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イ反面モノ

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

78の続き(でもいいし、雰囲気違うんで別物でもイイですが)で、キクホン←キンでちょと切なめ。
こういう感じでここまで書きたかった。棚お借りします。

プリン争奪戦もなんとか無事に終わり、原色のクリームが乗ったコーヒーを機嫌よさそうにすすっているモモタロスとウラタロス。
二人の目を盗んだキンタロスが良太郎の手を最大限の優しさで掴み、食堂車両から連れ出していた。
「キンタロス、お腹空いてるんじゃなかったの?ナオミさんにチャーハン頼んでおいたんだけど…」
「そうなんか?それやったらあとでもらうわ。…あのな、ちょっとついてきて欲しいんや」
連結部まで足音を忍ばせて辿り着いたキンタロスはようやく良太郎の腕を離し、顔の前で手を合わせて頭を下げた。
「え?どこ行くの?」
「それ以上聞かんとお前の身体、使わせてくれんか?」
身体貸してくれたらわかるで、そういうだけでそれ以上語るつもりはないらしい。
「…わかった。何かしたいことがあるんだね。僕の身体、好きに使っていいよ」
つい先程の戦いで疲労している身体をそれ以上酷使するのは危険かもしれない。
しかしその危険を認識した上で良太郎は穏やかに笑って頷いた。
「おおきに!助かるわ!」
その答えを聞いて、キンタロスは嬉しそうに笑って良太郎の両手を握った。
嬉しさのあまり今度は手加減することを忘れてしまったのだろう。良太郎は痛みに少し歪んだ笑顔を一生懸命浮かべていた。

「キンタロス、本当にここでいいの?」
(ああ、ええはずや。あいつはいつもここらを走ってたんや)
「この時間に?」
(…確か、そうだったと思うで)
「ええぇ?…頼りな…」
(おっ!きたみたいや!)

シュッ!シュッ!!

風を切る音が聞こえる。その音と共に衣擦れの音。そして人が軽快に走る足音が聞こえる。
「ほんとだ、本条さんだ…!」
(な、ゆうたやろ?間違えないで俺は)
得意そうなキンタロスの声が良太郎の頭の中に響く。暗闇の中、薄ぼんやりとした街灯に照らし出されたのは、あの本条だったのだ。
汗を光らせながら走る姿はもう、病人だったあの時と同一人物とは思えないほどの力強さを感じさせている。
ただの病人でいるわけにはいかない、『特別な理由』を見つけたからだろう。時の流れがほんの少しだけ変わったのかもしれない。
「本条さんに、逢いたかったんだ」
(えー、まぁ、なんや、逢いたいっていうのとはちょっと違うわ)
「え?」
(ただ、どうなってるのか見たかったっちゅうとこかな。ちゃんと空手、できてるのかなぁと思うて)
「…そっか。あの様子ならきっと空手できるね。もうしてるかも…どうする?」
(ん?どうするって何が?)
「話しかけてみる?僕の身体を使って」
(え?いいわそんなん、あいつが見られたらそれでええよ)
「遠慮しないで。ね、キンタ…」
(しっ、静かに!)
シュッ!シュッ!!
先程とほぼ同じような風を切る音が聞こえる。その音と共に、やはり何かの衣擦れの音と、そして人が走る足音が聞こえる。

「おい本条、あんまり飛ばすなよ!」
「もう平気だって…菊池は心配性だな」
「今年こそお前とのケリを絶対につけたいからな。心配にもなるさ」
「……ありがとう。だがそれなら、なおさら自分を甘えさせるわけにはいかないな」
「ふっ…本条らしいよ。よし、ジムまでもう一走りするぞ!」
「ああ!」

二つ並んだウィンドブレーカーの背中が暗い夜道にすぐ見えなくなっていった。
「…よかったの?」
草むらに身を隠し、息を殺していた良太郎が、二人が消えた夜道を見つめながら一人呟いた。
(当たり前や。ハナからそのつもりやったしな)
その呟きに、キンタロスは何事もなかったように応えた。
「キンタロスがそういうならいいんだけど…あれ?」
眉を寄せつつ屈めていた身体を伸ばす良太郎が小さな驚きの声をあげた。
(どうした?)
「うん、あそこにね、何か落ちてるんだ」
キンタロスの問いかけに良太郎が指差す。そこには街灯に照らされている、
真っ白いものが見えた。慌てて駆け寄りそれを拾い上げてみる。
「ハンカチ?」
それは純白のハンカチだった。まだ一度も使ってないようなとても綺麗なもの。
「…誰か落としちゃったのかな。名前書いてないな」
良太郎の財布とは違い、落とされることを仮定されていないそのハンカチには当然名前など記されていなかった。
「どうしようこれ…」
警察に行っても相手にされないだろう。かといってそのまま見なかったことにできる人物ではない。良太郎が途方に暮れかけた時…。

