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瀬戸内組パラレルその2

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                    |  前スレ422-425の続編です。
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄V ̄ ̄|  ゲーム戦国BASARA瀬戸内人外パラレル
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 | | |> PLAY.       | |              ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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ゆうべの山の頂の、夕べの松の根方へもとちかは再び立っておりました。
ゆうべと同じに碇型の槍を肩に負い、しかしもう荷物は括り付けてありません。
代わりに、空いている方の手に、何か竹皮で包んだものを大事そうに握っております。
もとちかは暫くの間、立ったまま頻りに辺りを見回しておりましたが、
「ま、夜は長ぇし、な」
楽しげに呟くとその場にどっかと腰を下ろし、槍を置くと
今夜は腰へ括り付けてあった大瓢を取り上げ
月を見上げながらゆっくりと酒を口に含みました。
舌の上で転がして酒の甘さを楽しみながら、もとちかは掌の中の包みを見遣ります。
そして一人頬を緩めるのでした。
「ふふ…、おいしそう…」
不意に、頭上からねっとりと絡みつくような声が聞こえました。
はっとしてもとちかが顔を上げると、松の枝を伝ってするすると、
もとちかに近づいてくる気配があります。
常盤の緑の葉陰の間に間に、月光を受けてきらりきらりと白いものがきらめき、
気がつけばもとちかのすぐ目の前に、
チロチロと赤い舌を閃かした蛇の頭が迫っておりました。
「珍しい…潮の香りのするからだですね…。ふふ、粗野で気儘で、逞しくて大らかで…
 おいしそうですよ、あなた。と・て・も」
白い蛇の赤い舌が、もとちかの鼻先をちろりと舐めました。

面食らって言葉を失っていたもとちかですが、くすぐったさに我に返ると、
「ハハ、驚いたな。この山の連中はどいつもこいつも、人の言葉で話しやがる」
楽しそうに言いながら、槍へと手を伸ばします。
しかしそれより素早く、蛇はもとちかの首に強かに絡み付いてきて、
もとちかの息は今にも潰れそうです。
「みつひで」
と、不意に別の声が、もとちかの耳のすぐ傍で聞こえました。
聞き違えるはずもありません。
琥珀の髪の、切れ長の目の、松葉緑の水干の、ゆうべの美しい男の声です。
じじつ、目に焼きついたままのあの男の姿が、いつの間にかもとちかの傍らに跪いていて、
蛇の頭を細い指でそっと捉えておりました。
「みつひで。この男は、我が眷属の恩人なれば、そなたに呉れてやる訳にはいかぬ」
ほんの少し、蛇の締め付ける力が緩み、もとちかの喉は蘇りました。
しかし、もとちかはそのことに気付いておりません。
なぜなら間近に見る男の横顔にうっとりと目を奪われて、呼吸も忘れていたからです。
蛇の体はゆっくりと、もとちかの首から解けていき、
代わりにもとちかの肩を支点として、己の頭を捉えている男の腕へと移って行きました。
蛇の尾は男の腕を捕らえて袖口から着物の中へ滑り込み、
男の指から抜け出した頭も、やがて袖の中へと消えました。
袖から胴、胸へと、男の着物の中で蛇が蠢くさまを、
もとちかは奇妙に落ち着かぬ思いで見つめておりました。
男は微かに眉を震わせておりますが、
冴え冴えとした面に読み取れるほどの表情は上っておりません。

