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某・二時間サスペンスドラマ 警部×葬儀屋

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                    |  某・二時間サスペンスドラマ 警部×葬儀屋
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  地元でやってたの再放送を見て萌えたんだと。
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 | | |> PLAY.       | |              ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ カコネツゾウバナシ。
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彼は葬儀屋だった。
人の死を扱うその商売を人々は好意を持って見てくれる事は無かったが
彼は戦後まもなく就いたこの職は自分の天職だと誇りを持っていたし、
尊敬できる社長に気のいい同僚、そんな人々が集まるこの会社が好きだった。

そして今日も彼は天職を全うすべく、大きな屋敷の中葬儀の準備のため走り回っていた。

今回の葬儀の主役は、京都中に名前を知られる大変な資産家の男性で
60の大台を超えても祇園で浮世を流す血気盛んな人物だった。

主役の名前に恥じないほどの葬儀をという、親族の見栄もあってか
葬儀社に勤めて15年になる彼の経験でも3本の指に入る豪奢な葬儀だった。
弔問客もかなりの人数が集まっていたが、大半が40~50代のブランド物のスーツをまとった男と
葬儀には不釣合いな雰囲気を纏った様々な年代の女性。

そして彼が他殺だと報じられたことにより、屋敷周辺にはマスコミと警察が
ごったがえしていた。

遺体を火葬場に運ぶ霊柩車の到着を待っていた彼は
ふと視界に入った若い刑事に声をかけた。

「刑事さん、あんさん何やってはりますのん?」
「あぁ、葬儀屋さん」

眉をしかめた彼の表情に若い刑事は笑顔を返した。

「そんな顔しないでくださいよ」
「こんな顔してしまいますねん、警察見ると」

東京から京都に赴任したという若い刑事は京都ではめったに聴くことの無い標準語を話していた。

彼はこの若い刑事が嫌いだった。

まず彼は警察が嫌いだった。警察が葬儀にやってくるというのは
混乱しか招かないと彼は思っていたからだ。
仕事の邪魔にしかならない警察が嫌いで仕方が無かった。

更に若い刑事は身長は当時の日本人男性としてはかなり高い180センチ前後、
無駄な贅肉など知らないようなしなやかな筋肉を纏った身体は
この会場の誰よりも値段の安いスーツだろうに、誰よりも高級な物にすら見えてくる。
更にはどこか日本人離れした彫りの深い端正な顔立ちは
彼に今まで女性に不自由をした事が無いだろうと想像させるに十分だった。

身長160センチ台、中肉中背という言葉のサンプルのような
贅肉も無いが筋肉も無い身体を持ち
顔立ちは日本人らしいのっぺり顔に黒縁のめがねをかける彼は
その自分よりも7歳も下の若い刑事にコンプレックスを抱いていた。

若い刑事はこれでもかと嫌味をぶつけてくる彼に若い刑事は穏やかに笑ってみせる。
その笑顔がまた彼のコンプレックスを刺激するのだ。

女性の心を簡単に溶かすような甘いその笑顔、
年下なのに自分とは比べ物にならない程の寛容さ、
穏やかな物腰の中でも修羅場を潜り抜けてきた男としての強靭さ
それは何度か顔を合わせるときに見せ付けられる彼が一生かけても絶対に持つことの無い武器だった。

「もうすぐ霊柩車が来ますんで、そこおられたら邪魔ですねん」
「あぁ、すぐ行きますよ。でもね葬儀屋さん一つ伺いたいことがあるんです」
「なんでしょなぁ?こんなチビでも刑事さんの力になれますやろか?」
「何を言ってるんですか、小柄な身体であちこちを仕切る彼方にお話があったんですよ」

どんなに嫌味を言っても、穏やかに時には自分を誉める言葉を挟んでくる
若い刑事に彼は困惑してしまう。

「……でなんですのん?話って」
「今回の事件とは関係の無い、個人的な話です」
「個人的ですか?」

彼は更に困惑した。
個人的な話なんてされるほど、この若い刑事と彼は親しくなかった。
葬儀で何度か顔を合わせた事はあるが、刑事が調査を行うような
事件で亡くなった方の葬儀は滅多にあるものではなかったからだ。

しかもよく見れば若い刑事の端正な表情には苦みばしった物が含まれ
どこか追い詰められたような鬼気迫るものが感じられる。

「彼方は私の事を嫌いですか?」
「…………」

彼はしばらく言葉を失って、思い返せば情けないくらいの間抜け面をさらしていた。
若い刑事の言葉が理解できなかったのだ。
いや言葉の意味くらいは理解できる。しかし何故、という点が多すぎて
彼の頭の中での理解を遅らせたのだ。

何故、彼が、自分に、嫌いですか?なんて、聞くのか?

