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FQ:クレトラ

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                    |  ラノベのフォーチュン・クエストで妄想……
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  クレトラ(クレイ&トラップ)です。
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 *ラノベスレにはSS貼る空気じゃないので、こちらにコソーリ投下。
 *クレイ&トラップ:お互い、自分の気持ちに気づいてない、幼馴染冒険者カポー。
    クレイ: 黒髪に鳶色の瞳も凛々しい戦士様。
    トラップ: 赤髪に薄茶色の瞳、口の悪い華奢な盗賊。

 穏やかな午後、町から町への移動中のことだった。
 木漏れ日の中を、談笑しながら歩いていたクレイとトラップ。
 幼馴染であるところの2人は、お互いを庇い合い、また助け合いながら、着実に冒険者としての修練を積んでいた。

「なぁクレイ、まだ着かねえの? 俺腹減った」

 少し前を歩いていたトラップが、首だけ振り返って問いかける。
 手入れした形跡がないのに絹糸のような赤毛が、やわらかな光を反射してきらめいた。

「お前、さっき食ったばっかじゃないか」

 どことなく甘ったれた口調に、呆れたように答えるクレイ。

「だってよぉ、昼飯ったってシケた乾パンじゃん? 今日の晩飯はうめえモン食おうぜ! 空揚げとさ、フライとさ、串焼き。あとビールなっ!」
「肉ばっかじゃないか」

 無邪気に指折り数えるトラップに、クレイは我知らず顔がほころばせた。
 一心に今日のメニューを考える幼馴染。
 その子供じみた表情をついからかいたくなり、背後から派手な帽子を取ってやろうかと大股に近付いた時だった。
 2人の前に横っとびに現れた、獣人の群れ。生意気にもソードだのアックスだのを手に手に構えている。
 戦士としての本能を発揮し、咄嗟にトラップを背後に庇うクレイ。
 望んだ戦闘ではないが……モンスターに喧嘩を売られたら、即買いするのが冒険者の心得だ。
 よく手入れされたロングソードを構える、逞しい腕。
 クレイは顎を引いて、鳶色の目を鋭く光らせた。

 しかし。奴らのレベルは相当に高く、2人は否応なく苦戦を強いられていた。
 ぶつかりあう刃の音が鋭く耳に突き刺さる。
 息詰まる戦いの末に、ようやく最後の1匹を追い詰めたクレイ。
 打ち込まれたソードを身を引きながら払いのけ、返す刀で袈裟に振り下ろそうとした瞬間。
 背後から強化パチンコで援護していた、トラップの絶叫が響いた。

「クレイ!危ねぇっ!!!」

 目の前を、真っ赤なものが飛び散った気がした。
 衝撃。激痛。悲鳴。
――後は静寂。ただただ、無音の世界。

 瞳を塞がれたような、平坦で塗りつぶされたような、闇の中で。
 目の前に差し出されたのは、鍛えられてはいるが、男にしては細身の腕。
 繊細な指先が強張ったように、自分を助けようともがいていた。
 ……トラップ……お前は……無事か?……
 声にならないつぶやき。
 逞しい腕が伸びて、その細い手を引き寄せ、力の限り握り締めた。

 微かな鳥の声が聞こえる。
 ぼやけた視界に苛立ち、何度も瞬いて強引に目をこらすクレイ。
 ようやく焦点が合った目に映るのは、木々をほんのりと包む薄闇。
 ……俺はどれだけ気を失ってたんだ?

「気がついたか?クレイ」

 顔のすぐ傍で、ほっとしたような声がした。
 覗き込んでいるのは、トラップ。薄茶色の瞳が心配そうな表情を物語る。

「いて……」

 クレイは呻きながら身を起こした。
 首を廻して痛む肩口を見やると、そこには包帯が巻かれ、薄く血が滲んでいる。
 しかし、この程度の痛みならば、たいした傷ではないだろう。
 そんな風に楽観的に考え、傷の具合を確かめようと、恐る恐る腕を動かしてみるが……その太い腕は思うように動かせない。
 まずい、そんなにひどいのか、俺の傷。
 唇を噛んだクレイ。しかし、すぐに気付く手首から先の不自然さ。

「なんで俺達、手をつないでるんだ?」

 今気づきましたと言わんばかりのクレイの言葉に、トラップは一瞬にして真っ赤になった。

「なあ、トラップ?」

 相棒の顔色の変化にも気付かず、重ねて問いかけるクレイ。
 まだぼけっとしている鳶色の瞳が、心底不思議そうにトラップを見つめた。

「……覚えてねえのかよ」
「は?」
「握って離さなかったんだろーが!」

 鼻先につきつけられた指。
 反射的に寄り目になりながら身を引き、自分を指差して首をかしげるクレイ。

「俺が?」
「他に誰がいるんだ、あほ!!」

 トラップの怒鳴り声に思わず首をすくめ、空いている方の手で頭をわしわしと掻く。

「とりあえず……お前が助けてくれたんだよな?」
「当たりめえだろ。……おめえさ、目の前の獣人切り捨てた瞬間、残ってた奴の弓矢くらっちまったんだよ。そいつは俺が片付けたけどな」

 ……そうだったのか。
 最後の1匹は倒したつもりだったが、隠れていた奴がいたのには気付かなかった。
 己の戦死としての修行不足と、気絶までしてしまった情けなさを恥じながら、クレイは傍らの幼馴染に深々と頭を下げる。

「すまなかったな」
「い……いけどよっ。おめえ、重すぎ。ここまで引きずってくんの、大変だったんだからなっ」

 一瞬口ごもった後、早口に文句を言い並べるトラップ。
 言われてみればここは、戦闘の場からは随分離れているらしい。
 周囲に獣人の死体はなく、あと一歩で森を抜けられそうだ。

「そりゃ、伊達に鍛えてないからな。なんにしても、お前がいてくれてよかった」

 クレイは精悍な頬をゆるめ、ゆっくりと微笑んだ。
 それを見たトラップは、照れたようにあさっての方向に顔を向ける。
 ぼそぼそと口の中でつぶやいたのは。

「ていうか、いいかげんその手離せよ」
「……あ」

 いつまでも握ったままだったトラップの手。
 ……道理で汗ばんでると思った。

 クレイは短く逡巡すると、細い手をきゅっと強く握り締め、手を離した。
 目を泳がせているトラップの頭を、ぽんと軽く叩いて立ち上がる。
 一陣の風がその首元を吹きぬけ、艶やかな黒髪をなびかせた。

「行こうか。空揚げにビールだろ?」

 まばらになった木立の向こうに目をやる。
 淡い夕闇の向こうに、暖かそうな街の明かりがふんわりと浮かんでいた。


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