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スンオサ

決戦の次の日、鈴木さんの奥さんが学校にやって来た。
鈴木さんは休み中に溜まった仕事に追われて当分休めそうにないので代わりに来たのだという。
奥さんは「始ちゃんがみんなによろしくって。皆、本当にありがとう。」
と言って、お菓子を沢山持ってきてくれた。
みんな「始ちゃんが…」と言いながら笑いを堪えていたけれど、
お菓子を差し出されるとすぐにそれに飛びついていた。
寸心はまたサボって屋上に居たからここには居なかった。居なくて良かったような気がするな。

そして僕たちは3泊4日の沖縄旅行に飛び立ったのだった。
「寸心、鈴木さんにお土産買った?」
「…買ってねーよ。」
屍図メンバーは僕も含め全員鈴木さんにお土産を買っていた。
沖縄旅行に来れたのも、鈴木さんのおかげだし。
俺達の夏休みが楽しかったのも、鈴木さんのおかげだったから。

沖縄旅行から帰っても、鈴木さんはしばらく来なかった。
鈴木さんへのお土産を自宅へ持っていくかどうか話をしていると、
窓際で座って本を読んでいた寸心が口を開いた。
「いいんだよ。もう。」
山舌が「なにが~?」と気の抜けた声で訊ねると、めんどくさそうに席を立ち、
「捨てとけよ」と言い残して去っていった。
自宅まで届けるのはやめておこうか。腐るものは1つくらいだし。
しかし…鈴木さん早く来ないかな。寸心がサミシクテシンジャウかもしれない。

そして一ヶ月が経った頃、鈴木さんはようやくやってきた。
ドアを叩く音に、いつもは無反応な寸心の肩が揺れたので、僕はすぐに鈴木さんだとわかった。
「やっと休みが取れたんだ!みんなに改めてお礼をしたくて…」
屍図の皆は大騒ぎ。各々鈴木さんの周りをグルグル回りながらお土産を渡していた。
なんだか異臭のするものもあったけど、まあおかしな事になってもハブ酒でなんとかなるだろう。
「お久しぶりです鈴木さん。まあどうぞ。」
有無を言わさずやたら対面距離の近いイスに鈴木さんを座らせ、メンバーで周りを固めた。
鈴木さんは寸心の方を見ると、笑顔全開になった。
寸心は本に目を向けたまま顔をあげていないから、その笑顔は見えていないけど雰囲気でわかったと思う。
「僕らずっと待ってたんですよ?もう来てくれないのかと思いました。」
「あっ…!ごめん!溜まってた仕事の整理するのに時間かかっちゃって…ごめんね。
休日も返上で、なかなか来れなくて…僕も…すごく、みんなに逢いたかったよ。」
メンバーみんなにホッと笑顔が零れる。
寸心だけじゃない。みんな、なんだか鈴木さんの事が好きだからね。
こんな大人も居るんだと思うと、世の中、悪くないよね。
「はい。これ、僕からのお土産です。」
「あっあぁっこれ、シーサー?ありがとう!沖縄、楽しかったかい?」
「ええ。残念ながら水着ギャルとめんそ~れはできませんでしたけど。」
鈴木さんはありふれたシーサーの置物をかわいいねぇとか良いながら撫でている。
「これ、こっちが鈴木さんでこっちが寸心です」
シーサーは2つで1つなんですよ。と説明すると「寸心君!これ、君と僕だって!」と寸心に話しかけた。
寸心はその瞬間席を立ち、足早に出て行ってしまった。
「あれ…どうしたの?寸心君…」
さっきまでちぎれんばかりにしっぽを振っていた鈴木さんが、急に耳が折れたようにしゅんとしてしまった。
「あの子は手間がかかりますからぁ。」
山舌が知ったような口を聞く。

