State of Grace
更新日: 2011-04-27 (水) 19:31:32
午前中のnumb*3rs 兄×弟の続きを投下しますね
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( ,,゚) ピッ ∧_∧ ∧_∧
/ つ◇ ( ・∀・)ミ (` )
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└──────│>402の続きだってよ
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なんか誘い受けチックなことを書いてしまったみたいで申し訳ない
ただあまりに萌えに際限がないため、どこかで区切りをつけて、
その分作品として昇華したいと思っただけです
そんでもって狐のシーズン1フィナーレに合わせたらちょうどいいかなっと
冷静に考えれば、相当しなくていい告知だな。スマソ
元々マイナージャンルなこのドラマの萌え仲間を増やしたい、
他の人が書いた作品を読みたいという下心があって投下を始めたわけで
私のせいで萌え作品読めなくなっちゃったら本末転倒ですよ…ORZ
頼む!ガンガン読ませてくれ!毎回悶えてるんだ!
*
「教えてください。チャーリーは今何をしているんですか?」
ドンは暗澹たる気持ちでラリー・フラインハードに聞いた。チャーリーの大
学での同僚で、以前の指導教官でもあったというこの物理学者は、チャーリー
の『様子を見るために』ちょっと覗きに来たといって、何度かガレージを訪れ
ては、数分で戻ってくる。彼はチャーリーの親友なのよ。母親に教えられて、
ドンはよく知らないこの相手が帰ろうとするところを強引に捕まえ、キッチン
でお茶に誘った。ラリーは戸惑いつつも承諾して、ドンの勧めるままに紅茶を
飲みながら、居心地が悪そうに身体をもぞもぞ動かしている。
「俺にはあいつが何の問題を解いているのかよくわからない。……教えてく
れませんか?」
ドンは言った。ラリーは上目遣いにそんなドンを見つめ、何やらぼそぼそと
呟いてから、両手の人差し指を交差するしぐさを見せた。
「チャーリーが、弟さんが解こうとしているのは、P≠NP問題といって」
いかにも学者らしい口調で、説明が始まる。ドンは眉を寄せて耳を傾けた。
「現代数学上の難問の一つです。正確には理論計算幾何学の分野にあたり、
簡単に言えば、多項式で解ける問題とそうでない問題が等しいか等しくないか
ということを検証する問題です。つまり……」
「――それは、解くのにどれくらい時間がかかるものなんですか?」
自分から聞いたくせに、ドンは言葉を遮って問うた。ラリーは指の動きを止
め、唇を半開きにして、ドンを見つめた。キッチンに沈黙が漂う。数分してか
ら、ドンは両手を軽く広げた。
「……俺は学者じゃないし、この通り普通の人間だ。あいつがやっているこ
とはわからない。でも、理解する必要がある」
それとも理解できていないのは、俺だけなのか?とドンは思いながら、呟い
た。母さんはチャーリーが何故ガレージにこもりっきりなのか、追求しようと
もしない。父さんも気にするそぶりを見せながらも、なんとなく受け入れてい
る。目の前にいるラリーはチャーリーが解こうとする問題の意味も知っていて、
そのうえ何故彼がそれを解こうとするかもわかっているみたいだ。理解できな
いのは、俺だけみたいじゃないか。
「……私が思うに、解けません」
ラリーが躊躇いがちに答える。ドンは耳を疑い、聞き返した。「何?何て言
いましたか?」
ラリーは唇を舐めてから、何故だか申し訳なさそうに言った。「チャーリー
は、優秀な数学者だ。でも少なくとも、数ヶ月ではこれは解けない。一生を費
やしてもおかしくないほどの難問なんだ。彼は解けると言っているが――」
「あと3ヶ月で母が死ぬんだ。長くても3ヶ月なんだ。それまでに解けない
と――」
震える声で言うと、強い口調で遮られる。「解けないような問題を彼は選ん
だんです。……簡単に解けるなら役に立たないことになる」
「――わからない」
ドンの呟きに、ラリーはまた口を閉ざした。しばらく黙り込んでから、小さ
な声で付け加えた。「彼には考えることが必要なんです。そうせずにはいられ
ないんだ」
「――母さんが逝く前に、俺はあいつをガレージから引っ張り出さないとい
けないんだ」
ドンが独白するように言うと、ラリーはかぶりを振った。
「そうできたらいいんですが」
*
「ドンと僕はどうして別の学校に通ってるの?」