しかもその時の刑事の顔といったら、まるで…

「な、なにを突然、あんさんなぁ…」
「私は真剣に聞いてますよ」

穏やかな口調ながら、彼が答えるまで絶対に逃さないといった風に
じりじりと刑事は彼との距離をつめた。

蛇ににらまれた蛙とは言わないが、若い刑事に詰め寄られた彼は
その場から一歩も動くことができず、そのまま若い刑事の腕の中に
すっぽりとその中肉中背の身体を収めてしまった。

「私は彼方の事を初めて見たときから、愛らしい方だとおもっていました」
「あ、愛らしい…」

若い刑事の言葉を自分で復唱してみるが、待ったくをもって身に覚えの無い
彼自身が考える限りでは自分という存在からかなり離れた場所にあるその言葉に
困惑は深まるばかりだ。

「そうでしょう?誰よりも動き回って場を仕切って、仕事に誇りを持っているんだって
胸を張って仕事をしていた」
「………」
「私にはそんな彼方が愛らしくて仕方ないですよ」
「っ、ちょ、あんさんそんな引っ付かんといてくださいよっ」

彼を抱きしめる腕の力がぎゅっとこめられ、若い刑事は彼の首筋に顔を埋めた。
ポマードで撫で付けられた黒い髪が彼の頬を擽る。

若い刑事の言葉に含められた意味に気づかないでいられるほど彼も鈍感ではなかった。
この平凡な葬儀屋にこんな完璧な男が惚れてしまうものなのかと、戸惑いを超えて
人事のように感心してしまった。

「私は彼方に嫌われたくないんです」
「…わては、あんさんの事は……」
「大嫌いでしょう?」

自嘲の笑顔を浮かべる若い刑事は、その笑顔すら絵になる。

本音を先に言われてしまった彼は、そのまま口ごもる。
確かにこの若い刑事のことは嫌いだ。
できれば仕事場で会いたくないし、姿を見たいとも思わない。

「好きになってくれとは言いません、ただ嫌わないで…」
「…………………」

そんな確固たる感情も、雰囲気に飲まれやすい小市民を地でいく彼の
心の中で揺らぎ始める。

自分のせいでこんなにも完璧な男が弱くなってしまうのか

そう思うと彼は、大嫌いだった若い刑事が年相応の単なる青年にしか見えなくなった。
刑事ではないただの一青年として出会っていたなら彼はきっとこの青年に
今のような感情を抱かなかっただろう。

「……嫌いとは言ってまへん」
「…………」

彼の手は優しく若い刑事の頭をなでた。

「きっとアンタが刑事やなかったら、好きになってたんでっしゃろなぁ」
「………彼方は私が刑事だから嫌いなんですか?」
「やから嫌いとは言ってないって言いましたやろ」

彼の首筋に埋めていた顔を上げる。
若い刑事の驚いたような表情に、彼は声を立てて笑った。

「あんさんもそんな顔できるんですなぁ」
「オモシロイですか?」
「オモロイでっせー、いつものスカした感じがなくてええ顔や」
「彼方がそうやって笑ってくれるなら、何でもしますよ」

でもね

若い刑事はそれまで見せていた青年らしい表情を急に引っ込め
その彫りの深い整った顔立ちに妖艶な笑みを浮かべた。

「私も随分と貪欲な人間なんですよ。嫌われてないとわかれば今度は好きになってほしくなる」

彼の頬に添えられる若い刑事の長い指先に、彼はぴくんと
身体を揺らした。

「抱きしめるだけじゃ足りなくなる」

妖艶な若い刑事の表情に、不覚にも見惚れてしまった彼は
そのまま彼の顔が近づいてきてもただ目を見開くだけだった。

「ん………」

遠くから聞こえるお経を読み上げる声。
人々の喧騒。

それらは彼らを現実に引き戻す力を持ってはいなかった。

霊柩車のクラクションが鳴るまで彼は若い刑事のなすがままだった。

それから数十年後

「カリヤはん、またあんさんでっか!?」
「あぁ、アキヤマさんまたお会いしましたね」
「アキヤマさん、葬儀の準備はどうしたのよ?」

そこはやっぱり葬儀会場。
そしてやっぱり主役は他殺だった。

年齢を重ねてもやはり彼は一葬儀屋として同じ会社で働いていた。
頭の大半は白髪が混じった彼だが、ロマンスグレーという言葉とは程遠い
相変わらずの中肉中背、のっぺりとした顔に黒縁眼鏡と昔と変わらぬ風貌だった。
しかし最近では『一級葬祭でれくたー』なる資格も獲得し、
葬儀の現場を仕切る会社には無くてはならない存在になっていた。

