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触手くんの夏

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ ) 触手ネタ続編 ちょっと時間を遡ったものらしいよ

8月初旬。
連日の夜の温度は27度。寝苦しい日が続いている。
体温で温まった布団が鬱陶しい。
眠りにつくまで何度も寝返りを打った。

「おはよー、グレさん」
僕が2ヶ月前に拾った塊は、軒先から部屋の中へと居を移していた。
きれいに洗った60センチ水槽がリビングの床に据えられている。
「毎日暑いよねー。グレさん元気だけど、人間にはきついや。寝不足だよ」
やっぱりクーラーを買うべきかなと思った。

南向きのリビングは天気がいいと、まるで温室のような暑さになる。
冬場は採光はいいけど窓が大きいせいで、今度は部屋の暖気が逃げてしまう。
要するに夏暑く、冬寒いという自然の流れに沿った家の作りだった。
それでも街中のむっとする暑さよりはマシかもしれない。
幸いこの家は風通しがいいので、窓を開けておけばなんとかなる。
僕は庭に出て水道の蛇口を捻り、ホースで庭に水をまいた。
気まぐれで植えてみたトマトと茄子が、小さいながらも艶々とした実をつけていた。
元からあった庭木にはルコウソウが巻き付いて、真っ赤な花を咲かせている。
芙蓉の花もいまが盛りで、虫が蜜を吸いに来ていた。
人には厳しい季節でも、植物にとっては最高の季節だ。
僕は水を含んで立ち上る、土の匂いを吸い込んだ。

「おっし。グレさん、水入れたから入っていいよ」
僕がたらいに水を張るのを、グレさんは縁側で待っていた。
ぬーっと伸びて、そのまま水の中へ落ちていく。
たらいの中はまだ余裕があるので、僕もサンダルを脱いで足を入れた。
「あー気持ちいい。じじ臭い休みの過ごし方だけどいいなあ」
足に時々グレさんの腕が巻きついてくる。

最初は水槽から出すのがちょっと怖かったけど、グレさんは僕の言うことを良く聞くし、
見た目ほどベタベタした体じゃなかった。
ナメクジみたいに移動した跡がついてしまうようなら水槽から出せなかったけど、
不潔な感じではないし、不思議な事に地面の上を這っても土が体につかなかった。
どうも自分の意思で余計なものがくっ付かないように出来るらしい。
一度、体の上にクリップを置いてみた事がある。
クリップは静かに体の中へ沈んでいき、横からぺっと吐き出された。

僕は足をたらいに入れたまま、仰向けに転がる。
手元には読みかけの本を持ってきておいた。僕はページを開いて続きを読みはじめる。
時折風が強く吹いて、隣家の風鈴の音が流れてきた。木の葉がゆれてさざめく音。
僕はいつの間にか寝入ってしまったらしい。

目が覚めて最初に目に入ったのは、板張りの天井の木目だ。
次の瞬間に僕の下肢を這い回る感触が上ってきた。
僕が反射的に起き上がろうとした所で、性器を圧迫され動きが止まる。
「……!」
何か滑ったひも状のものが動き回り、僕の性器に纏わりついていた。
ビクンと背が反り返る。体の硬直が解けて、僕はズボンの前を開けた。
最初に考えたのはムカデだった。眠っている間に入り込んだのではないかと。
けれど虫特有の硬い足の感触がない。
まさか……蛇。
まだ見かけたことはないが、ここは山も近い。この辺なら出てもおかしくはないだろう。
どちらにしろ刺激すれば咬みつかれるかもしれない。
下着の中を何かがうごめいているのが布越しにわかった。震える手で下着を下ろす。
そこから覗いたものを見て僕は愕然とした。

「な……」
それはグレさんだった。ぬらぬらと赤黒く光りながら、僕の性器に絡みついている。
慌てて引き剥がそうとグレさんを掴むが、腰にしっかりと腕を回されて取る事が出来ない。
巻きついていた触手が亀頭部分をすりあげる。仰け反った喉から声が漏れた。
信じられないことに僕は勃起していた。こんな状況なのに、性器を弄られ反応をしていたのだ。
足に力が入り水がはねる音がした。板張りの縁側を爪で引っかき、かたい音が立つ。
内腿が痙攣したように震えて力が上手く入らない。
体温が上がり汗が体を伝う。速まる呼吸が僕を混乱させる。
一体なにが自分に起こっているのかわからない。
何とか止めようと片手で押さえるが動きは止まらず、僕の息は上がってきた。

