バンダナ×小鹿
更新日: 2011-04-27 (水) 13:06:25
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└──────│ドラマ「小鹿!」より、バンダナ×小鹿です
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きっとこれは病気だ。
あいつのせいで俺は病気にかかったんだ。
地元でチヤホヤされて調子に乗った若造が、その勘違いを丸々背負ってウチの店にやってきた。
オーナーのお気に入りだかなんだか知らないが、
実力の伴わない自信と勝手な持論を、人の土俵で繰り広げる図々しさに腹が立った。
何かやらかすたびに苛立ちが募り、たまらず殴ったこともある。
こっちは人生かけてやってんだ。ブロードも満足に作れない奴が、一人前みたいな顔してんじゃねぇよ。
気に食わない、気に入らない。とはいえそれも少しの辛抱だろう。
どうせあんな奴はすぐに、現実に耐えられなくなって逃げ出すに決まっている。
だけど一週間たっても二週間たっても、あいつは辞めやしなかった。
悩んで落ち込んで壁にぶち当たりながら、それでも前に進もうとしていた。
バカ正直で頑固で負けず嫌いで単純で、懸命。今まで逃げていったどの新入りとも違った。
生まれて初めて関わる人種に戸惑う。調子が狂う。
毎日くるくると印象が変わっていく。
腹が立つだけの存在だったのに、気付けば視線が彼を追ってしまう。
いつしか苛立ちは焦燥に変わって、
声を聞く度に笑いかけられる度に、棘が刺さるような痛みを感じるようになった。
それが嫌で冷たくあしらえば、大げさな位傷ついた顔をされて、余計に胸の奥がチクリとした。
脳が熱を持ち、思考がぐるぐる回る。平穏でいられない。
きっとこれは病気だ。
肌に合わない奴に対する、アレルギー反応みたいなものだ。
俺は多分、あんな人間と関わったせいで、おかしくなったに違いないのだ。
「あ」
声を上げたのはどちらが先だったか。
明日の仕込みと帰り支度を済ませ控え室から出ると、厨房とホールとを繋ぐ狭い通路の途中で
小鹿がぺたりと座り込んでいた。まだ帰ってなかったのか……というか、こんな場所で何してるんだ、こいつ。
怪訝そうな視線を向ければ、小鹿は手にした紙の束をひらりとこちらに向けた。
「ヨナさんにもらったんです、最低限覚えてほしいイタリア語一覧表」
見覚えのあるレイアウトが目に入り、そういえば入りたてのころに俺も同じものをもらったことを思い出す。
一番最後のページにはでかでかと『愛だよ』なんて書いてあって、思いきり脱力させられたアレだ。
「……家帰って覚えればいいじゃねぇか」
「いや、なんとなくここんが覚えやすい気がして」
小鹿は相変わらず座り込んだまま、「寮でイタリア語ってのも、雰囲気出なかね」と笑った。
そういうことじゃねぇって。お前がそこに座ってちゃ、俺は帰れないんだよ。
ウチの店の通路が、体を傾けなきゃすれ違えないほどの狭さだってのは、ホールのお前が一番よく知ってるだろうが。
じろりと一睨みすると小鹿はやっと状況に気付いたようで、「ああ、」と呟いて立ち上がった。
小鹿と通路との間に出来た僅かなスペースに体を滑り込ませようとした瞬間、いきなり声をかけられる。
「蚊取さん、コレどのぐらいで覚えました?」
「……あ?」
突然のことに思わず立ち止まった。
すぐに後悔が襲う。立ち話をするには、ここはあまりに狭すぎる。
もう少し広い場所に移動しようとしたが、小鹿がわざわざこちらに向き直るものだから
なんとなくそのまま動けなくなってしまった。
……近い。
「俺、それこそ「ベーネ」とか「ポルタ」みたいな単語やったらさすがに分かるんですけど、
まだオーナーの朝礼の挨拶なんかは分かんない部分がえらいたくさんあって」
「……まぁ、そのへんは慣れだろ。言語だし」
