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愛/棒 瓶×右←小

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )シーズン⑤終わって悲しくて、つい。

「右恭ぉさんっ!今日は何を食べましょうか~。」
警C庁 特名係の部屋。
正午を知らせる音楽が鳴り始めた途端、瓶山が嬉しそうに右恭に声を掛けてくる。
その様子は、いつものことながら、まるでご主人様に散歩をねだる愛犬の雰囲気だった。
そんな瓶山の様子を、呆れたような愛しむような、複雑な表情で見つめる右恭。
「・・・そうですねぇ。久し振りに天麩羅でも食べましょうか。」
「いいっスね!行きましょう、行きましょう!」
特注のハンガーに掛けていたスーツのジャケットを手に取り、優雅な仕草で袖を通して、
まさに部屋から出ようとした右恭の内ポケットから、着信音が鳴り響いた。
携帯電話を取り出し、液晶画面を見た右恭の表情に一瞬、緊張が走る。
その様子を見ただけで、瓶山は、電話の主が小乃田だということが分かった。
右恭は携帯電話を耳にあてながら、さり気なく瓶山の側を離れる。
「はい、椙下です。・・・・えぇ、・・・・えぇ、・・・・いずれにしろ、こちらに選択の余
地はないのでしょう?・・・・えぇ、・・・えぇ、分かりました。今から伺います。」
携帯電話を切ると、右恭は、ずっと自分の様子を見守っていたらしい瓶山に気が付いて、苦笑
した。
「申し訳ありませんが、これから出掛けます。」
「・・・官棒長のところですか。」
「えぇ。」
「俺も行きます。」
「その必要はありません。」
「でもっ・・!」
「下らない勘繰りをする暇があるのなら、仕事をしていて下さい。」
ピシャリと言われ、あからさまに傷付いた表情を浮かべた瓶山を見て、右恭は溜息をつきなが
ら付け加えた。
「瓶山君。君が必要になった時は、必ずそう言いますから。」

訪れた官棒室長の部屋で、小乃田から、ある事件に関する意見を求められた右恭は、取り
敢えず関係資料を預って検討することを約束した。
そして、小乃田が必要な資料を手渡そうと右恭に近づいた時、「おや?」というような表情
を見せた。
「あれ、お前、香水変えたの?」
「はい?」
「僕の知らない香りだなぁ。」
「ただの気分転換です。」
「―――これって、僕への当てつけ?」
「ご冗談を。」
「ふ~ん・・・、これがあの坊やの好みなんだ?」
「・・・用件が済んだのでしたら、これで失礼します。」
「ねぇ、椙下。もしかして、前の香りのままだと罪悪感に苛まれちゃうのかな?」
「官棒長、過ぎた自惚れは、真実を見抜く目を曇らせるものですよ。」
そう言ってさっさとドアに向った右恭は、ノブに手をかけたところで振り返り、
「それに罪悪感ではなく、後悔の念、の間違いでしょう。」
言い残してバタンとドアを閉めた。
部屋に1人残された小乃田は、しばらく、右恭が去った後の香水の残り香を楽しんでから、
低く呟いた。
「誰のものにもならないっていうから手放したのに。約束を破ったのはお前の方だよ。」

「椙下、いる?」
突然、小乃田が特名係の部屋を訪れた。それだけで、瓶山は必要以上に身構えてしまう。
ハッキリ言って、瓶山は小乃田が苦手だった。・・・苦手というだけでなく、何となく厄介
な存在だと思っていた。
それは勿論、右恭に関係している。この二人の間で過去にどのような経緯があったのか、
詳しい事は聞かされていない。・・・が、何も無かったとはどうしても思えない。
二人の間に漂う独特の雰囲気や会話の様子を見ていると、否が応にもそう感じてしまう。
しかし、私情を差し挟んで公私混同しようものなら――特に、原因が自分自身に関する事
であれば尚更――右恭はそういうことを一番に嫌うのだ。
仕方なく、瓶山は、表面上は社会人としての礼節を守りながら応対する。
「あ、今ちょっと席を外してますが。」
「そう。」
右恭がいないことを知った小乃田は、特にがっかりするでもなく、自分の前で明らかに居
心地の悪そうな様子を見せている瓶山を見て、ニンマリと笑みを浮かべた。
「―――瓶山君、元気そうだね。」
「はぁ、元気だけが取り得なもんで。」
「じゃあ、ちょっとこの資料、渡しといてもらえるかな。」
「あぁ、はい。」
「そうそう、それと―――、ついでに伝えておいてもらえないかしら。僕ねぇ、アレの部
屋に、オーデコロンを忘れていったみたいだから、今度、持って来てくれってね。」

