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真夏の散歩

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  流石兄弟 兄×弟
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  真夏の散歩 季節感無視
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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 真夏の夜は膿んでいる。澄んだ闇にはなりきれない。
 空の色はやけに妖しい濃紫色で、そこに街の光を呑み込んでいる。
 窓を開けてしばらくそれを眺めていた弟者が、急に振り返った。

 「………兄者」
 「うん」
 常と変わらぬ風体で、FMVの前に座っていた兄が顔をあげた。
 「…外行かない?」
 ちょっとあきれて弟を見返す。予想通りの答えも返す。
 「行かない」
 「何故?」
 「あたりまえだろ。俺は天下無敵の引きこもりなの。家から一歩も出ないのがデフォ」

 不満そうな弟に不審の目を向ける。
 「出かけたいならバイト帰りに女の子でも誘って行けばよかったではないか」
 「ちがう」
 「?」
 「オレは兄者と出かけたいの」
 「……不思議なこと言うね、おまえ」
 熱でもあるのではないか、と言わんばかりの口調で、いつもと違う弟の様子を窺う。
 ドライなはずの弟が、今夜はひどく殊勝気に見える。
 弟者は兄に近寄り、後ろから肩に両手を回した。

 「………行こうよ、どこでもいいから」
 「まだ10時過ぎだぞ。ご近所さんに出会う」
 「いいじゃん。オレが完璧に対応するから」
 「そうはいかん。こちらも挨拶の一つもするべきであろう」」
  妙なところで律儀な兄が答える。
 「すると『今、何していらっしゃるの?』『はあ、引きこもっております』
『ほほほ、ご冗談を。で?』と好奇心に満ち溢れた目で見つめられるのだ。たまったもんじゃない」
 「じゃあ、今からちょっと眠って1時くらいなら?それなら誰にも会わないだろ」
 「おまえ、明日のバイトは?」
 「休み。ね、ちょっとでいいからさ―、出ようよ―、ねぇ、可愛い弟からのお願い―」
 「けっ」
 音を立ててマウスを操作する。パネルの映像が次々に変わる。
その光の反映を受けて、無表情な顔に色彩が流れる。

 弟は腕に力を入れ、自分の顔を相手の髪に伏せた。
 静かな部屋に、微かな機械の音と鼓動が響いている。

 「いいのか」
 「なぁにぃ」
 「今まで休み前におまえが大人しかった例がないぞ」
 ほのめかしを完全に理解して、でも赤くもならずに弟は兄の頬を引っ張る。
 「帰ってからするからいい」
 「勝手に決めやがって」
 その声に既に拒絶の気配は消えている。弟者はさっさと寝台に進む。
 「目覚ましかけとくから、絶対起きてね」
 兄は答えず肩をすくめた。そのくせパソコンの電源を落としている。
それを確かめ、弟者は先に眠りについた。

 目覚ましより早く唇が襲った。
 渋々目を開くと、至近距離の眸。
 閉じもしないで舌を蠢かせる。片手が、服の上から体を探る。
 「……気が変わったのか」
 唇が離れたあと、兄者が問いかける。
 「ううん。これは単なるご挨拶。急いで着替えてよ」
 「とんだ挨拶もあったもんだな」
 身支度を整え、階下へ下りる。玄関の扉の前で躊躇する。
 「行くよ」
 弟者が彼の手を取った。
 扉が開かれる。外に向けて。

 夜気はさわやかとは言えない。
 猫の吐息のように生温かい。
 それでも虫の声はする。アスファルトの端からは、草のにおいも微かに漂う。
 街灯はほのかなライムシャーベットで、月は銀のスプーン。
 赤い光を放つシグナル。まばらに通り過ぎる車。

 つないだ手をそっと離そうとするが、片方は強く握ったままである。
 「………人が来るぞ」
 「別に」
 「男同士でつないでいると目立つ」
 「知り合いだったら、久しぶりに外出する引きこもりの兄が逃げないようにつないだって言うよ」
 「知り合いでなかったら?」
 「そんなやつはどうでもいい」
 その割り切りが、少しうらやましい。時折人とすれ違うたび、肩の震えが抑えられない。
それに気づいているのか、温かい手に力がこもる。

 曲がり角。近所の地味なコンビには、深夜だけはこの地に君臨している。その圧倒的な存在感。
 「入る?」
 「いや」
 箱の中の喧騒が遠ざかる。昔、見慣れて、今、見慣れぬ道。
 失われた店。新しくなった家。変わらぬ小さな公園。

 「………社会復帰させたいのか」
 「ううん、まさか。一緒に歩いてみたくなっただけ」
 「なぜ俺と?」
 「さあね」

 細い小路は中学校までの近道で、何度も二人で走っていった。
今はただ、ゆっくりと踏みしめていく。
 青い葉をたたえたイチョウの大木。

 「掃除、面倒だったな」
 「そうそう。で、秋は凄いにおいで」
 「でもあの銀杏うまかったよな」
 「食べられる状態にしたの、全部オレだった」
 「おまえの方が器用だから」

 裏門を乗り越え、中に入る。乾いた土と木と、石灰のにおい。
 空は澄んだ紫で、空気は濃くぬるい。激しく光り、激しく暑かったあの遠い夏の日と似てもいない。
 人気のない広い校庭。二人でいることの孤独と充実。

 「プール、行ってみようか」
 「鬼門じゃなかったのか」
 「平気。行くよ」

 校庭と木立にはさまれて、目立たぬ場所にそれはある。
 柵をよじ登り、二人して中に入り込む。
 勉強もスポーツも人並み以上にこなす弟は、なぜだか水泳だけは苦手だった。
夏の体育、よく腹痛を起こしてさぼっていた。

