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医龍 内科医×麻酔医

きっと誰もが考えたであろうドラマ遺留の内科医×麻酔医 と言いつつ逆かもしれない。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「なぁ、手術って金取るのか?」

 “化け物”改めチームの一員の男が、唐突にやってきて藤好にそう問うた。いきなりのことに少し躊躇していると、「どうなんだよ」と追い打ちをかけられる。
「そりゃ、手術だからな。具体的な値はまだ分からないが」
「どうして分かんないんだよ」
 新瀬は部屋の棚に腰かけ、コルクボードの画鋲を色ごとに並べている。聞いてきたわりに興味のなさそうな態度だ。
「あまり考えたくないが、失敗する可能性もーーー」
「ないよ。だっておれと76キロが居るもん」
「…大した自信だな」
 藤好は、彼のことだからきっと笑うのだろうと思っていた。普段から不遜な態度だったあの男だ。個人的な好悪でいけば嫌いな部類に入る。しかし腕だけは確かであり、患者を安全な状態に持っていけるとなれば、藤好としても認めざるを得ない。
「アンタも、だよ」
 しかし新瀬は笑いなど少しも見せないで、カチカチとボールペンをノックする。
「…誉めてもらっていると受け取っていいのか?」
「最高の内科医って呼んだだろ」
 黙っていると、新瀬は用事は終わったとばかりに部屋を去ろうとした。藤好は慌ててその腕を掴む。
「なんだよ」
 そのまま、新瀬の手首を両手で掴んで顔まで持ち上げる。新瀬も振り払おうと思わないではないのだが、藤好が真面目な顔をしているので、それが少しためらわれる。

「お前、食べてないな?」
「…は?」
「自分の体ぐらい分かるだろうが。なんだこれは。酒で体に必要な栄養分が摂取できるわけないだろう」
 掴んだままソファに座らせると、緑の布に包まれた弁当箱を新瀬に差し出した。
「何のつもりだよ」
「食べろ」
「馬鹿かアンタ。おれが何しようが、アンタにゃ関係がないだろ」
 その言葉にむっとした藤好は、隣に座って弁当箱を開け始めた。見たところ、確かに栄養はありそうだ。新瀬は迷惑だという顔を向けるが、藤好は知ったことかという態度で、彼の手に箸を押しつける。
「食べろ」
 これ以上の問答は無理そうだった。新瀬は一つ舌打ちをすると、乱暴にそれをかきこむ。
「よく噛め。おおかた、物の味も覚えていないんだろう」
「うっせぇな。つーかこれ、アンタの弁当なんだろ。アンタはいいのか?」
 レンコンのきんぴらを噛みながら言うと、藤好は小さなタッパを取り出した。中身はきれいな色のサクランボだった。細い茎をつまみ、口に運ぶ。
「最低でもお前よりはマシだ」
「イヤミが得意なのか、知んなかったな」
 新瀬もサクランボを一つ食べた。甘酸っぱいその味に、どこか懐かしさを覚える。知らず知らずの内に顔がほころんだ。藤好は少し驚いて、それから感嘆の声を漏らす。
「…へぇ」
「なんだよ」
「いや、お前もそうやって笑うんだと思ってな」
 その言葉に、新瀬は目を丸くした。普段が普段なだけに、その表情は貴重だ。しかもそれが、そんな間近で見ることができるなんて。
 しかし新瀬は口の端を歪めて目を眇める。まるで麻酔を吸引した時のような顔だ。
「これで満足か?」
「あれを見た後じゃ、それ、あんまり似合ってないってのが分かる」
 また舌打ちをすると、食事を再開させた。藤好は、黙々と、そしてガツガツと食べる新瀬を見ている。時折食べこぼしを衣服につけていたが、それもつまんでゴミ箱に捨てていた。

 ーーー結局、新瀬が弁当を空にするまで、藤好はただ新瀬を見ているだけだった。食べ方に注意をしたりしたが、それ以外の時は観察しているだけだ。
「旨かったか?」
「まぁまぁだな」
「そうか。お前、食事が嫌いなのか?」
「めんどくせぇだけだ」
 フタを閉めてテキパキと片づけると、袋の端を結んで藤好は優しく笑った。
「じゃあ明日も作ってきてやるから、昼になったらここに来い」
「…アンタ、酔狂って言われない?」
「まさかお前に言われるなんてな」
 新瀬は立ち上がって真っ直ぐドアに歩いた。ドアノブに手をかけると、藤好が先ほどとは違った真面目な声で、その背中に言葉を投げた。

「お前、死ぬ気じゃないだろうな」

金を使い切ったら、死ぬんじゃないかと。
藤好は常にそう思っていた。
あの不安定な存在を見るにつけ、その疑問が頭をよぎっていたのだ。

 小さく含み笑いをして、新瀬は返す。
「さぁ」
 表情は見えないが、どういう表情か、なんとなく藤好には分かっていた。
「生かすぞ、俺は」
「…どういうこと?」
「お前を死なせない」
 弁当ごときで、という言葉が飛んでくると思っていた。しかしやはり、新瀬は藤好の予測の少し上をいくのだ。

「そりゃ、酷な奴だぁな」
 どくりとした。生きたくない人間を生かすことは、真に正しいと言えるのだろうか。病院に来る患者は常に生きていたいと願っている。だが、新瀬は。
「それでも、生かすぞ」
 新瀬は振り向かない。ドアを開けて部屋から去ろうとする。
「明日も待ってるぞ。弁当、わざわざ作ってやる。俺は卵焼きにだけは自信があるんだからな!」
 何を言っているんだか。自分でそう思わないでもなかったが、何か言わなければという気持ちが先走って、変な自慢の文句を最後に、ドアが閉まった。
 ドアの向こうで新瀬が笑っていたことは、藤好は知らない。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
世話焼きな内科医が萌えだー。だんだん麻酔医の心も解れれば良い。
なんか先週も同じように見終わった後にすぐに書いていた…そういうサイクルだ…


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