しばらくして、右恭が特名係の部屋に戻ると、瓶山は自分の机に座って、こちらに背を向
けていた。
(珍しいこともあるものですねぇ。)
そう思って、右恭が自身の机に向うと、上には見覚えのない大型封筒が置いてある。
中身を確認し、再度、瓶山の様子を見た右恭は、自分の不在中に小乃田が来訪したことを
すぐに理解した。
「瓶山君、官棒長がいらしてたんですか。」
「・・・はい。」
瓶山は、振り返りもせずに答える。
「官棒長から何か言われましたか。」
「・・・別に。」
「・・・・・。」
「伝言を・・・頼まれただけです。」
「聞きましょう。」
「右恭さんの部屋に・・・オーデコロンを忘れていったから、今度、持って来てくれって・・・。」
聞き取れない程の声に、計り知れない感情を滲ませて答える。
瓶山の話を聞き、右恭は表情を変えないまま、ただ左の眉だけを微かに上げた。
しかし、眼鏡の奥の双眸には、静かな炎を宿らせている。

一方の瓶山は、愛しい人から何の釈明もない状況に堪らなくなったのか、座っていた椅子
をクルッと回転させると、すぐ背後に立っていた右恭に訴えた。
「何もっ!・・・俺には、何も説明してくれないんですか・・・?」
「僕が何を言っても、君に聞き入れる耳がないのなら同じことでしょう。」
「信じます、信じますよ!・・・右恭さんから直接聞いた言葉なら、俺、信じます。」
(ふぅっ・・・。)
右恭は溜息を付くと、真っ直ぐに瓶山の目を見ながら、一言一言、言い聞かせるように
話し出した。
「―――確かに、官棒長が僕の部屋に忘れ物をされたことがあるのは事実です。でも、
それはもう10年以上も昔の・・・君が特名係に配属されるよりずっと前の話です。当然、
それが残っているはずもありません。」
「・・・・。」
右恭は、座っている瓶山の肩に右手を乗せると、
「―――瓶山君。僕が窮地に陥った時、一番最初に脳裏に浮かぶのは君の顔ですし・・・
おそらく、この世で一番最後に叫ぶのも、君の名前です。」
そう言って、ゆっくり頷いた。
(・・・俺、右恭さんが関わってきた全ての人に嫉妬してる。たとえそれが10年前だろ
うと、20年前だろうと。・・・いや、俺の知らない右恭さんを知ってるってことの方に、
もっともっと嫉妬してるんだ・・・。)
本当は苦しい。だけど。
「・・・分かりました。右恭さんの言葉、信じます。・・・でも。」
「はい?」
「一応、家宅捜索しに行って良いっスか?・・・今夜。」
そう言う瓶山の表情を見て、右恭は、その狙いを察して苦笑した。
「えぇ、構いませんよ。」

次の日、朝一番に官棒室長の部屋の電話が鳴った。
聞こえてきた取次ぎの声に対して、「そう、繋いで。」と答えた小乃田は、受話器を耳に当
てながら深々と椅子に腰掛ける。
「―――僕だけど。どうしたの。お前から架けてきてくれるなんて嬉しいね。」
「先日依頼された件ですが、僕なりの見解をまとめましたので、お預かりした資料と一緒
に本日そちらにお送ります。」
「相変らず冷たいねぇ。直接ここに持って来てくれればいいじゃない。」
「こちらにも仕事がありますので。―――それともう一つ。」
「なに?」
「あまり大人気ない真似は止めて頂きたいのですが。今後も同じような事をなさるようで
したら、僕の方にも考えがあります。」
「でも、嘘は言ってないじゃない。」
「肝心なことも何一つ言われてませんけれど。」
「―――お前が悪いんだよ、見せつけるようなことするから。だから、つい、意地悪した
くなっちゃった。・・・ねぇ、他人に執着するなんて、お前らしくないんじゃないの?」
「それはあなたの中の“椙下 右恭”であって、僕ではありません。」
「言うねぇ。」
「―――官棒長、昔から良く言うではありませんか?人の恋路を邪魔する者は・・・。」
「なに、馬に蹴られるっていうの?」
「そのうち噛み付かれますよ、・・・亀に。では失礼します。」
一方的に切られた電話の受話器を戻し、小乃田は、クッションのきいた革張りの椅子に身
を預けた。
「―――あんな亀さんでも噛み付いたりするんだ。・・・それは是非、見てみたいなぁ。」
ふふん、と笑う小乃田の顔は、まるで、新しいオモチャを与えられた子どものそれだった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )長々スイマセソでした。


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