やがて、男の襟元から蛇が頭を覗かせ、ゆるりと細い首にひとまき巻きついてから
その頤から耳たぶ辺りを赤い細い舌で舐めました。
「あなたが、一族以外のものを気に懸けるなんて…それも、人の命を請うなんて、ね。
 とても驚きましたよ…ふふふ」
「言うたであろう。眷属の恩人なれば、いかな愚か者でも見殺しにはできぬ」
「そういうことに、しておいてあげましょう。この男も、助けてあげます。
 こんなあなたを見ているのは、面白いですから…ね、もとなり」
そう言うと、蛇は再び男の着物の中へ潜り込みました。
また胸から胴、腰へと、男の胴を木の幹にして、
蛇は螺旋状にゆっくりと着物の下を下りていきます。
帯の下を潜って蛇の体が男の腿に差し掛かった時、何故だかもとちかは堪らなくなって、
槍に手をかけ膝を立てました。
しかし透明に冴え渡った男の目と目が合い、動きを封じられました。
やけにゆっくりと、蛇は男の脚を伝って、漸く水干袴の裾から地面へ出ると、
さらさらと草を鳴らして遠ざかって行きました。
『みつひで』と自ら呼んだ蛇の姿が見えなくなるのを見届けると
男は音もなく立ち上がりました。
「お、おう…ありがとな…」
「同じ山にて二度も迷うな、愚か者は疾く疾く去ねよ」
もとちかの礼を遮って、苛立ちを滲ませた男の声がもとちかの頭の中に直に響きました。
そういえばさきほど、蛇と話している間も、男は唇を動かさずに声を響かせていたことに
もとちかはこの時気付きました。

もとちかの顔を見ようともせずに、男がそのまま立ち去ろうとしたので、もとちかは思わず
「もとなり!」
さきほど蛇の言葉のなかにあった名を、呼びかけておりました。
男の眉がぴくりと震え、遠ざかりかけていた後姿が止まります。
「あ…お前の、名前だろ?…もとなり、って…。そう、呼んでもいいか?」
下手に近づくとかえって逃げられてしまいそうで、
もとちかはその場にておずおずと問いかけます。
「…いいも、何も。
 一度知られてしまった名を、取り戻すことなどできぬ」
すらりと細い後姿が、顔を見せずに言葉だけを返して来ました。
「え?…あ、悪い、知られたくなかったか…」
男の顔も心も見えぬことに、もとちかは苛立ちと恐れを二つながら心に抱えます。
くるり、と。不意に男が音もなく振り返りました。
ゆうべから幾度となく回想のうちに思い描いていたその顔を、
もとちかはこの時漸く正面から見ることが叶ったのです。
「名とは魂の拠り所。名を知られれば魂を縛られる。
 あの時、みつひでの動きを封じる為に、我はあれの名を呼んだ。
 為にお前にまで名を知られてしまったその腹いせに、
 みつひではわざわざ我の名をそなたに聞かせたのであろうよ」
苛立たしげにそれだけ言うと、男は再びもとちかに背を向けました。
駆け出して腕を伸ばしたところで、
この男を捕まえることはできぬと悟ったもとちかは
「俺はもとちかだ!」
男の耳にはっきりと届くように、大きな声で名乗りを上げました。

「もとちか、だ、呼んでくれ!もとなり、俺の名を、呼んでくれ」
男は再び振り返り、もとちかを見ました。
このたびははっきりとその面に怒りの表情が見えました。
その強い瞳のきらめきから、今にも火花を放ちそうな激しい表情ではありましたが、
それでも、この男の――もとなりの、心の動きを見られたというそのことに、
もとちかの胸は高鳴りました。
「そなたの耳は筒抜けか。そなたの頭に詰まっておるのは海の藻屑か。
 ここは人には向かぬ山と申したであろう。疾くと去ねよ、愚か者!」
もとなりは相変わらず唇を動かさず、もとちかの頭の中を直に怒鳴りつけてきます。
「俺はお前の名前を知っちまった。だから、俺の名前をお前にやる。
 そうすりゃ五分五分だろ?さあ、俺の名前を呼んでくれ、もとなり」
もとちかはひとつだけの目で、もとなりの顔を真っ直ぐに見つめました。
もとなりは眉を吊り上げたまま、もとちかの目を見返しました。
やがてもとなりが唇を開き、もとちかの求めに応じる為に大きく息を吸い込んだのは、
名を呼ばれて魂を縛られたから、でしょうか。
そうでなくて、もっと別の理由があったのでしょうか。
もとなりは、まだ少し怒った顔のまま、
それでも請われるままにその名を唇に乗せたのでした。
「もとちか」

