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State of Grace

numb*3rs 兄×弟です。ネタバレってほどでもないけど
シーズン1まるごとネタ含んでるんで注意
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  兄弟の母親ネタを激しく捏造してみた
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  非常に暗い上に長い
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |

そういうわけで今回長いので4回くらいに分けて投稿します
スペース使っちゃって申し訳ないけど、この話とあと一話短いの投稿したら
数字ネタ話投下をやめるのでお許しを。
今回はとりあえずとかじゃなく本当にやめますw
ちなみに今回時系列がバラバラなのでわかりにくいかも。スマソ

あ、分割して休憩してる間にほかの数字姐さんが投稿したら
紛らわしくて迷惑かけちゃうと思うので、適当にタイトル入れときますね

 
 「チャーリーは?」
 久々に帰った実家の、居間の中を見回して、ドンは誰にともなく尋ねた。彼
の両親――アランとマーガレット――は、それを聞いて顔にかげりを過ぎらせ
た。
 「あの子は」
 マーガレットが静かな声で呟く。やせ細り、もともと白い肌がさらに透ける
ような青白さを帯びていることに気づいて、いまさらながらドンの胸は痛んだ。
 あと長くて3ヶ月の命だなんて。
 まだ昼間だというのに、パジャマ姿でソファに気だるげに、けれどもそれを
気取られまいと、しっかりとした表情を保って腰掛けている母親を見て、ドン
はひそかに唇を噛んだ。母さんの一生は何のためだったんだろう。ぼんやりと
考える。並外れた知能を持って生まれたチャーリーの教育につきっきりになっ
て、13かそこらで大学に進んだあいつのために、一緒に家を出て、父さんと
も何年も離れ離れに暮らして。やっとチャーリーが何とか成人して、前よりは
手が掛からなくなったと思ったら、病気になるなんて。父さんが引退して、二
人でのんびり生活を楽しめるようになった矢先に、子宮に癌を発見されて、し
かももう治る見込みもないなんて。
 ドニー、もうよくなる可能性はないのよ。だったら最期は家で過ごしたいの。
お前たちと過ごしたあの家でね。
 数週間前、マーガレットは電話越しに淡々とそんなふうに言い、アランもそ
れを了承したことを伝えた。アルバカーキで恋人のキムと暮らしていたドンは、
それを聞いて一晩考え、それからロサンゼルスに帰ることを決めた。母さんは
あと三ヶ月しか生きられない。だったら最期の時間を一緒に過ごすべきだ。父
さんだって家で母さんの介護をするなら、助けがいるだろう。妻を失う準備を
する父親を、肉体面でまで追い詰めたくない。俺がロスに帰って、支えるべき
だ。

 自分でも驚くほど、決断はあっけなく、迷いもなかった。ドンはキムに事情
を説明し、もう一緒に暮らせないことを伝え、自分たちは別れたほうがいいと
告げた。上司にロスへの転属願いも出した。キムは驚き、泣いて、最後には理
性的に受け入れ、それからまた泣いた。お母さんの最後を看取りたい気持ちは
わかるわ。でもどうしてこれで終わりにするの?また戻ってくればいいじゃな
い。
 どうしてなのか自分でもわからなかった。ただ一度ロスに戻ったら、自分は
家族を何よりも優先させるだろうということだけは漠然と感じた。そんな状態
でキムと付き合うのは失礼だと思ったし、実質それは無理だろうとも感じたの
だ。
 ドンがキャリアを犠牲にして、家族のために故郷に戻るということについて、
周囲の同僚はみな驚いてみせた。お前みたいな仕事人間が。口には出さないが、
感謝祭や独立記念日にも働きづめで、実家に滅多に帰るそぶりも見せなかった
ドンが、思わぬ執着を家族に示したことは、周囲には意外なようだった。ドン
自身にも意外だった。仕事以上に自分を駆り立てることなんて、ないと思って
いたから。
 でも違った。家に帰るという決意は、衝動は、仕事に対する情熱より強く、
ドンを突き動かした。だから戻ってきた。だが――とドンは居間の中をもう一
度見回した。一人足りない。弟がいない。マーガレットが愛し、誰よりも慈し
んだ弟が。
 「ドン、チャーリーはガレージにいるの」
 マーガレットが言い含めるようにゆっくりと呟く。ドンは僅かに眉を寄せ、
じゃあ、と言った。「呼んでくるよ。じき夕食だろ?」
 「そうじゃないの。ドニー、あの子、問題を解いているのよ」
 掠れた声の答えを聞いて、ガレージに向かいかけていたドンは、振り向いた。
マーガレットは青ざめた顔で頷いてみせ、アランは壁のあるほうへと視線を泳
がせた。

