踊る吸血鬼(再)
更新日: 2016-01-22 (金) 02:22:47
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )再び9669城の蝙蝠DEATH!
息子×助手(大)です。
助手は震えそうになる手を祈るように握り締め、ぎゅっと目を瞑った。
決して寒いわけではない。それどころか、真冬のトランシルバニアだというのに、
この部屋は午睡にまどろむ春よりも暖かい。蔦が絡まるような細工の施された鉄
柵に覆われた、大きな暖炉に揺らめくオレンジ色の炎がこの部屋を暖めている。
時折、窓のガラスを揺らす風の音と、ぱちぱちと木が炎に炙られて弾ける音だけ
が響いている。今夜はやけに静かな夜だった。
「お待たせ、アルちゃん」
そう微笑みながら続き部屋のドアを開け、しどけないバスローブ姿で現れたヘ
ルベルトの猫撫で声に、助手の肩は大きく震えた。足音のしない息子が
、それでも近づいてきているのが血のざわめきでわかる。ヴァンパイアになって
からと言うもの、同属が近くにいるときは血がざわめき、そして高揚が助手を押
し包んだ。欲望に忠実にあれ、それを美とするヴァンパイアには未だ慣れない。
同属のヴァンパイアを見ても、血の渇きより、血のざわめきより、恐怖が助手を
支配していた。
それは息子に対してもそうだった。
昼間、そう、ヴァンパイアで言うならば真夜中はまだいい。棺は一人一つと決め
られている為に、横に並べて眠るだけだ。それでも、下男が棺の蓋を閉める
瞬間まで息子は一人で喋っている。一人は寒い、寂しい、一緒に寝たい、
しろちゃんがいない等々。父である伯爵にたしなめられ、下男に無理やり蓋
を閉められて初めて静かになるのだ。もっとも、棺が重厚なせいで静かになった
ように見えるだけで、実際はブツブツ独り言を言っているのかもしれないが。
それがどうしてこんなことになってしまったのか。
助手は豪奢な天蓋のついたベッドに座り、目をぎゅっと瞑ったまま、隣に
座った息子の重みで、ふかふかのベッドが沈むのを感じた。
「ねぇ、震えてるの?」
まるで耳に噛みつかれるかと思うほど近くで、息子が囁いた。
「ひゃっ!」
助手は間抜けな声とともに、囁かれた耳を両手で押さえて1メートルほど横に
飛び退った。キングサイズのベッドは、それでもまだ余裕がある。こんな状態でも
、「教授と一緒に寝たベッドよりも大きいなぁ」と、助手は少しだけ感心した。
助手が恐る恐る目を開けて息子を見れば、眦を下げず、口だけを横に
ひいてじっとこちらを伺っている。助手はこの微笑が苦手だった。目が笑ってい
ない笑顔は、助手にとって、なにか非常に恐ろしいもののように感じる。その本
能的な恐怖は、いつも決して間違っていないのだった。
そもそも、二人でベッドに座る羽目になったのは、伯爵の一声だった。
「風呂好きと結ばれたいなら経験を積むことだ。まあ、我が息子は少々惚れっぽいと
ころがあるが経験は豊富だ。君の、良い教師になれると思うが」
助手は「風呂好き」に弱かった。どんなに邪険にされても、どんなに軽くあしらわれて
も、風呂好きのためなら助手はなんでもできた。たとえそれが体よく追い払う為に「
あなたにスポンジを取ってきて欲しいの」と言われたにしても、そうとは気づかず
に忠実にこなした。スポンジは見つからなかったが。
実際のところ、ヴァンパイアになって伯爵の城で暮らすようになっても、風呂好きは
助手に冷たかった。冷たかったというよりも、伯爵しか目に入らない、というのが正
しいかもしれない。邪険にされてもへこたれない、それが助手の良いところでも
あった。しかしそれは、旗から見れば、風呂好きにとってはうっとうしいことこの上ない
ようにだった。
助手も『恋愛入門』を枕の友に、毎晩シュミレーションを重ねているが、その効
果は一向に現れない。
「そしてチャンス訪れたら、迷わないで進みなさい」
『恋愛入門』はそう語りかけてくれるが、迷わないで進んでいるのに、風呂好きはちっ
とも微笑んでくれない。そう助手が『恋愛入門』に語りかける回数も多くなって
いくのだった。
「結ばれたいそう願う恋人よ。幸せの確率はあなた次第」
となっている文末はすっかり助手の頭から抜け落ちてしまっている。要は、彼に
とってのチャンスは、客観的に見て本当のチャンスではなかったのだ。
そんな日々に少しへこたれてきた助手は、ある日、優しく微笑みながらそう諭