そして最近、彼の悩みの種となっているのが先代の後を継いで
彼の勤める「イシハラ葬儀社」の社長となった、先代の娘アキコだった。

アキコは何かと不思議な殺人事件に巻き込まれ、更にはその事件を
天性の好奇心と直感、想像力を持って解決に導いてしまう。
それがアキコの探偵心に火をつけてしまうのか、今日も今日とて準備で忙しいこの
葬儀会場の中から姿をくらましてしまったのだ。

社長なら社長らしく、推理じゃなくて会社の繁栄のために頭を使ってほしいと
彼は常々嘆いていた。

「どうしたの?やありまへんわアキコさん!!!皆が準備でてんてこ舞いしてる時に
あんさんはもー」
「ゴメン、ゴメンアキヤマさんそんなに怒ってると寿命縮んじゃうわよ」
「やったら、探偵ごっこはやめて仕事に専念してください!!」
「はいはいはいはい、じゃあカリヤさん、また」
「えぇ、また」
「はい、は一回で十分です!!」

彼は小走りでその場を立ち去るアキコにそう叫んだ。

「まったくカリヤはんも、あんまり社長を焚き付けんでくださいよ」
「すいませんね、葬儀場でアキコさんをみかけるとつい声をかけてしまう」
「適いませんわ、ホンマに。警察も素人に口出されて悔しくないんですか?」
「いや、彼女の推理力はたいしたものですよ」
「それ、絶対にアキコさんの前では言わんでくださいよ調子にのってまうわ」

やれやれと彼はため息をつく。
カリヤと呼ばれた刑事は、穏やかに笑った。
年は50を越えているが、警部と呼ばれる地位に就くその刑事は
50代としてはかなり立派な体躯を持ち、年齢を重ね熟成された
ロマンスグレーという言葉にとても近い男だった。

「私としてはアキコさんに会えるというのは嬉しい事なんですがね」
「やから、素人の知恵をプロが借りようなんてそんな情けない事いいなさんな
私らが払ってる税金で、あんたらの給料賄ってるんやから」
「そう言われると、困りますね」

そういう刑事だが、言葉とは裏腹に顔に浮かべるのはやさしい笑顔だった。

「でも、アキコさんに会えるという事は彼方にも会えるチャンスという事になりますからね」
「んなぁ!!」
「昔の事で全て終わらせる気なんですか?アキヤマさん」
「…………こ、こんな場所で突然そんなこと…」
「じゃあ今度またゆっくりと二人で会いましょう。彼方の好きな祇園の『魁淵』を予約しますから」

『魁淵(かいえん)』というのは彼のお気に入りの料亭だった。
値段はかなり張るが、その分味雰囲気、接客どれを取っても合格点だった。

「今は仕事中ですさかいに、約束なんてしてる場合じゃないんです!」
「変わりませんね、言い訳も。何十年もそれで私から逃れようとするんだから」
「アンタと私は最近知り合ったんです。アキコはんを通じて」
「わかってますよ。アキコさんの前ではちゃんと隠してるじゃないですか」
「あんさんはどうにも信用なりませんねや」

そういうと彼は瞬く間に顔を赤くした。
どうやら刑事を信用できない理由となった、このカリヤの数十年にわたる所業を
思い出してのことらしい。

「何を思い出されたんですか?」
「な、なにもおまへん!!ささっ、あんさんも仕事中でっしゃろ?仕事に戻りなはれ」

意地の悪い刑事の言葉に彼はもう顔も見たくないという風に
しっしと手を振って、職場に戻るように刑事に促した。

「わかりましたよ、ではまた。アキヤマさん」
「ふん」

刑事は数十年前と変わらず穏やかな笑顔を彼に向けて去っていく。
彼は数十年前と変わらず真っ赤な顔をあさっての方向に向けて
気の無いそぶりを演じている。

三つ子の魂百まで。

カリヤはそんな言葉を思い出して、小さく噴出した。

その夜、最近やっと操作方法を覚えた彼の携帯電話にカリヤからの
着信があったのだった。

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 長い上に、ニセ京都弁でスマソ。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )  ツンデレジジイ萌え。
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ドラマの口調を思い出しながら書いたんですが、
全然違うよ、ママン・・・orz


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