夕食の後ソファでテレビを観ていると、隣で何やら難しそうな数学の問題を
解いていた弟が言った。ドンはそれを横目で見、それから素っ気なく答えた。
「年が違うから」
チャーリーはその言葉にぎゅっと鉛筆を握った。白いプリント紙に鉛筆の歪
んだラインが走る。
「嘘。だってドンと僕は5つ違いだけど、エレメンタリスクールは6年ある
から、1年は一緒に行けるもの。年は違っても、一緒に通えるはずだもん」
ブラウン管の中で、お気に入りのバッターがヒットを打つ。ドンは軽くガッ
ツポーズをしてから、泣きそうな顔をした弟を振り返った。
「どの道そんなに長い期間は一緒に通えないってことだろ。5つも違うんだ
から」
お前が『天才児』じゃなくても。俺と違って、ハイアリー・ギフテッド・ス
クールなんていう、ちょっと離れたところにある、特別な学校に通わなかった
としても。
そんな言葉を飲み込んで、またテレビに視線を戻す。視界の隅でチャーリー
が唇を噛むのがわかった。
「……ずっと一緒に学校には通えない?」
小声で、チャーリーは呟くように問う。ドンはまた弟に視線をやり、それか
らしばらく返す台詞を考えた。
「……普通はな」
考えた末の、どこか投げやりな返事に、チャーリーはぱっと表情を動かした。
身を乗り出して、ドン、とトレーナーの裾を引っ張ってくる。ドンは少し苛立
った。いい加減野球の試合に集中したい。
だが弟のほうに顔を向けて、ドンは聞いた。「どうした?」
チャーリーはあのね、と声を弾ませた。
「僕は人と違うって、『普通』じゃないんだって。だからね、もしかしたら
いつか、ドンと一緒に学校に通えるかな?」
ドンはそれを聞いて、弟の屈託のない顔を凝視した。チャーリーは顔を輝か
せて、答えを待っている。
「……『普通』じゃない、なんて、誰が言ったんだ?」
低い声でドンは弟に尋ねた。チャーリーは不思議そうに首を傾げる。
「皆言ってるよ。近所のダニエルも、ジェーンも、こないだうちに来た父さ
んたちの友達だって――」
「そんなの嘘だ。信じちゃだめだ」
早口で遮り、ドンは弟の頭を巻き毛ごと引き寄せて、自分の胸に押し付けた。
痛いよ、ドン。くすぐったげにチャーリーは言う。ドンは思った。――『普通』
じゃないなんて、まるで頭のおかしいやつに言うみたいな言葉だ。
いくら『天才』だからって、IQとかいうやつが高かったって、こいつは『普
通』の弟なんだ。俺の弟だ。
「――お前は普通だよ」
呟くように言うと、腕の中から顔を覗かせて、チャーリーは心配そうに聞い
た。
「じゃあ、ずっと、一緒に学校には通えない?」
ドンは弟を見下ろし、しばらく躊躇ってから、先刻と同じ言葉を返した。「
普通はな」
チャーリーはそれを聞いて、ドンの腕を枕みたいに抱きしめながら、しばら
くの間一人で何か考えていた。
*
数式がぎっしり書かれた黒板に寄りかかって、ドンは言った。「チャーリー、
来いよ。食事をしよう。父さんが料理したんだ。父さんの料理だぞ」
食ったことあるか?チャーリーはドンの言葉に反応せず、唇を引き結んで数
式を書き連ねる。黒板に文字が埋め尽くされれば新しい一枚を手に取り、その
すべてが埋まると、古いものを消してまた書き始める。ドンはそんなチャーリ
ーを追いかけて、馬鹿みたいに繰り返していた。ここから出よう。
けれども答えは一言もなかった。チャーリーはまるでドンなんていないみた
いに振舞って、数式に熱中している。ドンは泣きたいような気持ちになった。
よしてくれ。もういい加減にしてくれ。
「チャーリー!」
声を荒げて名前を呼ぶと、チャーリーが怯えて肩を震わせた。ドンはその肩
を掴み、強引に視線を重ねて言った。「母さんに会えよ!会ってちゃんと安心
させてやれよ」
お前を誰より心配してるのは、母さんなんだから。低い声を喉から絞り出す
と、チャーリーは俯いた。「……たい」
「何?」
揺さぶって問うと、かぼそい答えが返される。「……痛いよ、ドン」
久々に弟が自分に向けた言葉に、ドンはショックを受けた。痛い。チャーリ
ーが繰り返す。ドンはまるで操られたように、弟から手を離した。――暴力は
振るえない。
「チャーリー、お願いだ。もうこんなことよせ」
ドンは口元に手の甲を当てて、懇願するように命令した。チャーリーは泣き
そうな顔で瞬いた後、結局またチョークを黒板に走らせ始めた。数式を刻む音
が狭い空間の中に響く。ドンはそれを絶望的な気分で聞いた。
わからない。理解したいのに、わかってやりたいのに、わからない。ずっと
こうなのか?このまま永遠に?