 「……問題?」
 足を止めて聞くと、マーガレットはまた頷き、疲労に耐えかねたのか、ソフ
ァの背もたれに頭を預けて、目を瞑った。アランがそれを見て、側にあったひ
ざ掛けを掛けてやる。
 「……チャーリーは問題を解くためにガレージにいるの。夕食のためにキッ
チンに来ることはないわ。呼んでもこないの。夜中に人がいないとき、シャワ
ーを浴びたり冷蔵庫から何かを出して――」
 「あいつはガレージに閉じこもってるってこと?」
 ドンはこぶしを握り締め、強い口調で聞いた。アランはそわそわと手を擦り
ながら、居間の椅子に腰を掛けて頷いた。「なんだか難しい問題にかかりっき
りなんだ」
 「――いつから?」
 握り締めた手のひらの内側に、爪が食い込むのがわかった。歯を食いしばる
ようにして問うと、マーガレットはアランと一瞬視線を合わせてから、穏やか
な口調で言った。「私がここに戻ってきてから、ずっとよ」
 「ずっと母さんを避けてるってことか?そんな――」
 信じられない。震える声で呟くのを、マーガレットは片手を軽く上げて制し
た。ドンはそのしぐさを見て口を閉じる。ずっと前からこうだった。大声ひと
つ出さない、もの静かなこの母親は、こんなしぐさ一つで息子たちを黙らせる
ことができる。魔法のように。
 その母さんが死ぬときに、問題を解く?やせ細った、青白い母親の手を擦り
もせずに? 
 ドンには信じられなかった。頭の奥が、怒りと混乱で熱くなる。マーガレッ
トはそんなドンを見て、いいのよ、と囁くように言った。
 「したいようにさせておいて。いいのよ、大丈夫なの」
 「だけど――だけど、母さんが」
 死にかけているのに。ドンの声にならない叫びを聞き取ったのか、マーガレ
ットは瞬いた。そして、いいのよ、と繰り返した。

 「あの子がしたいと思うようにすればいいの。……ドン、理解してあげて」
 理解なんてできない。ドンはそう言いそうになり、それから必死で言葉を飲
み込んだ。よりによってこんなときに。ドンは手のひらで口元を覆い、混乱に
耐えようとした。母さんは死にかけてる。それなのにあいつは数学の問題を解
いて、同じ家の中にいる母さんを無視してる。それは、とドンは思った。あい
つがそんなふうになったのは、俺のせいなのか?あのときのことがあったから
か?
 ドンは聞きたかった。けれども心配げなアランやマーガレットの眼差しを見
ると、とてもそんなことは聞けなかった。ドンは手のひらを下げ、こぶしを握
り締めて、深呼吸をした。そして言った。
 「わかった」
 わかった。今自分たち家族が置かれている状況は、理解した。そう示唆する
と、マーガレットはまた頷いた。そしてぽつりと言った。
 「あの子の気の済むようにさせてあげて。ドン、わかってあげて」

                 *

 「ドン、待って。ドン!待って。お願い」
 チャーリーが泣いて追いかけてくる。ドンは早足で廊下を歩き、自分の寝室
へと向かいながら、弟の幼い足音を聞くまいとした。握り締めた右の手のひら
が微かに疼く。さっき弟の頬を叩いたせいだ。
 生まれて初めて弟に暴力を振るった。自分より5つも年下で、身体も小さな
弟を。まだたった12歳のチャーリー。
 ドンは唇を噛んだ。後悔よりも、弟に対する怒りが未だに強くて、そのせい
か手のひらの痛みにすら苛立ちを覚える。一人になりたかった。
 「ドン、ごめんなさい。ごめんなさい……。ドン、お願い。謝るから……。
お願いだから嫌わないで」
 泣きじゃくる弟の声を聞いて、ドンは勢いよく振り返った。「――無理だよ」
 びくり、とチャーリーは肩を震わせて、びっくりしたように立ちすくんだ。
背の低い弟を見下ろして、ドンは冷たい声で言い捨てた。「無理だよ、チャー
リー。お前にはもう我慢できない」

