Top/14-381

コソーリ年上受

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | |> PLAY.       | |
 | |                | |           ∧_∧ コソーリ年上受け。
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |

暗い話。最後はハッピーエンド。多分。

雪を見ると思い出す。
幸せな気分になって、それから現実の自分を省みて少し憂鬱になる。
自分は今年で29になる。この歳までずっと一人で生きてしまった。

…机の上に置かれた二通の封筒をジッと見つめる。
実家から転送されてきた二通の封筒。消印はそれぞれ、七年前と四年前だった。

「帰ってこなかったら、どうしようかと思った。」
ワンルームの部屋、体を毛布一枚で包んだだけの姿で彼が出迎える。
俺は少し笑ってマフラーを解き、コートを脱いた。
コートの肩に乗った雪の結晶をまじまじと見つめ、彼は微笑んだ。
「雪が降ってんだな。…外に出たい。」
「出る?」
「…出たいけど、出たくない。」
矛盾した言葉を口にして、彼はグイと俺の腕を掴む。
ベッドに行こう、とせがむ姿はまだ中学生そのものだ。
特に逆らう必要もない。俺は玄関に夕食の材料を置いたままなされるがまま後に続く。
歳相応よりほんの少しだけ幼く見える笑顔を目にしながら、
俺が考えていたのは、三日前の喫茶店での出来事だった。

「茶番劇だ。」
目の前の男が言った。髪に白いものが見え始めている40周辺の男。
俺を息子の家庭教師として雇った男だった。
…何のことない、ありふれた話だ。
俺は受験生の家庭教師として雇われた。そしてその生徒と恋に落ちてしまった。
少し変わった事といえば、教え子はまだ中学生だったという事、それから自分と同じ性別で、男だという事。
彼の最後の受験が終わってそのままその日のうちに、何も連絡をせずに、俺たちはその場から逃げ出した。
「………」
何も言えなかった。俺は、この時間が永遠に続く事を望んでいた。
それでも、こんな生活が続くとは到底思っていなかった。早くに見つかって、通報されて、終わりだろう。
そして今、現実としてその通りになっている。
…しかし、次の瞬間に目の前の男が告げた言葉は予想外のことだった。
「三日間だけだ。三日経ったら第一志望の合格発表がある。
 その時まで、夢を見させてやる。」
目を見張る。この人は、いったい何を考えているのだろう。
息子を、しかもまだ成人どころか高校生にもなっていない子供に手を出されたのに。
目の前に自分の息子に危害を与えた犯罪者がいる。なのに何を言っているのだろう。
「三日間で俺が彼を帰す保障はないでしょう。」
「二人で逃げるか?それもいいだろう。…君に、できるのならば。」
静かに付け足したはずの言葉が俺の心に響く。
「血の繋がらないご両親に心配をかけたくはあるまい?」

「先生、先生…」
彼は何度も繰り返し俺を呼んだ。それこそ、今わの際であるかのように。
同じように俺も彼の体の下で彼の名前を呼んだ。
愛の言葉と、彼の名前と、交互に、何度も、何度も呼び続ける。
これが最後だと分かっているのは俺だけだった。
彼はただ無邪気に、永遠に続くはずだった俺との生活を夢見ていてくれていた。

…それから俺は、彼が規則ただしく漏らす軽い寝息を聞きながらその部屋を後にした。
彼や義父母のために、なんて殊勝な事じゃない。
自分のために、なんて打算はない。
ただ、怖かっただけだった。すべての責任をもって生きる度胸がないだけだった。

俺は、泣いた。走りながら泣いた。
全身の水が枯れ果てるかと思うほど泣いた。
数時間前まで暖かった。でも今は一人だった。
体の芯が冷たく凍り付いているのが分かる。
指先が冷たい。コートとマフラーはしたままでも手袋を忘れていた。
雪が降り続く。すべてを真っ白に消していく。
俺も消えなければ。彼を想う俺のすべてを消して、新しい人間にならなくては。
真っ白に、すべてを真っ白に戻さなければ。

「…卒業、おめでとう。」
机の上の二通の封筒を見つめながら、俺は静かに呟いた。
七年前の封筒には高校の合格通知、四年前の封筒には大学の合格通知が入っていた。
彼は誰しも聞いた事があるであろう有名校に進学していた。
もともと、頭が良かったのだ。