俺はこいつの兄貴なのに、こいつのことがわからない。こんなに側にいるの
に。
「……母さんはお前を待ってるんだ。ずっと待ってる」
乾いた声で言い捨てて、ガレージを出る。母親と父親の元へと向かいながら、
ドンは思った。他人だったらよかったのに。家族じゃなかったら、愛していな
かったら、別にこんなことなんでもない。
*
オーケイ。確かにあいつは『普通』なんかじゃなかった。ドンは投げやりな
気持ちでその事実を認めた。俺の弟は、チャーリーは、普通じゃない。ご立派
な天才児だ。
「……だからね、9月からチャーリーはあなたと同じ高校に通うことになる
のよ」
キッチンのテーブルに腕を置いて、マーガレットが言う。ドンはテーブルの
上の、熱い紅茶が入ったマグカップを眺めながら、肩をすくめた。
「すごいな」
その言葉にマーガレットは伺うように見つめてきた。何故だか視線を合わせ
る気になれなくて、ドンは紅茶を見つめたままでいた。
飛び級に次ぐ飛び級。チャーリーはまるで何かに急かされるみたいに、日々
いろんなことを学んで、幼い身体にアンバランスなほどの知識を蓄えていく。
方程式の解き方、定理の意味。証明の手法。最近では物理や生物学にまで興味
を示し始めた。
ああ、とドンは紅茶を飲みながら思った。確かにあいつは普通なんかじゃな
い。天才だよ。
何年も前に弟と交わした会話を思い出し、自分が浅はかだったことを認める。
チャーリーは普通じゃない。すごいやつなんだ。
あんなちっぽけな身体をして。俺の前じゃただの甘ったれた弟だけど、でも
俺にはもう理解できないような問題まで解いてる。まだ12歳なのに、高校に
行くことになってもおかしくない。
「……高校ではチャーリーの周りは年上ばかりになるでしょう?それが少し
心配なの」
呟きに近い母の声で我に返り、ドンは顔を上げた。見つめると、頷きが返さ
れる。
「ドン、あの子を助けてやってくれるわね?」
ドンは躊躇い、それからもちろん了承した。「心配しなくても大丈夫だよ」
短い会話の後、ドンがキッチンを出て二階の自室へ戻ろうとすると、隣の部
屋からチャーリーが出てきた。いつも通り分厚い本を抱えて、ドン、と囁くよ
うに呼びかける。
「……ドン、あの、母さんから話は聞いた?高校のこと……」
小さな、けれども期待をこめた声を聞いて、ドンは頷いた。「聞いたよ」
「―― 一緒に通えるんだよ」
きらきらした目で、チャーリーは顔を見上げてくる。ドンはもう一度、頷い
た。「そうなんだってな」
「――学校の中、案内してね。ドンの友達も紹介してね。朝は一緒に行こう
ね。それから……」
自分の考えに熱中しているときの常で、早口で捲くし立て始めた弟を、ドン
は手で制した。「チャーリー」
チャーリーがきょとんとした顔で、けれども一度口を閉ざしてドンを見た。
ドンは頬を手のひらで擦り、ふさわしい言葉を考えた。
高校でのことは心配するな。俺が一緒にいるんだから。おめでとう。がんば
ったんだな。お前はすごいな。よろしくな。もちろん学校の中の案内だって何
だってしてやるよ。
いくつかの台詞が脳裏を過ぎったが、結局そのどれも口にできなかった。ド
ンは弟を見下ろし、それから掠れた声で言った。「……よかったじゃないか」
そう言い捨ててドンは自分の部屋に入った。チャーリーは何を言われたのか
わからない様子で、立ちすくんでいた。
ドンは自分の部屋のドアを閉じ、それを背もたれにしながら、考えた。5つ
下の弟と一緒に高校に通うことになる。よかったじゃないか。
俺はきっと高校で、ちょっとした有名人になる。『天才児の兄』として。弟
は天才だけど、本人は至って普通の、平凡なやつとして、皆に知られるように
なる。よかったじゃないか。
ドンは呼吸を止めて、9月からのことを考えた。ドアノブを後ろ手で握った
