図書委員×ネガティブ教師
更新日: 2011-04-29 (金) 16:39:56
週間少年マ○ジンで連載中の「さよなら糸色望せんせい」の
天才ストーリーテラー生徒×ネガティブ教師。
原作の教師は自殺癖のあるキャラで、投稿させてもらう話にも
そういったテーマが出てくるので(※死にオチではないです)注意。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ナガクナリスギデモウシワケ
「絶望した!」
下校時刻が迫りほとんどの生徒が帰った後の静かな図書室に、突如響き渡った場違いな声。
一人黙々と大好きな読書に耽り至福の時間を過ごしていた図書委員の生徒──クドウは、
今の今まで活字だけを追っていた少々垂れ気味の目を静寂を破った読書の敵へと向けた。
視線の先にいたのは時代錯誤な和装の男、クドウのクラスの担任教師であるイトシキだ。
もっとも、そんなことは最初の声とフレーズを聞いた時点で既にわかっていたのだけれど。
「今度は何に絶望したんですか?先生」
一旦離した目を再び手元の本に戻しながら、クドウはそうイトシキに声を掛けた。
ドア付近に立っていたイトシキは元々あまり良くはない顔色を更に悪くしながらため息を吐き、
それからのろのろとした重い足取りで読書を再開したクドウの隣の席に着く。
彼はそのまま机に突っ伏した。そうして、先の質問にあった『本日の絶望の理由』を語り始める。
「先ほど、下校途中の小学生が中古ゲームを買う相談をしていたのです。
彼らは新品より安く手に入る中古を選び、そして飽きたらまた中古屋に売るのです。
リサイクルといえば聞こえはいいですが、それで手に取られないままの新品の立場はどうなるのです?
結局誰の手にも取ってもらえず、いつしか一度も開けられぬまま中古として扱われ値引きされる……
私だってきっとそうです。誰にも必要とされぬまま一生を終えるに決まってます」
そこまで語り終えると、イトシキはまたしても「絶望した!」と叫び声をあげた。
このイトシキという男は実に人並み外れたネガティブ思考の持ち主であり、
日常のあらゆる物事になにかと絶望しては自殺をはかるという厄介な性質の人間だった。
しかしその絶望の多くがひねくれたこじつけや単なる被害妄想だったりする上に自殺の方も
本気で死ぬ気があるのかいまいちわからない節があるので、違う意味でも厄介といえる存在だ。
とはいえクドウも今ではそんなイトシキにすっかり慣れている。
「大丈夫ですよ先生、世の中には本やゲームは新品じゃないと気が済まないって人も多いんです。
そういう人達がいるから新品が新品という理由だけで売れ残ることは無いと思います」
「……そうでしょうか」
「そうですよ。だから心配しないでください」
「…………」
相変わらず目は活字を追うのみだが話はきちんと聞いていたらしく、クドウの口からはフォローの言葉がかけられる。
その時クドウは、自分の言葉を黙って聞いているイトシキの様子を横目でちらりと窺った。
先ほどまでの突っ伏した姿勢から今は項垂れた姿勢へと変わっている。
視界に映ったうなじには、赤い痕が付いていた。それは首を吊ろうとした縄の跡だ。
事ある毎に首を吊っては失敗し、結果生きたままの体に空しい痕だけを残す。
クドウはそれを滑稽だと常々思っていた。
死のうとするくせに本当に死にそうになると「死んだらどうする!」などと口走る彼。
「また首を吊ったんですか」
「でも邪魔されました」
「でしょうね。だって生きてるんだから、今」
「うう……」
尚も項垂れたまま気まずそうに唸るイトシキに、クドウは肩を竦めた。
別に責める気はない。ただ呆れたのだ。
「とりあえず絶望し終わったんなら読書の邪魔しないでください」
「……もうちょっと構ってくれてもいいじゃないですか……」
そう言って、イトシキは更に深く項垂れた。冷たいクドウ君に絶望した……などと呟きながら。
姿勢のせいで嫌でもうなじが目に入る。うなじにかかる黒い髪、赤い跡の残る白い肌。
クドウは暫しの無言の後、パタンと音をたて読み途中の本を閉じた。
そうして、恐らくなら項垂れたままこちらの様子をこっそり窺っているでのあろうイトシキの耳元に口を近づける。
「じゃあ、構ってあげます」
至近距離でそう囁き、クドウはそのままイトシキの着物に手を入れた。
慌てて顔を上げる相手の焦った抵抗など気にせずに、そのまま薄い胸板に触れる。
「ちょ、ちょっと待ってください……!」
「何ですか?構ってくれって言ったのは先生じゃないですか」
「わた、私は別に、そういう意味で言ったわけではないんです!」
「まあ、僕はそういう意味で取ったんで」
「そんな……私はあの、例えばほら……いつものように面白い創作童話を聞かせてもらいたいと……っ」
「とにかく、僕の読書を中断させたんですから文句なんて言わせませんよ」
「…………っ、」
絶望した!思春期の性欲に絶望した!