 『ドンはキャリー・オハラとキスしてたんだ。キャリーはドンのクラスメイ
トで、チアガールやってる美人で、でも数学の成績はめちゃくちゃな子。ドン
に夢中なんだよ。今日僕が家に帰ったら、その子とドンは、ドンのベッドの上
で――』
 夕食の席で、得意げにまくし立てていた声が耳に蘇り、ドンは弟から目を逸
らした。視界の隅でチャーリーがまた顔を歪める。声を上げて泣きながら、チ
ャーリーはごめんなさい、と繰り返した。
 「ごめんなさい、ドン。ごめんなさい。僕はただ――そんなに怒るなんて…
…」
 「秘密だって言っただろ!誰にも言うなって」
 ドンはやりきれない想いで言葉を吐き捨てた。弟の口が軽いことなんて知っ
ていたし、詮索癖だってわかっていたつもりだった。ドンだってチャーリーが
昼過ぎに図書館から帰ってくると知っていれば、新しいガールフレンドを家に
呼んだりしなかっただろう。だがチャーリーは朝食をとっているとき、今日は
調べたいことがあるから、一日中図書館にいると母親に告げていた。そう。私
と父さんも出かけるけど、ドンは家にいるのよね?そんな声に頷きながら、軽
い気持ちで恋人を家に呼ぶことに決めた自分にも腹が立つ。チャーリーが居合
わせれば、絶対に自分たちを覗くだろうことは予想ができたのに。
 初めて本気で付き合った子なのに、とドンは弟の赤くなった右頬を見つめな
がら思った。チャーリーの軽薄なおしゃべりの種になんかされたくなかったの
に。両親に恋人といちゃついていたことを暴露されて、恥ずかしくないやつな
んていない。チャーリーが『たまたま』――それだって怪しいものだ、とドン
は思っていた。彼女に今日来ないかと電話したとき、もしかして弟はこっそり
聞いていたのではないだろうか――予定よりも何時間も早く帰ってきて、キャ
リーと鉢合わせしたときには、まだドンだって事態を我慢できた。そのせいで
気まずくなった恋人が、逃げるように帰ってしまったことにも。だが、両親に
は言うなという、ドンの言葉に、こっくりと頷いておきながら、何のためらい
もなくそれを破った弟の無神経さが厭わしい。思えばチャーリーは、万事がこ
んな調子なのだ。

 母親や父親の注目を小さな頃から独占してきたのはまあいい。そんなのはチ
ャーリーのせいではないことくらい、ドンにだってわかる。たまにドンを小ば
かにしたような態度で、数学の知識をひけらかし、野球の構えにまで口を出し
てくるのもまだいい。ドンが留守の間に、勝手に部屋に入り、人のものをこそ
こそ探るのも。5歳も年下のはずなのに、ドンと同じハイスクールで学び、数
学や物理でドンよりもずっといい成績を取ったっていい。そのせいでクラスメ
イトに情けない兄貴だなんてからかわれるのもまだ我慢できる。今までだって
チャーリーに些細な秘密を破られたことはあったが、これまでは弟が生来の迂
闊さで口を滑らせたって、呆れてみせるくらいだった。それがこの弟の性質な
んだからと、ドンだって思っていた。でも今回ばかりは許せない。
 我慢できないのは、誰にも言わないと誓ったくせに、そしてドンにそう信じ
させたくせに、恋人との関係をくだらないジョークみたいにぺらぺら両親に話
したことだ。約束を破って、それを悪いとも思わないような弟の態度だ。最近
何かと見られる、そして今日決定的になった、ドンが彼女を大事にすることが、
滑稽だというような、言外の嘲りだ。飛び級して不意にドンと同じ高校に入っ
てきて、注目を集めたときのような無遠慮さで、人のテリトリーとプライドを
踏みにじるチャーリーの幼さだ。彼女といるときはチャーリーのことを考えた
くなかったのに、チャーリーはそんなことに気づこうともしない。
 もうこいつといるのは疲れた。
 ドンはそう思って、自分の手のひらに視線を落とした。ハイスクールで馬鹿
にされながら絶えずこいつを守ってやるのも、こいつの屁理屈に耳を傾けてや
るのも、もううんざりだ。チャーリーといると自分が影のような存在になった
気さえする。でくのぼうみたいに、天才児の弟の隣に突っ立っているだけの存
在。
 

 アランとマーガレットが心配して追いかけてきたらしく、階段からこちらを
伺っているのに気づき、ドンは唇を開いた。
 「……四六時中一緒にいて、俺がどれだけ嫌な気持ちかお前はわからないだ
ろ?――うんざりなんだよ」
 そう言ってドンは自分の部屋に入り、ドアを乱暴に閉じた。なんてことを。
アランの声が聞こえたが、ドンは気にしなかった。
 父さんも母さんも、俺が何でこんなに怒ったかなんてわからないだろう。単
にチャーリーが口が軽いからなんかじゃない。俺は弟を許さなきゃいけないの
に、ずっとそれに失敗し続けてきているから、そのことに疲れていることなん
て気づきもしない。チャーリーがそんな俺の気持ちなんてお構いなしで、俺の
生活を土足で踏みにじって、また怒らせることにも。その怒りに俺は怒ってい
るのに。チャーリーも母さんも父さんも、俺の気持ちなんてわからないに決ま
ってる。
 ベッドにうつぶせに寝転がり、ドンは自分の手のひらをもう一度見た。この
手で弟を叩いた。守ろうとしてきた、守り続けてきた弟を叩いた。あんな馬鹿
みたいなことで。そんな自分に無性に腹が立ち、涙が出た。