ままで。
*
「いつまでもそうやってるつもりなのか?!母さんは死にかけてるんだ!お
前がそうやってわけのわからない問題に熱中してる間に、家族が死のうとして
るんだぞ!お前は何も感じないのか?!」
ガレージで怒鳴り、ドンは弟の手からチョークを取り上げて床に叩きつけた。
チャーリーは強張った顔で突っ立っている。ドンはその周りをうろうろと歩き
回り、それから弟の腕を掴んで引き寄せた。「――来いよ」
引きずるようにしてドアまで行こうとすると、チャーリーは必死で腕を振り
解こうとする。足がもつれ合い、肩がぶつかり合い、息が切れて、ドンは力任
せにチャーリーを黒板に叩き付けた。
「ここから出ろよ!いつまでもこんなことしてないで、お前の母親に会えよ
!」
喉の奥から声を絞り出すようにして言うと、チャーリーは腕を振り上げてド
ンの手を払った。ガレージの壁や天井や、至るところに黒板が掲げられ、その
どれもが数式で埋め尽くされている。言葉なんて一つもない。数字と記号しか
ない。ドンは眩暈すら覚えながら、狭いその空間の中で、弟を見据えた。そし
て不意に気づいた。弟の顔を、こんなにまっすぐに見つめるのは何年ぶりだろ
う?
大学に入るためにお互い家を出て、特にドンがFBIに入ってからは、ほとん
ど実家に帰らず、弟にも会っていなかったから、ほぼ10年の間、こんなふう
にチャーリーと対峙することはなかった。実家に帰ってからはチャーリーがド
ンのことをまともに見ようとせず、いつだって数式を解こうとしていた。だか
ら今やっと、ロスに帰ってきて初めて、チャーリーの顔をきちんと見た。
焦げ茶の巻き毛に大きな瞳。ドンよりも低い背。繊細な指先。ドンは荒い呼
吸を整えようとしながら、目の前にいる男を見た。チャーリーだ。俺の弟だ。
伏せたまつげ。怯えたような表情。全部見覚えがある。俺の弟だ。小さな頃の
面影がある。
でも俺はこんな男は知らない。ドンは愕然としてそう思った。こんな、まと
もにしゃべることすらせず、数字と記号を書き連ねている人間なんか。俺はこ
の男を知らない。
「……頼むからわかってくれ。俺と一緒にここを出よう」
ドンはもう一度手を差し伸べ、そっと弟の腕を衣服ごしに掴んだ。チャーリ
ーはそれを受けて唇を震わせ、喉を僅かに反らした。
「……ドンは」
チャーリーは、小さな声で言った。ドンは身を乗り出し、何年ぶりかで自分
としゃべろうとする、弟の声に必死で耳を傾けた。
潤んだ、何かを堪えたような目をして、チャーリーはドンを見つめた。
「……ドンはずっと帰ってこなかったじゃないか。ずっと僕らを放っておい
て、……それなのに突然、何をわかれって言うの?どう理解すればいいの?僕
は――」
掠れた声で言うと、身体を折り曲げるようにして、チャーリーは床に崩れ落
ちた。ドンはその身体を支えようとしながら、一緒に床に膝をついた。
「チャーリー、俺は」
「――ずっと、ずっと僕とまともに話もしなかったくせに!高校の頃からず
っとそうだった!それなのにいきなり帰ってきて、怒鳴って、何をわかれって
いうの?じゃあドンは僕のことがわかるの?」
堰を切ったように戦慄く喉から言葉をこぼし、チャーリーは一気に捲くし立
てる。布越しに掴んだ腕は震えている。ドンは眉を寄せて弟の言葉を聞いてい
た。
「――わからないくせに!僕のことなんかわからないくせに!それなのに何
をわかれって言うんだ!」
チャーリーはそう言ってドンの手を振り解き、床にうずくまった。ドンは弟
を呆然と見つめた。粉々になったチョークを指先で掻き寄せて、チャーリーは
ずっと床に顔を伏せていた。まるで自分が死にかけているように、冷たい床に
うつぶせて、身体を震わせていた。
そうだ、とそんなチャーリーを見ながらドンは思った。俺はこいつのことな