「すみません、そのハンカチ俺のです」
「あ、本条さん…!」
「え?」
突然闇夜に声を響かせたのは、立ち去ったばかりの本条だった。
「……今、本条って?」
良太郎が思わず零してしまった名前に怪訝そうな表情を見せる。それも無理はないだろう。夜道でいきなり見ず知らずの男に名を呼ばれたのだから。
「あ、あの、その」
「以前どこかで会ったことが?」
「えっ、ええと、僕じゃなくて、ええと…!」
「……?」
突然のことに良太郎はうまく喋ることができず、うつむいてしまった。そんな彼のことを、本条は訝しげな眼差しで見つめる。
「…いきなりですまんなぁ、本条……さん。実は俺も空手やっててな。そんであんたの名前も知ってたや」
「…空手?」

しどろもどろだった少年が突然元気よく語りだした、しかも人が変わったような口調で。
頼りない光でははっきり見えないものの、顔つきまで変わったように思える。不審さは残るものの、本条は『空手』という言葉に少し警戒心を解いていた。
「去年の決勝戦で倒れたって聞いてたけど、その後どうなん?今年はいけるん?」
「ああ、そのことを知ってるのか。今はまだ本調子じゃないが今年こそ必ず優勝するつもりだよ」
人懐っこい関西弁についつい本条も気を許し、敬語を使うことを忘れて語っていた。真剣でまっすぐな眼差しは、それが強がりでないことを物語っていた。
「そうかぁ。本条さん、今年こそ優勝できるようにがんばってな」
「ありがとう。…ええと」
「……良太郎や」
「良太郎くんもがんばれよな!そして大会に出られるくらい強くなって、俺と一戦交えようぜ!」
「ははぁ。そうや、ハンカチ忘れんうちに返すわ」
にっこり笑いながら真っ白なハンカチを差し出した。
「ああ、そうだった。ありがとう」
「…白いハンカチ好きなん?」
「え?ああ、なんか落ち着くんだ。柔道着に似てる色だからだろうな、きっと」
「なるほどなぁ。それじゃ俺も持つことにするわ、白い『ハンカチ』」
「そうするといい。きっと落ち着く。それじゃ俺はこれで!」
白いハンカチを受け取った本条は笑顔を残して走り去った。その背中に手をゆっくりと振る少年。
「………」
曲がり角まで走っていった本条は、姿を消す直前一度だけ振り返った。
彼の瞳には淡い光に照らし出される少年が映っていた。
明るい満月の光を受けているためか、金色に輝く瞳、そして一筋だけ金色に輝く長い髪を風になびかせる優しくも哀しい切なくなるような笑顔が印象的で、目に焼きついて離れなかった。

他人から見れば、夜道を歩く一人の少年がぶつぶつと独り言を呟いているようにしか見えなかっただろう。
(ねぇ)
「なんや」
(いつか、本条さんと空手で戦えるといいね)
「……俺は空手を知らんから戦えないわ。それにアイツにはええライバルがもうおる。これ以上必要ないで」
(…キンタロス、一つ聞いていい?)
「なんや」
(イマジンって、泣くの?)
「はぁ?んなわけあるかい。俺ら砂やで?泣けるわけがない」
(……じゃあ、悲しい時はどうするの?)
「悲しい時なんてない」
(……そう、なのかな)
「そうなの。俺は強さで泣かせることはあっても、泣くことなんてない」
(………)
「じゃあさ、そういう時がもしあったら…僕が代わりに泣いていいかな?」
(なんやそれ。バカか)
「……うん。バカだと思うよ。でも、キンタロスもね」
(…お前にいわれたくないわ。なぁ、良太郎)
「なに?」
(…今日は俺、紙もってないで?)
「うん、いいよ。気にしないで」

金色に輝く満月を見上げる真っ黒な瞳から一筋の涙が溢れて頬を伝った。
その雫をそっと拭い、優しく穏やかな笑顔を浮かべて自らの身体に腕を回す。
ぎゅっと両腕に力をこめる彼が抱き締めているのは自分自身などではなく、心優しい『砂』なのかもしれない。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

長々とお借りしてスミマセン。なんだか最後の方リョウ/キンみたいになりました。
コメントくれた姐さんありがとう!


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