月影の下、草の上、もとなりともとちかは向かい合って座っておりました。
もとちかはもとなりに酒を勧めましたが、「酒は好まぬ」とにべもなく首を横に振られました。
もとちかはめげずに、じゃあこれを、と左手に大事に持っていた竹皮の包みを差し出します。
するともとなりは、水干の袖で僅かに口元を隠すようにして眉を顰め、
「我は、なまぐさものも好かぬ。
 そもそもそなたは何んのつもりだ。我が山の猟師の罠に、海の魚を嵌めて行くなど。
 お陰で我が明神宮は里方で、『なまぶし稲荷』などとあだ名されるようになってしまったわ…」
もとちかの片方しかない目を睨みつけました。
もとちかはそれを聞くと屈託なく笑い、
「ああ、ありゃあだってよ、猟師の罠から食い扶持逃がしてやっちまったんだから
 なんか代わりのモンと思って…
 それに、なまぐさものって言うけどな、
 お前、あれは厳島の神様へ納めたのと同じ逸品なんだぜ?
 それにこれは、なまぐさものじゃねえよ…」
元親が開いて見せた竹皮の中身は、黄金色の油揚げでありました。
それを見て、顰められていたもとなりの眉が、僅かに和みます。
「この三ツ星山のお狐様は、コレが好物だって聞いたからよ」
ずい、と竹皮ごと、もとちかは油揚げを元就へ勧めました。
もとなりは何か恥らうように睫を伏せ、いよいよ袖で口元を覆い隠しました。
せっかくの美しい顔が隠されてしまうのは残念でしたが、
今までの険の尖ったさまとは違うその姿に、もとちかの心は華やぎます。

「…悪くはない」
ややの間ののち、もとちかの頭の中にもとなりの声が聞こえました。
もとなりの見目に見蕩れていたもとちかは、はっとして手の中の油揚げを見ました。
すると包みの中にあった十枚ほどの油揚げは、いつの間に食い取ったものやら、
どれも皆一様に、満月のように、あるいは日輪のように、真ん中をまあるく穿たれておりました。
「お前…これ…」
それを見たもとちかは、びっくりするやらおかしいやら、
いつしかくつくつと肩を震わせて笑い出しました。
もとなりは口元を隠していた袖を下ろし、白い手の爪先だけを見せて膝の上に正すと、
「何を笑うことがある。それを持て里方へ降りてみよ。
 三ツ星稲荷が霊験の日輪揚げとて、長寿の妙薬ぞ」
至極真面目な顔をして言うのでした。
「へぇ…。お前って、そんな大層なお狐様だったのか…」
もとちかは、手の中の油揚げと、もとなりの顔とを、
まじまじと代わる代わる見つめました。
そして不意に、まあるく穴の開いた油揚げの一枚をひょいと摘み上げると、
一口に口の中へ放り込みました。
もとなりは目を丸くし、次いで白い顔を真っ赤に怒らせました。
「何をしておる!七日七夜日干しにした後、黒く焼いて粉にして用いるのだ。
 そのまま食うたところで霊験も何もありはせぬ!」
もとなりの剣幕もどこ吹く風に、もとちかはしばらくもぐもぐやっていましたが、
やがてごくりと喉を鳴らして、口の中のものをすっかり飲み込み、
最後に酒を流し込んで仕上げをすると、満足げに笑ってもとなりの顔を見ました。
「だってよ、お前の食い差しだろ?なんだか食ってみてぇじゃねえか。
 別に長寿にゃこだわらねぇから、焼いちまうより、このままがいい」
もとなりはすっかり呆気に取られました。
残りの油揚げを大事そうに包み直して懐へ仕舞うもとちかを見ていると、
何故だかもとなりは無性に落ち着かなくなってきて、目を逸らしました。