「……く」
いくつも伸びる触手は滑りながら僕を舐っていく。
茎に絡みつき、根元から先のほうへと蠕動するように上がってくる。
ペニスの先端は僕の出した先走りと粘液で濡れ光って、濃い色になっていた。
声を上げないように僕は歯を食いしばる。
苦しかったけど、そうしなければこの感覚に流されてしまいそうだったから。
扱かれる間隔が早くなり、ペニスの先端を包み込まれる。
肌が粟立つ。背中を何かが駆け抜けて、先端を強く吸われる。
体を震わせながら、僕はあっけなく吐精した。

日が傾いて部屋の中は暗い。
空に黒い雲がかかりはじめて、重く遠い音が聞こえてきた。
音は近くなり、やがて昼間の熱気で白っぽく乾いた土の上に黒い染みを作った。
染みはいくつも地面に散って、そのうち白く煙るほどに雨は強く降り出す。
雨は投げ出したままの僕の両足を濡らしていった。

僕は体を起こした。服を整えて部屋の隅を見る。
そこにはくすんだ色の塊がいた。
僕は袋を取ってくるとそれを入れ、夕立の中を自転車に乗って家を出た。

ジイジイとうるさいほどに蝉が鳴いていた。
鳴いているのは個々なのに、一つの大きな音に変わる。それが神経に障った。
風はなく、湿気を含んだ空気がゼリーのように纏わりついて歩く邪魔をする。
強い日差しは足元に黒い小さな影を作った。

僕は黙って家のドアを開ける。
水槽は庭に戻した。もう必要ないからだ。
あのあと僕はグレさんを袋に入れて、二つ先の駅の近くにある遊水地の草むらへ捨ててきた。
裏切られたと思ったんだ。

夕飯の用意をして風呂を沸かす。
テレビをつけながら黙々と食事を口に運んだ。
バラエティ番組の中でお笑い芸人が騒いでいたけど、何を言っているのか分からなかった。
風呂から上がって、少し本を読んだあと布団にもぐりこむ。
暗い部屋の中で聞こえるのは庭からの虫の声だけ。
僕は目を閉じて何も考えないようにした。

「最近お前元気ないんじゃない?」
バイトが終わった後、フロア担当の塚田さんにそういわれた。
「そんな事ないですよ」
「そうか? しょんぼりしていて、てっきり友達と喧嘩でもしたのかと思ったんだが」
「寝不足のせいかも。連日の熱帯夜で寝苦しくて」
態度に出ていることを指摘されて僕は少し焦った。
いつも通りに振舞っているつもりだったのに。
「クーラーないのか?」
「設置の立会いがめんどくさくて、まだ。それに今からだと使えるのはあと1ヶ月位だから…」
「まあ、来年も使えるからいいんじゃないか。あ、でも卒業したら今借りている所を出て行く訳だしなあ。
マンションなら完備している所も多いし、確かに迷うよな」
まあ、まだ若いからそのくらいじゃへばらないだろうけど、体調崩す位なら買ったほうがいいぞと
塚田さんは言って、部屋を出て行った。

お盆時期になり、僕は一度実家へ帰ることにした。
夏休みに入ったらこっち帰ってきなさいと言われていたが、バイトを理由に家へ帰るのをのばしていた。
人手の足りなくなる盆休みは出るつもりで、それより一足先に休みを取ってある。
親はそれだけしかいないのかと不満そうだったが、実家にいてもする事がない。
親しかった高校の友人もみんな家を出ているし。
それに今はあんまり考える時間を作りたくなかった。

新幹線に乗って1時間。そこから私鉄に乗り換えて20分。駅からは徒歩で10分。
見慣れた街並みが僕を迎えた。
たった4ヶ月しか経っていないのに、随分久しぶりだなと感じてしまう。

「あれ、おかえりー」
家に着くと弟の隆史が玄関にいた。
「どこ行くんだ?」
「友達んとこ。借りてたゲーム返しに行くだけだから、夕方には戻るって言っといて」
母さんはいま買い物行っているよと言って、隆史は出かけて行く。
夕方になり母さんが帰ってくると、学校はどんな感じだとか、ちゃんと食べているのかとか、
質問と小言攻めにあった。
そのうち父さんと隆史も帰ってきて、久しぶりに家族揃った夕飯を僕はとった。