溜息して、あの時と同じようにコートとマフラーをし、外へ出る。
ドアを開けると、ビュウと強く風が吹いた。目を瞑る。
…再度目を開いた時、涙を流している自分に気が付いた。

「…馬鹿野郎…」
自分は、全然変わっていない。自分は何もできないでいた。
今まで何人も女性と『恋愛』した。なのに、結局その誰とも落ち着くことはなかった。
血も繋がらない俺を育ててくれた両親に孫を抱かせてやりたかった。なのに、できない。
…心の奥底で彼の笑顔が鮮やかに息づいている。
何度も忘れようと思った。なのに、忘れられない。
「…馬鹿野郎…」
あの時と同じだ。いい歳した男が往来で泣き崩れる姿は、さぞかし滑稽だろう。
それでも、それこそが俺だった。
馬鹿だ。ここまで後悔するならば、何故あの時に彼を置いて去っていった?
何故今まで彼のもとを訪れようとしなかった?
「…馬鹿野郎…」
それは、三度目の言葉を口にした、すぐ後の事だった。
「馬鹿でごめん。」
知らない声がした。それでも、どこか懐かしい。
涙を押さえていた腕から顔を離す。
もしや、と思いながらも、顔を上げる事はできなかった。
「迎えに来たよ。」
明るい声でそう言った彼の笑顔は、変わっていない、七年前のものだった。
声が出なかった。ぱくぱくと口を開閉させる俺に構わず、彼は俺を抱き寄せた。
抱き寄せて、顔を近づける。間近で彼の顔を見た。本物だ。
七年前と変わってないと思ったけれど、やはり彼はちゃんと成長していた。
そうだ、今現在の彼はあの時の俺と同じ歳をしているのだ。
…そこまで思って俺は顔を逸らした。

「…老けただろ?」
「や、んな事ぜんぜんないし。むしろ…」
少し面白そうに目を細め、それから彼はもう一度顔を近づけ、囁く。
「ちょっと、かわいくなったと思う。」
思わず彼の顔を見上げてしまい、そして気づいた。彼の上背は俺のそれをゆうに越えていた。
おかしくはない。元々年齢にそぐわないほどは背は高かった。
「…そんな訳ねぇよ。」
そうとしか返せなかった。俺より背丈の高くなった彼は微笑みを浮かべる。
屈んでいた彼の顔が更に接近する。俺は目を瞑った。
唇が重なる。七年越しのキスだった。
「一緒に暮らそう。」
次に彼が口に出した言葉に、俺は目を見開いた。
彼が俺を見る。俺も彼の目を見る。
「…やめとけ、こんなおっさん。」
そう言った。
七年前とは違う。俺はもう、あの時みたいに若くなかった。
「ヤダ。やめない。」
彼はキッパリとそう告げる。
「一人立ちするまで会わないって決めてたんだ。
 それでも先生、ずっと俺のこと待っててくれただろ。
 俺、先生のこと、忘れなくてよかった。もう一生忘れられないような気がする。
 二人とも、ずっと、七年間も、お互いの事忘れられなかったんだよ。
 だから丁度いいだろ。一緒に暮らそう。俺とずっと一緒にいよう、先生。」

…俺は、卑怯だった。
彼を忘れる事ができなかった。それでも、彼が俺を迎えにくるまで、何もしなかった。
自分で責任を取る事はできずに、彼に責任を背負わせようとしていた。
俺たちが元に戻れるかどうかの選択は、彼におしつけられていたのだ。

「…ん。別にそれでいいんだけどね。」
それを告げた時、彼は軽くそう言った。
「俺、先生のすべてを守る事ために来たんだから。」
「うわ…」
顔が真っ赤になった。
「嫌な男に成長したなぁ。そんな言葉、サラリと言うもんじゃねぇだろ。」
そう告げた言葉を彼はものともせずに、再度、満面の笑みをうかべ、彼は口を開いた。
「好きだよ、先生。」

あの時と同じように、雪が静かに降り続く。
違うのは、雪の中を歩くのが自分ひとりではないこと、
手袋無しで冷たくなっていたはずの手が重なっている彼の手でとても温かいこと。
それから、零れ落ちた涙に、ひどく温かさを感じたことだった。

おしまい

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP