第三の刺客と対等になれるとは何だろう。
 まあいい。もう関係の無いことだ。僕はほっとする。もうこれで伊田君と会うのは最後になる。
それでつい気が緩んでしまった。口が滑った。
 「通路ったって、君。木の囲いをぶち破っただけじゃない」
 「誰に必要なのかなんて聞かないがさ、精神安定剤なんて物騒だからやめなさいよ」
 伊田君も去るものだと思って、僕は彼に背を向けた。
 「言ってくれますね」
 背後に気配を感じて振り向こうとすると「おっと」などと言いながら伊田君は僕の視界をその大きな手で
遮った。中途半端に向き合うような体勢は妙に緊張する。

「伊田・・・・・・やめてくれよ」
 もう威厳もへったくれもないのだろうが。「すまん」と謝ると、伊田君は案外あっさり「それでよろしい」
と謝罪を受け入れた。だが空気は気まずいままだ。僕は何となく帰る気にならなかったが、だからと言って
何もないので取りあえず誤魔化しに目を擦る。
 伊田君が初めてあの目つきで僕を見ている。上級生なんかがやる、僕の気に食わない目つきだ。
 「なんだい。気味悪いね。君がだんまりなんてさ。静かになるのが嫌いなくせに」
 顔を弄る事でしか気を紛らわせられない。目の周りがひりひり痛む。伊田君は止めようとしない。眠そうに細めた目で
僕の体を眺めているようだ。頭のてっぺんから順繰りに足の先まで視線が這う。
 「きっ、気分が悪い」
 僕は、今度こそと逃げの姿勢を取る。伊田君はというと、ただ僕に付いてくるだけだ。横に並んだ伊田君は僕を見ずに喋った。
 「朝川さん。朝川さんはぼくを選びましたね。それはぼくが他の奴等とは違ったからでしょう。
朝川さんはぼくを信じていたんです。ぼくなら朝川さんを「見ない」だろうって。でもそれは大きな間違いですよ」
 「ぼくは朝川さんをずっと見ていました」
 僕と伊田君は立ち止まった。伊田君の真剣な声からは逃げてはいけない気がしたのだ。そうだ確かに伊田君は誰とも違う。
 「・・・・・・ずっとって、どれくらい」
 「そりゃ・・・・・・わかんないです。ず、ずっとはずっとでしょ・・・・・・!」 
 僕は伊田君を見た。正面から見た。僕が黙っていると、伊田君はらしくない表情で僕を見返した。
 「本気なのかな」
 伊田君の目がゆらゆらとあちこちへ動く。僕は一歩、距離を詰めた。
 「・・・・・・そう、です。本気で朝川さんを慕っています」
 「そうか」
 伊田君はもう震えてはいなかったし、いつも通りの堂々たる姿を取り戻していた。だから僕も燻っていた気持ちを確かめるべく
言葉を繋ぐ。
 「いいね」
 「は」
 「どうかな、同胞。僕の君への苦手意識の正体を教えてほしい」
 「ええ・・・・・・」
 二人揃って、歩き出す。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
長くてすまんかった・・・orz

  • ワカッテマス -- 2011-03-30 (水) 01:42:07

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