「…厳島の宮へ参詣したと申したな。どんな願いがあってのことか」
話の接ぎ穂を探して、もとなりはぽつりとそう尋ねました。
「ああ、それは…」
するともとちかは、今までのはしゃいだ様子が嘘のように、神妙な面持ちになりました。
もとなりはと胸を突かれて、もとちかのきりりとなった顔を見つめました。
「俺の家は土佐の豊岡って浜で網元をやってるんだが、
 この間の大時化で船がひっくり返って、水夫が二人死んじまってな。
 俺のこと、兄貴兄貴って慕ってくれてた、可愛い奴らだったんだ…」
もとちかは白い睫の影を頬に落として、瓢から酒を呷りました。
もとなりは何も言わず、もとちかの目の先を辿って草の緑を見ておりました。
「で、まぁ…海の神様たちによ、
 あいつらを連れて行かなきゃならねぇほど何かにお怒りになってるんなら、
 どうかもう、お怒りを鎮めてくれって頼みに、瀬戸内周りのお宮さんを巡ってるんだ。
 …それから、あいつらをどうか、無事にあの世へ渡りつかせてやってくれ、ってな」
「…そうか」
ごく短く、もとなりは相槌を打ちました。唇を動かさずに。
その声が思いのほか重く沈んでいたので、もとちかは少し驚きました。
短いような長いような、静かな時が流れました。
「俺も訊きてぇことがあったんだ」
もとちかが、打って変わって朗らかな声を出したので、もとなりは顔を上げました。

「ゆうべのことだけどよ」
草に手をつき、もとちかはちょうど自分の尻ひとつ分、もとなりへ近付きます。
もとなりは身を引きかけましたが、もとちかの目つきがそれを許しませんでした。
「どうしてお前が助けてやらなかったんだ」
怒っている訳ではないようですが、問い詰める瞳の力がもとなりを怯ませます。
「な、なんのことだ」
「あの仔狐だよ!お前、あんな都合よく俺の前に出て来やがって、
 あのチビがあそこでもがいてんの知ってて、見てたんだろ?
 三ツ星稲荷だかなんだか知らねぇが、他人の寿命延ばしてやってる場合じゃねぇだろうが。
 お前の眷属だってんなら、お前が真っ先に助けてやれよ!」
もとちかはもとなりの鼻先へ、ずいと顔で詰め寄って、
二人の鼻と鼻の間には、もうほんのてのひら一枚分の隙間しかありません。
その近さのまま、二人はしばし睨み合いました。
「…さだめだ」
やがて、もとちかの頭に、もとなりの静かな声が響きました。
「なに?」
もとちかの表情が険しくなります。
「猟師の罠に掛かったのなら、それがその者の命数であったのだ。
 猟師の糧となって彼を養うさだめを負うて生まれてきた者だったということだ」
もとなりの声は氷のように静かで、
ほんの僅かに開きかけたかと思えた心が再び閉ざされたような気がして、もとちかは苛立ちました。
「お前には情ってモンがねぇのか!?
 さだめったって、あんなチビだろうが!つい罠に掛かっちまうことくらい…」
「チビと申すが、あれはそなたよりよほど年を経ているぞ」
もとなりの目が冷ややかにもとちかを見上げます。
「ハ!俺はこう見えてももう22だぜ?」
「ふん、ではそなたが5人束になっても敵わぬな」
「なッ!?」
思わずカッと頭に血が上りかけたもとちかでしたが、
ついと顔を背けたもとなりの、言葉のきつさとは裏腹な寂しげな風情に、すぐに頭は冷えました。

