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新・男達の挽歌『折鶴』

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男は一人で座っていた。
船の中、テキーラの瓶を傍らに置き、二つのグラスを床に並べた男が、折り鶴を手に座っていた。
薄暗がり。男の他に誰もいない。波の音しかしないその空間に時折混ざる、嗚咽。
ただ一度、接吻を交わしただけの相手。彼を喪ったことが、長年共に戦ってきた相棒を喪ったあのときよりも辛く苦しいのが何故だか分からず、男は泣いていた。
男はやがて、手にしていた折り鶴の折り目をそっと解いていった。かさり、かさりと鶴の形が崩れていく。
ゆっくりと開かれ一枚の白い紙に姿を変えた鶴を愛おしむように幾度も指で撫でる。それから男は神経質な折り目をなぞって再び鶴を折り始めた。
ひとつ、ひとつと折り重ねるごと鶴の形が出来ていく。
それは男が知らない、彼の長年の苦悩をなぞることと同じだった。彼には結局、何ひとつ残らなかったのだ。身分も名誉も財産も、名前さえも。
重ねた唇のぬくもりさえももう消え果てて残っていない。
盗まれた口付けに目を丸くすると、彼は存外に幼く見える笑顔で男をみつめ、すぐに元の無表情に戻って背を向けた。
もしかしたら自分でキスをしたくせに照れていたのかもしれない。
ほんの僅か赤くなった耳朶に男は気づいていた。言ったらきっと怒るだろうからと黙っていたけれど、気づいた時には少しだけ笑ったものだった。
また一滴顎を伝った涙が手元に落ちる。
ぽたり、濡れた折り紙を男の手が折り続ける。
やがて折り上がった鶴の羽を広げようとした所で、ひょいと伸びて来た手が男から取り上げた。
「…下手くそ」
その声にハッと男が顔を上げる、そこにはいささか不機嫌そうな顔をした彼が立っていた。
「連絡もなく来て、勝手に入るなって前にも言ったろう。誰かに嗅ぎ付けられたら厄介なんだ」
彼はそう言って男を睨む。それからつかつかと入り口のほうへ戻っていく。ドアを少しだけ押し開いて周囲をちらりと見回した彼は、不審な影のないことを確認して戻ってきた。それからまた男を睨んで不機嫌そうに口を開く。
「何しに来た」
男は暫く言葉に詰まった後で我に返り、慌てて傍らに置いておいたテキーラの瓶を手に取った。
それを彼に向けて振ってみせる。
「酒持ってきたんだ。お前と飲もうと思って…」
「仕事中の飲酒は禁止だろうが」
「…一応、休暇中だ」
彼は呆れたように軽く溜息をついて床のグラスを片手でつまみ上げる。
「自主休暇は休暇とは言わないだろ。サボりと言うんだ」
だがそう言った後で続けて「瓶持って来いよ」とも言うので、どうやら嫌がっているわけでもないらしいと分かって男は鼻を啜り、瓶を手に彼の後に続いて船室の奥へ入っていった。
346 : 風と木の名無しさん :2004/03/19 16:50 ID:/mCZQgNb?
そこでテーブルにグラスを置いた彼は男が注ぐのを待たず、自分で瓶を奪ってグラスを満たした。男は手持ち無沙汰に氷りでも探そうかと冷蔵庫を開けたが、案の定というかなんというか、そこにはビールの缶が一本入っているきりだった。
これではぬるいがいいのだろうかと男が彼を振り返れば、彼は全く気にする素振りもなくテキーラをぐっと流し込んでいる。
「普通…」
「ん?」
「普通、持ってきた奴に礼くらい言うもんだろうが」
「…細かい奴だな」
彼は唇を片側ちょいと持ち上げ、もう一度半分ほど満たしたグラスを男に掲げて見せる。
男もグラスを手に取り、彼のそれとチン、とぶつけて涼やかな音を響かせた。
また軽く呷った所で、彼がふと指を持ち上げて男の後ろを示す。
「あそこ」
「あ?」
男は指し示された方を振り返った。彼が言葉を続ける。
「棚があるだろ。横に旅行雑誌が立ててあるんだ。もう五年も前のかな。おまえにやるよ」
「五年も前の雑誌なんて貰っても…」
言いかけて男が彼に向き直る。否、向き直ったつもりだった。少なくとも、男は。
だがそこに彼の姿はなく、空のグラスと丁寧に折り直した鶴がテーブルの上に置いてあるばかり。
男は慌てて船室内を見回したが誰もいない。いるはずもない。
何故ならば彼は死んだのだ。死んでしまったのだ。
この船の主はもういない。
男は突然あふれだした涙を止められず、呆然とその場に立ち尽くした。
たった今、グラスを交わしたのは誰だ。幻想か、妄想か。それとも彼がそこに居たというのか。
言葉を交わしたのは、鶴をこんな風に綺麗に折り直したのは誰だ。
それも幻か。
よろよろと彼が指さした棚に向かって歩き出した男は、そこに彼の言葉通り一冊の古びた雑誌を見いだした。
手に取ると、幾度もめくってよれたページがぱらぱらと音を立ててめくれていく。
やがてそのページの一カ所に、男は鍵が貼り付けられているのを見つけた。
北極。彼が憧れた光の地。消えぬ光を浴びられる場所。
その写真の上にテープで無造作に貼り付けられたその鍵が一体、どこの鍵なのか男には分からなかった。だが男はそこから鍵を外すと、猛然と船内を探し始めた。その鍵が開けるべき封印の在処をただひたすらに探した。
彼がそこにいた名残とも言えるささやかな本や、仕舞い込まれた山のような銃を掻き分け、やっと男が「それ」を見つけた時には船内に差し込む光は殆ど絶え、周囲は暗闇に沈んでいた。
それはなんのことはない、当たり前のように存在する鍵穴にぴたりと合った。
男が鍵を差し込み、捻ると男の手元にいくつかの光が走る。そして男が点灯したスイッチの一つを押すと船内に煌々と明かりが灯った。
この船のキー。彼が死んだ時、彼の胸で打ち抜かれ歪み、砕けてしまったあの鍵。
男はEngineと文字が刻まれたレバーをぐっと押し上げた。ゆるい重低音。動き出した機械の音が足下から響いてくる。
船はゆっくりと動き出した。
水面をうねらせながら黒い海に漕ぎだしていくその船の上で、今度こそ男は声をあげて泣いた。
泣いて泣いて、泣き飽きて大の字に横になり、言った。
「北極行ってやるよ。ああ、俺が行ってやるさ。お前も一緒にだ」
どこかできっと、彼が皮肉っぽく唇を吊り上げて「おまえ、船の操舵なんか知らないだろ。無茶言うなよ」と笑う。
それもそうだと男は思い、また一筋涙を零しながら笑った。

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                    |  幽霊でゴメソモナ。
                    |  そもそもこれはやおいなのかも疑問モナ
                    |  ちなみに元ネタは映画ですた。
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  該当スレがあるのかも知らん…
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 | | □ STOP.       | |               ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ;)(´∀` )(゚Д゚ )
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