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世界が融ける

│>PLAY ピッ◇⊂(・∀・)ジサクジエンガオオクリシマース
半生の綿鍋×富士井のリバで富士井視点
ムクガチャイイヨー

今までの自分ときたら、特定の友人も作らず一人黙々と己の世界に閉じこもっていた。
他人との付き合いが苦手な訳では無いが、誰か一人と深く付き合う事もなく、かと言って他人に疎まれない程度の会話や態度を示していた。
誰隔てなく付き合う。そう言えば聞こえはいいが、つまり何かに執着する熱さが足りない。
自分で言うのも何だが要領がいい。自分が作り上げた世界の深い知識と経験は盾になり殻になり、武器になった。
一人は気楽、寡黙がいい、沈黙は花、自分が好きだった。

「富士井」

放課後の廊下で、自分を呼ぶ声に振り向くと赤茶色の髪を揺らしながら彼が、綿鍋が笑いかけて来た。

綿鍋は興味深い。
二年前、綿鍋の噂を周りの人から聞く度に思っていた。
不良でありながら雑学に詳しく、恐らく広く浅い知識の範囲が自分と似ている。
目立つ行動や言動を好み大胆だが、ああ見えて情に深く頼りがいがある。
そして、

(…他人にはけして感じさせない不幸)

酷く惹かれた。

「西塔に叩かれるしマジついてねぇ」
「違反した綿鍋が悪い」

あら冷たい人、そう言って綿鍋がしなを作る。気持ちが悪くて蹴りを入れる真似をするとわざとらしく綿鍋がそれを避ける。
一緒に帰る約束をしていたのを忘れていた事は本人には秘密にして
「綿鍋の様子を見に職員室まで行こうとしてた」

と綿鍋の教室につくまでの間そう話ながら誤魔化した。

「富士井が来なくて良かった」
「何故?」
「頭叩かれて痛がってるの見られたくない」

綿鍋が笑う。その横顔は人を和まし引きつける力があった、柔軟な笑顔。

「席替えまだかなーっと」

教室のドアをがらりと開け綿鍋が自分の席へと向かう。その後ろを少し離れて追う。
自分の教室と同じ造りなのに、何故か雰囲気が違ってみえる。雨の匂いがした。

「こりゃ降るかも分からんね、曇り空だ」

綿鍋が鞄を担ぎ、近くの窓から空を仰ぐ。綿鍋に倣い空を見ると確かに鈍色の雲が落ちてくるようだった。

「傘…綿鍋持ってる?」

確か置き傘があった筈、鞄の中の折り畳み笠を探しながら綿鍋に問い掛けたが返事は無かった。
返事の代わりに、肩に綿鍋の手が置かれた。

鞄から視線を移し、肩に乗った手から腕を追う、綿鍋の顔を見上げる。
赤い髪の、少し大人びた青年に見えてはっとした。

「キスする?」

口からついて出て来た言葉は、自分でも予想しなかった文章だった。

「富士井…」
「キス魔の綿鍋」

綿鍋はスキンシップが人より過激だ。その一つにキス魔としての迷惑が学年で有名だった。
老若男女所構わず口を奪う。綿鍋は冗談と親愛と、少しばかりの困惑を相手に抱かせようとわざとキスをする。
自分はまだその被害にあっていなかった。

「やーん、富士井大胆」

綿鍋の顔が近付く。身構えてはいたが嫌悪は無かった事に自分でも驚いた。
自分は冷めた人間だとは思っていたがこれ程まで…
しかし綿鍋は遂に俺の口にまで到達しなかった。

「なーんちゃって」

また綿鍋は笑って誤魔化す。これは綿鍋の処世術だ。自覚しているのかは知らないがゎ彼もまた自分に似て、何処か冷めている節があった。
自分も綿鍋の処世術に処分されてしまう。
そう思い始めると胸が熱くなった。綿鍋の顔も見たくなくて目を伏せる。

「引いた?」
「引いてないけど」

なんで俺にはキスをしないんだ。焦る感覚に囚われた。

気がついたら先ず手が先に出た。綿鍋と同じように肩を掴み顔を近付けた。
頭突きのように暴力的なキスをして、やっと胸の痛みと焦りが消えた。
安心して手を離す。口を離す。綿鍋のキスは暖かだった。
綿鍋が脱力して、へなへなと壁に持たれ座り込む。ぽかんとした顔で、何故か笑える。

「…帰るんじゃないの」
「ちょ…待て!富士井!」
「もうさんざん待ったから待たない」
「富士井のキス魔!」
「それそっくりそのまま綿鍋に返す」
「だ…ばっ馬鹿!馬ー鹿!!」

後ろからばたばたと音を立てて綿鍋が追って来る。
彼の処世術を、盾を、殻を、武器を打ち崩したのは

(俺が初めてかな)

それと同時に自分の作り上げた世界がゆっくりと融けていく。
融合する相手を見つけて、受け入れようと融けていく。
この気持ちは初めてだ。本や知識で知っていたこの気持ちを経験するのは少し楽しみでもある。
他人の暖かさに積極的に触れたいと思ったのは、後にも先にも綿鍋が初めてだ。
だから、これからも綿鍋とは深く付き合いたいと、そう心の底から思った。

□ STOP ピッ⊂(・∀・)モウソウハキダシゴメンナサイ


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