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夏の夜

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赤貝、涯視点です。全部で4レス消費。

夏の夜は神秘的だ。こんな辺境で、出かけるアテなんてなくても夏の夜の魔物は俺なんかも誘ってくれるらしい。
扇風機すらないアパートにいるより夏の夜は涼しい。
今も、ちょっとそこらで涼んできた帰りだ。
無人のボロアパートの、入り口付近に人影。
それもふつうの人影ならば俺は文句なく避けて行くが、それが横たわっているとあれば流石の俺も素通りできない。
渋々近づいてみるとデジャヴを感じた。
 「あ…赤木!」
やっぱり。

この赤木は何日か前、梅雨真っ只中で雨の夜にも倒れていた。
揺り起こしたら「風呂入りたい」といわれた。うつ伏せに倒れたままの第一声。
うちに風呂はないと言うとゆっくりと起きだして「ふうん」とだけ言った。
不思議と厭な感じはしなかった。
  「君、誰」
くぐもったような、それでも艶のある声。
  「工藤」
答えてから、何言ってんだ俺、気づいた。
  「もしかして、工藤 涯?」
  「なんで?」
  「そんなやつが居たかもと思って」
そいつは口元に手をあてて言う。
  「アンタ福中の生徒?」
  「ああ、2年の赤木」
同じ学校の生徒かよ、途端に憂鬱になった。
  「とりあえずさ、風呂ないんなら銭湯の場所教えてくんない、気持ち悪いんだ」
赤木の体は雨でぬかるんだ所に横たわってたせいで泥だらけだ。
  「そこの橋を越えたところに…」
  「じゃなくて。案内してよ、俺この辺土地感ないし」
泥だらけで、おまけになんか磯の香りもする。ちょっと放っとけなくて、
  「わかったよ…」
承諾してしまっていた。

  「じゃ、俺はここで」
すぐ傍の銭湯。銭湯というより大浴場で、値段が少し高い。
  「え?」
  「工藤は入ってかねえの?」
赤木が意外そうに言った。
  「俺タオルも桶も持ってきてねえし」
冗談じゃない。
  「そんなの俺も同じじゃない」
  「金も持ってきてない」
ついでっぽく言ったけど、本トはこっちが大本命。
  「そんなこと気にしてたの、大丈夫、俺が払う」
笑って言われたが、お見通しらしい。
何だかんだ、こいつにはペースを乱されまくり。
そうやってぼやっとしてると腕を引っ張られて中に引きずり込まれた。
「その理に敵ってないとこがいいんじゃない」とか言われて、強引とも言える倍プッシュに負けて、甘んじて受け入れることにした。
赤木と居ると、本当に調子が狂う。

そういえば、やけに印象に残っていること。
赤木は俺の体を見るなり「ふうん」と呟いた。
その意味はイマイチ解らなかった。

今夜の赤木は、暫く目を覚ましそうにない。
こないだの借りもあるし、泊めてやろうと思って赤木を部屋に運んだ。

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