んかわからない。だったらこいつにも俺のことなんてわからないだろう。わか
ってくれなんて、確かに無茶な願いだった。
*
マーガレットは最期の三日間を結局病院で過ごした。ドンとアランはほとん
ど眠らずに彼女に付き添い、それから穏やかな顔で自分の妻が、母親が命を終
わらせるのを見守った。モルヒネのおかげで、あまり苦しまずに逝ったことが
何よりの救いだとアランは言った。母さんの決断はやはり正しかったな。いつ
ものように。
「チャーリー、母さんが死んだ。葬儀には出てくれ」
ドンは病院から帰ってきて、まっすぐにガレージに向かい、静かな声でチャ
ーリーに告げた。チャーリーは相変わらず数式を解こうとしていた。黒板だけ
でなくそこらに散乱した紙にまで記号と式が書き連ねられ、足の踏み場もない
ほどだった。その中で一人、チャーリーは数式の中にうずもれるようにして、
チョークを持っていた。
「チャーリー?」
ドンはガレージの入り口で、もう一度名前を呼んだ。聞こえていることはわ
かっていた。チャーリーは身体を強張らせ、呼吸まで止まったように静止して、
横顔を見せていた。ドンはため息をつき、紙を踏まないように注意しながら、
弟の側まで行った。
「聞こえてるんだろ?母さんが――」
「……っ」
チャーリーは床に両膝をついて、涙を流し始めた。静かに、声もなく。唐突
な、けれどもとめどない涙を見て、ドンはどう反応するべきか考えた。
何故お前がそんなふうに泣くんだ。そう怒鳴ってやってもよかった。母さん
が最期に、どんなふうだったかも知らないくせに。彼女がどんなに尊厳を持っ
て、あの病と闘ったか。穏やかさを保ち、最後まで彼女らしく家族を気遣った
マーガレットのことなど、チャーリーは知らない。そのお前がそんなふうに泣
く権利なんかあるのか?
そんなふうに泣くなら、とドンは目の前の弟に言ってやりたかった。だった
ら母さんに会えばよかったじゃないか。そんなふうに悲しむほど愛していたな
ら、最期を看取ればよかったじゃないか。母さんの手を握ってやればよかった
じゃないか。彼女の最期の時間を、心に刻みつけ、別れが意味を持つように、
残された時間を大事にすればよかったじゃないか。わけのわからない問題なん
て解いていないで。俺たちと一緒に。
ドンはチャーリーを怒鳴り、揺さぶり、殴ってやりたかった。でもそうはし
なかった。気がつくとドンは腕を伸ばし、それから泣いている弟を抱きしめて
いた。強く、チャーリーが身じろぎもできないほどきつく抱きしめると、チャ
ーリーは腕の中で嗚咽をこぼし始めた。歯を食いしばって、世界が終わってし
まうかのように、声を殺して泣いた。ドンはそんな弟を、ずっと抱きしめてい
た。これまで誰を抱きしめたよりも、きつく力をこめて。
*
初めて抱いたとき、チャーリーは声を押し殺していた。歪んだ顔をして、歯
を食いしばっている弟のそんな様子は、母親が死んだときのことを思い出させ
たので、ドンは胃が軋むのを感じた。
「チャーリー」
汗ばんだ肌を押し付けて、低く名前を呼ぶと、チャーリーは乾いた唇を僅か
に動かした。ドンはその唇に自分のそれを重ね、深く、けれどもあっけないほ
ど短く貪ってから、もう一度弟の名前を呼んだ。「チャーリー」
チャーリーは喉を反らしただけだった。快楽に喘いでいるようにも見えたが、
苦痛に耐えているようにも見えた。俺は何をしているんだ?ほとんど暴力的に、
弟をベッドに押し付け、弓なりに戦慄く身体を見下ろしながら、息を殺してド
ンは考えた。俺は何をしているんだ?こいつは弟じゃないか。
ずっと理解できなかった、だけど最近捜査や何かを通して、やっと理解でき
始めた弟じゃないか。ようやくぎこちなさもなく手元に置けるようになったの
に。その今になって、俺は何をしてるんだ?