           
                    *

                            
 「チャーリー、叩いて悪かったよ」
 ドンはとうとう謝った。まだ許したくないという気持ちはあったが、実際は
許しを乞う立場に回った。どっちかが謝らないと『これ』は終わらない。だっ
たら兄の自分が何とかするべきだ。そういう考えに沿って、ドンはガレージで
弟に謝った。
 チャーリーはそれを聞いて僅かに肩を震わせたが、何も言わずにそのままチ
ョークを走らせた。数式が黒板に埋まっていく。返事がないことに、苛立ちと
焦りを覚えながら、ドンは繰り返した。「チャーリー、悪かったよ。だからも
うやめろ」

 返事はなかった。一体こいつは何をやってるんだ?ドンはそう思って、一心
不乱に数式を書く弟の横顔を見た。もう4日もこの調子で、学校に行くのもや
めてガレージにこもって問題を解き、食事のためにキッチンに来ることもなけ
れば、バスルームにだって滅多にはいかない。何なんだこれは?ドンは思った。
こんなのはいくらなんでもおかしすぎる。
 これまでだってチャーリーはよく数式に夢中になって、食事や睡眠を忘れ、
両親を心配させた。けれどもそれは大体数時間、長くても一晩で終わって、お
なかが減ったなんて照れ笑いをしながら家族のところへ戻ってきたものだ。こ
んなふうになったことはなかった。まるで気が狂ったように、寝ることも食事
もすべて省き、家族の言葉にも答えずに問題を解き続けるなんて。
 ドン、チャーリーがおかしいの。
 喧嘩をした次の朝、自分は絶対に謝らないぞと、内心決意を固めて朝食をつ
ついていたドンに、マーガレットは気遣わしげに言った。ドンはそれを無視し
ようとしたが、母親はトーストを持つドンの手に触れて、繰り返した。あれか
らあの子、ずっとガレージにいるのよ。そして数学の問題を解いてるの。ドン、
私の声にも耳を貸さないのよ。まるで聞こえないみたいな態度なの。
 ドンは最初それを大して深刻に受け止めなかった。それどころか、大喧嘩の
後に、謝りもせずに数式に熱中し始めた弟にむっとすらした。どうせあいつは
人の気持ちなんかより数字が大事なんだ。そんなふうに思って登校し、弟は風
邪かなんて教師に聞かれても適当に受け流し、一日を終えて帰ってきてみて、
やっと事態の異常さに気づいた。チャーリーはあれから一言も口を利かない。
押し黙って数式を解き、何も口に入れない。眠りすらしない。母親のそんな報
告を聞いて、これまでとは何かが違うと思った。

 アランやマーガレットは、何度もガレージに顔を出し、チャーリーをキッチ
ンまで引っ張り出そうとしたようだったが、チャーリーは『そこに人なんてい
ないみたいに』――アランによると――、振る舞い、常にそれを無視したらし
い。ドン、あの子、ショックを受けたのよ。あの……喧嘩で。責めるというよ
り悲鳴に近い母親の言葉を聞いているうちに、ドンも確かに自分が原因ではな
いかと思うようになった。それでガレージに行き、ぶっきらぼうな声で夕食の
時間だぞと伝えたり、こんなところにずっといたら風邪を引くと脅してみたり
したが、驚いたことに確かにチャーリーは、完璧なまでにドンを無視した。い
つもは弟にこちらを向かせることに、苦労なんてなかったので、ドンは軽く衝
撃を受けた。何なんだこれは?
 三日目の晩、このままじゃあの子は死ぬぞ。アランが心配して叫ぶのを聞い
て、ドンも心配になった。そして弟に謝ろうと決めた。それに実際、暴力を振
るったことには後悔していた。ひどい言葉を投げつけたことも。チャーリーは
まだ子供なのだ。それにずば抜けた才能のせいなのか、不安定な性質を持って
いて、そのために自分で自分をコントロールできないようなところがある。そ
れをちゃんとわかってやるべきだった。俺は兄貴なんだから。そんなふうに思
って、ドンは明日の朝、目が覚めたらガレージに行って謝ろうと決めた。
 けれども、謝罪の言葉に返事はなかった。今、わき目も振らずに数式を書く
弟を見て、ドンは不安になってきた。お前の弟、たまにきちがいみたいだよな。
よく一人でぶつぶつなんか言ってるし。なんだっけ?レインマン。そうそう、
レインマンだよ。あれにそっくりだ。そんなクラスメイトの言葉が脳裏に蘇る。
そう言われたとき、ドンはもちろん腹が立ったが、同時に怖くもなった。確か
にドンにもそんなふうに感じる瞬間はあり、それを見透かされたようだったか
ら。
 

