口ーレライ 麻倉大佐と青年将校
更新日: 2011-04-27 (水) 20:58:46
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )地上波見た後、どうもこうもなくなって今まで書いてたらしいよ! 映画設定です。
目などもう開けなかった。いいや、開いていてもその姿など見れなかったのだろう。あの時の自分は。
日差しは翳っているが、その分体力を奪う湿気はますます上がってきているようだった。
一息吸い込むたびに肺に火が入り、全身に一瞬の震えさえ起こすのだ。
そして熱は寒気になり、背中に負う、片腕の無い友人の温度さえ分からなくしてしまう。
しかしそれさえも全ては瞬間の出来事で、あとはひたすら荒地に足を踏みつける事しか考えられなくなるのだ。
「殺してくれ」と後ろから聞こえる声に返事も出来ないほどに。
酷いという一言で済まされる戦況ではなかった。
どこの戦場でもそうだろうが、自分がなぜ生きているのかを問われる戦いではなかった。
ただ守れ、戦え、そして死ねという小隊長の三言を妄信し、眩暈がするほど熱いこの森をひたすら歩いていた。
先頭の誰かに着いて行っているだけであり、ここを抜ければ戦況が変化するわけではない。
そんなことを、この自分でさえも分かっているのだ。
勝ち目が無い戦いを続ける――――いいや、もはやこれは戦いではない。
ならばなんだ。自分は、一体何の為にここにあるのだ。
半ば死者になっている友人をそれでも背負い、うなだれ、列に遅れながらもひたすら歩む自分は。
誰もが死に行くものと同じ匂いをまとわりつかせながら、その行進は続く。
そして、おそらく誰もが思っている。どうして、と。
この命のありかはどこだと、誰もが探しながら、うなだれ、歩き続けていた。
「いえ」
「随分と歯切れのいい返事をする」
「…」
「さて、何の話だったか」
「何某かの小説の話だったかと」
「名前を覚える気はないか」
「…」
大佐は、は、と息を吐き出しながら普段見慣れぬほど快活にその表情を明るく弾けさせた。
大きくとられた出窓からは場違いなほどに穏やかな日差しが差し込み、その姿さえ演出させているようだった。
その頬が僅かに持ち上がると、あの時見た上官の表情との違いに思わず見入ってしまう。
本隊に見放されたあの時、小隊にいた自分は、もはやこの身が地上にあるのかさえ分からなくなっていた。
だがあの時にこの大佐はただ一人で、死人寸前の仲間たちを迎えに来て、こう言ったのだ。
「勝利がここにあるはずもない、我らが為す事を違えるな」と。
そしてあの鬼気迫る表情で自分のまぶたを指で開け、首を支えながら言い聞かせてくれたのだ。
「生きろ、大願なす為に死ぬのだろう?ならば生きろ」と。
「またお前はそうやって、ぼんやりと…」
大佐の表情一つで揺さぶられる自分にも驚いたが、それでも話をやめようとしなかった相手に思わず眉が動く。
「人の話のさなかに上の空、理由を問えば「いいえ」の一点張りで、話を続ければまた上の空だ。どうした」
「…思い出しておりました」
ん、と首をかしげるようにして、上官は話を続けるように待っていた。
「南方での、行進を。思い出しておりました」
大佐はまだ、言葉を待っているように唇を閉じているばかりだった。
「…あの時…命など、捨てるものだと思っていました」
考え考え、言葉をうまくつなげないままの返事だったが、そこでやっと上官の表情が動く。
ふっと緩めた口元はやはり誰よりも優しく見える。
「お前は、この国が神の国と思うか」
「はい」
「この国の為に死ぬか」
「はい」
「俺はそうは思わん」
目を見開き、唇を開けかけたところで大佐は畳み掛けるように言葉をつなぐ。
「この国は生まれ変わらなくてはいけない。その為に、一度死ななくてはいけない」
「…」
恐ろしい言葉を耳にした、と肝が冷える。だがそれよりも光に照らされる人間から目が離せない。
揺ぎ無い己の信念を無心に語る姿は、どこか恋の歌を詠む少女のようだった。
「お前の命はどこにある」
「命、ですか」
まるでつながりが無い言葉のやり取りだったが、大佐にはそれなりの意味を持つ会話なのだろう。
そう考えながらも、急な問いかけとともに見つめられれば咎められているのではないかとも思う。
沈黙は続き、答えを自ら発するまでは許してはもらえそうにないとやっと理解する。
「…命は…ここでしょうか…」
確固たる理由も無かったが、自分の胸の部分の服をつかみながらそう答えた。
それを見て、大佐はやはり僅かに笑んだのみだった。
背筋が震えた。しかしそれは熱さでも、寒さでもなく、歓喜でだった。
大佐の一言に背中が燃え、唇の端が上がってしまったのが自分でも分かった。
「後で会おう」
微笑み、しっかりと見つめられて発せられた。たった一言に。
強い信念を持ち、貫き通すその瞳の美しい事といったらなかった。
そして自分を救ってくれた彼の為に使えるこの命の誇らしさ――――。
全てがあの時から、意味のある今までの生になり、意味のある今の死に繋がっているのだ。
彼の為に生き、死ぬ。
大願なす為にと大佐は言った。今こそその時だ。
「大使殿」
銃を構え、殺すべき男の額に押し当て、銃弾を放つ。この男の命でさえも大佐の為に消されゆくのだ。
緩む頬を戻す事はできなかった。
あの時、皆がうつむき探しあぐねた一つの答えを今、たった一人に捧げる。
神に祈るように空を見上げる。抜けるほど青い空は故郷を思わせた。
これから、この世界は生まれ変わる。素晴らしい事だ。その世界で皆が生きるのだ。
あぁ、生きて、そして今死ねて本当に良かった。
「麻倉大佐」
待っているだろうか、それとも自分が待つ事になるのだろうか。
そんなくだらない事を考え、ふふ、と声が出るほどに笑っている自分がいた。
なんて容易く彼の元にいけるのだろう。
そう思うだけで心の中はただひたすら歓喜にあふれた。そしてそのまま引き金を引く。
自分の喉へと、まっすぐに。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )最後に通し番号間違えたけど気にしないんだぜ! これでおしまいです!ありがとうございました!
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