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幼馴染の一方通行の恋

幼馴染の一方通行な思いを妄想しました。
>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

緑色の葉を見やり、やっと自分は息を吐いた。
あぁ、散ってくれたか、と。

「お前は好きなんだろうけどさぁ、俺は花なんかに興味ないよ」
幾日か前、そう言う彼をそれでもと説き伏せて外へ連れ出して満開の桜を見に行った。
全く彼は気分屋で我がままなので、一日中部屋にこもってプラモデルを作っていたかと思えば
次の日には飽きて「外に出ないなんて不健康そのものだ!」と叫んでいきなり海へと走り出して行く。
僕がやっと夕方に彼を見つけたとき、当の本人は水平線に沈む太陽に向かって何事かを大声で叫んでいた。
呆れるのも通り越して笑ってしまうほど自由な人間だと思う。
そして、それを許されている人間なのだとも思う。
彼の周りにはいつも誰かがいて、誰かしらに微笑みかけられている。
彼を中心としたその輪の中に決して自分は入れず、かといって割り込む勇気もない。
ただ、彼の幼馴染という事だけが自分の武器だった。

「もう俺、ウチ帰ってプラモの墨入れしたいのに…」
前を歩く僕はそういう彼の手を決して離さず、しかし顔を見はしない。
おそらく甘えたように唇を尖らせながら言っているのだろう。
いつもの彼の手だ。そうしていれば許してもらえると思っている。
本当にとても可愛らしくてとても憎い。
でも今日の僕は彼を許さない。
あの桜はとても美しかった。忘れっぽくて僕が昨日言った言葉を今日尋ねたところで全く覚えていない君でも、絶対に忘れない光景。
それをどうしても見せたかった。ちらとでも、今の彼の記憶の中に入り込みたいという僕の浅ましい思いを見せてやりたかった。
二人が共有するものが幼い時だけの思い出だけでは、もう満足できなくなっていたから。

「ねー、どこまで歩くつもり」
「もうちょっと…」
とうとう不機嫌をあらわにした彼に返す言葉は、僕自身が驚くほど弱い声だった。
何度も何度も、自分の頭の中で彼とのやり取りをシュミレートしているのにいざ声を出してしまうと押しの弱さがそこに出てしまう。
「本当にさぁ、勢いだけで俺を連れ出すとかやめてくれる?」
「ご、ごめんね、でも」
「まーお前昔っからそうだもんね。それまで黙ってるのに唐突に分けわかんない事しはじめたりするし」
「そうかなぁ…」
「そうだよ。俺の言う事にケチつけんな」
「うん…」
「桜は?」
やっと彼が桜に興味を持ったらしい。といっても引き返すのも面倒になっただけなのだろうけど。
「あそこ、河の近くで、ポプラに挟まれてる…」
「見えない」
「うん、見えない、ここからじゃ」
だからもう少し歩こう。そう言って僕は彼を振り返る。
「綺麗だよ。両脇に緑があるから、薄桃色だけ浮かんで見える」
「へぇ。んじゃ早く行こう」
そして前を歩いていた自分は、今度は逆に彼に引っ張られるように歩かされる。
てってってっと、走るのが得意な彼は僕の都合などお構いなしに自分のペースで走り続ける。
振り回されるのが嬉しいわけではないけれど、それでも手が離れない事は嬉しかった。

 そして、は、と彼は息をつく。

 そして僕の手を極自然に離し、顔を持ち上げ目を見開き、微動だにしないまま、震えた。

失敗した。

後悔なら彼と出会ってから何万回もしているのに、飽きもせずにまた自分は後悔していた。
気分屋の彼が、どうしたことかあの桜を大層気に入り毎日見に行っているのだ。
「桜が真っ赤になったんだ、明日あたり散るのかなあ。お前そーゆーの詳しいじゃん、どうなの?あの桜明日には散るのかな?」
「そうだね」
「あーもったいねぇな、散るの」
「来年も、咲くよ」
「そーゆーモンなの?や、俺本当にわかんね」
あぁそうだろう、彼には決してわからない。知ろうとせずに、誰かの言葉を待っているだけの彼には。
あぁこれは逆恨みなのだろうか。
美しいものに、誰だって心は奪われる。それを失念していた僕の計算違いだ。
彼のただの美しい思い出の中には、僕の存在など小さすぎてもう桜しか残っていない。
桜など手折ってやろうか、もう二度と咲けぬ様に。

しかし、またはたと冷静になってみれば桜には何の罪もない、ましてや彼にだとて。
ただただ、そこには自分の浅ましさだけが残っているだけだった。
だから早く、彼が新しいおもちゃに夢中になるか、それとも桜が全て散ってしまうか。
数日間、早くそのどちらかになってくれないかと僕は一心に願った。

さぁ、という静かな寂しい音で僕は目を開けた。寝入る前には聞こえなかった雨音に、僕はよからぬ事を考える。
春の雨は細く、冷たく、容赦なく花に降り注ぐ。

こんな顔を彼に見せられない。
しとどに濡れた緑の葉を見ながら、僕はようやく一つ息を吐き出した。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )ナンダカシマリガワルイネ!キニシナイケド!アリガトウゴザイマシタ!


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