「久しぶりで、どうしていいかわからないだけですよ。寸心は愛情に不器用なんです。…知ってますよね?」
ジッと鈴木さんの目を見れば、ハッとしたような顔をした。
「僕…行ってくるよ。 あっこれ、みんなありがとう!!大事にするよ…あっそれとこれ、
よかったらみんなで飲んでね!…それと…また、ここに来てもいいかな…?」
「「「「いいともーーー!!」」」」「もちろん」「待ってますよ!」
鈴木さんは「ありがとう!今度は動物園に行こう!」と言いながら、
両手にお土産を抱えて軽やかに走り去っていった。山舌が「動物園は微妙じゃない?」と言ったが、同意だ。
だけどポカリ貰ったからまあいいか。
さて、ここからは二人きりの方がいいだろうから、僕はポカリを飲みながら二人の帰りを待ちますか。

***************************************** Edit

「寸心くーーん!」
寸心は鈴木との特訓で使った木の上に居た。
鈴木は学校を出てからまっすぐここに向かった。寸心は此処にいるという確信があったのだ。
「僕も登ってもいいかな?」
寸心はしばらく黙っていたが、「登れるもんならな。」と、木に括ってあったロープを降ろした。
一緒にポケットから軍手を取り出し落とす。
寸心もまた、鈴木がここを探し当てるだろうと期待していたのだ。
一ヶ月ぶりの木登りに鈴木は”スルスル”とは言わないが、何度か落ちながら必死に登った。
最後は寸心に引っ張りあげられつつようやく登り切る。鈴木は最初体勢を崩し寸心にしがみつきそうになったが、
慌てて逆サイドの伸びている枝に手を伸ばし、それでバランスを取った。
そして寸心に振り向くと、一瞬の後、二人に笑顔が零れた。
「ずっと来れなくてごめんね。お礼を言いたかったんだ。」
「いいよ、別に。…」

鈴木はこの夏の特訓がどれだけ有り難かったか、あの後娘さんとはこうだった、ああだったと身振り手振りで話す。
その身振り手振りでバランスを崩した鈴木は反射的に寸心に抱きついた。
そしてしまった、とすぐに手を離し、恐る恐る寸心を見た。
その鈴木の様子に寸心は思わず吹き出した。安心した鈴木も笑顔になる。
「テヘッて笑ってんじゃねーよ。テヘッて………おっさん、」
寸心はポケットから珊瑚礁のカケラを取り出すと、鈴木に差し出した。
「これ、もしかして沖縄の?」
寸心は微笑みで答える。皆方にあんな事を言ったが、寸心は沖縄土産を鈴木に用意していたのだった。
始めて潜った沖縄の海は透き通るように青く、ずっと先まで広がった視界には色とりどりの魚が泳いでいた。
寸心は、この景色を、鈴木にも見せたい、と思ったのだった。
「ありがとう!…綺麗だねぇ。…寸心君はいつも僕に綺麗な物を見せてくれるね。
ここからの景色もさ、あとほらっ空を飛んだ時の景色も!」
「くせぇ事言うなよおっさん」
鈴木の喜ぶ顔は、沖縄の海の中で寸心の想像していた通りだった。
そして今まで自分の思っていた事は、ちゃんと鈴木にも伝わっていたのだ、と思った。
「寸心君達には貰ってばかりだね。」
寸心は、そうでもない、と思った。
空を飛ぶ人を見たのは初めてだったから。あの大きな翼は、初めて見るものだったから。
「僕ね、決めてるんだ。今度は僕が寸心君を守ってあげるよ。」
寸心は一瞬固まった。が、持ち前の冷静な判断力ですぐに平常心を取り戻した。
まっすぐ自分を見つめる嬉しそうな鈴木の顔。寸心はそっと目を逸らし、苦笑した。
鈴木のこういう予測できない行動はこれで数回目だったが、いつも寸心の心を激しく揺さぶる。
少し頷くと、寸心はふいに鈴木にボディブローを決めた。
左腹にもろに食らった鈴木が本当に木から落ちそうになる。
寸心はそれを足で支え手で引っ張り上げ持ち直し、慌てふためく鈴木に微笑みかけた。
「そういうのはもっと強くなってから言え。」