「…この山に入って来る者たちは、皆、我をよく慕い、祀ってくれる。
 祠を清め、祈りを捧げ、我を頼んでやって来る者たちだ。
 我の務めは、彼らの祈りに報いてやることだ。
 眷属への『情』などで彼らの営みを妨げするなどもってのほか。
 …さだめは、受け入れねばならぬのだ」
もとなりの透き通るように白い、小さな横顔が淡々と語る言葉を、もとちかは凝っと聞いておりました。
「…泣きそうな顔して何言ってやがる」
もとなりの横顔に向かって、もとちかは低く言いました。
「なッ…!我は泣いてなどおらぬ!!」
もとなりは弾かれたようにもとちかに向き直ります。
「泣き『そうな』顔、つったんだよ。泣いてるよりタチが悪ぃぜ」
もとちかは苦笑しながら、顔で詰め寄っていた姿勢を解き、尻の後に手を突いて体を寛がせました。
もとなりはムっと眉根を寄せてもとちかを睨み付けています。
「…まあでも、たしかに、海の神様が俺んとこの船の網にかかった魚、片っ端から逃がしたりしたら、
 たしかに俺たちゃ困るし、な。お前の言うことも道理か…」
もとちかがそう言ってもとなりに向けた笑顔はひどく優しげで、
もとなりは睨みつける目から力が抜けてしまいます。
さらに続けて
「じゃあ、あれか。俺がゆうべあそこを通り掛かって、あのチビを助けられたのも、
 そのお陰でお前と会えて、今こうして話ができるのも、ぜんぶ『さだめ』ってことだな!」
などと、もとちかがさも嬉しげに言ったので、
もとなりは毒気を抜かれ、もとちかを見返すしかありませんでした。

そんな無防備なもとなりの顔を、もとちかはしばしの間見つめておりましたが、
突然手を伸ばすと、もとなりの薄い下唇を、蜜抱く花びらを摘むようにツイと指で摘まみました。
「……ッ!?」
計算外のもとちかの仕業に、もとなりは驚きの余り身動きが取れず、
唇を取られたまま凍りついてしまいました。
「なんだ、ちゃんと触れるんじゃねぇか」
もとちかは暢気に、もとなりの薄く柔らかな唇の感触を指先で楽しんでおります。
「お前、さっき俺の名前呼んだときっきり、喋る時も食う時も、口動かさねぇから…
 でも、ちゃんと柔らけぇんだな…」
恣に唇を弄るもとちかの手を、漸く正気に返ったもとなりは激しく振り払いました。
「なッ、なッ…なんなのだ貴様は!!」
もとなりは怒りと狼狽に全身を震わせ、拳を握り締めております。
「いや、だからその…お前って、その、ほんとは狐なんだろ?
 だから、化けてる時の人の姿って、ちゃんと俺の手でも触れるモンなのかなーって」
もとちかは悪びれずに答えます。

暫くの間、もとなりはただ震えるばかりで、もとちかを罵ることもできずにおりましたが、
「なあ、できれば口、動かして喋ってくれよ。
 そんな奇麗な顔が、動かねぇまんまで喋ってると、
 なんか、今こうしてることが夢だか現だか頼りなくなってきて、落ち着かねぇよ」
懲りずに今度は髪に触れてくるもとちかの、あくまで嬉しげな心のありように流されて、
もとなりは怒りやら戸惑いやら恥ずかしさやらを、ただ一つの深い溜息と共に吐き捨てました。
そして、己の髪に触れているもとちかの手を、さきほどよりは柔らかな仕草で払い、
代わりに己の右の手を、もとちかの鼻先へ差し出しました。
もとちかははじめ、きょとんとしておりましたが、
些か照れ臭そうにもとちかの目を見て促すもとなりの表情から、
唇や髪でなく、この手ならば存分に検分してもよい、との意を読み取ると、
途端に嬉しそうに白い手を両手で手挟み、
撫で回したり、己の手と大きさを比べたり、匂いを嗅いだり、舐めたりし始めました。
右手をもとちかに預けて、もとなりは己でも不思議なほど穏やかな心持で、色の濃い月を見上げます。
そうして、こんなふうに人と差し向かいで座り、言葉を交わし、心を曝け出し、
あまつさえ触れ合うのは一体何百年ぶりのことであったろうかと、ゆるりと考えておりました。

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