オヤジ同士の恋
更新日: 2011-04-30 (土) 13:55:09
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| オリジナルでオヤジ同士の恋だってさ
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| __________ |  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄| 緊張しすぎて色々失敗していないといいが
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| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 一行が長くてゴメンナサイ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚;)
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「・・・らっしゃい」
ガラ、と少々立て付けの悪い戸が開く音に気付き、半分ほど終わったアイロンがけを止めて、自宅と繋がっている店へ出る。
3月のまだ冷たい外気と共に入ってきた人物をみとめて、落ち着け、とドキドキし始める心臓に言い聞かせる。彼だ。
今日も彼は六時を過ぎた頃にやって来た。
見るからに高級そうなロングコートに革の手袋、一日を終えても崩れる事なく美しく保たれたオールバックのその男は、
雑然とした小さな酒店の雰囲気にはおよそ似つかわしくない。
彼がこの店へ来るようになったのは半年ぐらい前だっただろうか、その時も、同じような事を思った気がする。
店に出たものの、手持ち無沙汰になりタバコに火をつける。
店を営むものとして酷い態度である事は百も承知だ。しかし、この沈黙には耐えられそうにない。
この店員1、客1という状態の居心地の悪さは苦手だ。双方が相手の存在を気にしつつ動く、妙な緊張感。しかも今の「相手」は彼だ。
話しかけてみればその緊張も解けるだろうか、とも考えたが、元々人と話すのは得意ではないし、
情けないことに酒店の店主として客に振舞えるような知識もない。
こうして酒店をやっているのも、死んだ両親の後を継いだだけであって、酒の味は良くわからないし飲める方でもないのだ。
よく売れる商品を仕入れて売る、自分が生活できる程度にやっていければいい、などという考えでグダグダと続けてきてしまった。
彼が奥のビールコーナーに行き、姿が見えなくなった所でようやくふ、と一息つく自分が馬鹿馬鹿しい。
ぐるぐると巻き込まれそうになる考えの渦を振り払うように、大げさな音を立てながら新聞を開き目をおとす。
俺は、あの男に恋している。
40過ぎの無精ひげ生やしたオヤジが今さら「恋」なんて、我ながら気持ち悪い話だ。しかしこの一方的なドロドロした思いを愛などと呼ぶ気にはなれない。
彼が毎日のように店に訪れるようになって、その存在が気になりだしてからも、
胸に引っ掛るようなモヤモヤした思いは、自分にないものを持っている者への少し嫉妬を含んだ憧れ、そんなものだと思っていた。
いや、半ばそうなのだと自分に言い聞かせていたのかもしれない。
あのスッと伸びた背筋と首の気持ちのいいラインをついつい目で追ってしまうのも、
意外に大きくしっかりした掌は温かいのだろうかなどと考えてしまうのも、全ては憧れの少し行き過ぎた形だと。
この気持ちがいわゆる「恋」だと認めざるを得なくなったのは、彼が20代前後の女性と肩を並べて来店した時だった。
あーだこーだと酒を選ぶ二人の姿に、胸がざわついた。明らかな嫉妬。若い女性を連れた彼に、ではない。彼の隣にいる女性に、だ。
彼にそれくらいの娘がいたとしてもおかしくはないし、彼ほどのいい男だ、若い女を恋人に持てていたって頷ける。
どちらにしたって、俺の気持ちが叶うはずがない事は、皮肉にもその気持ちを実感した瞬間に決定的なものとなってしまった。
まぁもとより、俺のようなしがない酒屋のオヤジにはこれっぽっちの希望もなかったのだろう。
相手は見るからにエリートで、俺とは真逆に上品で、そして男なのだから。
「これ、お願いします。」
結局考えの渦にはまってしまったらしい。突然上から降ってきた声にハッとして顔を上げる。近い、彼の顔。
ガタッ、と大きな音を立てて飛びのいた自分の顔は、今きっと赤い。
なんとか平静を装いつつ会計をしようとするのだが、言葉は上手く出てこないわレジ打ちには手間取るわで、きっと変に思われたことだろう。
すみませんと呻くように謝る俺に、いいですよ、こちらこそ突然声をかけてしまって。と優しげに微笑む彼は憎いほどに紳士的だ。
来た時と同じように、立て付けの悪い戸から彼が出て行き、中断していたアイロンがけを再開してからしばらくした頃になって、ようやく冷静な思考が戻ってくる。
まったくなんて情けない。恋愛経験皆無な訳でもないくせに、何をいまさら少し顔が近づいたぐらいで赤くなったり慌てふためいたりしているんだ俺は。