性分ゆえかそう叫んだイトシキの目には、普段通りの柔和な笑みを浮かべたクドウの顔が映った。
「ん……っ、」
机に手を付いた体を後ろから抱き込むようにしながら、クドウはイトシキの性器を扱いていく。
場所が場所だけに挿入は無しということで、代わりにといつもより丁寧な、ともすればねちっこいとすら
言える愛撫を施され、イトシキの口からはそろそろ我慢がきかなくなってきた喘ぎが漏れ始めていた。
薄い胸板に手を這わせれば、存在を主張している硬い尖りがわかる。
それを少し強めに捏ねて、敏感に跳ねる体をクドウは愉しんだ。
体勢のため目の前にある赤く染まった耳には悪戯するように息を吹きかけ、
そのまま意識的に音をたてながら執拗に舐めていく。
イトシキはそこで苦しそうに振り返り、縋るような目でクドウを見た。
「く、くどぉ、君……っ」
「何ですか?」
「みみ……耳、を、舐めるの…を……やめてくださ……っ」
耳を責められると弱いらしく、普段よりも明らかに興奮している。
それでも必死にやめてくれと哀願する彼に、クドウは目を細め素直に頷いた。
「わかりました」
そして、今度は舐める代わりに耳朶を甘く噛む。
「……っわかって、ないじゃないですか……あぁっ」
優しい態度で意地の悪いことをするクドウにイトシキはまたしても軽く絶望したが、
お約束の台詞を口にする前に性器を強く擦られただ単に喘いだだけに終わってしまった。
逃れるようにして弱々しく頭を振る彼は、近付きつつある限界に荒くなる呼吸を内心で恥じる。
そんな彼の耳を、今度は舐める行為でも甘噛みする行為でもなく意外な言葉が刺激した。
「先生、僕お話考えたんです」
「え……?」
それは読書家でありまた自ら物語を創作するのにも長けた才能を持っているクドウが
自分の作った物語を披露する際によく口にするセリフだった。
だがその普段と同じ言葉やトーンは今この状況においてはあまりにも場違いで、
既に快楽に溺れていたイトシキはわけがわからず気の抜けた声を返すぐらいしかできない。
そんな彼を気にするでもなく、クドウは尚も普段通りの口調でその「お話」を語り始めた。
イトシキの体を愛撫する手は止めずに。
「『うさぎのせんせい』」
「んっ……はあ、あ……っなに……何、なんですか……?」
「あるところに、うさぎの先生がいました。先生はいつも何かに悲しんでいました」
「くどう……、くん……っ」
クドウはやわらかな響きの声で、彼が得意とする童話のあらすじを語る。
イトシキは絶えず与えられる刺激に喘ぎながら、耳に入ってくるそのあらすじを朦朧としながら聴いていた。
「心の弱い先生は悲しいことがあるとすぐに自分で自分を殺そうとします。
だけど結局いつも失敗して、みんなと一緒に毎日を過ごしていました。
そんな先生のまわりには色んなどうぶつがいます。
虎やライオン、リスにクマ、小鳥にたぬき、先生の家族のうさぎもいます」
今度の童話の主人公であるうさぎの先生が自分を連想させているということはこの時のイトシキにも理解できた。
ただ、あえて今この状況でそんな童話を作り話し始めたクドウの意図は全く理解できないが。
「ある日のことでした。
いつも自分を殺すことに失敗していた先生が、とうとうそれに成功したのです」
「……っ」
「先生のまわりにいたみんなは泣きました。
そして、その中にいた一匹も、死んでしまいました。
体は生きているけれど、心が死んでしまったのです」
そこまで語ると、クドウはイトシキの肩口に噛み付いた。歯型が残る。
イトシキの顔が痛みに歪んだ。だがクドウはそのまま手の中にあるイトシキの性器を
一気に絶頂まで昇りつめさせるべく一層激しさを増した手つきで扱いた。
「あ、あっ、くど……あ、っはあ、あ、あぁ……っ!」
イトシキが射精したのはそれからすぐだった。
駆け足で迎えた絶頂の余韻に浸りはあはあと荒い呼吸を繰り返す彼に、クドウがそっと囁く。
「先生、僕のもお願いします」
「……はい……」
「口で」
「…………はい……」
太腿に押し当てられたクドウの性器は硬く勃起している。
イトシキは新たに顔を赤くしつつも素直に頷いた。
「クドウくん、さっきの童話の続きはどうなるんですか?」