「そうゆうもんですかね。早く覚えなきゃって思っとるんですけど」
「そりゃ、お前みたいな馬鹿は時間かかるだろうけどな」
つい悪態をつく。脳が熱を持ち、思考がぐるぐる回る。平穏でいられない。これは病気だ。
俺の言葉に小鹿はむっとした表情を見せて、少し唇を尖らせた。
「どうせ俺は馬鹿とよ。あとは、恥ずかしいってのもあるけんど」
仕事中にはほとんど聞かない博多弁が混ざる。
普段はこんな風に喋るのかと、よく動く唇から目が離せなくなった。
帰るタイミングはすっかり失っている。
「やけど覚えても、やっぱりヨナさんみたいにはいかんと思いますけど。
ほんとはちょこっとやってみたいんですけどね、お客さんにウインクしながら『ボナペティート!』、なんて」
「……ボナペティート?」
耳馴染んだ台詞だが、少なくとも厨房では使わない単語だから記憶が曖昧だ。
少し考えれば思い出せそうだったものの、それより先に疑問が口をついた。
「あれ、蚊取さん覚えてなかとですか?」
小鹿はなんとなく得意気な顔をした。いつも下っ端扱いされてる分、小さな優越感が笑みに変わったのだろう。
その態度が癪に障ったが、黙っておく。
いちいち噛みつくのも大人気ないし、なにより息すらかかりそうなこの距離ではあまり口を開く気にもならなかった。
そんな俺に小鹿は余計に気を良くしたようで、更に笑みを深くして少しだけ歩を詰めてくる。
それだけでもこの狭い通路では距離を無くすに十分な行為で、もう俺たちの間には皿の一枚も入りやしない。
気まずさに俯きがちだった顔を、ちらと上げる。
長い睫に目を奪われれば、すぐさま視線がかち合った。
「ボナペティートはですね、」
微笑まれる。
「召し上がれ、ですよ」
瞬間、脈が信じられない速さで流れだした。
距離に、表情に、非日常的な単語の響きに、あっという間に引き金が引かれる。
こんな衝動には、覚えが無い。
気付いたら体が勝手に動いていた。
目の前の小鹿の腰を引き寄せ、もう一方の手で小さな顎を掬う。
呆けた顔をする小鹿の紅い唇に、自分のそれをぶつけるように重ねた。
「蚊取さ……っ」
小鹿が語尾を飲み込む。目を見開く。でかい瞳が余計丸くなる。
一瞬で離れた唇は、それでも濡れて色を増していた。
10cmも無い距離の中、小鹿は何が起こったか分からないという顔をしていたが、それは俺も同じだ。
……俺は一体、何を。
「……ッ」
未だ呆然としたままの小鹿の肩を両手で掴んで、壁に押し付ける。
それを反動にして俺は思いきり駆け出し、廊下を抜けホールを抜け、外へ飛び出した。
走る、走る。とにかく遠くへ走った。
バイクは店に残したままだ。こんな状態で運転して、事故でも起こしたらたまらない。
どれぐらい走っただろうか、辺りは見覚えもない住宅街に差し掛かっていて、
等間隔に設置された電灯だけが、辺りを煌々と照らしていた。
切れた息を整えるようにガードレールにもたれ掛かる。
額に溜まった汗をぬぐえば、袖口がじっとりと濡れた。
時計はもうすぐ12時を回る。明日もまたいつも通り仕事だ。
小鹿が毎朝見せる笑顔と、さっきの驚いた表情とを、脳内で繰り返し再生する。
俺は明日どんな顔で、どんな言葉で彼に向かい合えばいいのだろう。
「……どうすりゃいいんだよ、俺は……」
自問すれど答えは出ない。
ただ唯一感じたのは、
この病は一生治らないんじゃないかという、ほとんど確信に似た想いだけであった。
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|│ロ stop. │|
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ピッ ∧_∧
◇,,(∀・ ;) <博多弁むちゃくちゃです。拙い文でスマソorz
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