次こそはもっと冷静に、決して気持ちを悟られる事のないように振舞わなければ。
そう考えつつも、店を出て行く後姿を見つめる俺の視線に、いつか彼が振り返ることを願ってしまうのだ。
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「・・・らっしゃい」
ガラ、と少し力を入れてドアを開くと、いつものように彼が店の奥から出てきた。
少し時間がかかった所をみると、何か作業中だったのだろうかと少し申し訳ないような気持ちになった。
この酒店を恐らく一人で営んでいる男の、低く掠れた声を聞くと、今日も一日が終わるのだなという安堵感に包まれる。
この酒店に足を運ぶようになって六ヶ月と20日経った。それは私がこの町に住むようになってから経った日数と同じである。
新しい勤務先である大学とマンションの途中にあるこの店は、子供の頃家の近所にあった駄菓子屋に似ている。
もちろん売っている商品は全く違うのだが。
すこしゴチャゴチャして冒険心をくすぐる所や、店主が気難しげな所など、どこか懐かしく気付けば毎日のように通っていた。
ムッとした表情のままタバコに火をつける彼は、今どんな事を考えているのだろうか。
この店員1、客1という状態が、私は好きだ。
客と店主という関係に過ぎない状況が、2人きりという要因によって壊れ、
いつかただの人間として話が出来るのではないかという期待と緊張が入り混じった空気。
話しかけるきっかけに、お勧めの酒なんかを聞いてみようか、そんな事を考えたこともあった。
だが自分は殆どビールしか飲まないし、ワインや強い酒の類が自分に合わない事は経験済みだ。
彼と話してみたいがために、買ったとしてもきっと飲むことはない酒について色々と説明してもらうのも失礼な話だろう。
そう思い直し、酒の話題で話しかけるのはやめた。
そうして機会をうかがっている間に、半年を過ぎてしまった。私はこんなに内向的な男だっただろうか。
やれやれ、今日も話しかけられそうにはないな、と自分を情けなく思いながらいつものビールコーナーへ向かい、
贔屓にしている銘柄を今日飲む分だけ手に取る。
買い溜めする事をしないのは、毎日この店に通う名目を作っておくため。
私は、あの男が好きなのだ。
気難しい顔をした彼が、どのような顔で笑うのか、怒るのか、なくのか。
日々の仕事の中で自然と作り上げられた、腕の、腹の、胸の、脚の、筋肉は一体どういったラインを描くのか。
それらを知りたいと思う気持ちが恋でなくて何なのだろう。
40を過ぎた男が、同じく40過ぎであるだろう男に恋愛感情を抱くなど、不自然極まりない事であるのは十分理解している。
しかしそれは頭で理解しているにすぎず、留め金にはなり得ないのだ。
一度だけ、人をこの店につれてきたことがあった。
前期終わりの飲み会で足りなくなった酒を買出しに行ってくれる人はいないか、との呼びかけに、この店に行こうと思い手を挙げた。
教授一人に行かせるわけには、いや一人で十分だよ、という数分の面倒なやりとりを経て、結局助手の一人がついてくることになった。
わたしはこの事に気乗りしていなかった。馬鹿な話だが、私だけの店であってほしかったのだ。それ以来、私は買出しに手を挙げる事はなくなった。
我ながら子供じみた独占欲である。
そんなことをぼんやりと考えながら、彼の座っているレジの方へ向かう。
「これ、お願いします。」
新聞をじっと読んでいる彼に声をかけるのは忍びなかったが、次の瞬間そんな考えはすっかり消え去ってしまった。ハッとした表情の彼の顔が、目の前に。
普段(といっても私は黙って座っている彼かレジを打つ彼しか知らないのだが)見たこともないような盛大な動きで後ろに飛びのく彼にこちらも驚いてしまった。
そんなに驚かせてしまっただろうか。
よほど彼の動揺は大きかったようで、その後もいつものムッとした気難しげな顔が戻る事はなかった。
こんな事を言っては失礼だろうが、慌てるあまりレジ打ちを間違ったり、赤い顔で謝る彼を見て、私は非常に喜びを感じていた。
謝らなくてもいいですよ、むしろあなたのそんな表情を見ることができて嬉しいのです。と。
幸せな気持ちで店を出る。マンションに向かって歩きながらも、今日発見した彼の新しい表情を思い出し、ふ、と笑う。
まったくなんてくだらない。ちょっと彼の表情が変わったぐらいでこんなに心が躍るなんて。私もそろそろ年かな。
明日も突然声をかけてみよう。驚かせてみよう。彼には悪いが。
そうしていつか、客と店主という関係を壊してやろうじゃないか。
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| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ 規制引っ掛ったり番号忘れたり誤字あったり
| | | | ピッ (・∀・ ) やっぱりスムーズにはいきませんでしたがスッキリ。
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