してくれた伯爵の言葉に、うっかりと乗ってしまったのである。時は折りしも夕暮
れ時。燃え盛る炎のような夕日が沈み、闇が空を覆い始めた、モーヴの空。
下男が入れてくれた砂糖たっぷりのアップルティーにだまされたのかもしれ
ない。息子の微笑を見ていると、後悔が絶え間なく助手を襲ってくるの
だった。
「顔が青いけど・・・」
いつの間にか隣に腰掛け、助手の肩を右腕で抱き、左手で助手の両手を握
りこんだ息子が、うつむいた助手を覗き込んできた。鷹のような、いやむ
しろ蛇のような眦の釣りあがった息子の黒色の瞳と視線が合ってしまった
助手は、まるで睨まれた蛙のように体を硬くして、視線を外せなくなっていた。
「熱があるみたいだ」
そのまま額同士をくっつけられ、熱を計られる。息子の何もかもが、助手
の想像の範疇を超えてしまっていた。射止められた視線も、額がくっつくと同時
に閉じられ、助手はほっと肩の力を抜いた。
「いや、そうじゃないね。ねえ、変だよ?」
額を離し、再び息子の瞳に射止められ、体を硬くしてしまった助手は、
何か言おうとしても口をパクパクさせるだけで、まったく声が出なかった。
「ち、ち、近いでぇすっ!」
顔をくしゃくしゃにして、なんとかかんとか口をついて出た言葉は真理だった。
息子と助手の顔は10cmも離れていない。半泣きになりながら、なんとか顔
を顔を逸らせようと試みる助手だったが、息子がそれを許さなかった。
「近いかな?じゃあ、こうすれば気にならないよね?」
「ね?」も言い終わるか終わらないか。気がつけば助手の唇は息子の唇
によって塞がれていた。まさに不意打ちというにふさわしい唐突さで、息子
は助手の唇を奪ったのだ。
咄嗟の機転が利かない助手は、息子の思いのままだった。機転が利く
利かないの前に、あまりの衝撃に頭の中が真っ白になってしまったのだろう。
息子の長い舌にあっさりと唇を割られ、舌を引きずり出される。舌先を吸われ
、くすぐるように上顎を撫でられ、何度も角度を変えられて唇を合わせられる。の
けぞるような姿勢で口付けられた助手は、「苦しい」と息子の胸を押し
返そうと試みるたが、まるで息子が大きな岩になってしまったかのようにび
くともしなかった。
どちらのものともつかない唾液が、助手の唇から零れ落ち、息子が助手
の口腔を嬲るたびに、呻きとも喘ぎともつかない声が助手の鼻から漏れた。
その頃には、必死に息子の胸を押し返していた力もいつのまにか抜けて
しまい、助手の腕はだらり垂れ下がっていた。
「ちょっと激しかったかしら?」
そうは言っても全く反省の色もなく、むしろ楽しんでいる声音で息子は呟
いた。意識が朦朧としている助手を優しくベッドに寝かせ、ベッドの横にしつら
えてあるオークの木目も美しい、アールデコ様式のサイドボードの引き出しを開
ける。
中は本やらペーパーナイフ、色のあせた手紙などごちゃ混ぜだったが、息子
は迷わずに奥の方からクリスタルをかたどったような、まるで香水の瓶のよう
な水色のガラス瓶を取り出した。慣れた手つきで、片手で蓋を開けると、助手
の鼻先にそっと香りを燻らせた。
「んっ・・・」
ヴァニラのような甘い香りのその奥に、かすかに香るアルコールのようなきつい
香りに眉根を寄せて、助手はやっと意識を取り戻した。
「気がついた?アルちゃん」
「なに・・・?」
ゆっくりと匂いの元をたどるように起き上がった助手に、息子はもう一度
ガラス瓶を嗅がせる。強い香りに咽た助手を抱き起こすと、そっと耳元で囁い
た。
「父上がねぇ、ずっと前にくれたんだぁ・・・僕にはもう効かないけど、アルちゃん
なら、きっと楽しくなると思うよ」
その後に微笑んだ息子は、いつもの助手であったら悲鳴を上げていた
に違いないほど禍々しい微笑だった。目は笑っているものの、その奥には欲望の
火が昏く揺れている。
しかし、助手は虚ろな瞳で息子を見上げるだけだった。
[□] STOP ピッ ◇⊂(・∀・;)前編終わり!
後半はいつになるかわかりません・・・
色々ヘマしてすみませんでしたorz
- キャストは違いますが去年から今年にかけての公演見ました! ヘタレな助手が可愛い。ミュージカルで創作されている方は少ないので嬉しいです、ありがとうございます! -- 2016-01-22 (金) 02:17:26
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