 静かな濃紺の水面は、夜空よりも夜空めいている。映った月を抱えて、さざめきもしない。
 「泳がない?」
 驚いて振り返ると、白い裸身が水をくぐった。
 助けようと服のまま飛び込むと、綺麗な型のクロールですぐ傍まで寄ってくる。
 「………泳げたのか」
 「夏前に個人的に講習受けたんだよ。毎年あまりにみっともなかったから」
 プライドの高い弟者らしい。
 苦笑いしてサイドに上がる。濡れた服がひどく重い。
 「脱げば?おいでよ」
 「おまえと違って露出の趣味はない」

 壁際で華麗なターンを一つ決めて、自分の近くまで泳いでくる。
月の光に照らされて、彼の裸身はほのかに輝く。
 たどり着いた弟者が足に触れる。
 何かいいたそうなので身をかがめると、濡れた唇が重ねられる。
 冷えた、人魚の唇。
 熱い舌。
 時の狭間にあるようなこの場所。

 唇を外さずに兄を水に引き込む。
 抗わずに水に、腕に絡め取られる。
 抱きついたままジッパーを下ろされる。
 水の抵抗を受けながら、相手は器用に服を脱がす。
 なされるがままだ。多分、この、月の光のせいだ。
 人魚はするり、と水に潜り、兄者自身を口に含む。
 その舌先の危険なしなやかさ。
 純化された結晶のような、快楽。
 ぎりぎりまで追いつめて、それから彼は浮き上がる。
 濡れた髪。濡れた膚。月光にきらめく滴。

 自分から、手を伸ばした。
 相手はその腕を体に巻きつけ、胸もとに入り込んだ。
 水と一緒に、彼の中へ。
 ゆっくりと、弟者は身を反らす。
 生温かい夜気と、冷たい月の光と、闇のような水とともに彼を抱く。
 「………あ……あぁ……」
 声が闇に、月に、夜気に侵されていく。

 彼は冷たくて、熱い。
 ひどく締め付けてくるくせに、滑らかだ。
 いつも矛盾している。
 押さえつけた腰は揺れるのに、その表情は苦しそうだ。
 極みが近くなってから、故意に外す。
 泣きそうな顔で足を絡めてくる。
 その身体を水辺に上げる。

 狂気の沙汰だ。
 人目があったら生きていけない。
 月の晧々と照らすプールサイドで、弟を組み敷いている。
 蜜のように甘い声。躯の芯まで蕩ける。
 下肢の自由を奪われた人魚。
 その彼を、宙(そら)まで連れて行く。
 二人で熱を分かち合い、そして失う。

 相手は動かない。虚ろな眸で今までいたはずの宙を見ている。
 その体を抱きすくめて少し温め、それから彼の乾いた服を取ってきてやる。
 濡れた服を身につけた兄者が傍らに座り、その唇を再び味わう。
 人の温度に戻るまで。

 彼を見ているといつも胸が痛い。
 誘われたのは自分なのに、いとけない者を欺いているような気分になる。
 そのくせ、手放せない。
 相手の執着を利用して、自分の執着を癒している。
 突然に彼を失ったら、どうなるのだろう。
 その面差しなしには耐えられない気がしてしまう。
 誰か別の相手を抱いても、心の中でその顔に彼の面影を貼り付け、彼のつもりで愛しむかもしれない。
 自分は病んでいる。兄者はそう思う。

 ふぅ、と息をつき、弟者が身を起こした。
 いつもの乾いた皮肉な笑みを浮かべる。
 「……けっこうヤバいね」
 「さっさと服を着ろ」
 煙草を吸いたくなったが、構内でそれはためらわれる。
そのくせ、もっととんでもないことは平気で行った。

 帰りは手をつながなくてもおたがいに気にならない。
 身体を繋げた後しばらくは、どこかに相手が残っているようで不安が薄らぐ。
彼の叫んだ自分の名が、護符のように護ってくれる気がしている。
 その実服はびしょ濡れで、来る時よりもよほど不審者めいている。

 曲がり角に近くなった。
 「……お腹空かない?」
 弟者が尋ねた。
 「空いたな」
 「何、食べたい?」
 「………焼き鳥」
 くすり、と笑った彼はコンビニの先の物陰を指差す。
 「買ってくるからあそこで待ってて」
 女性が通りかかったら確実に叫ばれるな、と思いつつ身を潜める。
 弟者は意外に早く戻ってきて、袋を手渡した。

 月は変わらず銀の匙。
 生温かい夜気。濃紫色の淫らな空は街の光を吸い上げて、訳知り顔に全てを包む。
 街灯の下で袋を開けて、串を取り出す。

 「……甘すぎだな」
 「あんたの焼いたやつのほうがいいな」
 歩きながら残りを食べた。
 最後の一片をくわえた弟者が兄にねだる。
 「明日…ってか、今日ちゃんとしたのを焼いてよ」
 断る理由もないので承諾する。
 「串打つの手伝えよ」
 「やだよ」
 ちらり、と舌を出す。
 「刺すより刺されるほうが得意だし」
 「おい」
 伸ばした手からするりと逃げて、少し先から手招きする。
小生意気な微笑。強気の影に隠された臆病な甘え。

 月の光は彼を照らす。
 夏の夜更け。家までの道のりを、人に戻った人魚とたどった。
 鱗が幾つか、心の中に痕を残す。
 それが硬く包まれて、いつかは真珠と化すように願いながら、いつもの部屋へ戻っていった。

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 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ シャイニーキブンデマーメイド!
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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