鈴木は怒るでもなく、でもね、あれからも会社の帰り道は走って鍛えてたんだよと言い訳をする。
寸心はそこに受け入れられている自分を見た。
鈴木を見る目がどんどん愛しいものを見つめる目になっていく。
寸心の手がふいに、ブツブツと言い訳をしている鈴木の頭上に伸びる。
そのまま、ガシガシと撫でた。
「いてっ!す、寸心君?」
そして鈴木の髪を引っ張るようにして自身に傾けると、胸元に抱き込んだ。
「あっ!す、」
鈴木は何をされるのかと驚いて手を不思議な構えにしたまま固まっていた。
が、特に痛めつけられるわけではないとわかり、その手をそっと膝に降ろした。
鈴木はしばらくわからずに目を見開いていたが、ハッとした。これは、自分がした事と一緒だ、と。
愛しさが込み上げた時に自分が寸心にした行動と同じだと。
あの時は寸心に手を払いのけられてしまったけれど。鈴木はその手を払いのける事は無かった。
お互い座っているとはいえ自分より背の低い寸心の胸元に頭を持って行かれるのは体勢的にきつかったが、
鈴木は大人しくその位置に納まっていた。
ふいに寸心の手が鈴木の顔を包み、持ち上げられる。
されるがままに上を向かされた鈴木は目の前にある寸心の顔に少し驚いた。
寸心は鈴木の目が丸く開く様を面白がるように見つめた。そして鈴木の額に自身の額を付けた。
「自分以外に守るものがあると、人はどこまでも強くなれるんだな。」
鈴木は目線に困り、目を瞑った。寸心はその様子に驚く。まるで、許されたのでは、と勘違いしてしまう。
だが寸心にはわかりきっていた。これが、誤解だと。
鈴木の頭に衝撃が走る。
「いっ!」
「絶対に敵から目を逸らすなつったろ」
寸心は座る位置を直し鈴木から離れた。鈴木は突然無くなった支えに少しふらつく。
「帰るぞ」
寸心は言ったが早いか、ロープに手を掛けるとスルスルと降りていった。

鈴木は慌てて後を追い、かなり上の方から半ば落ちるように降り尻餅をついた。
「待って寸心君!」
腰を押さえながら急いで地面に置いておいたみんなからのお土産を拾い集め、スタスタと先を行く寸心の後を追う。
「寸心君は敵じゃないから目を離したって大丈夫だよ」
スタスタ歩いていた寸心が立ち止まり、間を置いて振り返る。
そして同じ速度で鈴木に向かってUターンしてきたので、鈴木は反射的に身構え、震えた。
鈴木の側で急に速度を上げた寸心は、一瞬で腰にタックルし、そのまま押し倒す。
「あーっ!」
素早くマウントポジションを取り、鈴木の右手を地面に押さえつけ、顎を捉えた。
鈴木が状況を把握する間も与えず、寸心はその唇に自身の唇を押しつけた。
「んん゛っ?!」
口付けというより、何か技の一種のようなそれはすぐに離され、
素早く鈴木の上体を浮かせると背後に回り、首に腕を回して頸動脈を締め上げた。
鈴木が苦しがり寸心の腕を叩くので、3秒数えてその身体を開放した。
息の荒い鈴木を置いて寸心はまたスタスタと歩き出す。
ワケのわからない鈴木は、それでもなお、お土産を拾い集め寸心を追うのだった。
「あっあの、寸心君!今…あの、僕はキスをされたのかなぁ?」
「してねぇよ」
「えっ?そう?あ、あれ?あれ、」
「してねぇつってんだろ。おっさん。」
「そう?嘘だぁ…」
寸心が拳を握り鈴木に向かって振りかざす。
鈴木が慌てて避けようと構え、またお土産を落とした。
寸心の拳は鈴木の目の前で止まった。寸心は焦る鈴木の様子を面白がるように微笑むと、スタスタと歩き出した。
「寸心君っシーサー割れちゃうよ!」
「 割 れ な い 。」

帰りを待っていた皆方は久しぶりに楽しそうな寸心の姿と草や泥のついた鈴木の姿に満足げに微笑んだのだった。

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 | | □ STOP.       | |               
 | |                | |           ∧_∧ 久々に萌えが止まらない作品に出会いました。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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