「ききたいですか?」
「……はい」
お互いに落ち着きを取り戻した後、イトシキはクドウに先ほどの童話の続きを求めた。
朦朧としながらも耳に入ったあらすじは、自分──否、うさぎの教師が死んで残された動物たちのうちの
一匹の心が死んだと語られたところで中断している。元々クドウの作る創作ストーリーに弱いイトシキだが、
今度の話は自分を重ねられて作られているのが明らかなだけに更に気になるのだ。
「続きはほとんど無いですよ」
「え?」
「……うさぎの先生が死んでしまった後、みんなは悲しみました。
そして、その中の一匹の心も死んでしまいました。
その一匹は死んでしまった先生のことをずっと忘れられずに、
悲しい悲しいと思いながら生きていくことしかできなくなりました」
「…………」
「……はい、おしまい」
続きを話し終えたクドウはやっぱりいつも通りの、柔和な表情だった。
黙り込んでしまったイトシキを、黙ってみている。
「……天才ストーリーテラーともあろうクドウ君にしてはツメが甘いですよ」
「そうですか?」
「ええ、だって私にはその物語の続きがわかるんですから」
「続き?」
「先生がいなくなったことで心が死んでしまったその一匹も、
そのうち新たに大事な出会いを果たすんです。そして心も生き返って。
死んでしまった先生のことも、やがて忘れられるんです」
そう言って、イトシキは俯いた。自分の言葉に自分で傷付いている。
とことんネガティブな人だ、とクドウは思った。だけど、そんなだから放っておけないとも。
「ねえ先生」
「……何ですか?」
「僕はね、本を読むことが一番好きです」
「知ってますよ。世界中の本を読み尽くしたいほど大好きなんでしょう?」
「そうです。多分、先生といるよりも本を読むことの方が好きです」
クドウがそう言うと、イトシキは一瞬の間の後に「そうでしょうね」と笑顔で返す。
その笑顔は、人の何倍も何十倍も絶望を繰り返してきた彼がこれまで見せたどの瞬間よりも
深く絶望している表情のように、クドウの目には映った。
「先生、今すごく絶望したでしょう」
「してません」
「してましたよ」
「……してません」
二度目の否定は、一度目ほどはっきりしていなかった。
それはクドウの指摘が間違いではないということを明確にしてしまっている。
だから、彼は笑った。
「でもね先生、可能性はあると思うんです」
「……何の話ですか」
「だから、今はまだ僕の中では本を読むことの方が大事だけど、
これから先生と一緒にい続けることで順位が変わってもおかしくないってことです」
「…………」
「でも僕の読書好きは自分で言うのもなんだけど筋金入りだから、
ちょっとやそっとじゃ揺るがないと思うんです。
だから先生は、僕の中の一番になるためにこれからまだまだ生きててください」
クドウの言葉に、イトシキはぽかんと口を開け呆気にとられていた。
なんだかものすごく勝手で強引な言葉ではないかとそう思ったからだ。
それでも、そんな勝手で強引な言葉でなぜか先ほどの絶望感が消えているのを彼は自覚する。
「私は……私は多分、これからも何度も色々なことに絶望して、そしてきっと死のうとしますよ。
クドウ君の本好きと同じで私の絶望癖も筋金入りだと思いますから」
「だから絶望したら僕のところにくればいいじゃないですか、今日みたいに」
「え?」
「先生、今日は一旦帰りかけたのに途中で中古ゲームのことで絶望して、
それでまたわざわざ僕のところまで戻ってきたでしょ?」
「そ、れは……」
「いつでもお話聞かせてあげるし、構ってあげますよ。だから」
生きててくださいね。
そう言ったクドウの声はひどく優しいものだった。
鼻の奥がツンとなったイトシキはこうしてすぐに泣くのも良くない癖だと思い至り
泣きそうになった自分を抑え、それから少し震えた声で「ありがとうございます」と呟いた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )アリガトウゴザイマシタ
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