 そのときと同じ恐れが胸に広がる。まるで感情なんかないみたいな表情だ。
ドンは思い、たまらなくなってチャーリーの腕に触れた。「チャーリー」
 チャーリーはそれを、蝿でも叩き落とすような無造作な動作で払いのけた。
ドンは呆然とした。チャーリーはドンなんて見ていなかった。誰のことも見て
いない。ありもしない数字の世界だけを見ている。
 こんなのは俺の弟じゃない。
 喉の奥からこぼれそうな言葉を堪える。ドンは結局、説得するのを諦めてガ
レージを出た。弟がまるで知らない他人のように思えた。違う言葉を話す、違
う国の人間、見知らぬ遠い存在のように。
 それからさらに3日経って、ドンが高校から帰ってくると、チャーリーはガ
レージから出ていた。驚いているドンを一瞥もせずに、母親にエウクレイデス
だかなんだかの証明を、解法を見ずにやりとげたということを、興奮して話し
ていた。マーガレットは椅子に座り、困惑気味に、けれども表面上は落ち着い
た態度で、息子の話を聞いてやっていた。どうしたっていうんだ?ドンが戸惑
いながら居間に入り、弟の名前を呼ぶと、チャーリーは目線を上げた。そして
ドンを見た。
 「チャーリー」
 悪かったよ。そう言おうとした瞬間、チャーリーは顔を背けて、また母親に
証明した問題について、自分がどんなアプローチをしたかを捲くし立て始めた。
存在しないみたいに扱われて、ドンは呆然とした。マーガレットはそれを見て
何か言いかけ、結局唇を閉じた。
 日が経つにつれ、チャーリーは少しずつ、元に戻っていった。態度にぎこち
なさは残るものの、やはりドンの後をついてまわるようになり、相変わらず口
は軽く、泣き虫だった。ドンも気まずさを覚えながら、以前のように弟の面倒
を見たり、わけのわからない屁理屈を聞いたふりをしてやったり、二人は以前
の仲に戻ったように見えた。

 けれどもドンはそうではないことに気づいていた。何かが変わった。何か大
きな事件に直面すると、きっとまたチャーリーはガレージにこもる。どうして
なのかはよくわからない。けれどもガレージにこもったときのチャーリーは、
ドンの弟ではない。理解できる相手ではない。
 それともそもそもチャーリーはそういう人間で、これまでドンの前で見せて
きた態度のほうが、作られたものだったのだろうか?本質的にはチャーリーは
ドンには理解できない相手だとしたら?
 ドンは怖くなった。二度と弟にガレージにこもってほしくないと思ったが、
きっかけを与えたのが自分だという自覚もあった。俺があのとき叩かなかった
ら、ひどい言葉を浴びせなかったら、ああはならなかったのか?いつかまたあ
あなるかもしれないのか?そんな考えにしばしば襲われ、眠れなくなったこと
もあった。
 ドンは前にもましてチャーリーに過保護になった。弟に打ち解けた冗談を言
えない代わりに、弟を守ろうと決めた。だから、とドンは祈るような気持ちで
思いながら、毎日弟と一緒に高校に通い、彼を守った。
 だからチャーリー、俺の理解できる存在でいてくれ。 
 

  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  | ここで一時停止。多分あと3回も同じだけの投下を
  |  繰り返しちゃうんだぜ
  \                           | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| . |
                               | | [][] PAUSE       | . |
                ∧_∧         | |                  | . |
          ┌┬―( ・∀・ )┐ ピッ     | |                  | . |
          | |,,  (    つ◇       | |                  | . |
          | ||―(_ ┐┐―||        |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   |
          | ||   (__)_), ||       |  °°   ∞   ≡ ≡   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
くそ長くてスマソ…

関係ないけどレイ㌧教授と弟子の元ネタ知らないけど萌えた
ひらがなの使い方がすばらしー


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