内股に手のひらを滑り込ませ、弟の脚を乱暴に開き、奥まった部分に指先で
触れる。熱い。ドンがぼんやりと感じていると、やっとチャーリーが唇を開き、
叫ぶように言った。「ドン」
ドン。耳慣れた、甘ったれたその呼び方がドンを現実に引き戻した。こいつ
は弟じゃないか。俺と一緒に育った、ただ一人の弟じゃないか。
ドンは手を離し、身体を起こして手の甲で口元を隠した。まだ両手が震えて
いる。チャーリーは熱っぽい瞳を瞬かせ、そんなドンを不思議そうに見上げた。
「ドン?」
「チャーリー、駄目だ。俺たちは――」
言い終わらないうちに腕を強い力で引き寄せられ、ドンはチャーリーに覆い
かぶさるような姿勢で、弟を見つめた。チャーリーは怒ったような顔をして、
けれども泣きながら、ドンの首筋に手のひらを当て、がむしゃらにキスをして
きた。薄い舌先がぎこちなく咥内に忍び込み、精一杯の力強さでかき回す。熱
い。ドンはまた思った。こんなキスは初めてだった。舌も唇もすべてが火みた
いに熱い。焼けてしまいそうだ。
「……行かないで。もうどこにも行かないで」
チャーリーがか細い声で、けれども強く言う。答えに迷っていると、手首を
きつく掴まれ、ドンは驚いた。いつもチョークを持っているか、せいぜい本の
ページをめくるだけのこの指先が、これほど強い力を持っているなんて思わな
かった。抗えないほどの強さでチャーリーはドンを押し留め、必死でキスを続
けようとしながら、自らの脚を開き、ドンのもう片方の手をその内側へと誘っ
た。ドンは混乱しながらもその誘いに乗り、弟の身体に触れた。お互いの肌が
汗をかいて濡れ、手足が絡み合い、溶けてしまいそうだった。
指でほぐした後勃起したペニスを入れると、チャーリーは顔を歪めて呻いた。
けれどもドンが恐ろしくなったのを見透かしたように、手首を掴む力をさらに
強くした。二人は無言のままで身体を揺らし、一直線に快楽を貪った。急転直
下するみたいに果てた後、チャーリーはやっとドンの手首を離した。
けれどもすぐに、今度はドンの背中に腕をまわし、強く抱きしめてきた。「
ドン」
弟の顔を覗き込むと、チャーリーの眦が濡れていた。まるで暴力を振るわれ
た後のような顔をして、チャーリーは震えた声で囁くように言った。
「もう一度して」
,-、
//||
// .|| ∧∧
. // 止 || ∧(゚Д゚,,) < これでもまだ
//, 停 ||__ (´∀`⊂| < 前半なんだからな
i | |,! ||/ | (⊃ ⊂ |ノ~
| | / , | (・∀・; )、 <長すぎるんだからな
.ィ| | ./]. / | ◇と ∪ )!
//:| | /彳/ ,! ( ( _ノ..|
. / /_,,| |,/]:./ / し'´し'-'´
/ ゙ / / / ||
| ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./ / /,!\
| | / `ー-‐'´
| | ./
|_____レ"
そういうわけでここで一時停止です。
416さん、変に遠慮して投下やめないでね
私が投下始めた意味がなくなっちまうよ…
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