「なー、大学の方どうなの?」
風呂から上がった隆史が、頭をタオルで拭きながら僕に聞く。
「どうって?」
「サークルの事とか、友達の事とか、色々。俺、再来年受験だし。ちょっと参考に」
「うーん、サークル入ってないからわかんないな。バイトあるし。友達はまあ普通に何人か」
「大学入っても変わんないなー、その地味さ」
せっかく家を出たのにと弟は言った。
「彼女くらい出来た?」
「さあね」
僕は手元の雑誌に視線を落としたまま答える。
「……否定しないって…マジ出来た?」
「はあ? 何でそうなる。いないよ」
それ以上追求されるのも鬱陶しかったので、僕は隆史を部屋から追い出した。

実家にいる間、僕は弟の遊びに付き合ったり、同じように帰省していた高校時代の友達と会っていた。
家に居るときはあまり話さなかったけど、今回の帰省で父さんとも改めて話す時間が取れた。
5日間の帰省だったけど、こうして離れてみて、改めて家族ってなんなのか分かったような気がする。

「悪いね、こんな気を使ってもらって」
「親が持っていけって。生ものなんで早めに食べてくださいね」
実家から戻った僕は、その足でバイト先に立ち寄った。
「明日、いつもの時間でいですよね」
「うん、頼むよ。俺は明日から休みだから、指示は鈴木さんにもらって」
「わかりました」

家に着いた僕は玄関先を見て足を止めた。
「……あ」
グレさんだ。10日前に僕が捨てた。
体は一回り小さく縮んで、所々にカサブタのようなものが出来ている。
ゴミもついていない体だったのに、今はそれを落とすことも出来ないのか、泥や細かな屑が付いていた。
グレさんはじっと体を丸め、うずくまっている。
あそこから戻ってきたのか……。
僕はグレさんを暫く見つめて、同情なんてするものかと、そのまま家に入った。

それからも僕はグレさんを無視し続けた。
家を出る時も、帰って来た時も、僕は声もかけなかった。
グレさんの体はますます小さくなって、僕が拾ってきた時のようにひび割れてきている。
どこかへ行ってくれたら。
僕はグレさんの姿を見るのが辛かった。

バイトから帰って来た時の事だ。
僕の家の門から猫のうなり声が聞こえてきた。
見れば野良猫がグレさんに対して逆毛を立てて威嚇している。
猫の爪がグレさんを引っかいた。
いつものグレさんなら傷を負うこともない。けれど硬くなったグレさんの体には、引っかき傷がいくつも付いていた。
グレさんはひび割れた体から細い触手を伸ばして、必死で抵抗していた。
体の下は地面にぴったりとくっつけているのか、そこから動く事はない。
僕はわざと大きな音を立てて門を開けた。
野良猫は僕に気付き、横をすり抜けて逃げていった。
別に助けたわけじゃない。ただ家の前でいつまでも猫の声を聞いているのが嫌だっただけだ。

僕はいつも通り夕飯を1人で終え、ぼんやりとテレビを見る。
することもないので早めに布団へ入った。
布団の中で体を丸めながら、頭の中の雑音を消していく。
僕はここに勉強をしに来た。どうしても行きたい学校があったから。
静かなこの家で、ひとりで暮らす自由を僕は楽しんでいるんだ。
窓の外からぱたん、と音が聞こえる。
その音はいくつも重なり、やがて雨音に変わった。
あそこは屋根があるから水には触れないだろう。なぜもう少し屋根の下から離れた所にいないのか。
どうやってここまで帰って来たのだろう。ここまでくるには人の多い道や、川を越えなければいけない。
昼に見たように猫や犬に傷付けられたかも。油で汚れた水にはまって体が弱っているのかも。
水を飲めなくて苦しい思いをしていたんじゃないだろうか。
雨は降り続く。
風が吹けばいい。そうすればあの辺りも、すべて雨で洗われる。
僕は耳を塞いだ。

ああ、あの雨が。どうか。

[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・ )
ちょっと長いので一度切ります。続きは日付が変わる頃に。

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